まんまる障害物
再び流れた沈黙。
話し合いは必要ない。
ガルグは蒸し饅頭を食べながら、ミハルも露天で買った飴を舐めながら、通り抜ける。
少女は負けじと再び進路を遮り、今度は大きな声で叫びながら倒れた。
「ああーれえー」
へなへなぺたんも三度目ともなればミハルもガルグもなんとなく察する。
今度は揃って立ち止まりじっと見つめていると、少女がうずくまったまま言った。
「なにがあったか、聞かないんですか」
地面に伏せっていることもあり、むっちりとした背中とお尻が喋っているようだった。
なんとも言えない光景に判断を持て余したミハルは、ちらりと相方に耳打ちする。
「……どうするガルグ」
「無視だ無視。今のオレにオマツリ以上に大切な事ぁない」
すり抜けようと歩き出したガルグを静止するように少女が語る。
「ああ、ひもじい……私はこのまま、死んでしまうのでしょうか……
どなたか、優しい、旅のお方が……私に食べ物を恵んでくれないでしょうか……」
随分肉付きがいいので食うのに困っているようには見えないが、ワケありだろうか。
ガルグもうんざりしてきたのか、丸っこい背中に蒸し饅頭を一つ置き、そのまま立ち去った。
ミハルも傍を通り抜けようとして、足首を掴まれた。
見下ろせば、いつの間にか背中から蒸し饅頭を回収した少女が、もぐもぐ口を動かしながらミハルの行く足を阻んでいた。
「死ねない……!! 私は! 世界中の美味しいものを食べるまで、死ねない!!!」
壮大な雰囲気で、真剣な表情で、凄く私的な夢を叫ぶ。
砂糖菓子みたいなふわふわ飴色の髪に、穏やかそうな垂れた瞳。
ふんわりふくよかな顔に鬼気迫る色を浮かべ、少女はミハルにすがりつく。
「お願いです、冒険者の方!! すぐそこのお店で美味しいご飯を分け合いましょう!!
贅沢言いません!! わがまま言いません!! いただいたご飯はなんでも美味しくいただきます!!
今は手持ちがありませんが、必ずご恩は返しますので!! 必ず、必ずですので!!!」
「わ、ちょっ、ガルグ、手、手ぇっ!!」
少女は見た目通りの重量感でミハルの足にしがみついて離れない。
ガルグも流石に呆れた様子で、道を戻ってきた。
「お腹が空いたんですぅー!! 今ちょっと食べさせてもらったおかげでお腹が全力で食べるモードになっちゃったんです!!
お腹と背中がくっついてしまうんですよぉ! お腹と背中がぁー!!!」
出会いのわざとらしいへなへなぺたんはともかくとして、どこから湧いてくるのか涙をぴーぴー流して懇願するその姿は、なんとなく哀れにも思えてきた。
町の人達も何事かとこちらを見つめ、今までの賑やかさとはまた別のざわめきが広がっている。
目立つのはまずい。ミハルはともかくガルグは身分証がない。町の役人や冒険者組合の職員などに捕まったら厄介だ。
二人で視線を交わし、言葉を用いず同意する。
もう、避けて通ることは諦めた。
二人は渋々彼女の懇願に従い、まだめそめそと涙を流す少女を抱き上げ、近くの店に入った。




