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まずは

一夜を明かし、昼が来たところで旅立ちとなる。

あれだけ並べられていたガルグの荷物も随分すっきりとまとまり、武器はいつもの大斧にブーメラン(ミハルが焼いてしまったものとは別だ)。

粗悪な飛び道具や短剣といった道中で買い足しを行うものは最低限のみ詰め、あとは少量の必需品を持つのみ。


ミハルもいくつかの武器や道具を山賊団より譲り受け、頭領戦で使用した罠素材の補充を行った。

最前線に立つとハラをくくった。とはいえ現状ミハルが戦場を渡り歩くための武器は索敵能力と罠の二つ。

意地を張って死ぬつもりは毛頭ない。使える武器は使っていく。

ギルゲンゲが気を利かせてくれて霊素粉末や火薬、火霊・水霊といった小瓶サイズの小精霊まで融通してもらえたのはとても助かった。

調合花粉や毒・薬は道中調合していけば、そのうちにミハルの戦力はすっかり元通り(山賊団からの譲り受け品を加えれば増強だ)という寸法だ。


食料や水、衛生品などの消耗品は最低限持っていれば、ルセニアの町で補充が効く。

準備が整えば、もはや心を引き止めるものはない。


「坊主ぅ、また来いよなぁ!!

 ガルグ、お前はもう、好きにしろぉ!!」


ギルゲンゲの声を聞きながら二人、山賊のアジトに背を向け旅立つ。


道中、今後の予定についても話した。


「まずは、ルセニアに寄った後でリウミに行く」

「リウミ?」


ルセニアの宿の主人から聞いた中にはなかった地名だ。

魔王侵攻の影響で廃れた町や興った町があると聞く。リウミもまたそういった町村の一つだろうか。


「リウミは無法者の交差点さ。

 違法な商材から通常では手に入らない珍品、規格無視の改造武器や密造品、所持を禁じられている中体以上の精霊、真っ黒な盗品、攫われたばかりのヒトガタや洒落にならない魔物まで、なんでも集まる場所だ」

「なんつーか、そんな世界もあるんだな」


仲間になったということで、少し砕けた雰囲気で話を続ける。

とはいえ、砕けているのは雰囲気だけで話の中身は黒も黒、夜の闇に負けず劣らずの漆黒だが。


「そこで何か買うのか?」

「ああ。身分証を作る」


身分証。

十二年前より現れた魔獣・魔物や闇夜に隠れて悪事を行うならず者を制するために大陸の王が敷いた身分証制度というものがある。

身分証を持っていなければそれは人ではなく「人の真似をしたなにか」か「人の道を外れたもの」……即ち「ヒトガタ」として人と同等の扱いが受けられなくなる。

近年では悪用ばかりが目立つが、悪用したい悪人が率先して遵守し、自身が被害を受けぬようにと市民全員が遵守するため失効することなく続いている、なんともはた迷惑な制度だ。


身分証制度は枝葉の違いはあれど、大枠ではどの場所でも同じである。

聖職者による身分証の授与、町村長並びに冒険者組合による身分証の管理と更新。

この二つをパスすることでようやく人間としての扱いが受けられる。


身分証を届け出ずに町に滞在することも出来るが、宿泊施設でも基本的に身分証の提示が必要になる。

町によっては門番が身分証の提示を求める場所もある。更に冒険者は組合に身分証を提示しなければ討伐報酬等の受取をすることも出来ない。

そして、最悪の場合、身分証を持っていなければ人としての扱いを受けられず、ヒトガタとして売買されることもあるのだとか。

これから何をするにせよ、宿泊、金銭、そして身の安全を確保するための必需品というわけだ。


「御大層な扱いされてるけど、たかが石ころ一個。人が揃えば作れないもんじゃない。

 ……が、大手を振って作ればいろんなモンを敵に回す。

 リウミならそのへんを承知の上で手を回してくれる奴が居る。

 ……もっとも、半端に交渉しようものなら身分証がないのを逆手に取られてたちまちヒトガタ落ちだがな」


ミハルがことの成り行きに不安を感じているのを察したのだろうか、ガルグはごそごそと文筒を取り出しそれを振ってみせた。

記憶が正しければ、あの中にはギルゲンゲが一筆したためたものが入っているはずだ。


「ああ見えて親父は顔が広い。裏の人間相手に融通効かせるならこれほど便利なモンもない」


ガルグがギルゲンゲの元を無理に離れず、そしてギルゲンゲを倒し新頭領になる必要があったもう一つの理由。

ギルゲンゲを配下につければ頭領命令で悪行手形を書かせることが出来る。

先日からちょくちょく思っていたが、ガルグは大雑把そうな見た目に反して結構知恵を巡らせるタイプらしい。


「ルセニアに着いたら一泊して、リウミまでの消耗品を買い足す。

 リウミからは路銀稼ぎもやってくが……ちなみにミハル、魔獣を狩ったことは?」

「問題ない。むしろ、得意だ」

「ようし、上等!」


話しながら進んでいく。

太陽が闇の向こうに消えるより早く、ルセニアの町にたどり着いた。


町は、数日前に見たときよりも数段華やかに飾りつけられており、人々も賑やかに行き交っていた。

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