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山賊姫ガルグ

ガルグと二人、並んで湯船に浸かる。


「ありがとうな」


湯気と一緒に夜空へと浮かべるように、ぽつりとガルグが口にした。


「ミハルのおかげでなんとか勝てた。

 いやぁ、まさか親父があんなに強いとはな」

「俺よりガルグの方がキツかっただろ。

 というか、ガルグの方は大丈夫なのか? 怪我とか」

「平気さ。頑丈なのが取り柄だからな」


からからと笑うガルグ。色気というより侠気という雰囲気だ。

つられてミハルも笑ってしまう。もう、ギルゲンゲの顔を思い出す必要もない。

ひとしきり笑ったあと、ガルグは柔らかな笑顔を口元に残したまま、こう言った。


「なぁ、ミハル。もしよかったらだけどさ……

 オレと一緒に来ないか?」


じわりと広がる熱は、風呂がもたらすものだけではない。


「昔の仲間になんか言われたらしいが、オレはそんなこと知らん。

 戦いが出来ないからなんだ、他のやつの方が便利だからどうした。

 誰がなんと言おうが、ミハルが凄いことをオレは知ってる。ミハルの凄いところはオレが知ってりゃそれでいい」


繋げられていく肯定の言葉達。

ミハル自身が悔いた「斥候兵に甘んじていたミハル」を、それでも凄いのだと言い切る。

ガルグは、惜しむことなくミハルを認め、そしてミハルに手を差し伸ばす。


「山賊やめて何をやるかはまだ決めてないが、ミハルと二人ならなんでも出来るさ。

 だから、一緒に行こう。オレにはミハルが必要だ」


風呂のような、暖かく、心地の良い言葉。

それを黙って飲み込めば、きっとミハルは、また別の未来に向けて歩き出せていた。


だが。

風呂の中でも外していない、暁の紋章が。

紋章に篭めた誓いが、ミハルに未来を夢見させる。

いつかの夜に置いてきた、いつかの夜明けに幸せを求める。


「一つだけ、頼めるか?」

「出来ることならな」

「……もし、勇者ユイに会うことがあったら、俺は……

 追放されたけど、それでも……俺は、力を貸したい。

 それを許してくれるなら、俺もガルグの力になりたい」


ガルグは黙ってミハルを見つめ、そして、ため息をついた。


「はぁ……人が良いにも程があるな」


追い出された古巣に執着する姿は、滑稽に写っただろうか。

ミハルの背景を知らないガルグには、理解できないはずの話だ。

だが、ガルグは気にした様子を見せず、胸を張って宣言した。


「まあいいや。ミハルがそれでいいんなら、オレがとやかく言うことじゃない。

 とやかく言って言うこと聞かせるんじゃあ、やってることが親父と一緒だしな」


いつか、話せる日が来るはずだ。

ガルグを見ていれば、心の底からそう思える。


「ようし、決まりだ! 明日からもよろしく頼むぞ、ミハル!」

「ああ、こちらこそ。よろしく、ガルグ」


一人と一人が出会い、二人になる。

最初の一歩、再起の一歩、ばらばらだった歩幅が重なる。

斥候兵と山賊姫の旅は、ここからはじまる。








……



……



……







「いやぁ、にしても、すんなり決まって良かった」

「もし俺が断ったらどうするつもりだったんだ?」

「は? 断らせないが?」

「えっ」


衝撃の一言。

最初から、こちらに拒否権はなかったようだ。


「少しでも断りそうな雰囲気出してたら、オレはその時点で実力行使に出るつもりだったからな」

「……」

「ああ、心配すんな。実力行使っつっても暴力とかじゃない。

 名実ともにオレのものにしてただけだ」

「それって……そういう?」

「ミハルは押しに弱そうだし、抱いた女の頼み断れるタイプでもないだろ」


思った以上に「そういうこと」の近くに居たらしい。

意識の外に追い出していた劣情がふたたびむくむくと鎌首をもたげる。


「なんなら一発ヤるか? そういうのの心得はないが、まあなんとかなるだろ!」

「やめろ! 自分を大事にしろ!!」

「はっはっは! 初いねえ!!」


からかわれていることがしっかりと伝わってきた。

無様を晒したくなかったので風呂を飛び出す。


「そういう気分になったらオレに言いな!

 ミハルなら、オレも喜んで相手してやるよ!」


ガルグの声を背に受けながら考える。

もしかして、早まっただろうか。


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