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ギルゲンゲの願い

「まずは礼だ。楽しかったぜぇ、久々に。

 俺様の子分共にはよぅ、俺様に喧嘩売るやつも、俺様の拳骨喰らって喧嘩続けられる奴も、居なくてよぅ……

 いやぁ、心底、楽しかった。楽しく生きるにゃあ、喧嘩だな、やっぱり……なぁ?」


皺くちゃな笑顔。もう警戒する必要ないと分かっていても背筋が粟立つ笑顔だ。

多少笑顔がひきつっていただろうが、笑い返す。ミハルの笑顔を見て、ギルゲンゲは話を続ける。


「んでだ。ガルグについてを話しておきたい」

「ガルグについて、ですか?」


「おぉ。あいつは、頭領権限で勝手なルールを作るだけ作って、俺様をもっかい頭領にして、自分は山賊をやめるってんだよ。

 もったいねえよなぁ。俺様の後釜なら、座っとくだけでも生きていけんのになぁ。

 俺様ぁ頭領飽きたから、頭領やめて、オメェと一緒にあっちこっちで暴れるんでも、全然構わねぇんだが」


禿げた顎を撫でながら、心の底から惜しそうに話す。

この人はきっと、心の底からガルグのことを理解していないんだろう。

そしてギルゲンゲは、本題というように、真剣な顔をしてこう切り出した。


「どうだ坊主……オメェ、ウチに残らねぇか?

 俺様ぁ、オメェがお気に入りだ。俺様と一緒に、魔獣相手に暴れまわるのも、退屈しねぇからよ。なぁ―――」


言い切るかどうかの瞬間に奥から食器が飛んできて、見事ギルゲンゲの頭に直撃する。


「おるァ!! オレのモンに手ェ出してんじゃねぇぞ下っ端ァ!!」

「へえへえ。悪うござんした、新頭領」


ガルグの怒声にわざとらしくヘーコラ謝るギルゲンゲ。

謝り終わった後で、ふっと優しく笑い、今までに見たことのない優しい表情でこう続けた。


「ガルグは、アレだ。

 跳ねっ返りで、我儘で、気に食わんことは殴って解決したがる、ケツの青いハナタレ小娘だ。

 だが、器量は悪くねぇし、知恵も回るし、ああ見えて俺様に似てるから、気に入った奴にゃあ情も深い。贔屓目かもしれんが、つまらん女ではないと思う。

 良けりゃあ、オメェの愛想が続く限りでいい、あいつの我儘に付き合ってやってくれ」


恐ろしかった白い瞳は、ミハルでも分かるくらい優しさを湛えていた。

それは、ギルゲンゲが見せた、父としての顔だった。

旅立つ娘へのせめてもの手向けを素直に渡せない父としての顔だった


「なぁに、愛想が尽きたらここに来い!!

 あのハナタレはオメェを手放そうとしねぇだろうが、俺様んところにくりゃあ一安心よ!

 俺様がお前を守りながらあのハナタレくらい小指で倒せる最強の山賊にしてやっからよ!!

 ぐわっはっはっはっはっはっは!!!」


最後に大きな笑い声を残し、背中に投げられた物をいくつも受けながら、ギルゲンゲは去っていった。

身体の痛みを忘れるくらいに、スカッとした親父だった。

去っていくギルゲンゲに、ガルグがいくつか罵声を飛ばす。

賑やかな夜は更けていく。

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