接敵
装備を整え直したのは骨まで染み込んだ習慣からだ。
「六体……いや、六人、か」
無意識下での自動索敵に敵意を持つ何かがひっかかるのは珍しいことではない。
ミハルの索敵能力を持ってすれば、敵の正体を大まかに割り出すことが出来る。
迷いのない移動速度や独特な陣形を組んでの行動、魔物ではなく人間だ。
敵意をムンムンに振りまきながらこの町めがけて一直線に駆けてくるあたり、目的も割れる。
「山賊か……あるいは、人攫い、か?」
更に集中すれば駆けてきている一人一人の戦闘能力も感じ取れる。
六人中五人は町のチンピラ程度の強さだ。斥候兵として持てる力で迎撃すれば、無力化は容易いだろう。なんなら腕っぷしに自信のある町人でも勝てる程度の相手だ。
問題は残りの一人、先頭を駆けている人間だ。
戦闘能力が図抜けている。察するに、暁の勇者団メンバーに匹敵するくらいか。正面から当たればまず勝てない。
「……」
敵の気配を感じる方角に目を向ける。
逃げるか。ミハル一人ならそれも可能だ。だが、そうなれば町の住人はどうなる。
全員に避難を呼びかけるか。元勇者団とはいえよそ者のミハルが騒いだところで影響力は図り知れている。
しかも皆が寝静まる本物の夜中だ。寝起きの頭に衝撃的な情報を叩き込めば混乱は逃れられず、それこそ六人組の思うつぼになりかねない。
やるならば迅速に、そして落ち着いてやる必要がある。被害を最小限に抑えるためにやるべきことは。
だったらどうする。ああするか、こうするか。
索敵のために開け放った窓から夜風が舞い込み髪を揺らす。
本物の夜風は冷たくて気持ちいい。あれやこれやでヒートアップしていた頭も少しだけ冷えてちょっとだけ落ち着ける。
夜風に吹かれ、部屋に飾られた造花も揺れていた。
思い浮かぶのは昼間の少女の顔。彩られた町と賑やかな空気。
「……お祭り、だもんな」
ああだこうだと論じていても、心はすでに決まっていた。
この町を守りたい。
それは、「役に立たない」という評価へのせめてもの反逆だったかも知れないし、もっと綺麗な理由からだったかもしれない。
どちらにしろ、心が決まっていたのは確かだ。
だから心に従うことにする。
この町を守ろう。
幸い、六人組は町の見張りに発見されるのを危惧してか、街の傍まで広がっている大森林を駆けてきている。
身を隠すのにも罠を隠すのにも持ってこいな森での勝負なら、ミハルにもまだ勝ち目はある。
そうと決まれば即座に動く。
罠を一つでも多く張れれば、それだけ勝ちに近づける。やると決めたら止まっている時間はない。
街を駆け抜け、見張り櫓に居る町人に六人組のことや予想到着時間などの情報を伝え、偶然一つ持ち帰っていた「もしもの時のための品」を渡して森に入る。
そこから先は、ミハルの戦場だ。