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ユイの未来

『な、何故だ!?

 何故倒れん!?

 貴様は倒れる未来にあるはず……

 い、いや、違う……

 見え、ん……何故、何故……倒れゆく光景のその先が、俺の瞳に映らない!?』

「見透かしてみればいい、魔王の瞳なら」


ユイが、乱れ放った『唯牙閃光剣』で斬ったもの。

一つは「ギランの視界に入る風景」。そのおかげでガルグの奇襲が成った。

だが、もう一つがあった。

それは。


『よもや、よもや貴様……!!

 あの、羽根を狙ったと見せかけた『最善良』の刃で、外れて行き過ぎたはずのあの無駄撃ちで……

 俺の未来予知を、可能性の観測域を、斬っていたのか!?』


そう、「未来予知の結果」だ。

未来予知は絶対で、悪い予知が出たならば臆面もなく逃げると自負する魔族がギランだ。

仮に、ガルグの奇襲がなったとしても、ギランが負ける未来を見たならばその場で逃げ出されてしまう。

だから、ユイは斬った。

ユイが負けそうであるという未来予知のその先を斬り捨てた。


これもまた、賭けだった。

「未来予知が切り捨てられるという未来の予知」が出来てしまえば、気取られて終わり。

だが、止まった時の世界すら斬り捨てるユイの斬撃は、見事「未来予知」という邪悪を両断せしめた。


「あとは、お前、だけだ……!!」


右足を一歩踏み出したまま、逢魔刻に願いを込める。

目の前で驚愕に目を見開く魔族を、魔王の瞳を倒す力を求める。

だが、底まで見えたユイの力。集まるのは微々たるものだ。


『詰めを誤ったな、最善良……!!

 未来が見えずとも、決まっているのだ、貴様の、死は!!』


羽根を失い移動すらおぼつかないギランが、それでも宵ノ口を振り回して攻撃を行う。

ユイの体をマナの槌が叩く。

だが、倒れてはない。

全てをかなぐり捨てて辿り着いたこの絶好の好機。

だったら、全てを振り絞って、勝ちに辿り着く。それだけだ。


「『私は、夜明けに向かう者』――――」


口にするのは、願いの呪文。

最善良がろくに振るえなかったかつてのユイが、願いを形にするためにと王都の精霊教司教より教えられた、「最善良を引き出すための呪文」だ。


「『光を纏い闇に抗う、最善にして最良なる者。

  邪を祓い、悪を穿つ、聖なる刃。

  黒に染まらぬ原初の白』――――」


声にありったけの力を込める。

逢魔刻に光が集う。体の底から絞り出した「最善良」の力が、最後の一撃のためにこの手に宿る。

だが、足りない。

集められたのは、これでようやく閃光剣一撃分ほどの力。

想像以上に消耗が激しい。これではまだ、届かない。

ギランにはまだ、瞳を閉じるように傷口を閉じる能力がある。

閃光剣程度の威力では、ギランの自己修復を上回れない。


『かは、かはは!!

 可愛い物だな、貴様の死力は!!

 来いよ、斬って見せろ!! その程度の力ならば、受け止めてなお俺は無傷で生き延びる!!』

「いやぁ、そうでもないと思いますよ」


鉄火場に響く、のほほんとした声。

見ずともわかる。

いつものほんわかとした顔で、きっとムーシャが立っている。


「ギランさん、私を真っ先に殺さなかったのが運の尽きでしたね。

 私、こういうここぞ!という瞬間に一番活躍するタイプなんですよ」

『バリー・ボリー……貴様、貴様ぁッ!!

 何故俺の慈悲が分からん!! 心などに傾倒し!! 欲望の姿を捨てる!?

 貴様が居るべき場所は、俺と同じ場所だろうがぁッ!!』

「いえいえ、今の私は人間のムーシャ・モーシャですので、ね」


ふわりと柔らかな感覚が、体を支える。

倒れそうなユイの体を、ムーシャが支えてくれているのだ。

 

「『其は愛なり。人は朝日に愛を抱く。

  其は夢なり。人は夕日に夢を掲げる。

  降り注ぐ陽光は遍く世界を照らし、闇に侵されてなお光は翳らず。

  人の世を照らし、人の心を照らし、影の先に光を見出す。

  我が懐は、愛と夢の光の満ちし聖なる地となり、闇に溺れたものもまた安息の元に最善にして最良なる光を賜る。

  此処に愛と夢を満たし、我が願いを奉る』」


ユイの願いの言葉にムーシャの願いの言葉が続く。

ふわりと広がる優しい力。

ムーシャの用いる欲望解放ではない。

もっと優しく、もっと暖かい、陽光のような力だ。


『なんだ……なんなのだその力は!!

 識らない、貴様、貴様は何者だ!?』

「これは私が人間になって最初に分けてもらったものです。

 私の中でぴかぴか輝く、素敵な人間の証ですよ」


逢魔刻を握る両手に、優しい両手が重なる。

ユイの背後で、誰かが優しく呟く。


   ――――この子にも、いつか優しい光に包まれる未来が、ありますように――――


逢魔刻に光が満ちる。

その力は、紛れもなく「最善にして最良なる者」の力だ。

単なるマナとは一線を画す深く濃い「最善良」の力がムーシャを通じてユイに受け渡される。

その時、ユイは確かに見た。

顔も知らないはずの人の、優しい微笑みを。

ムーシャがムーシャとして生まれ落ちる際に分け与えられていた「最善良」の力の持ち主……勇者フィリアの顔を。


整い出す、最期への布石。

ギランは身を捩り、手で地面を掻いて逃げ出そうとする。

だが、地面から現れた人影が、その手を掴み、抱きしめる。


「まあまあ、なんか面白そうだしちょっとのんびり見ていくでござるよ、御館様」

『貴様、ランドリュー!?

 何故貴様まで生き残っている!?』

「どんな怪我をしても任務だけは最後までやりおおせろと教えてくれたのは御館様でござるぜぇ〜?」


いつも通りの軽薄な笑顔。

だが、穴の空いた黒装束には絞れるほどの血が滴り。その目は、いつも以上にぎらついていた。


「終わりにするんでござるよ。

 ミカドも、忍者も、この地に巣食っていた魔王の瞳の痕跡全部……

 闇に飲まれたこれまでを、呪われていたこれからを、全部、全部、全部!!

 ここで、お前の死をもって、全部チャラにすんだよ、ギラン・ミルジットォ!!」


二体の分身が両腕を、本体が首を締め上げ、怒号をあげる。

もう、忍者特有の口調ではない。一人の人間の叫びだ。


『待て、待て最善良!!

 俺は貴様の欲する全てを識っている!!

 ミハルの居場所も、バルテロの消し方も、貴様らがまだ識らぬドークの正体も、魔王様のこともだ!!

 今度の戦いのことも水に流してやる!! 望むならどれだけでも力を貸してやる!!

 俺と手を組め!! 俺が未来を見れば貴様の未来は――――』

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」


ユイの体が動き出す。

もう、逢魔刻の重さは気にならなかった。


「『唯牙ゆいが』!! 『残光剣ざんこうけん』ッ!!」


横一文字に振り抜かれた逢魔刻。

全てを絞り抜いた最後の一滴、まさに消える間際に一際強く輝く残光のような一撃。

その斬撃は、ギランの体など超えるほどに大きく。

ギランを飲み込み、ギランの全てを消しとばし。

そして、ミカド上空を覆っていた闇を吹き飛ばした。

私生活がドタバタしており、更新を一時停止させていただいています。

次回については11月以降となります。

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