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決着へ向けて

見つけた光明。

だが、一人で渡り切るにはあまりに細く、あまりに遠いその道筋。

言葉を交わせばその光明の根本は即座に暴かれ、言葉を交わさずとも未来予知で見通されてしまう。

だとしても、今、ここしかない。

ユイの「最善良」はもう消耗が激しく、ムーシャの蓄えた力もどれほど残っているかわからない。

ガルグとランドリューの奇襲だけで乗り越えられる壁ではないのは分かっている。

ユイ、ムーシャ、ガルグ、ランドリューの四人が戦える、今しかない。


『識ったぞ』


遥か上空より、見下し響く声。

見上げた先では、身体中の瞳にその他の動向を探らせながら、一際大きな胸の瞳と腰から下の瞳でユイを見つめるギランの姿があった。


『おお、なんて儚い未来だ。

 持てる最善良の力の全てを注ぎ込み、俺の羽根を狙った当たるまで放ち続ける乱れ斬りとは。

 進退此処に窮まったと見える』


胸が高鳴る。

拾いあげたクナイにまで揺れが伝わってしまいそうなほどに、鼓動が荒く胸を叩き、体に血を巡らせる。


『成程。下の土竜共も馬鹿ではない。

 貴様の乱斬りに合わせ、『嵐土竜』を放ち、舞いあげた瓦礫や大地の破片を足場に、総攻撃に打って出る。

 華々しい最期じゃないか。俺に見抜かれ、避けられ、撃ち抜かれ殺されることを除けばな』


ずばり言い当てられた次の一手。

残された力を極限まで注ぎ込んだ唯牙閃光剣の乱れ斬りによる、逃げ場を潰す圧殺戦法。

ギランはその未来を、当然見通している。


『何故口にしたか、分かるか?』


遠目にも、笑みと分かる表情を浮かべ、ギランが語る。


『『誰かの願い』という大きな支えを失った貴様では、迷う心の全てを押さえ込み切っ先を鎮めることはできない。

 今、俺の言葉を聞き、未来が切り替わった。

 俺の言葉が未来への楔となり……心がぶれたな。貴様の決死の乱撃は随分避けやすくなるようだ、なぁ?』


落ちた身体能力、心で暴れる動揺。積み重なる未来の障壁。

このまま羽根に向けて牙を剥いたとしても、かすらせることすら出来ずに全てを躱されてしまうだろう。


ごくり、と喉が鳴る。

だから、だ。


「だから、どうした」

『何?』

「勝てる未来が見えたら調子に乗って、負ける未来が見えたら逃げる。

 お前は、その程度の魔族だ」


だから、ここで勝負に出るのだ。

あの傲りきった魔族の目をすり抜ける、その光明の袂が今見えたのだから。


『最初から言っているじゃないか、俺は弱い、と。

 魔王様やゼットがどうかは知らないが、俺にとって逃げ延びることは恥ではない。俺は今もただ、識り続けるために生きているのだ。

 俺を脅かすものは排し、理解できない異物は除する。それが勝てる相手ならば跡形もなく潰し、勝てないならばはなから関わらない。

 俺は誰よりも俺を識っている。だから、貴様の前に俺がいる』


決着までを見通したからの余裕か。

挑発されて傷ついた心の現れか。

ガルグ達への攻めの手を緩めてはいないが、ギランは語り続ける。

ギランのこの態度。きっと、彼に見えている未来は決定的だ。

それを、覆す。

ユイが。

否、ユイ達が、覆す。

それしか夜明けへ続く道はない。


「……私は、お前を強いとは思わない」

『俺に負ける人間が、大した言葉を吐くものだ』


クナイを構える。

呼吸を整える。


「分からないのは怖い。知らないのは怖い。

 見えないものも、自分より強いものも、全部、全部、怖いに決まってる。

 私も、弱いから、怖くて、怖くて、仕方ない」


瞼を閉じ、ユイの夜明けを思い描く。

彼のことを思えば、こんな苦境でも、足はすくまない。


「でも、それでも、逃げない人間が居る。

 全部の『怖い』を分かった上で、自分の弱さも分かった上で、それでも私の前を歩いて、私に光を見せてくれた人がいる。

 本当に強いのは、逃げたくなるような場面でも、最悪の未来しか見えなくても、逃げずに立ち向かい、最高の未来を目指して進み続けられる心のことだ!」


思い出せ。「最善にして最良なる者」を抜き放ったあの日のことを。

ユイより弱いはずの彼は、怪我したユイを背負いながら前線を駆け抜け、か細い勝ちを掴み取るために戦ってくれた。

思い出せ。死の壁に飲み込まれそうになったあの日のことを。

あれだけの大軍と奥に控える魔族の存在を知りながら、それでも彼は逃げずにユイの元へ駆けつけてくれた。

思い描くだけで、力になる。

勇者だから、じゃない。

ただのユイだから、ここから先を戦える。


『……夜明けへの斥候兵、ミハル。

 貴様といい、ムーシャといい、ランドリューといい……今やあのコマチまでもが、あれに何かを見出し、あれの後を追おうとする。

 俄然識りたくなってきた。貴様を殺し、この欲を満たそう』

「その前に、私がお前を斬り捨てる!!」


ユイの体を巡る感情が、輝きとなってクナイを包む。

決着までの秒読みが始まる。


『ゆるゆる足掻き始める頃合いか。

 口にしてみろ。

 そうすることで、俺と貴様の未来が重なる。

 俺の未来が、確実のものとなる』


ギランが空中で羽根を広げる。

全ての瞳が、ユイを睨みつける。

だが、そんなの、もう関係ない。


「私は私の未来を掴み取る!!

 お前の見た未来、お前の勝つ未来なんて切り抜けて!!

 お前を倒したその先で、お前の知らない、私の未来を!!」

『無論、識った未来の内だ。その言葉もな』


振り抜き放つ「最善良」。

躱しひらめく「魔王の瞳」。

決着へと続く一撃が、放たれた。

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