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待ち人来たらず

○ユイ


夢を見た。

ユイが五歳の頃の夢だ。

あの頃ユイは、まだルイナのはずれの方に住んでいて、年の近い友達と一緒に毎日何事もなく遊んで過ごしていた。


その日は特別なことなどなにもない、普通の日だった。

母の作った朝食を食べ、嫌いな野菜は父にこっそり食べてもらい、眩しい日差しに誘われるように家を飛び出していつもの遊び場への道を急いだ。

あまりにもありきたりな。

そしてあまりにも美しかった、この世界で最後の、幸せな朝だった。


朝の空に突如落とされたのは、黒い染みだった。

黒い染みはだんだんと広がり、世界の端が黒く染まった。

だんだんと青空が闇に染まっていく。闇が頭上を通り過ぎる時、立っていられないほどの強風が吹いたのを覚えている。

吹き飛ばされ、ごろごろ転がり、身体を起こした頃には、空はほとんど闇に支配されていた。


恐ろしくなって踵を返し、飛んで家に帰れば、父母も慌てた様子で何事かと空を見上げていた。

空を飛んでいた鳥が急に墜落し、何かに取り憑かれたようにぎゃあぎゃあと騒いでいた。

ぼこぼこと水が沸騰するみたいに鳥の身体の表面が乱れ、どんどんと膨らんでいく。


咆哮が闇に木霊する。

先程まで鳥だった「それ」は、恐ろしい雄叫びを上げながら、人ほどもある巨大な身体で父に身体を叩きつけた。


母が悲鳴を上げ、ユイはただ、目の前の光景が信じられずに立ち尽くしていた。





目を覚ますと、窓の外は既に夜に飲み込まれようとしていた。

この世界に今、朝焼けと夕焼けはない。

まるで輪を描くように明けない夜が地平線の向こうを覆っているため、日が傾くとそのまま夜になるのだ。


夢見が悪く寝起きが悪いのはいつものこと。昼過ぎから寝たので疲れは抜けた。

隣の部屋の様子を確認し、一応宿屋の主にもミハルが帰ってきてないかを確認する。

結果は空振りだ。


淡い希望も絶え、それでも藁にすがるように部屋に戻る。

まだ、可能性が絶えたわけではない。

明るいうちに町や周囲を見物し、夜が更けてから帰ってくるかもしれない。

ユイが居るのを不思議に思い、話しかけるタイミングを図っているのかもしれない。

そうであってくれることを祈りながら、冷たくなっていく空気に不安を溶かしていく。


どこかでドォン……と太鼓が鳴った。

祭りが近づく町の中で、ユイだけが一人、近づく未来を恐れて手を組んでいた。

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