頭領戦、決着
「盗まれるのが嫌で宝を隠すたぁこすっからい真似してんじゃねえか、糞親父!!」
「オメェらブン殴るためにわざわざ隠してやってんだ、ありがたく殴られろハナタレェッ!!」
二合、三合、気を乗せた鋼同士が打ち合う音が響く。
ガルグとギルゲンゲは、互いに牙を剥き出しに吠えながら、互いの武器を叩きあう。
劣勢なのはガルグの方だ。子分と戦わないことで体力を温存できているとはいえ、練技の満ち満ちたギルゲンゲには圧されるばかりだ。
しかもギルゲンゲは拳にも練技を乗せられる。ガルグが大剣を受けたところを見計らって殴りかかっており、的確に防御を崩している。
このままではガルグが圧倒されたまま切り替えせずに終わり。なんとか出来るのはミハルだけだ。
だが、ただの矢では練技の拳にはねのけられて終わり。二三度近づこうともしてみたが、そのたびにミハルも練技の拳でぶん殴られている。
ならば無視できない攻撃を、拳の射程距離外からするしかない。
まずは矢をありったけ放ちながら時間を稼ぎ、稼いだ時間で弾かれたまま地面に突き刺さっていたガルグのブーメランを回収。
油と火薬と霊素粉(熱で強く発光する)を混ぜた液体を布に浸して、「罠師の腕」の補助を篭めて高速で塗りたくり、力の限り投擲する。
「受け取れガルグ!!」
声は当然ブラフだ。こう叫んで投げれば、ガルグの手数を増やすためにブーメランを渡したように見えるはずだ。
ギルゲンゲは大剣でガルグの大斧を捌きながら、空いた左手でブーメランを叩き落とす。
そうだ、それを待っていた。
火矢を引き絞り、ブーメラン目掛けて射る。火矢はブーメランの表面に塗りたくられた油に燃え移り、同時に油に混ぜ込まれた爆薬と霊素粉を燃やす。
音と光の爆弾が再び炸裂する。ただし、薄く塗りたくったせいで音も光もそこまで強くはない。ギルゲンゲの怯み方も芳しくない。
だが、攻めに転じるなら今しかない。
矢を引き絞りながら一気に駆けて肉薄し、必殺の一撃への布石を置く。
弦を放そうとした瞬間に見えない力で弓矢が跳ね上げられる。身を躱そうとするがそれより早く、目に見えない手のひらがミハルの首を握って持ち上げる。
「俺様に通じると思ってんのか、坊主ぅ」
右の片手で大剣を振り抜きながら、左の片手をミハルに向けて突き出し、ギルゲンゲが嘲笑う。白い瞳が楽しそうに歪む。
ミハルもまた、笑い返す。そして、自由な両手をすり合わせて白い視線の先に突き出した。
ギルゲンゲの顔がはじめて驚愕に染まる。
突き出したミハルの右手は燃えている。そして一呼吸の後に、音と光を放って炸裂する。
ブーメランを投げた後でブーメランに混合液を塗布するのに使った布を右手に巻き、左手には着火用の火霊を握りしめていたのだ。
音と光は先程と変わらぬ程度だが、距離が近づき身構えられなければその分威力は上がる。右手は痛むが、一気に勝利への道が拓ける。
「弾けぇッ!」
「合点ッ!!」
ガルグが渾身の一撃で大剣を弾き飛ばす。受け止めた勢いを消しきれず、ついにギルゲンゲの体勢がぐらりと崩れる。
首を握る練技の力が弱まったのを見逃しはしない。
無理やり身体を捻って拘束から抜け出し、「罠師の腕」が唸りを上げて瞬間で毒矢を一本作り上げる。
弓はない。だが、ことここに及べばもう撃つ必要はない。
姿勢を崩したギルゲンゲを、二人揃って武器を向ける。
ガルグは斧の刃を胴の横に当て。
ミハルは毒矢を首元に触れるか触れないかの位置に添える。
「……くは、ははは」
必殺の刃を二つ当てられて姿勢を立て直すことすら出来ないギルゲンゲは、小さく笑い。
そしてしみじみと、噛みしめるように呟いた。
「参った。俺様の負けだ」
その一言で、頭領戦は決着となった。
ガルグの咆哮にも似た歓声を聞きながら、ミハルは大きく息を吐き。
そして、どっと押し寄せてきた無数の痛みに意識を手放した。




