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再起への一歩

顔が痛む。目が眩み、息が詰まる。

直接戦闘を避けてきたから、攻撃を受けたのなんて随分久しぶりだ。

痛みっていうのは、こんなに鋭く突き刺さって、こんなに鈍く響いたのか。


地面を転がながら、乱れた頭で考える。

所詮たかが斥候兵のミハルが、近接戦に引きずられればこうなるのは仕方ない。

傷は負ったが距離が取れた。逃げるか。そもそも近接戦はミハルの領分じゃない。

道中の山賊は取り除いた。思考がぐらぐら揺れていて探知に集中できないが、ややもすればガルグが来るはず。彼女の近接戦の強さは折り紙付きだ。

ギルゲンゲの練技は強力だ。だが、ガルグが引き受けてくれていれば、虚を突いて洞穴の入り口の岩を壊し、アジトの奥に置いてある「山賊の証」を盗み出すことだって出来るはずだ。


勢いよく木に背中を打ち付け、衝撃で服の胸元からぽろりとネックレスがこぼれる。

ネックレスの先に付いているのは太陽を模した「暁の紋章」。今のミハルの手元に唯一残る、暁の勇者団との……暁の勇者ユイとの思い出の品だ。





―― いつか、二人で一緒に、世界で一番綺麗な夜明けを見に行こう! ――





不意に、暁の紋章に篭めた誓いを思い出す。


「……あー……そっか」


混乱していたからだろう。窮地にも関わらず思考が飛び、胸の内で燻っていた何かに意識が向く。


逃げる算段、虚を突く算段。斥候兵なら当たり前の戦い方。

でも、夜明けを誓ったあの日のミハルは、そんな戦い方など考えもしなかった。

斥候兵になったのはユイを守るためで、ミハルが近接戦に暗かったからではない。ユイと二人で旅していた時は前線に立っていたじゃないか。

それが、ユイが勇者になり、メンバーが増えれば、あの日の誓いも忘れて鉄火場から離れて。

いつの間にかそれが癖になり、最後には魔族の討伐戦にすら参加せず、無事を祈ることを「斥候兵だから」と正当化して。


振り返れば、ガルグとの戦いでも、ギルゲンゲとの戦いでもそうじゃないか。

表面ばかり覚悟を決め、手先の技術に任せて飛び込み、追い詰められれば日和って、最後は他人任せ。

負けないことばかりを考え、勝ちへと向かう気概がいつの間にか抜けていた。


「ユイちゃんだって不安になるわけだよ。俺がこんなんじゃあ」


繋がった。

見過ごしてきた過ちと、乗り越えるべき昨日の影が、この戦場で繋がった。

顔の痛みも、背中の痛みも、だんだん感じなくなってきた。

気づけば立ち上がり、弓矢を手にしていた。


「おォ……? まだくるのか、坊主……

 ただのミミズかと思やぁ……ガルグが連れてきただけあって、随分な跳ねっ返りだなぁ、オメェ」

「なんかな、退きたくなくなったんだ」

「ほぉ……いいじゃあねえか。好きだぜ、そういうの」


ぬかるみから足を引き抜いたギルゲンゲが大剣を手に歩いてくる。

罠用の装備も残り少なく、ダメージで体はボロボロ。そもそも勝ち筋は全く見えない。

だが、装備が完全に底をついたわけではないし、「走破の脚」があるからまだ走れる。矢もまだ残っている。


知らずにぬるま湯に浸かっていた自分を振り払って、一歩を踏み出すには丁度いい機会だ。


「嬉しいぜ……俺様は、オメェみてえなのを殴るのは、それはもう、大好きだ。

 オメェ見てたらどっちでも良くなってきたが……もう少し付き合え、坊主」

「そう長くは付き合わねぇよ」

「あァ?」


姿勢を低く屈める。同時に頭上を通り過ぎるブーメラン。

ミハルに隠れるように放たれた奇襲だったが、ギルゲンゲは恐るべき反応スピードで大剣を振り抜き、ブーメランを弾きあげた。

駆け出すミハルの足音に、もうひとり分の足音が加わる。

飛び出した足音は、一切の畏れなく、ギルゲンゲまでの距離を詰めていった。


「来たかぁ、ハナタレ小娘ぇ!!」

「来てやったぞ糞親父ィ!!」


大斧と大剣が切り結ぶ。練技同士のぶつかる衝撃で空気が激しく揺れ、地面を圧し割る。


「まだ起きてっか、ミハル!!」

「ちょうど今目が覚めたところだ!!」

「だったら合わせろ! このハゲ殴り倒すぞ!!」

「ああ!!」


駆けながら道具袋に手を滑り込ませる。

さあ、踏み出そう。決着へ向けて、再起への一歩を。

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