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根源に至る問い

山の中腹、木々に隠れるようにその隠れ家はあった。

魔族の居城と言うにはあまりに飾り気なく、どちらかといえば隠者が余生を過ごす住まいという表現がよく似合う。

いつ作られたのかもわからない木製のあばら家で、近くには少し開けた土地がある。


「ほう、じゃあこっちの『最善良』が」

「ユイさんです」

「ユイが、ヨミを倒したのか」

「斬り倒したのはオレだ」

「とどめで食べたのは私です」

「私は、その、技を斬ったくらいで」

「なんだそりゃ! 『最善良』にやられるならまだしも、付き添いの嬢が斬り倒してムーシャ・モーシャに食べられたとあっちゃあ、ヨミも悔しかろうなあ!! がはははは!」


小さな木製の食卓を囲み、四人でこれまでの経緯を話す。

ゼットは、たしかにとても友好的な様子だった。

いまだに隙は欠片もないが、しばらく放たれ続けていた殺気も今は随分和らいでいる。


「しかし、『技を斬った』か。本当にヨミの『枯れ果てる時の大河』が解放された後で斬り伏せたってんなら……お前さん、案外無茶苦茶やりやがるな」


つい、とゼットの視線がユイに注がれる。

ここに至るまでの旅路はすべて話してある。

『最善良』に目覚めたガンソウ戦、『最善良』の力が放てず仲間の助力と力押しで勝ったスケイル戦とガジル戦。

そして、ミハルと再会し、再度『最善良』を剣に乗せて斬撃に変えられたヨミ戦。

すべてを聞いたゼットは、あるいは笑い、あるいは黙り、そして最後はいつでも白く短い無精ひげの生えた顎に手を添えた。


「で、儂に『最善良』の使い方を聞きたいと」

「は、はい! その……魔族の方に聞くのも筋違いかもしれないのですが、もし頼めるなら……」

「筋違い? ……なんだ、お前さん、ムーシャ・モーシャから聞いてねえのか」

「……何を、ですか」

「お前さんの『最善良』も儂ら魔族の使う『邪悪』も、根っこの部分はおンなじ力だぞ」


ぴしゃりと雷に打たれたような衝撃が走った。

ユイが王より伝えられた『最善良』という名と、ヨミが奥の手として抜き放った『邪悪』という力。

意味が対義だと思ってはいたが、その力の根幹が同じというのは、まったく知らなかった。

ムーシャを見ると、「あ、そうなんですか?」と知らない様子だ。ならば伝わるはずもない。


「はあはあ、成程なぁ。それでか」


だが、ゼットは何かを察したように、顎に手をやり目を伏せて深く頷く。

そして薄く瞼を開けて。


「ユイ、お前さんよう、なんのために『最善良』を使いたいんだ?」


問い。

一瞬、語っていいのか悩んだ。なぜなら、どれだけ親しく話していようと相手は魔族、ユイが強さを求める理由は、彼らという存在への否定につながるからだ。


「見たところお前さん、強くなるのが好きなタイプじゃねえだろ?

 そういうやつが『最善良』なんて使いこなせても危ないだけだと思うけどなぁ、儂」

「……あの……失礼な答えになってしまうかもしれないのですが……」

「お、なんだ、クー……魔王を倒すためとか言ってみるか? ええ?」

「……いや、あの……はい」

「あんな暇人、相手するだけ無駄だろ」

「でも、魔王を倒さないと、世界が……」

「世界……ふうむ、世界、世界、世界ねえ……」


二度、三度、頭をくらくらと動かし。

そして、思いついたようにゼットは。


「なあユイ、これは俺の勘なんだがな」


囁くように優しく、首を絞めるように残酷に、ゆっくりとその言葉を口にした。


「お前さん……正直、魔王倒したいとか世界救いたいとか、心の底から思ってねえだろ?」




一瞬の空白が刻まれる。




その後に生まれるのは。波だ。


壁が軋む。

顔が歪む。

ユイの動揺が『最善良』の力を従えて、空気を揺らす。

だが、ゼットは、薄い笑みを浮かべたまま、ユイの方を見つめていた。

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