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先へ

決まってしまえば話は早い。

もともとミハルを追って最低限の荷物で旅をしていたユイに現役の冒険者のガルグとムーシャだ、旅の支度には手間取らない。

ミハルがこの町を立つ前に手配していたという装備が届けば、それで準備は整った。


だが、いざ旅立ちに向けて動き出そうというタイミングで、一つだけ問題が発生した。


「あの高慢ちきなぼっくり頭がこの町に居るとはなぁ」

「ミハルが手配してくれてたんだ。貴方達にも話していたものだと」

「あのぅ、ガルグさん、その『マルカ』さんって誰なんです?」

「リウミで会ったろ。キャンキャンうるさいの」

「……ああ、あのヒトガタさんですね! ミハルさんの知り合いの! 髪型が男の子みたいな!」

「その呼び方は……流石に、やめてあげてほしいな」


マルカ。

ヨミに、魔王に、ミハルに気を取られ、今の今まで気にかけることの出来なかった数少ない暁の勇者団の団員だ。

宿屋の主に新しい身分証とその後のことを預けてきたままだ。彼女の今後についても、ユイが責任を持って取り計らわなければならない。

同行についても考えたが、あの状態のマルカをガルグたちとの旅に同行させるのは、いろいろな意味でリスクが高いと判断した。

だからこそ、ヨミ討伐の功績としてユイが手にした有り余るほどの報奨金を渡し、冒険者組合に筋を通してこの町の住人として一旦の生活基盤の確保を、と考えていた。

なのに。


「勇者様、会われてないのですか?」

「……なんだって……?」


宿屋の主曰く、「暁の勇者団の団員を名乗る人物がマルカの身柄を引き受けて出ていった」のだという。


『魔王の翼』接近が知らされ、町中が蜂の巣をつついたような大騒ぎになった丁度その時、宿屋に一人の女性が現れた。

その女性は「勇者ユイの仲間」を名乗り、ユイとマルカが持つものと同じ「暁の紋章」を見せてこう語った。

『この少女のことは私に任せて欲しい。前線に居るユイに代わって私が安全な場所まで連れて行く。

 ユイには自分からも話しておくが、万一行き違ったなら一言伝えておいて欲しい』

混乱の渦中であったため、宿屋の主はその言葉の真偽を考える間も持てずマルカをその女性に預けて避難した。


つまり、マルカの所在は再び不明となった。

しかも今度の行方不明にはもう一つの謎がつきまとう。

身元を引き受けたのが暁の紋章を持つ者……つまり、暁の勇者団の団員である可能性が高いということだ。

マルカを除く暁の勇者団の女性はコマチ、レジィの二人。変装能力に長けたランドリューも入れるなら三人のうちの誰か、ということになる。

誰が、どういった意図で、どこへ。

本当に善意から、仲間を思いやり避難の手助けを行ったのか。

そうでないならば、何故あんな状態のマルカを連れ出したのか。

考えても答えの出ない問いが、泥のようにユイの足にまとわりつき、踏み出そうとした新たな一歩を妨げる。


「どうする、ユイ。オマエだけでも待ってみるか?」


問われ、考える。

ここで待っていて先の三人やマルカと再会する未来の可能性。

もし、もし仮にコマチが、レジィが、ランドリューが本当にマルカを保護し、ユイとの再会を望むなら、彼らは必ずこの地に戻ってくるだろう。

逆に彼らではない誰かがマルカを連れて行ったならば、三人が何らかの意志に従いユイとマルカを意図的に遠ざけたならば。ユイは待てば待つだけ時間を失うことになる。

手をこまねいている余裕はない。

ならば、ユイが取るべき手段は一つ。


「すみません、店主さん。また、手紙をお願いできますか?」


ミハルを追った時と同じ、手紙によるやりとりだ。

これからの動向を記して残しておけば、ユイの動向を追うことは出来る。

動向を追ってくれるならば、いつかは再び動線が重なることもあるはずだ。

それを信じ、ユイは前に進む。

ユイに出来るのは、昔から、信じて進むことだけなのだ。


「行くか」

「……はい」

「よぉーし、道案内はお任せください!」


手紙を預け。

装備を整え。

仲間と共に。

ユイは再び歩き出す。

いつか巡り会える日を夢見ながら、魔族が住まう昼夜の最前線へ。

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