目覚めればまた
○ユイ
……
……
長い間、眠っていた気がする。
身体が重い。血が泥になってしまったようだ。
ゆっくりと瞼を開けば、なんだか丸っこい顔があった。
「お、目が覚めましたか!」
「……貴方は?」
「そうそう、ユイさんとは挨拶がまだでしたね。どうも、ムーシャ・モーシャです」
ユイの問いかけに答え、律儀に頭まで下げる少女。ふわふわな飴色の髪が揺れる。
色の見え方から光の色を知る。火霊のもたらす赤い光ではない、太陽のもたらす透き通った光だ。
昼。
どれくらい寝ていたかを考えようとして、全てを思い出した。
雲霞のごとく押し寄せる死体たち。
共に戦った禿頭の山賊。
力なく倒れた自分。
『魔王の翼』。
ヨミ。
『枯れ果てる時の大河』。
『唯牙抜剣』。
そして―――
「ミぃくんッ!?」
―――ユイを背負い、戦場を駆け抜けた幼馴染、ミハル。ずっと探していたその背中、そのぬくもり。
身体を跳ね起こし、ミハルの姿を探す。
部屋の中にはムーシャと名乗った少女と緋色の髪の女性しか居ない。
この二人には見覚えがある。ミハルに背負われ駆けた戦場で、共に戦っていた人々だ。
ミハルの新たな仲間。もしくはヨミ討伐に急遽加わった義勇兵。どちらでもいい。ユイはただ、ようやく再び出会えたミハルの面影に手を伸ばす。
「あの、ムーシャさん! ミぃくん……ミハルは!!」
「ミハルさんなら今魔おふがふがふが」
「寝起きから威勢がいいねぇ。疲れはとれたってか」
何かを語ろうとしたムーシャの口を、緋色の女性が抑え込む。荒々しさを感じる肉付きとは異なる、優しい手付きだった。
「オレはガルグ。ミハルの……『今の』ミハルの仲間だ。
こっちの非常食も合わせてしばらく三人で旅してた」
「ほぉっほぉ?」
ガルグの瞳がぎらりと光る。警戒されている、そう感じた。
身構えようとして、理解する。今のユイは、敵意を向けられても仕方のない有様のはずだ。
だから、すぐに謝罪した。
「申し訳有りません」
「は?」
「その痛みは、私の練技のせいです。未熟さから、まだ抑え込むことができておらず……ですが、こちらに攻撃の意志はありません。
私は、ユイと言います。ミハルの知り合いで……」
ユイの持つ『最善にして最良なる者』の力。感情の振れ幅に合わせて垂れ流される『聖なる力』。
目覚めて一発目に痛みを振りまかれれば警戒されても仕方ない。
「ぷへぇっ! ああ、はい、知ってますよ! 『最善良』のユイさんですよね!
ミハルさんからお話は常々ふがふがふがふが」
「起き抜け一発目がそれたぁ、案外苦労してんだな。噂の勇者様も」
さして変わった様子はなく、ムーシャはにこにこと朗らかな表情のまま、ガルグは少しばかりの警戒心を瞳に宿したまま。
「ユイ……って、呼ばせてもらうぞ。
ミハルに会う前に、ちょっとオレらと話をしようじゃないか」
嫌な予感がする。
粘つき淀んでいた血液は、胸の早鐘に従って体中を慌ただしく巡り始めていた。




