そして、もうひとり
「んんー、良いでござるなあ」
ミハルとニイルのやり取りを見たあとで、ほっこりと顔をほころばせランドリューが口にする。
ランドリューにもあの追放に思う部分があっただろう。
だが、いろいろな紆余曲折はあったがあの日の因縁はようやくゼロになった。
もうあれこれと気を使う必要もない。
「ところでランドリュー」
「うむ? なんでござるか?」
「この流れなら、当然『そういう話』になるだろう、ランドリューくん」
「うーむ、成程。次は拙者というわけでござるか」
当然、ランドリューとも一緒に行きたい。
彼が居ることで不利益を被ることはない。索敵に割く時間は大幅に減るし、彼の持つ忍法はいろいろな場面で役に立つ。
彼もまた、頼りになる人物に変わりはないのだ。
「改めて……ミカドの御館様とやらの任務が終わったら、一緒に旅をしないか?
差し出せるものはなにもないけど、それでも、ランドリューが居てくれれば心強い」
正面からぶつける心。
ランドリューはしばし目を伏せ。
「……うむむむむ」
顎に手をやり、唸った後で。
「すまん、ミハル殿、ニイル殿」
「そんな、なんで!?」
「拙者、今は御館様の元に戻った故……義理も道理も通してしかるべきでござる。
ちょっぱやちょっぱやであれこれ主を変えるのは、忍者としては結構やべぇんでござるわ」
残念な話だった。
だが、彼の理屈も理解できる。
彼はもう、暁の勇者団以外の場所で生活をしている。
悲しいが、受け入れて喜んでやるべき悲しみだろう。
「だったら、せめてミカドまで一緒に行こう。
任務が終われば、暇が出来るかもしれないだろう?」
「あー、その……やめといたがいいでござるよ」
「どうして?」
「……んー、なんというか……バルテロが出てきたことで、おそらくミカドも警戒態勢を敷いているでござる。
それに、下手にミカドへ三人で行けば……ミカドの忍者たちの手によりミハル殿のことについても調べ上げられよう。
そうなれば拙者、御館様の命でミハル殿を殺しにいくようになるやもしれんでござる。
拙者はミカドに戻るが、二人はミカドを迂回して行くべきかと」
語られるのは、これまた道理だ。
ニイルとランドリューはミハルを受け入れているが、他の人間からすれば『魔王の影』を宿した人間を受け入れる理屈はない。
特に子飼いの忍者を多く擁しているミカドの御館様ならば、こちらが語らずとも調べ上げる、というのもありそうな話で。
危機が訪れる前に殺せ、というのも有り得る。
「そっか」
「ござるござる」
「寂しいな……君とも、もう少し一緒に旅をしたかったんだが」
「ござるなぁ、ほんに」
一抹の寂しさを称えた目元のまま、ランドリューが立ち上がる。
そして、ミハルたちに背を向けて歩き出した。
「気持ちだけもらっとくでござる。いつかまた、会えるといいでござるな」
ぷらぷらと手を振りながら、そのまま振り返ることなく、ランドリューは去っていった。
残されたのは、ミハルとニイルの二人きり。
「ままならないな」
「そういうことも、あるもんさ」
二人でランドリューの出ていった方を見つめながら、名残を惜しみ口にする。
その名残は、入れ違うように入ってきた人物によって、かき消された。
「……は?」
ニイルが漏らした一言。
ミハルも同じ気持ちだ。
というより、まさか、なんで、という気持ちしかない。
定期的に行っている空間知覚に大きな変化はなかった。そのはずなのに。
まるで当然のようにランドリューが掛けていた椅子に座り、残った料理を口にしだす『そいつ』は。
臆面もなく、口にする。
「足りないな。他にはないのか、ミハル」
なにがどうなってこの場にいるのか、さっぱり分からない。
どんな思考回路をしていればここに座れるのか、まったく分からない。
だが、その女は。
『崩拳』コマチは。
まるで当たり前のように、ミハルたちに並んで座り、卓を囲んだ。




