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雷槍ニイル

昼が終わり、夜が来て、また昼が来る。

ミハルたち三人と一体は、無人になったゴーシャの街で、思い思いに身体を休めていた。


ミハルの罠地獄と『魔王の影』の大暴れのおかげでゴーシャは酷い有様。

というより、街の支配者すら一撃で倒し無差別に暴れ、コマチすら圧倒したバルテロを前に、全ての人間がこの街を放棄した。

昼間に見る眠らない街は、かつての輝きの分だけ煤けて廃れた雰囲気を醸している。


「ミハル殿、これを」

「ん」


決着の翌日、無人の飲食店にて。

あるものを勝手に使ってミハルが作った料理を囲みながら、ランドリューが一枚の紙切れを差し出してきた。

中身をあらためる。間違いなく、ズレイゴスまでの地図だ。

当初の予定とは随分ずれたが、任務達成。そして報酬譲渡と相成ったわけだ。


「そしてニイル殿にはこれを」

「これって……俺の……」


ランドリューがニイルに差し出したのは、ペンダント状の身分証。しっかりと回収してきてくれていたらしい。


「ありがとうよ、ランドリューくん」

「いえいえ。拙者も、ミハル殿が居ねばどうなっていたことやら。

 お礼にもう少し色を付けたかったでござるが、これ以上はなんも出せんでござる。許せ!」

「いいよ。ランドリューにもだいぶ迷惑かけたし」


三人揃ってワイワイ話しながら食事を続ける。

鉄火場をいくつもくぐり抜け、ようやく辿り着いた最高の今。

特にニイルなんかは、久しぶりのまともな食事とまともな扱いに、時折涙を浮かべながら、取り戻した『日常』を噛み締めていた。


「……なあ、ミハルくん」


食事もそろそろ尽きようという頃、ニイルが神妙な顔をして切り出してきた。


「君は、これから、ズレイゴスへ?」

「ああ。ルセニアに、ユイ様たちを待たせてるんだ」

「……ユイ様に、マルカ……それと、ガルグさんとムーシャちゃんって子か」


バルテロのことが知られてしまった以上、隠す必要も無かろうとミハルのこれまでは全て二人に話してある。


「それに、もう一つ」

「ミハル殿の『暁の紋章』でござるな」


合わせて話題に上がる暁の紋章について。

ランドリューが『ミカドの御館様』から聞いたというバルテロ対策。

曰く、『最善にして最良なる者』の加護を用いて、魔族の邪悪を祓うという術。


加護。魔王もそんなことを語っていた。

『最善良』の加護が暁の紋章に籠もっており、対闇への力を有している、らしい。

らしい、というのもミカドの御館様が言っただけのことであり、その根拠の全てを知っているわけではないからだ。

だが、実際にバルテロを抑え込めたという実績がある以上、ミハルに今後『もしも』が有った際のために手元にほしいというのも事実。

ニイルの紋章は人攫いに盗られ、ランドリューの紋章は今度の戦いで破損。

残った紋章のうち、在り処が分かっているのはマルカに持たせたミハルの紋章と、ユイの持つ紋章の二つ。

ユイとの合流に合わせて、ミハルの紋章の回収も行いたいのだ。


「……そうか。君は……」


聞き届けたニイルは、少し黙って水を飲み、小考した後で口にした。


「なあミハルくん……俺を、君の旅についていかせてくれないか?」


ニイルは、続ける。


「つくづく、虫のいい話だというのは分かってる。

 君を追放した俺だけど、でも、それでも俺は、心を入れ替えた!

 過去のことを水に流してくれとは言わない。俺は、君に失礼なことをしたと分かってる。

 でも、マルカのことや、ユイ様のこと……バルテロのことだって……俺はきっと、君の役に……役に……」


あれや、これやと繋げられる言葉。

だが、次第に繋がる言葉は減っていき。


「……ごめん。違う……違うんだ」


弱く。だがしっかりと。

偽ることも、誇大することもなく。言葉を改める。


「俺は、君と一緒に、旅がしたい。それだけなんだ。

 きっとこれは、ユイ様がどうのとか、マルカがどうのとかがなくても、変わらないことだ。

 俺が役に立つかどうかなんて分からない。保証もできない。

 それでも、俺は君の旅についていきたい。過去のことを許してくれるなら、君と、もう一度ミハルくんと旅をしてみたい」


連ねられるのは、一切飾りのない願い。

「ただ、一緒に旅をしたいから」。信念も、矜持も、夢も砕かれたニイルが、それでも続きを望む理由。

ミハルは、その願いに。


「……ニイル、一つだけ、頼めるか?」

「……ああ」

「一緒に来るなら、その……『くん』付け、やめてくれないかな。なんだか、こう、恥ずかしい」

「……ああ、ああ! 任せてくれよ、ミハル!」


そもそも、ミハルの方からニイルを誘うつもりだった。

ズレイゴスまでの一人旅にしてもそうだし、マルカの支えになれる一番の人間は彼を置いて他に居まい。


「あらためてよろしく。ニイル」

「こちらこそだ、ミハル」


いつ以来か。改めて考えてみれば一度も見た覚えがない、満面の笑みだった。

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