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電光石火で闇を裂け

まず動いたのはバルテロだ。

闇の巨腕を振り上げて、ニイルたちを叩き潰す鉄槌として撃ち放つ。


「「『雷鳴疾駆』!!」」


地面に落ちた瞬間、ニイルが二人に増えた。

そしてそれぞれが、残光を残し姿すら霞ませるほどの速度でバルテロの周囲を駆け出す。

変装は完璧ではない。ランドリューが化けたニイルは、雷を纏わず、闇の水面を切り裂くことも出来ないからだ。

だが、一瞬目を奪えた。その一瞬が、策への道を切り開く。


「『無駄な足掻きを』」


無数の闇の触腕が二人を襲う。だが、一瞬分の間でニイルは触腕を足場に空へ舞い上がり、ニイル(ランドリュー)は影へと身を隠す。

どちらを追おうかと目を細めるバルテロが、上を見上げる。

空には、太陽と見紛うほどの、雷鎚いかづちの球体が浮かんでいる。

そして、その根本で、槍の柄を握ったニイルが、変わらずバルテロを見下ろしている。

必要とする電力量が尋常ではなく、空から放つ必要があり、その上隙の多い大振りで、一度撃てば槍を失う。しかし、そんな欠点を補って余りある、全てを貫く破壊力。

コマチとの戦いでは満足に出すことすら出来なかった……ニイルの最大にして、最強にして、最高の一撃。


「死ぬなよ、ミハルくん……『電光雷轟』ーーー『神墜槍』ッ!!」


振り抜かれた腕に従い、巨大な雷鎚が落ちる。

一瞬びかりと輝けば、音と熱を巻き起こし衝撃を叩きつける。それはまるで、神が振り下ろす槍。

ヒトを見下すバルテロも、その威力を見誤ることはない。

闘技場に広げた闇の全てを、雷槍への防御に回す。雷の槍に切り裂かれ、闇が千千ちぢに切り裂かれていく。

そしてついに露出する、闇を纏わぬミハルの素顔。


「やっちまえ、ランドリューッ!!」

「応ッ!」


声に従い身を出したニイルランドリューが、闇の衣を剥がれたミハルに迫る。

散った闇の残滓がニイルランドリューを狙い蠢くも、忍者の身体能力を前にはかすることすら出来ない。


「あばよでござるぜ、バルテロ!!」


一気に肉薄し、取り出したのは小さな瓶。

バルテロもそれには見覚えがあるようだ。当たり前か、ニイルとミハルが語らった時も、ミハルの体内に居たのだから。

蓋を緩め、顔めがけて中身がふりかけられる。


「『それしきか』」


だが、小さく残った闇の残滓が、宙に撒かれた毒液の前に立ちはだかり、全てを防ぎ切る。

顔の前の闇を払い、ニイルとバルテロがにらみ合う。

姿勢を低く構えるニイルに、バルテロは残った闇を槍のように突き出す。

駆け出したニイルの肩と腹を細い闇の槍が貫き。


「『……なッ!?』」


声を上げたのは、バルテロの方だった。

見れば、片足が地面に引きずり込まれている。さしものバルテロも、この環境の変化に対して瞬時に思考は追いつかない。

そう、今バルテロの目の前にいるのはニイルランドリューではない、正真正銘のニイルだ。

ならばランドリューはどこに消えたか。

一瞬、闇を使って顔を守った瞬間に、ランドリューは地を裂く忍法『嵐土竜』ではなく地に入る忍法『乱土竜』で地に潜り、地下から足を掬った。

闇の槍に貫かれたままニイルは駆け続ける。

手に握ったたのは、『暁の勇者団』の団員たる証、『暁の紋章』だ。


「帰ってこい、ミハル――――ッ!!」


力任せに拳を振るい、暁の紋章を顔に叩きつける。

振り抜いた拳は頬を打ち抜き、同時に暁の紋章を砕いた。


衝撃の一瞬の積み重ね。時間にすれば、ほんの数秒。

電光石火の二人の策はついにバルテロに突き刺さり。

そして。


「『……成程、これは……つまり貴様の入れ知恵か。ギラン・ミルジット』」


ぶちまけられていた泥のような闇が地へ溶けていく。

夜空が段々白んでいく。

空気が澄み、街を覆っていた剣呑たる気配が霧散していく。


「『褒めてやろう、ヒトのオスども……いや、雷槍ニイルに傭兵忍者ランドリュー。

  刹那とはいえ、闇を従える我に食いついた貴様らのこと、覚えておいてやろう』」


バルテロが殴られた頬を押さえながら続ける。


「『……貴様もだ、夜明けへの斥候兵ミハル。我に心を明け渡さずに、よくよく今まで持ちこたえた。

  貴様が早々に心を折っていれば、今の一撃などただの殴打でしかなかったというのに……我が王が貴様を気に入った理由が、少しだけ分かったぞ。

  足を折らず、心折れぬと言い、仲間がその手を引くならば……盟約に従い、今暫くは眠ってやろう』」


言い終わると、膝から崩れ落ち。

倒れようとする身体を、片手が支えた。


「……」


沈黙が流れる。

それを破るのは。


「……ごめん……凄く、迷惑かけたな、ニイル、ランドリュー」


逆恨みながら、ずっとニイルが求め続けた者の声だった。

なんと声をかけるか。

考えはまとまらず、意味もわからず涙が溢れた。

ミハルを追放して以来、失うばかりだったニイルは、ようやく何かを守り、取り戻せた。

その事実だけで、胸がいっぱいだったからだ。

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