救った者と救う者
○ニイル
武器から生まれた魔物があちらこちらで雄叫びを上げる。
強さの程度は空気でわかる。かつて雷鳴義勇軍で倒した『魔王の爪』と同等か、それ以上には強いだろう。
だが、それがどうした。最早この足は動き出した。
「『雷装』……展開」
構えた槍に光が灯る。微弱な稲光が、ばちりばちりと空気を焼き焦がす。
駆けてきていた鞭の魔物の頭を貫き、光が増す。振り向いた斧の魔物が構えるより疾く心臓を貫く。
槍が輝き、形を変える。雷によって施された装飾により、一回り大きな槍へと成長する。
身体を纏う稲光が形を作り、敵の攻撃が触れた瞬間に電力が弾けて跳ね飛ばす鎧と化す。
意志に従い敵を襲う小型の雷魔術が浮かび、純粋な電力のみで造られた雷の槍が生まれ、残像にすら威力が宿る。
「雷装」。ニイルの練技。ニイルが動けば動くだけ、敵を倒せば倒すだけ、生じた電気を蓄えてニイルの装備は強く疾く変わっていく。一撃必殺のコマチとは真逆の、戦えば戦うだけ、戦闘が長引けば長引くだけ強くなれるニイルの奥の手だ。
街の人間を追いかけていた魔物たちが、迸る雷鎚の光に目を奪われ、ニイルの方に向き直る。
最早何から生まれたか判別する暇すらなく、魔物たちがニイルの元へ次から次へと殺到する。
「『雷鳴疾駆』……ッ!」
足に輝きが増し、ニイルの動きを研ぎ澄ます。踏み込めば足元に纏わりつく闇の沼を裂き、裂け目が戻るより疾く数体の魔物の首を撥ね飛ばす。
斬り捨て、薙ぎ捨て、さらに、まださらにと手に持った雷槍を振るう。振るった分だけ身に蓄えた電力が強まり、ニイルを最高の状態へと引き上げていく。
襲い来る無数の敵。ミハルに追いつくための道を塞ぐ敵。ミハルが勝手に駆け抜ける前に、こいつらを全部片付けきれるか。
「ミカド忍法・嵐土竜」
どこからか聞こえる声。同時に大地が揺れて、今度は地面がばっくりと口を開いたように、ニイルと外界を遮断した。
「話す時間が欲しい故、少々失礼するでござるよ」
いつから居たのか、ニイルのすぐ後ろから声がする。
振り向き目が合うのは背の高い女。だが口が発するのは男の声。そしてその声には聞き覚えがある。
「君もまだ残ってたのか。ランドリューくん」
「聞いていたより元気そうでござるな、ニイル殿」
女が服を脱ぎ捨てれば、そこから現れるのは見知った黒装束。ニイルとミハルが街から逃げ出せなかった原因、傭兵忍者・ランドリューだ。
言いたいことは様々あるが、一旦飲み込む。土の壁が闇の刃で両断されたからだ。
こじ開けられた隙間から、ミハルだったものが見つめている。
「ちゃちゃっと済ませるでござる。ニイル殿、今だけ拙者に協力を」
「協力、何に?」
「ミハル殿を正気に戻す、秘伝の策に、でござる」
ランドリューがニイルの身体を抱き、土の壁を蹴り破って外へ飛び出す。
合わせて煙玉をばら撒き、そのかすかな爆裂音にまぎれさせて「策」を囁く。
聞いたこともない敵の名に、聞いたこともない倒し方。それらで構築されたにわかには信じがたい策。
「その策ってやつは、どっから仕入れた話だい?」
「ミカドに伝わりし、御館様の知恵袋にて」
「うさんくっせー」
「拙者、道理は破るが約束は守る……そして、恩は返す忍者でござる。いま一瞬だけ、共闘を」
闇で練り上げられた巨大な腕が、煙を掻き分け視界を晴らす。
見上げるミハルだったもの……ランドリュー曰く、『魔王の影』バルテロ。
ランドリューが言うには、あの影にミハルの心が眠らされているらしい。
だったら、ニイルの進むべき道は決まっているじゃないか。
勝てる、勝てない。関係ない。踏み出した一歩は、死すら覚悟の逆恨みだ。
ブチかましてやるんだ。ニイルの、ありったけの思いを。
「『ヒトの仲間のオス共か。
もうアイツを気にする必要もない。先程のメス同様、この場で闇に飲まれろ』」
雷を纏った槍を強く握りしめ、互いの秘策をそっと持ち変える。
「御館様曰く、『電光石火』! 準備はいいでござるかよ、ニイル殿!!」
「……準備なんて知らないさ……痺れてもらうぜ、ミハルくん!!」
雷を纏い闇を照らす槍兵に、影に潜み闇を駆る忍者。
闇の街のど真ん中で、闇を切り裂く数秒が始まる。




