覚醒
「どうして、どうしてこんなことになったんだ......」
最難関のSランクダンジョンである、《鬼の住処》の奥地に、一人残された。元SSランク冒険者パーティーのメンバー、レイは、一人そうこぼす。 もう助かることはないだろう。 目の前にはかつての仲間でさえ勝てなかった魔物がいる。 ろくに食事もとれておらず、体もボロボロだ。 そんな中、どうしてこうなったのか、考えを巡らす。
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この世界では、5歳になると、職業を授かることができる。 といっても、そのほとんどが、それまでに経験してなりたいと強く思ったものになる。 僕は、小さなころに、魔物と戦う冒険者達をみて、剣士になりたいと願った結果、<見習い剣士>の職業を授かることができた。
職業は、レベルが上がっていくと、転職といって、上位の職に変わることができる。最初に授かる職業が初級職、そこから、中級職、上級職、最上級職、というふうにあがっていく。 レベルは、経験を積むことで上がっていく。 経験をつむというのは、職業に関することだが、他にも、全ての職で共通なのが、魔物を倒すことだ。
僕は、初級職<見習い剣士>を授かったので、小さなころから少しずつ剣の練習をして、レベルを上げてきた。 職業は、職業に関するスキルを覚えやすくしたり、職業に関する行動を取りやすくしてくれる。 しかし、初級職と最上位職のような差がない限りは、努力して補える部分もある。 ただ、それでもその職業の人と同じ努力を重ねると、職業を持っている人の方が圧倒的に上達する。
職業には、戦闘職と生産職があり、戦闘職は戦いに、生産職は生産業に特化している。
10歳の頃になると、冒険者活動を少しずつ行うようになり、そこで、いずれSSランクのパーティーとなるパーティーに勧誘され、そのパーティーのメンバーとして頑張ってきた。
しかし、いつまでたっても、《見習い剣士》は、中級職である《剣士》にはならなかった。 僕はそれでも、彼らにパーティーにいさせてくれと頼み込んだ。 それくらいには、パーティーの中での居心地がよかった。
だがしかし、彼らの態度はしだいに変わっていった。 レイ以外のパーティーメンバーである、レオン、ビーニ、ルーゾ、アレン。 この4人が中級職に転職してから、彼らはレイに今まで以上に厳しくあたるようになった。 レイが先頭にたって行っていた戦闘以外にも、ありとあらゆる雑用をレイに押し付けた。 レイは、自分が初級職で、彼らの言葉に逆らうと、パーティーを脱退させるかもしれないと思って、それを甘んじて受け入れた。
このパーティーは、今までに一度も依頼を失敗したことがなく、絶対に勝てないとされていた魔物相手にも勝ってしまった。 それにより、レイ”以外”のパーティーメンバーは上位職となり、さらには、SSランクパーティーに認定された。 認定された後も、迷宮を踏破したりなど、色んなことがあって、中には強力な魔物もいた。 しかし、レイの職業が転職可能になることはなかった。
そんな中で、周囲の目も変わっていった。 初めはレイを哀れに思っている人もいたが、SSランクになってからはパーティーメンバーと同様に、蔑むような目線に変わっていった。 パーティーメンバーは、周囲の環境をかったるく思い、それに対するストレス発散にレイを使っていた。
そして、パーティー結成から6年たった1か月前、この最難関のSランクダンジョンの攻略に踏み出たが、途中で食料もそこをつき、レイに回ってくるものはほとんどなかった。
そして、ダンジョンの奥地で、今まで戦ったどの魔物よりも強い相手に出会った。 いつものように戦ったが、勝ち目は薄そうだった。
「おい! レイがいる! あいつを囮にして逃げるぞ!」
そんなことをレオンがいいだして、
「悪いなレイお前はもう俺達にはいらないんだよ。 だが、最後に役にたててよかったじゃねぇか」
そんなことを言われて魔物の方に放り投げられ、彼らはレイを囮にして逃げた。
そして話は、冒頭に戻る。
目の前にいるのは、大きな人型の魔物。 肌は黒く、顔は牛のようで、角と翼が生えていた。
「どうして、どうして僕ばっかり嫌な目に合うんだ? こんなに頑張って、頑張って。 それでも、何にも報われることはない。 こんなの! 理不尽じゃなかったら何だって言うんだよ!!!」
そんなことを言うが、目の前の魔物はこっちに近づいてきて、その手を大きく後ろに引き、
「グハッ!?」
思いっきり、僕の腹に突き刺した。 口から大量の血が出て、呼吸するのが難しい。
「しに、たく、な、い.......」
―どうして、僕には何もない?
「ごふっ」
再び血が出てくる。
「し、に..た、く..な...い」
心からそう願った。 こんなところで死んでたまるかと、そう思った。しかし、意識は遠のいていく すると、
『《スキル:不老不死》を授けます』
そんな声が聞こえてくる。 そうすると、再び意識が鮮明になってきて、改めて自分の状況について理解する。
「こんな体じゃ、意識が戻ったって戦えるわけないな」
そう自嘲気味に言う。 しかしそうすると、
『《スキル:再生 Lv.Max》を授けます』
再びそんな声が聞こえる。 聞こえた直後、貫かれた腹が元通りになり、血をたくさんはいてひどく気持ち悪かったが、それももとに戻る。 空腹はまだ残っているが、体は元通りになったようだ。
「グワァァァァァァァァァァ」
目の前で起きるおかしな現象に、恐ろしく思ったのか、再び魔物は俺の腹に、その血塗られた手を突き刺すが、刺した直後から再生がはじまり、すぐに治ってしまう。 それからその魔物は、他の部位を刺したり、切ったり、その度に想像を絶する痛みをくらうが、すぐに治ってしまうため、意識を失うことはない。
どのくらい時が経ったか、その魔物は、無抵抗な俺に呆れて去って行ってしまった。 そして、
「力が、ほしい」
魔物の後姿を見ながらそう、ポツリとつぶやいたすると再び、
『過去の”願い”を解除すれば可能になります。 解除しますか?』
その声が聞こえてくる。 よくわからなかったが、可能になると言われたため、無言で頷く。 そして、声と話した感覚を失わないうちに、
『お前は”何”だ?』
そう聞き返す、すると、
『私はあなたのスキル欄にある、”願い”です』
そう返ってくる。 だが、俺のステータスには願いなんてものはなかったはずだ。
『俺にはお前は見えないのか? 俺のステータスはどうなってる?』
『肯定します。 これがあなたのステータスです』
ステータスは本来、ステータスカードか、《鑑定士》の職業持ちじゃないと見れないはずなんだが、俺の目の前には薄いプレートが表示され、その中には、
レイ 16歳 男 人族 《剣聖》
レベル 187
スキル 願い 不老不死 再生 Lv.10 経験値増加 Lv.10 スキル習得率増加 Lv.10 スキルレベル上昇率増加 Lv.10 剣術 Lv.10 体術 Lv.10 料理 Lv.10 清掃 Lv.10 痛覚耐性 Lv.10 恐怖耐性 Lv.10 千里眼 Lv.10
『これは一体、どういうことだ?』
とんでもないのが表示されていた。
『はい。 まず、過去の願いを解除したことで、今まで溜まっていた・・・・・・』
”願い”の話を省略すると、俺の今までは、全て願いによるものだったという。 初級職から上がらなかったのも、どんな依頼も失敗せずに達成できたことにも、関わっていたらしい。また、彼らが上級職になれたのも、俺が経験値増加でもらえる分の莫大な経験値を、パーティーなのでもらえていたからだそうだ。なので取り合えず、
『もう俺の願いを勝手に叶えるのをやめろ。 それと今、俺にかかっている願いや、これからにも影響する、願いがあったらいってくれ』
そう願うと、声が返ってくる。 やはり、いくつかあったようだ。今の俺の枷になっているものは消しておく。他にも、食料や武器などを願えないか聞いてみたが、どうやらそういうものは願っても無効になるらしい。 そんなことを考えていると、後ろから
「グルルルルルル」
そんな声が聞こえる。 後ろを振り返ると、見たこともないようなオオカミがいた。 《無限》のダンジョンは最難関だから、このオオカミもきっと恐ろしく強いだろう。 しかし、不思議と恐怖しなかった
「ワウッ!!」
そういって飛びかかってくる。 いや、正確には、飛びかかっているように見える。 なぜなら、その動きはひどく遅く感じられたから。
「.......遅」
そういって、レイはそのオオカミに近づき、手刀で首を切り落とした。 レイは死体を放置して、先へと進んでいった。
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レイが捨てられたのは、《無限》に入ってから68層目と、かなりの高階層だった。 ダンジョンの魔物は、上に行けば行くほど強くなる。 ダンジョンはほとんどが100階層になっていて、《無限》もそうじゃないかと言われていた。
そしてレイは今、そこから数えて32層目、ちょうど100層目にいた。
「どうやらこのダンジョンも100層の構成になってるっぽいな」
なぜそう言えるかというと、レイの目の前には巨大な扉があるからだ。 ここまでレイは、特に苦戦することもなしに進んできたが、巨大な扉なんて見なかった。 それに、他のダンジョンでも100層目は巨大な扉になっていた。
「さて、入るか」
そういって扉を開けると、中にいたのは――――
「鬼、か?」
ゴブリンを大きくしたような見た目に、真っ赤な肌。 そして、頭の上には2つの角が生えていた。
――――オオオォォオォォオ
こっちを見つけたと同時に、大きく方向した。 そして、勢いよく踏み込み、「ドンッ」っという音とともに飛び、殴りかかってくる。 その動きは、さっきまでの魔物達より速く見える。が、しかし、
「バンッ」
「......オオ?オォォォォ!?」
片手で受け止める。 鬼のような魔物は、受け止められたことと、その手を離れされられないことに驚く。 時間をかけるのもめんどくさいので
「んじゃとりあえず、ほい」
そういってフルパワーのデコピンをくわらせる。 すると鬼の頭部は消し飛んでしまう。
「もうここまで来たら剣聖関係ないな...... どうやったらデコピンで鬼の頭を消し飛ばせるんだよ」
そんなことをぼやいていると、奥の壁がくずれて道が現れる
「さらに上層でもあるのか?」
そんなことを思いながら、その道を進んでいくと、
「で、でけぇ......」
思わずホクホク顔になってしまうぐらい、でかい宝箱があった。 レイはそれに迷わず飛びかかり、中身を見るために箱を開ける。
「おお、この剣すっげぇ綺麗そうだな。 それにコートに、スクロールか?」
鞘越しでもわかる綺麗そうな剣に、青のトレンチコートスクロールと言われる巻物であろうものが入っていた。
「スクロールってことは、なんかしらのユニークスキルを覚えられるってことか」
ユニークスキル、それは、レイの不老不死のように、Lvがなく、手に入れられた時から協力であるスキルだ。 今のところ、スクロールからか、極めて稀に生まれた時からあるかのどっちかである。
「取り合えず、このスクロールを使って見るか。 ほい、オープンっと」
スクロールは開けたものがそのスキルを手に入れることができる。 そして、手に入れたスキルは、
「ストレージか。 ってことは、これで物を持つ必要もなくなるってことか」
「とりあえずこのコートと剣で試してみようかな。 ......”ストレージ”」
コートと剣に手を置いてそういうと、「シュパ」っと音をたててどこかへ消えてしまった。
「なるほど。 これは便利だな。 取り出すときは......ふむ、こうやるのか」
取り出そうと意識すると、頭の中に入っているものが浮かんでくる。 そこから剣を選ぶと、剣が出てきた。
「なるほどな......だが、このスクロールだけじゃ足りないだろう。 このコートと剣がどのくらいのものなのか早く確かめてみたいな」
そう思って、ホクホク顔になっていると、宝箱の横に転移陣が展開された。
「これにのれってことだろうな。 よし、一応剣もストレージにいれてっと」
「よし、いくか」
そういってレイは転移陣の上に乗る。 そうすると同時に、レイの意識は途切れた。