誘拐編です、助けてください
自ら火中の栗を拾う系脇役姫
ご機嫌よう。マルゲリット・アルカンシエルです。シュテル様の婚約者となってから数ヶ月が過ぎました。
まあ、原作通り相変わらずの扱いを受けている…と言いたいところでしたが、残念ながら色々なことが変わりました。
とりあえず約束通り国王さまは家庭教師と専属侍女はつけてくれました。…が、これがまずかった。国語や外国語、地理や歴史、魔法や帝王学など覚えることがたくさんあるのも大変ですが、私はこれでも元女子高生。理科と数学だけは自信がありました。で、この世界では科学や数学より魔法に重点がおかれています。…つまりは、私の知識はオーバーテクノロジーなのです。理科と数学以外はまあオデット・プレセプトゥール先生のスパルタ指導のおかげでなんとか年相応の知識までは覚えましたが、理科と数学は…所謂、天才扱いされてしまいました。これによってアルカンシエル国は小説の中ではなかった知識を得て、さらに繁栄したのですが。
…王妃さまから睨まれてしまいましたー!
ええ、はい。私が大人しくしていれば良かったんですよね、わかってます。わかっていますがこれは酷い。それでなくてもシュテル様の婚約者になってから更に忌み嫌われていたのに、アルカンシエル国に貢献してしまったことで更に更に嫌われてしまいました。いや、王妃さまなんだし国の発展は喜びましょうよ。
ということで王妃さま付きの侍女さん達と、姉姫さま付きの侍女さん達から嫌がらせされてます。なんで姉姫さまとはそれなりに仲良くさせてもらっているのに侍女さん達から嫌がらせされるかというと、自分の仕えるお美しいお優しいお姫様よりも目立っている私が目障りみたいです。姉姫さまにはきっと悲しまれるから告げ口も出来ませんし、困ったものです。…まあ、私の専属侍女になったナディア・セルヴァントさんが影に日向にありとあらゆる嫌がらせの数々を私から遠ざけてくれるので実害は無い…のですが、さすがに致死量ではないとはいえ毒を盛られた日には焦りました。まあ、ナディアさんが他の侍女に毒味をさせてくれたので私はなんともなかったのですが、毒味係さんには申し訳ない…。しかも私、最近では少量の毒で毒に慣らされているのでぶっちゃけ飲んでも問題なかったですしね。あ、ナディアさんにはさん付けしなくていいとは言われてますが私が勝手にさん付けしてます。
国王さまの態度は、相変わらず塩対応です。でも、私が目立つようなことをしてもいつも以上の反応はありません。ありがたや。というかたまーに何か言いたげな表情をされる時があって、気になるんですけど声をかけても無視されたり適当にあしらわれるんですよね。なんなんだろう。
姉姫さまは相変わらずお優しいです。何かあるたびに私を気にかけてくれますし、良き姉として接してくれています。シュテル様との婚約も、あらあら良かったわね、とにこにこ笑顔で祝福されました。…ざ、罪悪感が。ううん。
シュテル様とは毎日のように使い魔を飛ばして恋文を送りあっています。中々良い仲になれていると思います。特に、私が数学と理科で天才扱いされてからは益々興味を持ってもらえたみたいです。よきかなよきかな。
さて、今日はおそらく、姉姫さまが敵国、ノイモーントの者に誘拐される日。しかしそこからシュテル様とのラブロマンスが始まると困るので全力で防がせてもらいます!
ということで姉姫さまの元へいざ行かん!
「姉姫さま、姉姫さま」
「あらあら、私の可愛いメグ。どうしたの?」
「今日は一人で寝るのが怖いのです。一緒に寝てほしいのです」
おねだり作戦でお姉様と一緒に寝ます!
「あらあら、うふふ。メグは本当に可愛いわね。いいわ。お姉様と一緒に寝ましょう?」
「ありがとうございます、姉姫さま!」
「さあ、こちらにいらっしゃい」
「はーい!」
姉姫さまの部屋に通され、同じベッドに潜り込む。…なんだか私のベッドよりふかふかなのは気のせいか。
「さあ、お姉様が見守っているから、安心して眠っていいのよ」
「はい、ありがとうございます。姉姫さま」
…姉姫さまにこっそりと安眠魔法をかける。妹に魔法をかけられるとは思っていないのだろう、姉姫さまはすごく無防備。姉姫さまはすぐにすやすやと眠ってしまいます。その後姉姫さまにステルス魔法をかけて存在を隠す。この魔法は朝になれば自動的に解けるようにした。これで、後は誘拐犯を待つだけ。
…来た。
寝たふりをする。誘拐犯はこのベッドで唯一寝ている私を姉姫様と間違えて誘拐した。麻袋に入れられて、ちょっとだけ息が苦しいけれど、我慢。そのまま寝たふりをした。
そもそも。何故ノイモーントが姉姫さまを誘拐するかというと、姉姫さまが国王さまと王妃さまの弱点だからだ。溺愛している姉姫さまを誘拐すればアルカンシエル国は下手な真似は出来ない。それを利用して、アルカンシエル国を蹂躙し手に入れようとしているのだ。ノイモーントは最近まで小国だったが、リスティヒ・ノイモーント王が即位してからこういった狡猾な手を使って国土を広げている。
ノイモーント国はアルカンシエル国からシュテルンヒンメル国を挟んだ向こう側にある。アルカンシエル国に助けを求めるのは無駄だろうし、原作での姉姫さまのようにシュテルンヒンメル国のシュテル様に助けを求める方が早いだろう。緊急時用の魔法を使い使い魔を飛ばす。幸い、私の使い魔の蝶々は誘拐犯には気付かれなかった。
…あとは、私が姉姫さまでないことがバレてからだなぁ。一応私だってシュテル様の婚約者。利用価値はあるはずだから殺されはしない…と思うが、不安。うん。いや、覚悟を決めて来たつもりなんだけど今になって手が震える。シュテル様はやく来てー!
ー…
ノイモーント国の王城に連れてこられた。リスティヒ王の前に引きずり出される。
「…馬鹿者が!これは妹姫の方ではないか!」
「え!?でも確かに姉姫の方の部屋から攫ってきました!」
リスティヒ王と誘拐犯はしばらく言い合いをしていた。…が、すぐに私に意識が移った。
「…やあ、マルゲリット姫」
こっわ。
「…ど、どうも」
「いやいや、まさかマルゲリット姫に騙されるとはなぁ。誘拐計画はいつお知りに?」
「…さぁ?」
「はは、嫌われたものだな」
「いや、嫌いというか怖いです」
「…素直な子だね」
「…す、すみません」
く、首刎ねられたりしないよね?
「…まあ、いい。君にも利用価値はある。牢獄に入れさせてもらうよ。くれぐれも無駄な足掻きはしないように。いいね?」
よっしゃー!
「は、はい、ありがとうございます!」
「はは。自分を誘拐した者にお礼を言うなんて。殺されるとでも思っていたのかな?さすがにそこまで冷酷ではないつもりなんだけれど」
「思ってました!すみません!」
「ふふ。面白い子だね。まあ、大したおもてなしもできないけどゆっくりしていってね」
「出来ればご遠慮します!」
「ご遠慮されるのは困るなぁ」
私は結局牢獄に閉じ込められた。うーん。でもなんか、リスティヒ王がイメージと違った。もっと冷たい印象だったんだけどな。
…あ、そういえばリスティヒ王も第二王子で、兄王を殺して即位したんだったか。…もしかして、私の境遇を憐れんで優しくしてくれてる?…うーん、そんなに悪い人でもない?のかな?
…とか考えているうちに、ドーンと花火みたいな音が響いた。シュテル様だな。衝撃が地下のこっちにまで伝わってくるよ。
火薬の匂いが近付いてくる。リスティヒ王が私を人質にしようと来てるのか、シュテル様が魔法銃片手に助けに来てくれたのか。油断は禁物です。
「メグ!無事か!」
「シュテル様!」
よかった!シュテル様だった!
安心して、今更また手が震える。涙が溢れて止まらない。あー、私本当はこんなに怖かったのかー。
「メグ、泣くな。俺がいる。大丈夫だ」
「…は、はい、大丈夫です!」
必死に涙を止めようとするけど、止まってくれない。
「…悪かった。もうちょっとはやく来れたらよかったな、ごめんな」
優しく抱きしめてくれるシュテル様。シュテル様のせいじゃないです。
「シュテル様のせいじゃないです…それに、助けに来てくれたじゃないですか」
「…そうだな。…落ち着いたか?」
「はい。…シュテル様」
「うん?」
「信じてました」
「…ん、ほら、帰るぞ」
「はい!」
こうして誘拐事件は無事に解決しました。
ー…
まず、ノイモーント国ですが。あれからすぐにシュテルンヒンメル国の王子の婚約者を誘拐したということでシュテルンヒンメル国と小規模な戦争になり、あっという間にシュテルンヒンメル国の一部になりました。シュテルンヒンメルすごい。
王城では姉姫さまが泣いていました。気づいてあげられなくてごめんね、怖かったでしょう、と優しく抱きしめてくれました。姉姫さまがご無事でなによりです。
王妃さまは姉姫さまの手前、何も言いませんでしたが恐らく無事で帰ってきて残念がっているのでしょう。
驚いたのは国王さまの反応。ものすごい勢いで怒られました。俺の許可なく危ない目にあうなと。お前が死ぬのは、俺が殺す時だと。…なにを拗らせればそんな台詞が出てくるんですか国王さま。
そしてあの一件で、シュテル様との仲が更に深まりました。ひゃっほう!
怖い思いはしましたが、まあ結果オーライです。
あ、リスティヒ王ですが本来なら断頭台行きだったのですが、私がちょっとだけ庇ってシュテル様にお願いして毒を仰ぐことを許してもらえました。安らかな眠りを迎えたそうです。
あと幼少期編のストーリーってなんだっけ。…あー、確か姉姫さまがスラム街の存在を知って清濁併せ呑むことを知るんだったか。確か姉姫さまはスラム街にすごい衝撃を受けてシュテル様に泣きつくんだよな。…私がシュテル様の代わりに姉姫さまを慰めてあげねば。
リスティヒ王は孤独な人でした
だからといって、なんでも許されるわけじゃないけれど




