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四天王集結=最後の使命



 当初の予定は狂った。

 ガラム王子とロニウスは二人で旅立つつもりだったのだが、出立してみれば何故か人員は二名増えて、合計四人での旅立ちだ。

 人員の内訳は前衛二名に回復役と魔術師なので、バランスはとても良いのだが……

 精神面でのバランスは、ロニウスには良いとはとても思えなかった。

 婚約者を心ひそかに恐れているガラム王子は、エーデルワイスの同行を取りやめてもらえないかと未だに無駄な足掻きを続けている。


「た、旅についてくるって言ってもな!? そうだ、足はどうするんだよ。俺とロニウスは馬で行くんだぞ! 旅の荷物も載せているんだし、お前達まで乗っけては……」

「ご心配は無用ですわ」


 往生際悪く言い募る婚約者を、にっこりと笑顔でエーデルワイスが押し黙らせる。

 ゆるりと扇子を動かして、彼女が指した方向には……


「安心なさって? わたくし、ちゃぁんと移動手段は用意しておりますの。わたくしとクミン、二人で使うには十分な代物ですわ。わたくしの専用馬車ですよの」

「馬車……? いや、アレは馬車というより戦sy……」

「車輪がついていて、馬が牽引する車ですのよ。馬車で間違いありませんわ」

「いや、どう見ても戦車だろう。アレ」

「な、なあエーデルワイス? 馬車に立派な馬まで用意しているみたいだけど馬にだって維持費ってやつがな……?」

「まあ、殿下。維持費という概念をご存じでしたのね! ですが心配はご無用ですわ。わたくしの用意した『馬車』に限って言えば維持費の面もクリアできておりますもの」

「マジでー……?」

 

 圧倒的な存在感を誇る『馬車』に関して確認を取る言葉は、引きつった表情に引っ張られるように微かに震えていた。

 彼らが見ているのは、オープンな雰囲気が前面に押し出された幌なしの馬車だ。

 金属製で、ちょっと小型だが、確かに車輪がついていて馬が牽引するという点が条件に挙げられるのであれば『馬車』に相違ない。

 ほんのちょっと小さめで、機動力と耐久性が無駄に高そうで、荷台や座席といったものが存在しないだけだ。そこを問題にしないのであれば、アレは確かに馬車だといえるだろう。

 よく見ると『馬車』の車体には両脇にトランクが括り付けられている。

 どうやら女性二人の荷物も既に積載済みのようだ。

 荷台がないから括り付けるという手段を取っているのだろうけれど、開放感あふれる車体は割と無防備で、後方に壁がなかったりする。荷物が落ちることを心配せずに済むので、括り付けたのは効率的だとすらいえるかもしれない。


「やっぱりどこからどう見ても、戦車……」


 全方位から見ても隙の無い完璧な深窓の御令嬢然としたエーデルワイスと、ぶかぶかのローブで顔が隠れる程にフードを深くかぶったちみっ子のクミン。

 二人があの戦車に乗るとして、操縦するのは果たしてどちらなのだろうか。

 どちらだとしても、シュールな光景が見られる事だろう。

 ガラムは移動手段という点で二人を振り切れそうにないと悟り、遠い目をしていた。

 彼らの道行きに、幸あれ!




   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 遠いところで胃痛を感じて佇む苦労人の心労など、知る由もなく。

 こちらはこちらで苦労人が頭を抱える、漆黒の魔王城。

 その謁見の間に、四人の男女が集結しつつあった。

 先代の魔王……ネモフィラの父王が四天王たちである。

 そもそも四天王とは、代々の魔王が各自で選び任命するもの。

 その政治方針や思想、理念に則って魔王を補佐するに相応しい人材が選ばれるもの。

 自然、四天王とは魔王の治世を体現する存在となるのだが……


 未だ選定途中でネモフィラの四天王が定まっていない現在、『四天王』といえば確かに前政権の『四天王』を指すことになるのだが……玉座に集結した錚々たる顔ぶれに、宰相は遠い目をしている。

 本人たちが有能なのは、間違いない。

 間違いないし、馬鹿王が王であった時には宰相やネモフィラも何かと助けられたものだが……改めてその『肩書』を確認してしまうと、どうしても馬鹿に何を考えていたのかと怒鳴りつけたくなってしまう。

 本人達の資質や性質は、馬鹿と大きく異なっていたことが救いである。

 未だ馴れない玉座に座り、ネモフィラは『四天王』に顔を上げるよう促した。


「姫様……いえ、陛下。この度はご即位まことにおめでとうございます」


 しっとりと落ち着いた声音でそう紡ぐのは、四天王の筆頭……マーメイドラインの優雅で艶めいたドレスを身に纏い、褐色の肌を惜しげもなく衆目に見せつける華やかな美女。

 別名、『女』担当—―王都の色街を統べる異種族の魔女ハコベ・オサカベ(年齢不詳)。


「まことに、まことに……我ら一同、どれほどこの日を待ちわびましたことか……っ陛下、陛下のご即位に天地万物の祝福がありますようっ!!」


 跪礼というより最早這いつくばるような有様で、泣き崩れながらネモフィラの即位に真心のこもりすぎた祝いの言葉を叫ぶのは、横にも広ければ奥行も随分と分厚い、屈強な肉体を持つ四本角の男。

 横にいる魔女の横に四倍から五倍はありそうな巨漢は、一見して戦場で敵の首を刈って回っていそうな戦士にも見える。

 別名、『賭け事』担当—―王国きっての歓楽街を仕切る金融とカジノの帝王ドルゴクラブ・スイートメイデン。


「旦那、旦那……ちょっと泣きすぎですぜ、ほらハンカチ差し上げますから。少し落ち着きましょ、ね?」


 さすがに謁見の間で男泣きを始めた隣人が見るに耐えかねたのか、見事な刺繍の施されたハンカチを差し出して宥め始めたのは、細身で紳士然とした外見の優男だ。

 身なりは立派なのに何故か言動は小物感あふれる、針金のような印象を見る者に与える。

 しかし言動は小物でも、その頭脳は明晰で冴えわたる利発な男だ。

 別名、『光物』担当—―王国の女性で知らぬ者はいないドレスメーカーであり、服飾と宝飾品の売買取引を管理するギルドの長でもあるソレイユ・サラバント。


「涙で池でも作るおつもりですかねぇ。これがリンゴの果汁ならシードルでも作るんですが、男の涙じゃ塩っぽすぎてどうにもしようがありませんね。ほら、飴ちゃん差し上げますから泣き止みましょーねー?」


 そう言って別の方面からドルゴクラブを宥めるのは好々爺然とした落ち着いた物腰の紳士。

 にこにこと目を細めて笑っているが、その身のこなしは四天王たちの中で最も隙が無い。

 油断ならない気配を笑顔の裏に隠した、穏やかな老年の男。

 別名、『美食』担当—―あらゆる山海の珍味と美酒の扱いに長けた王国一の名料理人ジンジャー・ソテー。

 

 彼ら四人こそが前王の四天王……民からは『歓楽街四天王』と呼ばれる、前王の我儘好き放題で割を食う日々を過ごした、可哀想な被害者ご一同様である。

 好き勝手し放題だった馬鹿王に振り回され、振り回され、これでもかと我儘をぶつけられまくって常日頃疲弊の一途だった四天王の皆々様。

 それでも目の前にぶら下げた各種様々な『エサ』を駆使して、王宮の宰相や官吏たちの意を酌み、何とか前魔王を操縦しようと頑張ってみたり、宥めてみたり、無茶苦茶な要求の被害を頑張って抑えてみたりと涙ぐましい努力と根性の消耗戦を繰り広げて王国の民を少しでも守ろうと身を尽くしてくれた戦士達でもある。

 ネモフィラにとっては、実の父よりもよほど信を置ける頼りがいのある家臣たちである。

 本来であれば彼らの寿ぎを素直に受け取り、即位の喜びと父の捕獲カウントダウンの期待を分かち合いたいところではあるのだが……差し迫った問題を前に、新しい女王は悩まし気な溜息を吐いた。

 即位の式典に参列していた四天王たちも、彼女の悩みがわからないではない。

 祝いと喜びに満ちていた顔は、女王の溜息に瞬時に切り替わる。


「本来なら、あなた方と喜びを共にしたかったところなのだけれど……」

「みなまで仰りますな。ご心中、お察ししますぞ」

「あなた方ほど頼りになる者は他にいないわ。なにしろ、あの父の横暴にずっと身近に接しながらも耐え続けることのできた忍耐力は、誰にも真似できない鋼の精神力の証明だもの」


 そんな、今まで苦労を掛けてきたあなた方に更に頼るのも心苦しいのだけれど、と。

 心からそう言いつつ、ネモフィラは旧来の四天王たちに資料を開示した。

 これまでの短い時間でかき集めさせた、人間の国が放った刺客—―『勇者』の情報を。

 そこに記されていた情報は、これから命じる仕事を思えば余さず共有するべきだからだ。

 女王は威厳の籠った声で、彼らに命じた。


「情報を確認し次第、作戦の検討に入ります。そして四天王のあなた達には—―作戦が定まり次第、勇者一行の足止め作戦に加わってもらいます。これは、父の相手をしていた実績に期待してのことです」


 苦悩に満ちた若い女王は、切なさと心苦しさの入り混じった声音で申し訳なさそうに言葉を続ける。

 曰く、私の馬鹿な父を誘導し、操作することに長けたあなた方の実績と能力とノウハウを使い、是非とも自分に協力してほしいのだと。

 無言で渡された資料をめくる歓楽街四天王は、そこに書かれた『勇者』の人となりに関する報告書に無言で目を落とす。

 楽観的で、お調子者で、単純で。自分の都合のいい方向に物事を思い込む。

 度々息子の言動が原因で頭痛薬を処方してもらっているという隣国の王には、共感を覚えずにいられない。その国王こそが『魔王』に刺客を放った張本人だというのに。

 空っぽではないはずなのにとっても軽い頭をお持ちのようだと、ジンジャーがぼそりと呟いた。

 空気もどんよりとした無言の中に、思いのほか呟き声は重く響いた。

 何となく、一部どこかの誰かを彷彿とさせる気配がありますね、と。

 誰もが敢えて、『誰か』とは誰のことかと――明言を避ける中。

 小さな咳払いと共に、空気を換えるようにネモフィラは第一作戦の計画案を口にした。


「まずは男心を迷宮に落とし込む基本――救いを求める乙女の嘆願(※やらせ)からやってみようと思うの。オサカベ女史、力を貸してもらっても良いかしら」

「ハッ……! 陛下のご下命とあらば!」


 魔王とその側近……魔族の上層部たちが頭を突きつけ合わせて悩む、『勇者』の足止め戦略。

 その第一案は、初っ端だというのにどうやらハニートラップになりそうだった。


 



公爵令嬢 エーデルワイス

 ロニウスの従姉妹であり、ガラムの許嫁に当たる生粋のお嬢様。

 深窓の御令嬢であることには間違いないのだが、大変優秀有能で幼少の頃から「どうして男に生まれなかった……! 男だったら後継ぎに………………い、いや、男に生まれていたら覇王になっていたな! きっと! きっと……周辺各国を火の海に沈めて征服していたに違いない。恐ろしい、女の子で良かった!!」と父公爵を戦々恐々とさせていた。

 その優秀ぶりの表面を評価しちゃった王家によって、「これほど優秀でしっかりしているのならうちの残念三男もしっかり支えてくれるだろう!」という目論見によって婚約が成立する。

 婚約者であるガラムのことは「愛していますわ(実家のタロウ(犬)の次に)」とのこと。

 ガラムのことを内心で密かに「ジロウ」と呼んで愛でて(?)いる。

 特にそのお馬鹿な言動を好ましく思っているので、国王陛下の「ガラムの手綱を握ってほしい」という願いとは裏腹に時にたきつけ、時に煽り、時にそそのかしたりすることも少なくない。

 今回の旅にも、王子の言動を絶好のポジションでつぶさに見守るべく参加した。

 馬鹿犬愛好家。


魔術師 クミン

 エーデルワイスの侍女兼魔術師。

 内気(というか内弁慶)で大人しい小動物系。

 しかしその趣味趣向は変わっており、特に『骨』に執着している。

 この世で最も嫌いなものは『腐肉』。どうやらトラウマがあるらしい。

 土属性魔術と骨にまつわる魔術と、錬金魔術(ただし濃硫酸生成のみ)を使うことができる。

 たまに死霊術師と間違えられるが違うらしい。



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