表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
身分詐称の辺境魔女殿  作者: 東堂 灯
辺境の魔女殿
8/24

魔女の野営準備

※誤字訂正・副題の追加等の編集を行いました。

内容に大きな変更はございませんので、ご了承ください


「で、どんな魔法を使うんだ?」


妙に期待しているところ悪いけれど、どの魔法も簡単な物でしかないわよ…?


「とりあえず、地を均してタープを張ればいいのでしょう?…焚き火はちょっと後回しにさせてちょうだいね。」

「そこまで出来るのか…?」


ふふん、私を舐めないでちょうだい。


「さぁ、では始めましょうか。」


息を吸って、落ち着いて。

そっと手をのばし、語りかけよう。


『集え、集え、どうか私の声を聴いて。』

『神の御子よ、愛し子よ。どうか私の元へ集い給え』


語りかけるは世界の欠片。

謳うように、願いをこめて、乞うように。


『かの地を均し、我が安息の地を。』

『蔦を操り、雨風しのぐ、我が寝所を。』


土はボコボコと耕され、石は退いてゆく。

木々から伸びる蔦はタープを広げ、引っ張ってゆく。…そろそろね。


『愛しき隣人、優しき世界の欠片たち。声を聴いてくれてありがとう。さぁ、私の希は叶えられた。感謝を世界に、愛し子に…。』


タープが張られ、野営地として形になった所で切り結ぶ。

うん、良い出来ね。


「ふぅ…こんな感じでよろしいかしら、王子様?」

「…」


あら?振り返って声をかけても反応がないわ。


「ギルバートー?」

「ぁ、ああ、いや…驚いた。…魔法とは、こんなにも美しかったか…」


うん?何故〈美しい〉って感想なのかしら?先代だって魔法は使っていたでしょうに。


「美しい?」

「あぁ。…驚くほど、美しいと思う。」

「先代も魔法は使っていたのでしょう?同じようなものではないの?」

「いや…魔女殿は、ひと言、ふた言呟いて魔法を使っていた。ティナのような…詩ではなかったからな。」

「えぇ?」


魔法の行使方法は人によるらしいけれど…ナナシが1、2言で出来る魔法なんて、ささやかなものでしかないわ。それこそ、風ならそよ風みたいなものよ?


「…たとえば、こんな?…『風よ吹け、我が手に木の葉を』」


差し出した手の平に、ほんの数枚の木の葉が集まる。


「あ、あぁ。…随分簡単に使うんだな…?」

「これは…いえ、本当に、この程度しか見たことがないの?」

「そうだが?」


…やっぱり、少し不自然だわ。

この程度の魔法は、スピカでは幼子が遊びに使うレベルの筈。この程度しか出来ない魔女が、何故王宮に居たの…?

知識の不足…力不足…ここはスピカから見ても隣国よ。それがたかだか20年ちょっとで、何故ここまで…


「ティナ?…ティナ!」

「!ごめんなさい、ちょっと考えちゃった。せっかく張り切って魔法を使ったのに、こんなに張り切る必要なかったじゃない!」

「なんだ、張り切ったのか。」


ごめんなさいね、王子様。

笑うギルバートに心の中だけで謝罪する。嘘は言わない。張り切ったのは事実だから。…ほんの少し、気付いた事を言わないだけ。


「もう!じゃ、ちゃっちゃと焚き火も用意しちゃうわね。」

『愛し子たちよ、眷属たる森の精たちよ。その身の欠片、我に分け与え給え。』

『風よ吹け、欠片を集め、我が前に。』

『愛し子たちよ、力を貸して。朝日が昇る、その時まで。』

『その身を燈し、我らに光と温もりを。護りとなる、導となる、優しき炎を与え給え…。』


枝を集め、炎を灯す魔法。これで朝まで火が消える事はないわ。


「さて、野営地の準備は調いましたけれど、不足はございまして?団長様?」

「…いえ、とんでもありません。偉大なる魔女殿に、心より感謝を。」

「感謝を!」


ひっ。騎士様が揃って叫ぶから驚いたじゃないの。…でも良かった。少なくとも、これなら役立てるものね。


「…それにしても、やはりティナの魔法は美しいな」

「ふふん、ありがとう?…でも、発動までに時間がかかるでしょう?杖持ちは発動までのタイムラグがほとんどないから、あまり実践では役立たないかもしれないわね」

「…いえ、とんでもありません。発動時間でしたら、策を巡らせれば良いのです。」

「レオナルド様にそう言っていただけて、嬉しいですわ。」

「お気軽にレオ、とお呼び下さい、ティナ様。では、野営地が早々に調ったので、夕食は少々期待していてください。…簡単な狩りなら出来そうです。」


?レオナルド様、ちょっと雰囲気が変わった?少しは認めてくれたかしら?


「くくっ、レオが認めるの、随分早かったな…」

「そうですね…。ですが、本当に美しい魔法でした。」

「ちょっと、褒めすぎ。流石に恥ずかしいわよ。」


レオナルド様が騎士を数名連れて狩りに向かった所で、ギルバートとハウエルが茶化してくる。…美しい、美しいって、魔法だと分かっていても、流石に恥ずかしいわ。


「黒のローブは風に靡き、澄み渡る声で紡がれる音は優しさに溢れていた。伸ばした手には光が集い、流れるような仕草で振るう指先からは…」

「あーもう!やめてってば!!や、め、て!!」

「王子、流石に意地が悪いかと思いますよ…」


流石、王子様。美辞麗句はお得意なようね…。


「いや、悪い、悪い。…あの詩には、どんな意味があるんだ?」

「んー、世界に向かって、力を貸してください、こんな事をしてくださいってお願いしているだけ。謳うように紡いではいるけれど、ただの言葉なのよ。古のだけど。」

「あれが言葉なのか…」


発声から違うから、謳のように聴こえるのよね。知っていれば、言葉を紡いでいるだけって分かるのだけれど。


「では、あの光は?手に光が集まっていただろう?」

「…妖精さん、かしら?」

「…は?」


いや、妖精なんて御伽話だから、気持ちは分かるのよ?分かるけど、そんな反応はやめて…。


「いえ、その、実際はよくわからないのよ。ただ、私が紡ぐ呪文は、神の子…愛し子への呼びかけから成るもので…ああいえ、呪文って人によるらしいから、あの光が何なのか、っていうのは、結局わからないの。」

「愛し子…?いや、それよりも、呪文は人によって違うのか?ティナの呪文は母君から教えられたものではなく?」

「ああいえ、定型文はあるから、人によって、と言ってもそこまで大きな差はないと思うわ。そもそも魔法って、古の言葉を紡げば使えるの。私は母から言葉を教えられたから、アレンジを加えているのよ。母の呪文と…私の呪文とは、方向性が違うから。」


魔法は、古の言葉を紡げば、ほとんどの場合成功する。魔力を持って、古の言葉で乞えば、各々の力量に見合った効果が得られるのだ。…言葉の意味を知らず、定型文をそのまま使う人も多いと聞く。


「母の呪文はもう少し尊大な感じ、かしら?私は〈お願い〉だけれど、母は〈命令〉だったから。」


例えば、さっきの焚き火。

私が「お願い、焚き火を起こしてくれる?」なら、母は「焚き火を起こしなさい」っていう感じにニュアンスが違う。


「それに、杖があると単語だけで済むのよね。指先で発動補助の陣も描かなくて済むし。呪文はさほど重要視されないのよ…」

「なるほど…あの手の動きにも意味があるのか。」

「魔法の制限だけでなく、簡単な魔法にもそれだけ差がつくのですか…それならば、たしかに魔女に囲まれたかの国では()()()()()()()()ですね。」


でしょ?…まぁ、他国ではいくらでも悪用出来そうだけれど。

スピカから離れれば離れる程に魔法が使いにくくなるらしいから、大きな問題にはならないと思うわ。


「魔法の発動時に集まる光については、魔力と言われたり、精霊と言われたり…色々な説があるのよ。個人的見解としては、精霊が近いと思ってるわ。」

「ほう?魔力じゃないのか?」

「魔力って、属性の色があるのよ。なのに発動時には見合った色の光が灯るし…なにより、光が()()より、()()()って感じでしょう?」

「そうだな…なるほど、それで妖精さん、か?」


少女趣味とでも言いたそうな顔ね!まったく!!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ