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身分詐称の辺境魔女殿  作者: 東堂 灯
辺境の魔女殿
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王子様の精神疲労話


「うーん…?初歩は一通り…知識だけなら、余裕で試験もパス出来るってお墨付きよ?」


声に照れを滲ませながら、そんな非常識をぶち込んでくる魔女殿に、そっと目を逸した自分は悪くないと思うんだ…。



◆ ◇ ◆



「殿下…」

「あぁ、わかってる。…近場の魔女か魔法使いに頼むしかないな…」


第4近衛騎士団団長、レオナルドから声をかけられる。

スピカまで同行するはずの魔女殿が亡くなった。…あまりにも、タイミングが悪い。このままでは、魔法に対抗する術なく隣国へ行かなければならない事態になりかねないのだから。近場に誰か居ればいいが…


「ハウエルから、〈辺境の魔女〉と呼ばれる方がいらっしゃると報告が。…ここから徒歩で半日〜丸2日程度との事ですが」

「半日〜丸2日?随分幅があるな?」

「おそらく、なにかしらの魔法かと。…出来る事ならば、本日中の出発が望ましいのですが…」

「…最短なら馬で3、4刻だろう。…魔法なら読めないな…最悪追って来てもらうしかない。…仕方ない、ルーレンを迎えに。」

「ルーレン…ですか?」

「速度だけならあいつが1番だ。…それに、情報収集には向いてないからな。最低限の礼儀なら大丈夫だろう。…間に合わなければ、レナードを説得に残す。」


少しでも情報を集めて対策を。なにせ魔女と呼ばれる者達は自由気まま…と言えば聞こえはいいが、実際は傲慢でプライドの塊みたいな奴が多いからな。対応を間違えれば同行を断られるだろう。


「承知致しました。では私も話を聞いて参りますが、…その間にハウエルから報告を?」

「あぁ、そうだな…頼む」

「では私は失礼致します。呼んでおきますので、少しでも休息をお取り下さい。…無理はしないように。」

「ありがとう、レオ…頼んだ。」


レオナルドは幼少から付いてくれている。亡くなった魔女殿との関係もよく知っているから…


「今のうちに感傷に浸っとけ、ってことかよ…」


椅子の背に凭れながら、上を向く。頬を流れる液体は、知らない振りをしよう。

…思い出すのは、あの人の最後の言葉。


ーーーギル、ギル…ギルバート…いい?よく聞いて…運命は動きだした…もう私達は隠してあげられないから…ギルバート…可愛い私の王子様…。どうかファムファタルーンに惑わされないで…自分の意志で選ぶのよ…風の祝福を貴方に…


「ファムファタルーン…か…結局、何なんだろうな…」


魔女殿は、幼い王族達にとっては遊び相手だった。そんな中で、彼女は自分を1等可愛いがってくれていたし、自分も良く懐いていた。普段から遊びに全力で、その属性に違わず自由な人だった。…優しく、明るい人だった。

だからこそ。…だからこそ、最後に残してくれた言葉が気にかかる。あんなに真剣な声は、知らない。


()()()()()()()()()とは何だ?俺の運命?隠す…何から隠されていた?


「最後の最後に…まったく…仕方ない人だなぁ…」


呟けば、タイミング良く暖簾の先からハウエルの声がした。感傷に浸るのはここまで…か。


「殿下、よろしいですか?…失礼致します、辺境の魔女殿について、現在集まっている情報のご報告に参りました。」

「どんな人物か、情報はあったか?」

「はい。…辺境の魔女なんて言われていたので、どんな偏屈な方かと思っていたのですが、まだ年若い方だそうですよ?」

「若い魔女ぉ?」


このご時世に若い魔女がこんな辺境にいるなんて、なんの冗談だ?城下で悠々暮らせるだろ…?


「ええ、辺境の魔女殿と呼ばれていたのは先代で、今はその娘が引き継いだらしいです。あぁ、魔女としてはどちらも優秀だそうで、その点は心配いりません。…先代は国交断絶後、スピカとの国境から流れてきた魔女殿らしいですね。」

「あぁ、弾かれた魔女の娘か…魔女として優秀なら、年若いとはいえそれなりの年齢だろ?」

「それが…話を聞く限り、どう上に見積もっても30前なんですよ。10年程前に先代魔女が亡くなったらしいのですが、その少し前に娘だ、と交流が始まった事がきっかけらしいです。…その頃には既に姿を隠していたらしいのですが、10代の若い娘だと言われていました。」

「魔女は死期を悟ると言うからな…なるほど、娘を心配して交流をはじめたのか。…それにしても、最初から姿を隠してるのなら、友人関係は期待できないか。」

「人となりは優しい人格者だと評判でした。皆から慕われているようです。…正直、魔女様の話なのか?と聞いていて疑いましたよ。ただ、人嫌いなのか、ほとんど外れにある家から出てこないいらしいです。人避けの魔法も使っているようで…姿を見た人もいません。」

「随分徹底してるな?人格者で通っているわりに人を寄せつけない…いまいちつかめないな…いや、慕われるような性格なら望みはあるか…?」

「はい。病気になっても僅かな食料と引換えに治療してくださる方らしいですから、事情を話せば力になってくれるかと。」


それはまた随分と…今時、魔女の治療なんて吹っ掛けようと思えばいくらでも吹っ掛けられる。これはアタリだな。


「ならひと安心か。…いや、気は抜けないけどな?」

「そうですね。」


辺境の魔女殿の評判を聞く限り、大丈夫そうだ。安心からか、ハウエルとの間に流れる空気が弛む。無事に説得できれば良いが…。



◆ ◇ ◆



「急ぎの頼み、とは、本当に急ぎなのでしょう?どうぞ私めにお聞かせ下さいませ」


ぐったりとした魔女殿は、確かに若いのだろう。澄んだ声と雰囲気を鑑みる限り、まだ20代だろう。どういった意図なのか、随分と下手に訊ねてきた。正直、こちらとしてはルーレンの行いに対して不興を買ったと心配しているんだが…

こちらの対応を伺っているのか、とじっと観察してみれば、どうにもそんな雰囲気はない。どちらかと言えば…そうだ、下級貴族が上位の貴族を相手にして怯えるような…?


「あぁ、」


手早く自己紹介をして、魔女殿をじっと見つめる。

やはり、どこか怯えられている気がする。それこそ、彼女がしているのは、上位の者に対する礼だ。…これなら、身分を嵩に押し切ることも出来そうだ。

とはいえ、出来る事ならそんな事をしない方が良い…が、多分、彼女には…少々砕けた対応をした方が、良い…気がする。


「では、ティナ?」

「はい、ギルバート様?」


なるほど。これが正解か。

笑みを深めれば、彼女の身体がほんの僅かに強張る。が、しっかりと意図を汲み取った返答をした後だ、こちらも調子にのるぞ?


「ちょっと本格的に困ってるんだ。助けてほしい。…ティナは隣国について、どれだけ知っている?」


これならそこまで苦労せず、同行してくれそうだな?



◆ ◇ ◆



あの時、「そこまで苦労しない」と思った自分を殴ってやりたい。


確かにティナ嬢の説得は、問題の対応策を用意するだけで良かった。簡単だった。…だが、問題はここからだ。

ティナが教えてくれた情報は、俺たちにとって、青天の霹靂とも言える内容だった。…魔女が自分の属性以外も平気で使えるとか、おそらく、絶対、常識じゃない。…確かにかの国の魔女は規格外と聞くから、スピカ皇国では当たり前なのかも知れないが。


目の前で自慢げな雰囲気を醸し出す魔女殿は、初歩とは言え一通りの魔法が使えるうえ、知識に関してはそこらの魔女を軽々と凌ぐようだ。

同行してくれる魔女殿が優秀なのはありがたい。…ありがたい、のだが…どうにも彼女が規格外な気がするのは気のせいか?

スピカ皇国の基準と、他国の基準が離れ過ぎているのか、本人がズレているだけなのか…少なくとも、こちらの想定以上に優秀な魔女サマだ。


…気分だけなら既に苦労の連続で、満身創痍なんだが、…この常識破壊、まだ続きそうだよな…。これから苦労、しそうだ。


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