表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔女に幸福を  作者: ホタテ
5/16

4

2023/1/12 全文改稿

「玖雅って実はすごかったんだな。――あ。俺もクレハって呼んでいい? 俺のことは海斗でいいから」

「次、名前で読んだら殺す」

 こいつ、殺すしか言えねぇのかよ。

「なぁ、未来が見えるってどんな感じ? 予言的なアレ?」

 ついには無視される。

 負けるな……俺……

「外の世界がどうとか先生言ってたけど、クレハはどこか他所の国から来たのか?」

 はい。これも無視。

 ゴミ捨て場にたどり着くまで俺は一人で喋る羽目になった。

 ゴミを放り込み、教室へ戻ろうとしたときだった。

「せんぱぁーい!」

 どこからか、女子の声が聞こえてきた。

 見上げると、二階の窓から眼鏡の三つ編み女子がこちらに向かって手を振っているではないか。

 誰だっけ?

 俺の知り合いにあんな子はいなかったような……

「玖雅先輩! 早く来てくださーい!」

 俺ではなく、玖雅クレハの知り合いだった。

 クレハは返事をするわけでもなく、ただ大きなため息をつくだけだった。

「あの子、知り合い? 返事くらいしてやれよ」

「うるさい」

 ひでぇ。

 返事はしなかったものの、クレハはその子がいる二階の教室へと向かい始めた。

 何となく俺も後をついて行くと、化学実験室に行き着いた。

 なぜこんな所に……?

「先輩! お疲れ様です! 今日は掃除当番だったんですね!?」

 キラキラした目でその女子はクレハに話しかけるが、俺と同じようにガン無視である。

 女子に対してくらい優しくしてやれよ……

 しかもこの子、一年だし……

「それより先輩……この方は一体……」

 クレハを見ていた目とは打って変わって、俺には不審者を見るかのような目を向ける。

「勝手についてきた」

「えっ! ストーカーってやつですか!?」

 何でだよ!

 どいつもこいつも俺をストーカー呼ばわりすんな!

「ストーカーじゃねぇし! 俺はこいつのクラスメイト! そういうお前こそ何なんだよ」

「私は後輩ですが何か」

 うわぁ。何だろう。すげぇムカつく。

「先輩のクラスメイトごときお方が、ここへ何のご用でしょうか」

 クラスメイトごとき……

 初対面でなんて言われようだ。

 俺は後輩とやらを無視して、試験管やらフラスコやらを机に並べているクレハに尋ねた。

「いつも実験室に来てるのか? 何してんだ?」

「見てわからないんですか? 部活動ですよ」

 お前に聞いてない。

「クレハって部活してたんだ」

「呼び捨て!?」

 この世の終わりのように後輩は叫んだ。

「玖雅先輩を! 呼び捨てとは! なんて無礼な人なんでしょう!!」

「お前はクレハの何なんだよ……」

「偉大な玖雅先輩に対して馴れ馴れしいですよ!」

 崇拝しているのかと言いたくなるような彼女の勢いに俺は引いた。

「玖雅先輩! 私、この人嫌いです! 嫌な匂いがするし!」

「に、臭い!?」

 そんな汗臭かったか!?

 今日は体育もなかったし、そんなはずは……

 女子に体臭のことを言われるのは、思春期真っ只中の高校生男児としては結構ショックだ。

 慌てて自分の臭いを嗅ぐ。

「あーもう! お前らどっちもうるさい! 散れ!」

 とうとう我慢の限界を迎えたクレハ。

 キャンキャンと子犬のように吠える自称後輩。

 体臭を気にする俺……。

 俺たちは何の目的があってこの実験室に来たのか。

 各々目的を忘れる勢いで場は混沌とし始めそうになったときだった。

「あ、荒波君!」

 小さい声の人が一生懸命大きい声を出したかのような、か細い声が俺の名を読んだ。

 振り向くと、入り口に委員長が立っており、なぜか小刻みに体を震わせていた。

「あれ? 委員長? 何やってんの?」

「戻ってこないから、心配で探しに……!」

 あ。そっか。

 掃除当番だ。

「あーごめん。ゴミ捨てたし、もうみんな帰ってるかなって」

 本当言うと忘れてた。

「戻ってくるまで待ってようって言ったけど、みんなはさっさと帰っちゃうしっ……」

 なぜだかわからないが、委員長は涙目になっている。

 ちょっ……何で泣く!?

 つーか、俺だけじゃないよな!?

 責めるならクレハもだよな!?

「マジでごめんって」

「あの。よそでやってもらっていいですか」

 必死に謝っているのに後輩が余計なことを言う。

 冷たい女だな……

「今度から気をつけるからさ。今日のとこはこの辺で勘弁してよ。だからもう委員長も帰りなよ。他のみんなもう帰ったんだろ?」

「うん……。でも荒波君は? こんな所で何してるの? な、何で玖雅君なんかと一緒に……」

「ちょっと! その言い方、玖雅先輩に失礼ですよ!」

 信者がすぐさま噛みつく。

 委員長はその勢いにビビって「ヒィ!」と悲鳴をあげる。

「やめろって!」

 俺は後輩を牽制する。

 話をややこしくするなよ!

 とは言え、俺も少し気になった。

「委員長、確かに今のは失礼だと俺も思ったよ。そういう言い方は良くないんじゃないかな」

 また泣きそうな顔になる委員長。

 俺は正しいと思って指摘したが、返って面倒なことを引き起こしてしまったような気もした。

「な……何で……私おかしなこと言った……?」

 自覚がないとでも言うのか。

 だったらヤバくないか?

「委員長……」

 俺は呆れて何と言えばいいのかわからなくなってしまった。 

 委員長も他のやつらと同じで、クレハが魔女だってことに何かしらの恐怖心みたいなのを抱いているのだろう。

「――生駒佐和子」

 すると、黙っていたクレハが唐突に口を開いた。

 クレハが口にしたのは、委員長のフルネームだった。

「お前はもうここに用はないだろう? 帰れ」

「……はい……」

 それまで震えていた委員長の体がピタリと止まり、機械的な声で返事をし、俺に挨拶もなくくるりと背を向けて操り人形のように実験室を出て行った。

 今のは……?

「先輩、駄目じゃないですか!」

 俺が状況を飲み込めてない傍で、クレハは後輩に叱られていた。

「華村。お前は今の見えたか」

「見えたって……」

 冷静なクレハの問いかけに、後輩の怒りはすぐに静まる。

「私には……先輩のような力はありません。ただ……あの人からは良くない気配を感じました。何かこう……纏わりついているというか……」

 どう説明すればいいのかわかりません。と、後輩は頭を抱えていた。

「先輩には、あの人に何か起こる未来が見えたんですか?」

「黒い靄がかかっていてよくわからなかった」

「そういうこともあるんですね……」

「ちょ、ちょっと待てよ」

 二人で何を言ってるんだ。

 完全に置いてけぼりな俺は少し焦る。

「見えたってどういうことだ? あとさっき、委員長に何かしたのか?」

「お前も同じことをされたくなければ、もう帰れば?」

 教える気はないらしい。

 除け者にされてるような感じがして、いい気分はしなかった。

 こいつらがこの実験室で何をしているのかもわからないままだ。

 ……今日のところは退くか。

「わかったよ。帰ればいいんだろ、帰れば。じゃーな」

 後輩は俺に向かってべっ! と舌を出し、クレハは無視。

 ――嫌なやつらだな!

 ムカムカしながら俺は教室を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ