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消える足跡(13)

 翌日、昼頃にトラークが宿に来ると、夕方に村長の元へ案内すると話した。

「期待はするな。恐らく向かったその足で帰ることになるだろう」

 トラークは厳しい表情でそう言うと去って行った。アルの部屋で二人は外の雪を眺めている。


「どう思いますか? あなたもこの村の出身でしょう?」

「雰囲気が変わっちまった感じがします。こんなにたくさん石を使った建物ってのはなかったんですがね。そもそも村の場所がちょっと移動してるんですよね」


「村長は知っているんですか?」

「いや、全然。聞いたこともない奴です」


 アルは外を眺めていると、兵士が二種類の格好をしているのに気づいた。一方は銀の甲冑に水色のチュニックとマントを身につけたメナスドール兵で、もう一方は鎧と毛皮の服の上に白地のコートをまとっている。白地のコートは袖から胸を通って逆の袖まで赤いラインが一本入っている。


「あっちはメナスドール兵だとわかるんですが、白いコートの兵士はどこの連中ですか?」

「あれはゼブル教の私兵ですよ。俺も詳しくないんですが、ここで幅を利かせている連中です」

「ここはレーゲラット族の村ですよね。それでギードもレーゲラット族なんですよね?」

「ええ、そうですよ。俺がここにいたのは子どもの頃ですが、兵士なんていませんでしたよ。そのころのゼブル教はもっと何と言うか、寄り合い所で教祖様の話を聞いてありがたがるだけっていうか、そんな感じでしたし。もっと身近な、神様ありがとうございますって、そんだけでした」

「教祖様ってどんな人でしたか?」

「ガレーノ・クロンダって言って、俺の知り合いの親父です。ゼブル教は村長と教祖を一緒にやるのが伝統でして、クロンダもそうしていました」


 アルはギードの表情が険しくなったのを見逃さなかった。


「その人と何かあったんですか?」

「いえ、別に」


 アルは追求しようとしなかったが、ギードは自ら話を続けた。


「クロンダ村長のガキと俺は同じ年でして、そいつら四、五人にいじめられたんですよ。殴る蹴るは当たり前でね」

「それはお気の毒に」

「別にいいんですよ。昔のことですし」

「それで、いじめていた彼らはまだここにいるんですか?」

「ええ、恐らくね。クロンダ村長が亡くなったっていうのは聞きましたが、その息子のイミクがどうなったかはわかりません。変わっていなければ村の中央に家があるはずです」

「それじゃあ近づかないほうがいいですね。こっちの目的は山に入ることですから、それ以外は関係ありませんから」

「もちろん。俺も好き好んであいつらに会いたくはありません。それでトラークの爺さんが言っていたことですが、恐らく入山許可は下りないでしょう。そうしたらどうするつもりです?」

「僕はかならず霧燕の巣を持って帰るつもりです」

「何としても?」

「絶対に」アルはうなづく。

「わかりました。俺はちょいと出かけるところがあります。夜には戻りますんで、それから話をしましょう」

「どこに行くのか聞いてもいいですか?」

「野暮用ですよ」


 ギードが出て行こうとすると、ノラーナがお茶を運んできた。ノラーナはお茶を薦めたがギードはそれを断って小走りに外へ駆けて行った。


「この村は気に入ったかしら?」


 出し抜けな質問にアルは虚を突かれて一瞬言葉に詰まってしまった。

「寒いのは苦手かしら?」

「最初はそうでしたけれど、もうだいぶ慣れましたよ。ちゃんと体を動かせば温まるし、太陽の輝きは真っ直ぐですし」

「あら、そう。気に入ってくれて良かったわ。私はここでお店屋さんと宿屋をしているけれど、泊まりに来る人なんて本当にたまになのよ」

「そうだったんですか。でもシーツも毛布もきれいで心地よかったです」

「そう言ってくれて嬉しいわ」

「トラークさんはどんな絵を描いているんですか?」

「あら、聞いた?」

「いえ、画家だということだけです」


 ノラーナはリスのような顔で笑った。


「面白いのよ。子どもっぽくて優しい絵。不思議な感じがするわ。最初は笑っちゃったけれど、よく見ていくうちに、あの丸い顔の雰囲気とそっくりなんだってって思ったわ」

「へえ、見てみたいですね」

「アトリエに行けば見せてもらえるわよ。あ、でも変に頑固なおじいちゃんだから、駄目だって言われるかも」


 店のドアを開ける鈴の音が響いた。ノラーナは柔らかい笑顔のまま店に出て行った。アルは犬の世話のために隣の小屋に向かった。よく晴れていた日だったが、風の強い日だった。犬は二頭とも健康そのもので、アルと目が合うと尻尾を振って喜んだ。アルはエサをやると毛づくろいをしてやった。それから少しだけ村を見てみようと出かけた。


 宿屋から北へ向かう。アルはつくづく整備された村だと感じた。区画整備された民家が軒を連ね、通りの真ん中をそりがゆっくりと走り抜けていく。子どもたちが雪合戦をしている横を抜けてさらに北に向かう。ヴィジラント山はすでに目の前にそそり立つ壁としてそびえていたが、村の終わりまで来ると波の砕ける音が轟いた。強風が吹き付けるようになったが、さらにしばらく進んでいくと崖に出た。イェシル村とヴィジラント山の間には海が横たわっていた。そこへ至る道は崖から伸びるただ一本の道だけだった。アルは身を乗り出して崖下をのぞいて見た。渦潮というよりは大しけの海といったような状態で、少しのぞいただけでアルの顔は死の冷たさを味わった。顔をしかめながらその場を離れて、今度は村の中央方向へ歩き出す。まぶたが凍りつくようで、両手を顔に当てて温めようと必死にこすった。そのまま歩いて行くと、急に背後から声を掛けられた。


「何をしている?」


 アルは見知らぬ声に振り返る。その間際に顔の右半分に海水を浴びて、右目が凍りついたような状態になった。それは死の冷気とも呼べるような代物で、アルはこわばる顔を押さえた。霜の張ったような感触がした。


「その顔はどうした?」


 声の主は白いローブをまとった二十から三十歳くらいの男で、そのローブには袖から袖へ、胸を通って一本の赤い線が映えている。フードの下からは端正な中年男の顔がのぞく。


「ちょっと水を浴びてしまって……」

「どれ、見せてみろ」


 男の手がアルの顔に添えられる。ブロンズの瞳がアルの顔をなぞっていく。男はアルに、自分の家に来るように言った。アルは星屑のギンギツネ亭に泊まっていると告げた。彼は承知し、宿に向かうことになった。二人が戻る頃には、晴れていた空も灰色に染まり雪が降っていた。


「俺の名前は、イミク・クロンダだ」


 宿に戻ると、イミクはノラーナに湯を沸かすように言った。ノラーナはすぐに鍋を火にかけて、アルを暖炉の前に座らせた。


「クロンダ? クロンダって前の村長の?」

「そうだ、よく知っているな。どこで聞いた?」

「村の人です。ちょうどさっき」

「ところで崖で何をしていたんだ? この村であそこには近づく奴はいない。お前みたいに顔を凍らされてしまう」


 アルの顔は真っ赤になっていたが、見た目より傷は深くなく、頬と鼻の頭がうずく程度だった。


「そのようですね。単純に好奇心からどうなっているのかなと思ってのぞいたんです。気をつけます」

「気をつけるだけじゃ済まないぞ。誰だろうと怪しい人間は、兵士に見つかったら投獄されるぞ」

 アルは驚いて見せると、ノラーナが湯桶を持ってきた。女将は少し熱めのお湯にタオルを充分に浸して、よく絞ってからアルに手渡した。アルはそれを顔に当てると心地よさに声を漏らした。


「私が教えていなかったから悪いんだわ。ごめんなさい」

「いえ、ノラーナさんは悪くありませんよ。僕が勝手に行っただけですから」

「ここじゃ村の掟に従ってもらう。特にあんたらよそ者にはな」


 タオルをもう一度お湯に浸けて温める。アルはそのまま一緒に手を温める。それがどうにも心地よくて、少しあくびをした。


「ところで、その衣装なんですが、村の中でも何人か着ていましたし、兵士のような人も同じ柄だったんですが、民族衣装ですか?」

「これはゼブル教団のローブだ。何か気になるのか?」

「いえ、単に僕が何も知らないだけです。申し訳ありません」

「俺も教団の人間だ。村の秩序に責任がある。一度は無知故に見逃すが、二度目は兵士に引き渡さなきゃいけなくなる。村では騒ぎを起こすような真似は控えてもらおう。わかったな?」


 アルは深くうなづいて謝った。イミクはノラーナにもきつく言いつけると帰っていった。


「すみませんでした」

「いえ、ごめんなさいね」

「でも、あんなに急にひどい風を受けるなんて思っても見ませんでした」

「ヴィジラント山は壁みたいでしょう? 山が海風を受けると、それを吹き下ろして海を荒らすの。さらにその風は崖下から上空へ吹き上げるというわけ」

「身を持って学びました」

「もう、本当に気をつけなきゃ駄目よ。吹き上げる風は、よく魚をこの村まで打ち上げるのよ」

「自然の漁師じゃありませんか」

「本当にそうね。朝起きると通りに魚が跳ねてるなんて日もあるくらいよ」


 ノラーナは満点の笑みで一旦台所へ向かう。戻ったその手にはアルのために仕込んでいた、バターをたっぷり使ったクリームシチューがあった。アルはおかわりまで食べて、はちみつ紅茶を飲んだ。そうすると、トラークがやってきた。彼もうまそうだな、と言ったが、勧められた食事を断ってアルにすぐに付いて来るように言った。


「村長は時間がない」


 外は降りゆく雪の量が増していた。アルはしっかりと帽子とフードをかぶって防寒すると、がちゃがちゃとランタンの金属を鳴らすトラークの後ろを走った。村長の家は村のほぼ中央奥に最も大きく最も立派に建つ四階建ての頑強な邸宅だった。門前に教団の兵士が槍を地面に突き立てている。兵士はトラークを認めると音の鳴る気をつけの姿勢を示した。


「ご苦労さん」


 トラークは通りすがりざまにそう軽く伝えると、玄関に至る小階段を踏みしめながら上った。ノックをして中の返事を待つ。出てきたのは年かさのメイドだった。彼女はトラークを見てにこやかに中へ導いた。アルとトラークは玄関先で足元の雪を落とした。


「村長はどんな方なんですか?」


 アルとトラークは一階奥の小さな応接室に通されて待つように言われた。そこには壁に鹿の壁飾りやオオカミの剥製が並び、クマの大きな毛皮が床に寝そべっていた。


「会えばわかる。分別のある男だ」


 十分ほどでメイドが二人を呼びに訪れ、二階にある村長の執務室に通された。そこに至る廊下にも仕留めた獣の壁飾りが並んでいた。すでに扉は開かれており、教団のローブをまとう物腰の柔らかい若い男が二人を待ち構えていた。


「トラーク様、お待ちしておりました」

「やあ、リルヴァン。レドレは相変わらず忙しそうだな」

「それほどではありません。さあどうぞ」


 部屋を入ってすぐ隣に熊の剥製が牙を剥いている。机の両側には鹿とラミールの剥製が待ち構え、その机の上には書類が山と積まれている。紙の山に埋もれるように赤黒いボサボサの長髪をした中年の男が座っている。白髪の混じったカストロ風の豊かなヒゲが雄々しく蓄えられている。ジアンはアルとトラークを出迎えるべく立ち上がる。彼は二メートル近い長身で、クマのように分厚い肉体を誇る。彼は軽く手を上げてトラークに挨拶をすると、後ろのアルに少し疲れた笑みをたたえて握手をした。


「それで、この彼があなたを助けたという若者ですか?」

「ああ、そうだ」

「あなたが助けられるとはね」


 ジアン・レドレが笑うと、トラークは拗ねた顔をした。


「寒さで少し腰が痛んだのだ。普段なら訳なかったぞ」


 ジアンは柔和な笑い声を立てた。それから書類を崩さないように気をつけながら自らの机に座った。


「アルです。お会いできて光栄です」


 ジアンは苦笑いを浮かべて煙を振り払うように腕を振った。


「ギューベルトン男爵を助けていただいたこと、私からも感謝するよ」

「男爵?」


 ジアンは不思議がるアルにトラークを示して笑った。


「なんだ、言ってないのか?」

「余計なことだ」


 ジアン・レドレは肩をすくめて笑みを浮かべると、アルの方を向き直った。


「なるほど。それでヴィジラント山への入山許可を得たいとのことだったね」

「はい、是非お願いしたいんです」

「この件については話しましたか、トラーク?」


 トラークは不機嫌そうな顔をして肯った。


「ならば、君もわかっている通り許可を出すことはできません」

「そこを何とかお願いします。私は何としてもヴィジラント山へ登らねばなりません。霧燕の巣を持ち帰らなければならないのです」


 メイドがノックをして入室すると、紅茶とスコーンを載せたキャリーワゴンを押してきた。湯気立つカップがひとつずつテーブルに並べられる。ジアンは紅茶を飲んでスコーンにかぶりついて、皆にも勧めた。メイドは仕事を終えるとそそくさと部屋を辞した。


「霧燕が、この村とゼブル教にとってどういったものなのかわかっているんですか?」

「みなさんにとって信仰の対象だと聞きました」


 ジアンはカップを手にした方の人差し指でアルを指した。


「その通りです。それがわかっていれば、許可をするわけにはいかないことも理解できましょう。ましてや部外者などにはね」


「氷猿という化物についてご存知ですか?」

「氷猿? サルーミ族を襲ったやつだったかな?」

「少し前に話を聞きましたね」


 ジアンとリルヴァンがうなづき合った。


「ええ、私はその化物を倒すために動いています。氷猿に会ったことは?」

「俺はたまの狩りに森へ行くのと、レフォードに出張する以外はずっと書類仕事をしなくちゃならなくてね。まだその魔物に出会ったことはないな。君はあるのかい?」

「私たちはレフォードへ行く途中で襲われました。あの化物には通常の剣撃が通用しません。そこで、私たちは魔女に助力を求めに行くしかないと教えられたんです。そのために霧燕の巣が必要なんです」

「悪いが、その話の関連性というか、信頼性というか、そういったところに大いに疑問があるね」

「氷猿は幻術も使います。私は術にかけられて幻を見させられました。その道のことに関しては魔女をおいて他にないのはわかっていただけるかと思います。レフォードにいらっしゃる学者の方に会ったところ、霧燕の巣を手土産にすれば魔女と面会ができるのではないかと助言をいただいたのです。どうかお願いします。ほんの少しでいいんです」


 アルは口を真一文字に結んで真に迫った眼差しを向けた。ジアン・レドレは深い息をついて少しの間考えこんだ。


「君はどこの出身だね?」

「スメイアのファラスです」

「ならばスメイアに帰ることだ。あるいは別のどこかでもいい。とにかくメナスドールから逃れたまえ。さすがにそうすれば化物も追っていくまい」

「それはできません。これは依頼を受けたれっきとした仕事なんです」

「依頼だと? 君は傭兵か何かか?」

「そうです。とあるサルーミ族に依頼を受けました。ですからこの件を放り出すわけにはいかない」

「サルーミ族が依頼? 彼らがそんなに金持ちだったとは知らなかったよ。一体いくらもらえるんだ?」

「そうではありません。こちらの仕事をやってもらった代わりに、この仕事を引き受けたんです。すでに向こうに仕事をしてもらっている以上、私は何としてもやりとげますよ」


 ジアンは頭をかいた。


「そう言われても、それはこちらには関係ないことだ。こちらにとっては猿の化物よりも、ラシュ族の小人どものほうが厄介な問題なんだよ。先月までに四度、今月に入って二度、ラシュ族とやりあっているんだ。しかも奴らはこの時期凶暴になるラミールを連れ回している」


「どこかにねぐらが?」

「ラシュ族のねぐらなんてものはメナスドールのどこに行ったってある。どこか一箇所を潰したって、それこそモグラみたいに別のところに出てくる」

「だから村中にメナスドール軍が配備されているんですか?」

「そうだ。一匹の猿のほうが与し易いんじゃないかと思うよ」

「猿もあなた方にとって驚異のはずです。協力できる案件なんじゃないですか?」

「わからんことがある。魔女はどこにいる? それから、本当に霧燕の巣を手土産にすれば魔女に協力してもらえるのか?」


 トラークが訊ねた。


「魔女は、レフォード城にいると聞きました」


 室内の空気がにわかに変化して、ジアンの静かに息を吸う音がした。トラークは目を丸くした後で声を出して笑った。


「魔女の噂は聞いたことがあるが、城にいるという話は初耳だな」

「とある侍女だそうです。協力してもらえる可能性は正直わかりません。でもそれに賭ける以外に手立てがありません」


リルヴァンがジアンに何事かを耳打ちして部屋を出た。


「事情はおおよそわかったよ。しかし、許可を与えるわけにはいかない」

「どうしてですか!」


 アルは少し苛立って声を荒げたが、すぐに謝罪した。


「そんなにも霧燕は大切なんですか?」

「そうだとも。外の人間にはわからなくてもね」


 ジアンが紅茶を飲み干したカップをテーブルの上に置いた。


「この村に伝わる話だ。霧燕の巣は昔から魔女の秘薬や錬金術士の霊薬に用いられてきた。おかげで何人もの人間がそれを求めてこの地を訪れてきた。とある旅商人が独り占めを目論んで、ヴィジラント山へ入った。その旅商人は霧燕を全て捕獲することに成功した。商人が喜んで帰路についたとき、ヴィジラント山が大噴火を起こした。商人は溶岩に飲み込まれ、霧燕は空に帰ったという話だ。同じようなことがあるたびに、ヴィジラント山は怒りの咆哮を放つ。吐き出される噴石によって村も多大な被害を受ける。それ故にゼブル教はヴィジラント山への入山を規制し、霧燕を保護しているんだ」


「つまり、魔女に会うためには他の方法を当たれと?」


「そういうことだ。村長として、教団代表として、村の安全を最優先しなければならない。俺からの話は以上だ」

「行こう」


 トラークは立ち上がってアルに促した。アルはお茶の礼を言った。


「改めて、トラークを助けてくれたことには感謝するよ」ジアンは軽く言った。

「余計なお世話だ。じじい扱いしおって」


 トラークはジアンを蹴飛ばす振りをした。二人が部屋を出て廊下を歩いていくと、二人の教団信者とすれ違った。一人はリルヴァン・オーラムで、トラークとアルに挨拶をした。もう一人はイミク・クロンダで、アルを見つけると驚いて立ち止まった。


「こんなところで会うとはな」

「先ほどは助かりました。ありがとうございました」

「知り合いだったんですか?」リルヴァンが訊ねた。

「ああ、村で道に迷ったところを教えたんだ」


 イミクはアルにウインクすると、アルもそれに笑顔で答えた。トラークがアルを呼んだ。


「それじゃこれで失礼します」


 アルとトラークの階段を下りる音をイミクはずっと追っていた。その音が一階に至るとジアン・レドレの部屋へと向かった。


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