山賊【髑髏の心臓】の襲撃
鏃山の山賊【髑髏の心臓】現る。
ダンディグス医師の爺さんは、すぐに馬二頭立ての幌馬車を一台用意してきた。
御者は看護婦のメイラがするようだ。
幌の中には、沢山の薬瓶が詰まっていた。
これを売っただけでも一儲けになりそうだ。
だが、すでに準備は出来ていた事実は、不本意ながら感心した。
メイラが声をかけてくる
「傭兵さん、この仕事を引き受けて下さり大変ありがとうございます。」
俺は御車台に座る看護婦に向かって
「俺のことは嵐でいい」
看護婦も後ろを振り返り
「では私の事も、メイラとお呼び下さい。」
ダンディグス(医者?)が馬車に乗り込み俺に声をかけてきた。
「お前さんの準備は大丈夫かの?」
嵐が答える「俺にはこれだけありゃ大丈夫だ」
腰につるした幅広で使いこなされた、大剣を見て言う。
もう何年の付き合いだろう、16歳位の時に戦場で倒した戦士から奪ったものだ。
始めは、大きく長すぎて剣に振り回される有様だったが、今では手によくなじんだ、相棒だ。
いったい何度この剣で、戦ったことか、俺の戦いすべてを知るかけがえのない武具だ。
爺さんがかけ声を発する。
「では、メラの村まで行くぞよ!」
大体、2頭立ての馬なら2日かからずにつくだろうとのことだ。
問題は鏃山の峠を抜ける時だろうな
普通この峠を抜ける時は警護に20人は連れて抜けるもんだ。
爺さん一人、女一人、荷馬車には金になる薬剤が山ほど積んである。
これで、あの悪名高き【髑髏の心臓】が現れないわけがない。
普通なら爺さんは即座に切り捨てられ、女はアジトに連れ去り慰み者になった後、奴隷として売られるか殺されるか
俺は間違いなく一番に狙われる相手だな
俺は、爺さんに聞いた
「【髑髏の心臓】ってのは何人くらいいるんだ?」
幌の中で、俺の前に座っているじじぃの医者に聞いてみる。
「はっきりとは知らんが100人くらいらしいぞ」
俺は、【髑髏の心臓】の概要は大体知っていたが、このじいさんたちが、どのくらい現実を知っているか知るためにあえて、聞いて見た。
「で、俺一人で100人ぶっ殺せっていうんだろ」
ちっちゃなじぃさんは、無理を承知で俺に注文を付ける。
「無駄な殺生はしたくないのじゃ、なるべく殺さずにやってくれんかの」
「一応、わしゃ医者だかんな」
俺はこのくだらない会話に終止符をうつように
「自分が死にたいなら、おりゃかまわねえけどよ」
「メラの村にこの薬を届けたいなら、皆殺ししかねえな」
メイラが恐る恐る言う
「お手柔らかにお願いします~。」
嵐はたった一言。
「無理だ・・・」
幌馬車に乗って4時間、そろそろ峠道に入る。
両側が切りだった峠道で2頭立てのこの馬車がすれ違えるかどうか微妙な幅だった。
道は右に左にかなりくねった峠道が続いている。
嵐
「そろそろ、お客さんがやってくるぜ」
「メイラは俺の指示に従い馬車を制御するんだ!」
「爺さんは薬を守ってろ!余計なことはするなよ」
爺さんが後ろを見て叫ぶ
「嵐来おったぞ!!」
馬車の後ろから騎馬が近づいてくる。
何を言ってるのかわからないが、大声で聴きたくもない言葉を連呼しているらしい
嵐「爺さん、後ろから何騎ぐらいかけてくる?」
ダンディグス医師は額にに汗を流しながら「大体15騎ぐらいじゃ」
「メイラ、次の角曲がったら馬車を止めろ!!」
メイラが驚いて言う「えっ?」
嵐「俺の指示に従え」
メイラは直ぐに「わかりました。」
曲がり角を右折した途端、メイラは2頭の馬を静止させようとたずなを大きく引く
「ヒ、ヒヒヒ~ン」
ドカドカドカ馬車は急停車する。
嵐は赤髪を逆立てながら「2人は馬車の中にいろ」
嵐・守護は1人馬車後方に飛び降りて走り馬車と距離を取る。
馬車を追いかけてきたのはやはり【髑髏の心臓】一味だった。
髑髏の印をつけた、ハチマキのような物を頭に巻き、唾を吐き散らしながら大声で威嚇してくる。
どうせ、降伏したって、殺されるだけだろう。
やるかやられるかだ、いたってシンプルで今まで嵐・守護が生きてきた人生と何にも変わる事のない出来事であった。
嵐「15騎、、、少ないな」
山賊は曲がり角を曲がった瞬間に男が一人立っているのを見て、剣や斧を振り回し襲い掛かってくる。
俺は思った、実に単純な奴らだ
それに、清潔感がない。
俺は汚い奴は嫌いだ!
嵐・守護の燃えるような赤い髪が逆立ち、目が獰猛な目つきになり髪と同じように赤く光りだす。
そして、体が一瞬で燃え上がった。
山賊たちが驚いた顔をしながら迫ってくる。
俺は幅広な大剣を抜き放つ。
抜いた大剣も真っ赤な炎に燃え上がる。
ゴウ!!
山賊は間近まで迫ってきた。
驚いた山賊達は何が起こっているか理解できずに勢いだけで襲い掛かってきた。
俺は燃える体と大剣を横に薙ぎ払い、1振りする。
轟轟轟轟
15騎の山賊が、同時燃え上がりあっという間に灰になて消える。
馬も、武器もすべて焼き尽くされた。
山賊も自分に何が起こったかわからないだろう。
一瞬で火葬にされたのだ。
すぐ俺は逆に向かって走り始めた。
馬車を超えて前方に出る。
3つ程、峠の曲がり道、三つ先に50人ほどの荒くれ者と1目でわかる【髑髏の心臓】主力が集まっていた。
爺さんがわめく
「嵐よ前方に敵じゃぞ」
嵐は走り抜けながら「始めからわかっていることだ」
ダンディグス医師は「挟撃されぬよう、まず後ろの奴らをやっつけたのか!」
嵐が後ろを振り返り「そのまま、馬車の中で身を隠していろ」
俺は1人ゆっくりと山賊どもに近づいていった。
山賊の1人が言う
「ジャグや他の奴らはどうした?」
おそらく馬車の後ろから襲い掛かってきた15騎程の連中の事だろう。
嵐がゆったりと言う
「俺が全員殺した」
瞬間、【髑髏の心臓】たちの雰囲気がガラッと変わった。
今までは、幌馬車1台、たった3人を狩るだけの楽で美味しい獲物だったのが、仲間15人ほどを殺した『敵』になったのだ
汚い山賊の1人が前歯の欠けた口を大きく開けて叫ぶ
「ぶっ殺すだけじゃ済まねぞ!」
「小僧」
およそ50人の山賊が一斉に襲い掛かってきた。
嵐・守護が落ち着き払ってしなやかな長身をゆらっと自然に揺らしながら言った。
「最悪のボランティアの始まりだ。」