柄にもない人助け
ダブロと別れ、南へと旅してきた嵐・守護は山間の小さな町にやってきた。
そして新しい仕事を探していると思いもかけない達人と遭遇する。
傭兵ダブロと別れて、嵐・守護は大陸南方へと向かった。
そして、商隊の護衛役を務めながらもちゃっかりと馬車に乗り込み、4日ほど走り小さな街にたどり着いた。
周りは山々に囲まれた、谷間にある町だった。
商隊の連中とは、ここで別れて礼を言い、嵐は早速宿を決め、仕事探しを始めた。
この町でもそうだが、傭兵の仕事は多種多様。
金持ちのペットの散歩から、ご令嬢のボディガード、旅人の護衛やこの町まで嵐がやってきたように、商人の荷馬車商隊の警護まで様々だ。
大抵どこの町でもそうだが、そういう仕事は町はずれの、酔いどれ横丁のような路地に張り紙がしてあった。
どんな仕事で、期間、報酬、連絡先などが書かれていた。
軍隊のような大人数を集める時は、傭兵の中にも100人規模で組織化しいる傭兵団もあり、直接依頼する形になる。
中には強勇をほこる傭兵団もある。
【碧緑の団】など、大陸中に名をとどろかせている。
報酬金額も大陸中にとどろくほど高価だが、絶対に負けられない戦や絶対かなえたい欲望がある者達にとっては安価なのだろう
そんな張り紙を見ながら嵐・守護は仕事を選んでいた。
そして、、、
いきなり足を蹴飛ばされた。
下を見ると、そこには小さな眼鏡をかけた、白衣をまとった初老の男が俺を見上げていた。
「いい若いもんが、傭兵なんぞして、人を殺すことよりたまには人助けに協力せんかい!」
(なんだこのいきもんは?)
嵐は珍しい珍獣でも見るようにちっちゃい初老の男を下から上まで一粒も残さずに、見抜く。
「・・・・・・・」
小さな白衣の老人の横には看護師らしく頭に白頭巾をかぶった女性が大きなカバンを持っておろおろしていた。
(明らかに俺におびえているな)
嵐がたまりかねて言葉をいやいや話だす。
「爺さん、言ってることが全く分かんねぇんだけど」
初老の男はさらに興奮気味にまくしたてた。
「だから言っておるだろう」
「人を殺すのではなく、助けるために働けと言っておるんじゃ」
嵐は更に珍しい生き物を見るように
「そういう仕事を爺さんが用意してくれてるって事か?」
初老の白衣の男は胸を張って大声で叫んだ
「そうじゃ!!だからわしの言う通り働け若者」
嵐は思わず自分の中でつぶやく。
(面白そうな爺さんだな・・・)
「でっ、人助けしていくら報酬もらえるんだい?」
老人はさらに胸を張っていった
「お前さんが死ぬまで、病気にかかったら、わしがただで治してやる」
嵐は表情も変えずに一人己の中で笑いをこらえる。
(おもしれ爺さんだ・・・)
「じゃあなあばよ」
だが俺はそんな暇人ではない。
踵を返して、立ち去ろうとした。
っと、俺の足が動かなかった。
白衣の男が足に絡みついていたのだ
「足の関節を6つ決めとる、一歩も動けんぞ。観念せい」
嵐は同じことをもう一度自分の中でつぶやく。
(面白れぇ爺さんだ・・・)
確かに足は一歩も動かすことはできなかった。
「じじぃ、おめえ格闘家か?」
白衣の男は小さな胸を張って、堂々と答えた。
「わしは医者じゃ」
たまらず、俺はこのじじぃの医者の話に加わる羽目となっていた。
「医者がなんで俺の足に関節技決めてんだよ」
じじぃとしては、長身の俺の体を関節を決めているとはいえ、動きを止めるのにだいぶ無理をしているようだった。
額から汗が噴き出して、手がプルプル震えている。
「どうしても、お前さんにやってもらいたい仕事があるんじゃ」
脇の看護婦らしいではなく看護婦が更におろおろしている。
嵐は根ついに気負けして言った。
「わかったよ、話だけは、聞いてやるから、足から離れろ」
(鬱陶しい)
じじぃの自称医者と看護婦とともに、近くにあった酒場で話を聞くことにした。
眼鏡の小柄な初老の医者はダンディグス医師と名乗った。
年の割には酒の飲みっぷりがいい。
「ぷわはぁ!!」
「一仕事終わった後の酒は格別じゃのう、メイラ」
(メイラ、、、どうやら看護婦の名前らしい)
(それにまだ、なんの仕事もしてねぇんじゃねぇの?)
俺は心の中で笑い続けながらも
「爺さん、それで話ってのは何なんだよ」
ダンディグス医師が急に真面目な顔を近づけてきて言った
「おぬし【メラの村】を知っとるか?」
俺は6歳から戦場を彷徨い、この大陸中を旅してまわってきた。
俺の知らない、国や町などほとんどないと言って良い。
だが、俺でも【メラの村】なんて場所は聞いたこともいったことも無かった。
「いや、聞いた覚えがねぇな」
ダンディグス医師は、淡々と俺にわかるようにゆっくり取っ喋る。
「この町の南方、楔山峠の向こう側にあるのじゃがな」
人の足で2日、馬なら1日でつける場所にあるらしい。
そんな近くにある村の事を俺が知らないのはちょっと変だと感じた、、、
ダンディグス医師が更に真面目な顔をして、ずり落ちた眼鏡をかけ直して真剣に俺の獰猛そうな両目を見つめて言う。
「そこのメラの村で毒が蔓延しておるのじゃ」
「1日も早く届けたいので楔山を越えていきたいのじゃ。」
「そこで、メラの村に薬を届ける護衛を頼みたいのじゃ」
楔山峠にはこの辺りでは悪名高き、山賊【髑髏の心臓】が巣くっている。
嵐は又も心の中でひとり呟く。
(面白れぇ爺さんだ・・・)
大陸南方、この町は大陸最強国アースウェイグ帝国が納める辺境地域だ。
辺境とはいえ、帝国最強を誇る【帝国騎士】が守る領土に巣くう盗賊の中でも最悪の部類に入る【髑髏の心臓】が、アースウェイグ帝国軍に討伐されていない理由を考えたが、いかにアースウェイグ帝国といえど、こんな南方の辺境地域までは、手が回らないと見える。
俺は思考して、ダンディグス医師に言ってみる。
「それならよ、アースウェイグ帝国軍に頼みゃいいじゃねぇか」
ダンディグス医師は首を強く左右に振って
「その時間がないから、おぬしに頼んでいるんじゃ」
(何か俺に言ってない事情でもあるのか?)
ダンディグス医師の横にいる、看護婦が真剣な眼差しで俺を睨む。
「わ、私からも、、、む、無理を承知でお願いします!!」
小さな体を真っ二つに折って、俺にお辞儀するその眼には、涙が浮かんでいた。
(やっぱ、なんか事情があんだな、、、)
(しょうがねぇな~、俺のお人好しもつくづく嫌になるぜ)
俺はちっちゃい看護師の頭に手をのっけて
「頭を上げろ」
【髑髏の心臓】聞いた話だと、100人以上いるかなり大きな山賊だ。
それも、その手口があまりに残酷非道で有名な悪逆非道な山賊だ。鋸峠は谷間にうねうねと山間に沿って、続く道だ。
場所によっては、切りだった岸壁。
または、谷間となって左右を山に挟まれた、狭地となる。
戦うには、逃げ場がなく谷底に落とされれば死体も出てこない。
アースウェイグ帝国軍にとっても、戦いづらい場所だ。
(だから、手を出さないのでなくて、出せないのか。)
冬場はこの峠も雪や氷で、通れなくなるから今の時期が【稼ぎ時】だ。
間違いなく、この峠を通れば奴らは仕掛けてくる。
それだけは確信が持てる。
(はぁ~)