傭兵の生い立ち
圧倒的不利な戦況をたった一人でくつがえし、傭兵仲間とひと時の憩いの時間を過ごす嵐・守護。
その嵐の過去が明かされる。
「おお~い、ねぇちゃんこっちも麦酒おかわりだぜ!!」
髭面の大男が酒場で叫ぶ。
昨日の戦で大勝した傭兵達が酒場であから顔で、陽気に酒を飲んでいる。
髭面の大男、名前をダブロというらしい
傭兵稼業は20年以上やっていて、傭兵の中ではかなり顔も聞くらしい、清潔感は全くないが、、、
ダブロが叫ぶ
「さすがは【灼熱の紅傭兵】だな、昨日の戦はすべておめえのおかげで勝てたようなもんよ」
バン!!
酔った勢いと勝利の美酒で、俺の背中を大きな手で叩く。
(酔っぱらいは嫌いだ、、、)
「しかしよ~おめぇ、昨日どうやって敵軍の指揮官を打ち取ってきたんだ?」
「おめぇのあの活躍がなかったら、今頃俺たちゃ、良くて一文無し、普通ならくたばっていたろうぜ。」
「でっ、どうやったんだ?」
俺はそれに関しては全く答える気がない。
いつものことだ。
「、、、、、」
話しても、信じてもらえないか、馬鹿にされるだけだからだ。
ダブロが酒臭い息を吐きかけながら、小声で言ってくる
「やっぱ、企業秘密ってやつか?」
「実は俺にもよくわからん。」
嵐・守護がポツリと答える。
「おりゃ、どこで生まれたかもしらねぇんだよ。」
「6歳まで娼館で育った、親も誰だかわかんねぇんだ」
「そこの娼館の旦那がいい奴で、俺の面倒をよく見てくれたんだ」
その頃の記憶ははかすかに残っている。
話しながら俺は自分の記憶の中を思い出し、悪夢のあの日のことを一人思い出す。
ある夜、遅く
その娼館に賊が大勢で襲い掛かってきた
みんな殺された。
俺の事をかわいがってくれた、ネェサン達が目の前で蹂躙され、殺されていく。
旦那が叫んだ
「金なら全部出しやす、命だけは勘弁してくだせぃ」
言葉はむなしく無視された。
賊に切り殺された。
俺は恐怖と憎しみが体中を駆け巡った
体中が燃えるような興奮に包まれた。
俺は肌着一枚、季節は真冬なのに
熱くて熱くて熱くて
涙さえも蒸発させるくらい熱くて
そして
体が膨れ上がって、、、
爆発した!!
ドドドーン!!
娼館は跡形もなく吹き飛んだ。
突然襲い掛かってきた、賊もすべて一瞬に燃やし尽くした。
何もかもなくなった廃墟に6歳の俺だけがぼうっとして立ちすくんでいた。
それからの人生は、人を殺して、奪って、焼き尽くして、何とか金を稼いで生きてきた。
6歳の人間が普通一人で生きていけるわけがない。
この特殊能力と本人の気構えが常軌を逸していたのだろう。
俺は自分をかわいがってくれていた娼館の人たちを殺されて
小さいながらに感じた。
突然襲撃してきた、賊に奪われた優しくしてくれた人たちを一瞬で奪われるくやしさ、自分の無力さ
絶望と悲しみ
そこから生まれる燃えるような強い感情。
この世の中、【力】が必要だ。
【力】がなければ、自分や大切な人たちも守れない。
【俺はもっともっと強くなる】
自分にとって大切な人たちを守るために
俺の流儀を通すために
嫌な奴の言う事を聞かなくて済むように
生まれや育ちではない、彼には絶対曲げられない強い思いがあった。
【俺の正義を貫く力への渇望】
ダブロがじっと俺の横顔を見つめていた。
「おい大丈夫か?」
「あ、ああ」
曖昧に答える。
ダブロはまだ心配顔で俺を見ている。
「ちょっと、昔を思い出していた」
暗い顔で俺が答えた。
「そうかい、まぁ誰しもひとつやふたつやみっつやよっつ位スネに傷があるもんよ」
「がはっははー!!」
ダブロが大声で笑う。
こういう奴、嫌いではない。
細かく詮索してこない、ガサツだが悪い奴ではない。
ダブロが急に真面目に話しかけてくる
「ところでよ、今回は大金を稼げたが、今後はどうするんだ【灼熱の紅傭兵】?」
「俺の名は嵐・守護。」
「嵐でいい」
「誰が付けてくれたかわからんが、ガキの頃からそう呼ばれている」
「じゃ、嵐よ、あの領主にこれからもついていくかい?」
俺はダブロの顔見て言った
「ここでの仕事は終わりだ」
「あのバカ領主はいずれくったばるだろうぜ」
ダブロが言う
「どうしてそう思うんでぇ?金払いは良いし、報奨金も相場よりかなりいいぜ」
俺は清潔感はないが、人間性は良い大柄な傭兵を見て
「自分の領内にある鉱山で銀が発掘されて、これを自国ルミニア王国に報告すれば、全部王国に持っていかれる」
「だからルミニア王国から独立して全部、銀を独り占めしてやろうなんて浅はか過ぎて笑っちまわ」
髭面で大酒飲みのダブロがいう
「嵐おめが領主ならどうするよ」
俺は右手で麦酒のグラスを持ち上げ飲みながら
「俺なら、銀が出たことをひた隠すね」
「必要なら、採掘した奴、知ってる奴をすべて殺してでもな」
「そして、軍備を整え防壁を作り、他の強国に大枚はたいて、なんだったら採掘した銀すべての流通を約束して後ろだてになってもらい独立宣言をするな」
「少なくとも2年はかかるだろうな?」
「それをここのバカ領主、銀が出たと同時にルミニア王国に独立戦争をふっかけて、金に物言わせて俺たちを集めたが」
「ルミニア王国だって馬鹿じゃない」
「今回は脅しの為、5千の兵力だったが、次は本気で来る」
「万単位で必ずくる」
「俺は今回の稼ぎだけで充分だ」
ダブロが俺の話を聞いて、難しそうな顔で言う
「・・・おりゃぁ、残るつもりだ」
「大隊長待遇で賃金はずむっていうんで、契約しちまった」
俺は横目でチラリと昨日の戦友を見て
「・・・それは自分で決めることだからな」
「じゃ、ここでお別れだな」
ダブロが悲しげに言う
「あんたは俺たちの命の恩人だ。今日の酒代は俺たちにおごらしてくれ!」
「ああ、ありがとうよ」
「死ぬなよダブロ俺が」
「嵐も達者でな」
二度と会うことはないだろうと、俺は思った。
職業軍人として、傭兵として生きていく俺たちの未来は己で切り開くしかない。
誰も助けてくれない。
力がなければ大地に帰るだけだ。
俺がわずか22年間生きてきた中で、学んだ己の生き様だ。
【力だ!!】
強くなければ、生きていけない。
大切な人間も守れない。
俺はこれ以上、悲しい思いをするのだけは絶対嫌だ。
未来の紅蓮の覇王は、この戦いに終了を宣告し次の土地に旅立っていく。
己の力の渇望のために。