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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
171/173

真の戦友

その日の朝もいつもと全く変わらなく、朝陽は登る。

山間の中にある、アースウェイグ帝国帝都アーセサスでは、朝陽は山間(やまあい)の隙間から覗き込むように清浄な光を(まばゆ)く世界を照らし出す。


ランガード一家の目覚めは、それぞれの思いとは全く逆に極普通に見えた。


早朝から、執事やメイドや調理人たちがセッセと、家族たった4人のために超エキスパートな仕事ぶりを発揮する。


早朝から、こんなに豪勢な料理食べられるかというほどの質と量の豪華な食事が運び込まれ、ランガード以外は上品に美味な食事を堪能していた。


ランガードにとって、食時とはエネルギーの補給以外の何物でもない。


味や質など、正直どうでもよいのだ。


特に炎竜帝と魂を同期してからというものエネルギーの消費量が半端ない。


まぁ~出すエネルギーも半端ないので、結局燃費の大変悪い大量強力火炎放射器とでもいうものだろうか?


グエンがフォークとナイフを教えたことも無いのにテーブルマナーをしっかりと守り、上品に食べながら


「親父殿は、母様の故郷に初めに行くって言っていたけど、どうやって行くのさ?」


俺は既に美味な食事を大量に腹に収め込た後に


「阿修羅丸に乗って、ゆっくりと行くさ」


俺は隻眼の目で、チラリと爆炎の神の息子を見て【阿修羅丸】の名前を出す。


阿修羅丸とは、炎元郷でのみ生息しているアースウェイグ帝国特有の戦闘騎馬【竜騎馬】の中でも漆黒の巨体は、群を抜いており、爆炎王ランガードの乗騎馬としては、とてつもなく威風堂々としており他の竜騎馬を圧倒していた。


「さすがに、瞬間空間移動では行かないんだね」


「ああ、ゆっくりと行ってくるよ、大陸各国の様子も見ながら行くかんな。」


「二人だけで行きますの?」


氷結と時間の娘、フェリアが可愛らしい声で、聴いてくる。


俺はフェリアと話す時は自然に優しいというか、情けないにやけた顔になってしまう


「そのつもりなんだが、邪魔者がいるかもしれないから今夜の遅くに勝手に出立しようと思うんだ。」


爆炎の覇王ランガードも愛娘と話す時は、情けないくらいだらしない。

昨晩自分の未来の死亡宣告を伝えてくれた、愛娘にはランガード的には更に愛情が深まるばかりであった。


普通、自分が死ぬと伝えられたら恐怖こそするだろうが、喜ぶ男なぞランガード以外にはいないだろう。


肝の太っ腹さでも通常の人間を超越している深紅に髪を燃やした男は、豪快に笑いながら話している。


しかし、昨晩の出来事で更に家族の絆が深くなったことは、全員が感じている事実であった。


「ランガード様、お食事中失礼いたします。」


この屋敷の執事筆頭の白髪の長髪を後ろで固く結び、一部の隙も無い服装と動作で部屋の入り口で、声をかけてくる。


直ぐに愛妻である。シュスが応対する。


「どうかされましたか?」


「お客様がご来訪でございます。」執事筆頭は優雅にお辞儀しながら堂々と用件を伝える。


「どちら様でございますの?」

シュスは綺麗な容姿に見合った、綺麗な声で尋ねる。


執事筆頭は無駄を一切省いて答える。


「アグシス侯爵様とツバァイス・カーゼナル国務副長官様でございます。」


シュシィス・スセイン王妃は即答し「すぐ、お通しして下さい」と軽やかに弾むように言う。


息子と同じく、漆黒を愛する侯爵であり国政を預かる国務長官は威厳と無言の覇気を纏いゆっくりと優雅に部屋に入ってくる。

その姿は、60歳を超える今も威風堂々として、帝国貴族の象徴のようである。


「早朝 お食事中、失礼致します。」


低く渋い声。

アルフィス・アソルト・アグシス国務長官にして、侯爵。

前々黒龍騎士団団長の【飯伏銀(いぶしぎん)】という言葉がスッポリはまる紳士であり現役帝国騎士だ。


戦士としての旺盛さは、アルセイス帝国軍最高司令長官にして剣聖の称号を持つ息子にその座を譲っていたが、国政に関しては未だ現役の実力者である。


「よう、アルセイスの親父さんじゃないか!どうした?こんな早くによ~」


過去も現在もそして未来も含めてアルフィス・アソルト・アグシスという男の威厳に立ち向かい、ため口を聞けるのは、この暴虐武人のランガードくらいだろう


「ランガードさん、いくら何でも国務長官に対してもう少し気を使ってくださいよ」


後ろで控えている、俺のダチ。

ツバァイス・カーゼナル男爵から、今は伯爵にまで爵位を上げた、俺の数少ない文官にして貴族のダチだ。


そもそも今の俺の事を【ランガードさん】と非公式な場とは言え呼べるのも彼くらいしかいない。

師弟関係に近い人間関係がそこには、あった。


妻のシュスが、席を立ちあがりどうぞこちらへと右手で、同じ空間にある、食卓とは別の豪華な椅子が並んだ客間の様になっている場所に二人を案内する。


優雅で礼儀正しく、品格も備えた自然で見事な動作だ。

生まれてから女王として生きてきた、人間と今日食べる食事にも困り、自分の命の危険も数えきれないほど味わって育った人間とはこれほどの差があるのかというほど、同じことを同じ場所で見ている息子と娘は密かに思っていた。


銀髪の真っすぐ伸びた髪をオールバックにして、首の後ろで束ねて帝国摂政官を表す、正式な服装ではないが礼儀と品格と威厳に満ちた、漆黒上下の正装には一部の隙も無い。

気軽に話しかけることさえ、(はばか)れそうだ。


そんな常識を一切無視して


「アグシスのオッサンが、朝からそいつ(・・・)を連れてくるってのはなんか大事なことでもあんのか?」


もちろん、そいつとはツバァイス・カーゼナル国務副長官の事である。


アグシスのオッサンと生まれて初めて呼ばれた、侯爵閣下は表情を一切変えずに


「ツバァイスが申すもので、ランガード殿の事だから今日中にでもアーセサスを立つのではないかと言うので、朝早くから失礼いたしました。」


(俺たちを逃がさねぇ~つもりか?)


そこで、後方に控えていた、ダチのツバァイス・カーゼナル卿が一歩前に出て


「ランガードさんの【正義の定義】を決めておきたいんですよ」


「ああ?難しいこと言われてもおりゃ~わかんねぇよ。リューイに聞いてくれよ。」


たった一言で、十分に最重要事項となる事を無視する、暴虐武人()王である。


ツバァイス・カーゼナル卿は、ランガードとの間にある特別な師弟関係で気軽に話し出す。


「大丈夫です。その辺は奥方様とグエン様、フェリア様と打ち合わせにきましたので、ランガードさんはお茶でも飲んでいてください。」


「あっそ」


自分のことをキチンと理解している男は、会話の重要性より個人の興味の無さのために、会話を打ち切る。


「それでは、こちらでグエンとフェリアも参加して話をしましょう」


っと、シュシィス・スセイン王妃は当の本人を抜きにして、話を進める。

当然の成り行きとは言え、ランガードの事を一番理解している女性は、こういう話は自分たちの方が得手なことを熟知している。


愛する旦那に、余計な負担をかけないようにする。

出来過ぎた、女性である。

旅立つ前にせめて、自分に出来ることは(こな)しておきたいというランガードとは全く別の思考回路の持ち主である。


話し合いは、ランガード本人を蚊帳の外(かやのそと)におき順調に進んだ。


意外といえば、フェリアの言葉が一番現実的で正しかった。


「お兄様のやり方は、乱暴すぎます。制裁を科すとしても段階的にすべきです。始めは経済制裁、続いて施政者の育成プグロムの実施。それでも駄目なら最終手段として、軍事行動となるのではありませんか?こちらが言ってることが正しいからと、いきなり暴力に訴え出るのは良くないと思いますわ」


「フェリアは気が長いんだね。」


「お兄様が気が短すぎるんです。お父様にそっくりですわよ」


「やめてくれよ、いくら何でもオヤジ殿よりは常識ある自覚はあるんだけどな」


「そうでしょうか?私には目くそ鼻くその(たぐい)に思えますけど」


離れた場所で聞き耳を立てていた、ランガードが思わず椅子からずり落ちる。


(目くそ鼻くそって、言い方ないんじゃない?フェリア、、、)


パンパン


銀麗の愛する妻が、手を叩き無意味な会話を打ち切る。


「アグシス国務長官もツバァイス卿もとてもお忙しいのですから、無駄な話ししてないでチャッチャと済ませましょう」


ランガードが更に椅子から擦り落ちる。


(チャッチャっとって、、、)


シュスの美しい口から出るセリフとは思ええない言葉出てきたものだから、ランガード以外のその場にいる全員が、驚きの空気に包まれる。


ツバァイス・カーゼナル伯爵が、何とか言葉を絞り出す。


「奥方様、大陸の最重要事項にもなりかねない案件です。いくら何でもチャッチャっととはいかないのではないでしょうか?」


銀髪の美しい妻は、ツバァイスを見てにこりと微笑む。

天使の微笑だ。


「アグシス閣下とツバァイス殿がここに来た時点で、原案と言いますか、内容はほぼお決まりになってるのではありませんか?」


「「!!」」


「後は、私どもが確認すればよろしいのでしょう」


初老になってきているとはいえ、現役のアースウェイグ帝国重鎮の一人。


アルフィス・アソルト・アグシス国務長官は低く腹にこもる声で


「いやはや、シュシィス・スセイン王妃様には叶いませんな。ランガード殿は女性を見る目は、とても長けていらっしゃる。」


俺はずっこけ状態で


「ああ、シュスは最高の女だ。」


っと、誇らしく言うが見た目がずっこけた状態では説得力に欠けるのは否めない。


しかしシュシィス・スセイン王妃は大きな女性らしい胸を張り


「それはちごうございます。私がランガードという男に惚れたのです。」


爆炎の豪王神グエンが貯まりかねて、両手を挙げて


「あのさ~そういうラブラブなのは、子供の見えない所でやってくれる?聞いてるこっちが恥ずかしくなるよ」


すると美しく可愛いフェリアが、小さな口に毒を込めて吐きだす。


「お兄様それは言い過ぎです。お父様とお母さまは場所を(わきま)えない非常識人なだけで、根はとても素晴らしい方々ですよ」


(おいおい~フェリア~そりゃいくら何でも言い過ぎじゃね~)


「くっくっく」


アグシス国務長官が貯まらず、右こぶしを口に当てて静かに笑う。


「おっと、失礼いたしました。実に個性的で幸福なご家庭ですな。」


俺は隻眼の眼で、アグシスのオッサンを見て


「ああ、ありがとうよ。何よりうれしい褒め言葉だ。」


一通り、シュスが書類を確認して、いくつか修正を促してランガードの正義の定義は固まった。

最後に俺が書類にサインして、終了となった。


今後のこの大陸の未来を左右するであろう、大変重要な事案が数瞬の間に決まってしまうのが、何ともランガードという男の周りに集う、仲間の優秀さと能力の高さを表していた。

また、ランガードの正義と言っても、あくまで個人が勝手に決めた定義であり、独裁政権に変わりはない。


しかし、独裁政権の良さもある。


決済ごとが、スピーディーな決定的なこと。

周囲の運営する者たちが、キチンとしていればこれほど機能的で徹底した制度は無いかもしれない。


民主政治は聞こえはいいが、何事にも決定するのに時間がかかりすぎる。

それと、選任された議員達の派閥、収賄、横領、権力権威の固執など、悪の温床にもなりかねない。


正しき人が、正しき道を切り開けば、乱暴な点はあるかもしれないが、決めごとを徹底させるには速度と対応は実質、一番現実的であり、有効であろう。


後は、統治する者が悪さをしないようにする、王の周囲のヒトと制度が大切であろう。


その辺の細かいことは、ランガードは全く関心が無い。

あくまでも直観的に動き考える覇王である。


すると、隙のない執事筆頭が再び現れて


「お話し中大変申し訳ございません。お客様がいらっしゃられました。」


俺は首を横に傾けて


「誰だ?」


執事は珍しく困った顔を一瞬だけして


「リスティアード・ローベルム・アルヴェス・アースウェイグ皇帝陛下とアルセイス・アスティア・アグシス帝国軍最高司令長官、レィリア・アストネージュ金獅子近衛騎士団武神将閣下、オーガス・ビスマルク銀鷲騎士団武神将閣下とお連れの方々とベルフェム竜王様、大炎元郷総統キルヘッシュ・アクティア閣下、リューイ閣下と不死鳥騎士団幹部の方々と他に大勢の皆様でございます。」


俺はウンザリした顔で、即答する。


「丁重に即座に帰ってもらえ」


「それは~いくら何でも攣れないんじゃない?ランガード~」


2メートルを超す超が付く今はまだ現役のアースウェイグ帝国皇帝は、音もなくマントを翻して勝手に部屋に入ってくる。


手練れな老執事筆頭も流石に、右手を折り腹にあてお辞儀して黙って、皇帝陛下を通す。


「大将、勝手に朝っぱらから大勢連れて何の騒ぎだ?」


「そんな寂しいこと言わないでくれよ。みんな君と一緒に居る時間を楽しみたいんだよ。」


遥かかつて、神々の時代には四海聖竜王配下、南海紅竜王としてベルフェムやアルセイスと共に天界最強の軍神として名を爆ぜた者通しだが、今では転生して人間として立場を若干変えてはいたが、ランガードの性格はまるで変わっていないと、神々の時代の記憶を持ち続けるリスティアードと未だ本当の神である、天界の双璧と呼ばれた妖精王キルヘッシュ・アクティアは思うのであった。


「もう何日も飲んだくれてたじゃねぇか。あれでいいんじゃねぇか」


ランガードは、本気で嫌そうに言葉を燃やすように吐き出すが、ここにいるメンツがそんなことで引き下がるような優しい者は皆無であった。


「そう~攣れないこと~言わないで~おくれよ~主君と謁見するは~臣下にとって何よりの~至福の時間だ~ね」


キルヘッシュ・アクティアは、常の通りお洒落で畏まっているが、喋り方だけは変わらない。


「あんたのことだから、勝手にシュスと旅発つだろうから、早く捕まえておこうと皆の意見が一致したのよ。感謝しなさいあんたのためにこれだけの人間が集まったんだから」


金麗の麗しい麗人は、その外見とは裏腹に猛毒を吐く。


(へぇ~へぇ~、俺は頼んじゃねぇがな~)


とは思ったが口には出さなかった。

その後が、怖いことはよく自分の体に染みついていることだからだ。


「父上の御用は済みましたのですか?」

漆黒の正装を羽織った、アルセイス・アスティア・アグシスが自分の父親に向かって、ランガードを無視して話す。


アグシス国務長官は、息子と話す時も全く変わらずに


「ああ、済んだよ。」


「では、失礼いたします。」と言いながら、俺の前までその長い脚で闊歩してくると、向きを俺に変え


「友として、旅の無事を祈る。」


右手を俺に差し出してくる。


俺は黙って立ち上がり、自分の右手を差し出してガシッと握手をかわす。


細く切れ長の両目と赤く燃え上がる隻眼の眼で、見つめあい友との別れの挨拶をしっかり済ます。


ランガードが真の友と認める者は非常に少ない。

その中で、アルセイス・アスティア・アグシスは己の弱い部分、足りない所を指摘し友として指導してくれた、ランガードにとって戦場で命を預け合い共に戦った、最強最尤の戦友だ。


リスティアードの大将やキルヘッシュの旦那とは違った、感情がこの黒騎士にはあるのは事実だ。


交わされた右手を黒騎士はいきなり、引き寄せてランガードと抱き合い、左手で俺の背中を叩き誰にも聞こえない声で


「死ぬなよ」


っと、一言呟いた。


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