ランガードの正義執行管理総司令長官
アースウェイグ帝国 帝都アーセサス 下町にある一軒の食堂。
それは不死鳥騎士団 副団首 リン准将閣下の実家だった。
リンが、帝国騎士として出世した事を妬み、強盗に来た幼馴染のギドだが、本来の性格は明るく真っすぐな性格だったのだが、彼の両親が西方天使教団の凶行によって、殺害されたせいで。
ショックと喪失感から、不良グループと行動を同じくするようになり、幼馴染のリンが成功した事を喋ってしまい今回の強盗へと発展したらしい。
俺はリューイに向かって大股に歩きながら
「おい、そいつは」
直ぐにリューイは「ええ」と返してくる。
リンと一緒にいる両親には、全く分からないことのようだ。
俺がリューイから話を引き継ぎ
「おい、ギドとか言ったか?俺はランガードだ。」
長身の背を折り、顔を近づけて声をかける。
「ラ、ランガード、、、紅蓮の英雄王、、、」
俺はいつもと変わらずに「おめぇの面倒は、今後不死鳥騎士団で見てやる。」責任を放棄した責任者が勝手に、物事を決める。
何とも、ランガードらしい
リンが驚いて「団長、ありがとうございます。しかし、、」
「こいつは、水の真甦を持ってる。それもリンや、水の真甦の使い手であるホセ千竜騎士長、お前達と同じくらい強い。」
俺が話すと、驚いたようにリンはパッと顔を明るくする。
今は事情があり、道を反れているとしても、幼馴染が帝国騎士の要素を持つという事がわかったのは、とても嬉しい事だ。
「こいつは、リンおめぇに任すから、ビシビシ鍛え上げろ。お前がやってきたようにな」
俺は微笑み、首を横にする。自分的にはウィンクでもしたいのだが、隻眼の俺がウィンクすると視界が全くなくなるのだ。
見た目にも、それほど可愛くないし、笑えない。
ドカドカドカ
丁度そこに、竜騎馬に跨った金色の近衛騎士が5騎。一個小隊でやってきた。
竜騎馬より、即座に降り立ち、体長らしき人物が敬礼する。
かなり気合が入っている。
そりゃそうだ。
このメンツだからな
レィリアは不良少年のリーダーを連行させて、帰城するように命令を出す。
両手を縛られ、連行される大柄なリーダー。
俺は、リューイから預かっていた、花束、上着、指輪、ティアラをそっと、渡す。
リューイは、気合を込め、気持ちを切り替えるために、深く深呼吸して空気を吐き出し、全てを受け取る。
呆然としている、リンの父親の元に歩いていき
堂々と宣言する。
「僕はリューイと言います。お父さん、お母さん、リンさんとの結婚をお許しください。」
食堂のオヤジの、リンの父親は茫然自失している、お父さんは何と答えていいのかわからず。黙ってしまう。
横にいるお母さんが、父親の代わりに話をしだす。
「危険なところを助けて、頂いて本当にありがとうございました。リューイ様のお名前は、よ~く知ってますよ。それに今助けていただいた事で、リューイ様の人と成りはよっくわかりました。」
「こんな、至らぬ娘ですが、どうか大事にしてやってください。」
お父さんも、やっと言葉を吐きだす。
「お願いしますですや」
リューイは、キチンと背を正し、堂々と礼をする。
「こちらこそ、よろしくお願い致します。」
リューイはしばらくお辞儀をしたまま、顔を上げずにいたが、顔を上げると今度は、愛するリンの元へ行き、右膝をつきシュスからもらった、指輪の箱のふたを開けて膝まづく
「リン、僕と結婚してください。」
リンは感動と嬉しさで涙が止まらず、両手で口を押えて
「は、はい」
っと、はっきり返事をする。
リューイは優しくゆっくりと純度がとても高い魔鉄でできた、婚約指輪をリンの左手薬指にはめる。
サイズもぴったりだ、実は密かにシュスが、わからないように図って、氷結の村で作らせていたのだ。
何とも、気がよく回り用意周到に準備できる、ランガードに過ぎる妻である。
そして妖精王が、くれた花束を手渡す。
パチパチパチ
この大陸最強の戦士達が、全員で拍手する。
今まで、ずっと沈黙を守ってきたイグシアでさえも、祝福の拍手を惜しげもなくしていた。
かつてルシフェル一党との激闘の際、リューイの身代わりに瀕死の怪我を負った砂漠の鷹王は心より祝い、手を叩き続けた。
独特の文化体型を持つ、砂漠の民にとって正義とは強さであり、誇りとは従属を意味する。
生死の境を共に戦い合った仲だからこそ、言葉には出さなくても分かり合える感情というものが、戦士にはあるのだ。
そこで、このロクデナシの紅蓮の覇王は、ひとつ提案する。
「話もまとまった事だしよ、リンの父ちゃんと母ちゃんは、アーセサスの中心街界隈に、土地と家を建てて住んでもらっちゃどうだ?今回みたいな事が起こっても面倒だからよ」
リスティアード皇帝が端正で尖がった、顎に右手の人差し指をかけて
「そうだね、帝国騎士団准将のリンとリューイ君の立場と経済力なら、爵位でもつけて、立派な家を建てられるだろうけど、いきなり爵位って言われても、困るだろうから取り急ぎ、土地と家は用意するよ」
「金は俺が出すからよ。餞別代りだ」
ランガード王が宣う。婚約祝いに帝都アーセサスの中心街に土地と建物を用意すると豪語する。
金など一切、気にしない男が親友の為に、金品を送るというのは、初めてのことかもしれない。
現在金額にして、2億円はくだらない。
まぁ~それくらいの金額は、リューイとて【火の民】紅蓮の5柱で、祖父は【火の民】先々代族長の裕福な、家系だ。用意できなくはないが、あえてここは敬愛する族長の顔を立てる事にした。
驚いたのは、当然リンと両親だ。
これまで、何十年とここで食堂をして生計を立てていたものが、いきなり下町からアーセサス中心街に、引っ越しして仕事もしなくていいと言われたも同然だ。
不死鳥騎士団入団が決まった、ギドはリューイによって負った傷をイグシア鷹王が治癒していた。
火傷と殴られた顔面は、涙と一緒にぐちゃぐちゃになっていたが、この程度の傷ならメイラが居なくとも、イグシアで充分治癒できる。
蹴り飛ばされた、腹も火傷と内臓に少し損傷が見られたが、それもイグシアが治癒した。
リューイもイグシア鷹王が同行していたからこそ、心を鬼にして、ギドを叩きのめしたのだ。
かつて、敬愛する族長が、今でこそアグシス国務長官の右腕と呼ばれる、ツバァイス・カーゼナル卿を叩き直した様に同じことをしたのだ。
決して、楽しい事ではない。
真に優しく強い覚悟と気持ちが無ければ、出来ぬ。
荒療治だ。
後は、本人のやる気次第だ。
だが、きっと大丈夫だろう。
不死鳥騎士団には、リューイやランガードが育てた真の【帝国騎士】がいる。
あいつらに任せておけば大丈夫だ。
きっと、この少年も更正し立ち直り、誇りを持つことが出来るようになるだろう。
そして、昨晩から一睡もしていない一行は、一通り行事を終えて黒曜天宮に引き返していった。
黒曜天宮に到着する頃には、陽は大分高い位置まで登っていた。
俺達が、正門に着くと正門警備兵の一団が驚いて、全員飛び出してくる。
(そりゃそうだ、皇帝自ら勝手に城を出て行っちまったんだからな)
数百人の護衛兵士が一列に並び、槍を地面に立て整列する。
その中を俺達は、笑い話をしながら帰っていく。
リスティアード皇帝が、リューイに向かって声をかける。
「リューイ君、あれはやり過ぎじゃないの?」
リューイは、婚約が無事住んでホッとしている所に、話を戻されて、やや困惑していたが、直ぐ立ち直り
「ランガード族長の正義を実行した迄です。陛下。」
金色という言葉が一番似合う、最強の四海聖竜王リスティアード皇帝は微笑み
「ランガードに一番近い君が言うのだものね、それは間違いないね。」
「確かに、あの少年は荒療治が必要だったね。でも治癒能力を持つイグシア鷹王が同行していたから、あそこ迄できたんじゃないの?」
リューイはベロをちょっと出して
「そうです。見抜かれてましたか。流石に真甦を大量に持つとはいえ、一般人に対して普通、能力は使えません。」
黄金の皇帝は笑いながら
「それが、ランガードの正義なんだね。臨機応変というかケースバイケースというか、定義を作るのも難しいなぁ~」
リューイは双方赤目の瞳をアースウェイグ帝国皇帝陛下に向けて
「法律を作ることはとても大事だと思いますが、それを裁く人間を鍛える事の方が、重要で大変だと思います。しばらくは大炎元郷が、困っている人たちの相談避難場所となり、裁く側の人間の教育場所としても機能していければとも考えております。」
イケメン皇帝はポンと手を叩き
「うん、それはとてもいいね。リューイ君はランガードの優秀な副官だけにとどまることなく、何か役職を付けた方がいいね」
キザったらしくキルヘッシュ妖精王が帽子を軽く脱ぎ
「それならば、【ランガードの正義執行管理総司令長官】というのはいかがかな?」
「グエン王とフェリア女王を私が総統として補佐し、ランガード殿の正義を守り、大陸中を監視制定するお役目。」
「リューイ殿には、大炎元郷自体を守り、困った方の救済と保護、施政者への教育と罰を司るという事で良いのではないかな?」
「うん、いいね。それでいこう。」
長身の黄金皇帝は、ひとつ返事で決めてしまった。
元は天界の双璧と呼ばれた、二人である。
阿吽の呼吸と、何も考えていないようでしっかり頭の中では、いろいろな事を考えていたのだ。
様は、面倒くさい事は全てリューイに任せて、自分たちは楽しようという事をもっともらしく言ったにすぎないと、リューイは感じるのだが、、、きっと思い違いという事はないはずだ。
黒曜天宮内に入ると、今度は帰国を急ぐ、各国の代表や統治者たちがごった返していた。
昨晩あれほど、酒を飲んだのに皆、勤勉なものだ。
っと、不届きに思うのはランガード本人だった。
ドズン!ドズン!
地鳴りの様に、俺に近づいてくる巨体がいた。
俺は直ぐに誰だけ気付き、振り返り声をかける。
「よう、元海賊王。もうけぇんのか?」
ランガード公国の暴れん坊。元ガジェット・ゲンツ海賊王だ。今では心を入れ替え、キッシュ・ベグ公王に王座を譲り自分は悪さす奴らを成敗する、防衛警護隊の責任者をやっている。
政治や法律、経理など面倒くさいものは苦手のガジェットには国王でいるより、かなり性に合っているようだ。
普通の人間の体積を優に3倍を超す巨体を見るだけで、ほとんどの人間は恐怖を味わう。
っが、此処にはそういう事には全く無頓着な人間が集う。
大陸最強を誇るアースウェイグ帝国だ。
「おぅ!俺もこう見えて忙しいかんな。今回はキッシュ・ベグ公王の代理で来たんだが、北の海の方がなんか、やばいらしぃんでな。早く帰るんだ。」
「北の海?」
俺は、何か引っかかるものを感じた。
「なんだ?そのやばいってのは」
体長3メートルの巨漢に、腰まである髪の毛を束ねて佇む巨人は、ちょっと不思議そうに
「ああ、鉄でできた大蛇が出るって噂があってな、実際何隻か沈められたという船もあるんだ。とってもじゃねぇが信じらんねぇけどな。鉄の大蛇が海に居たら、そっこーで海の底に沈んじまうだろしな。ガッハハハハー」
乱暴な態度で、ぶっきらぼうに話す大きな巨人だが、根はとても優しい人間だとランガードは、よく理解していた。
「気を付けろよ。何かあったらすぐ俺に連絡しろ。」
「そんなことにゃならねぇから、心配すんなって!」
「じゃぁあな、正義の王様よ。今度はゆっくり酒でも飲もうじゃねぇか!!」
巨体をゆすりながら、歩き去る大きな巨人。
背中腰に手を振り、挨拶をする。
最後まで、ランガードとよく似た部分を持つ、海に生きる大きな提督である。