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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
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正義の婚約

夜も更け、東の空がうっすらと明るくなる頃、ランガード一行は、まだ黒曜天宮 皇帝陛下の私室で談笑を続けていた。


ランガードが濃く赤く燃えるような髪を振りながら


「アルセイスは、どうしてレィリアを選んだんだ?」


アルセイスは、全く動じることなく端正な 顔を崩さずに淡々と低い声で話す。


「以前、お主と試合をした後、シュス殿と一日を過ごした時に言われたのだ。」


俺は首をかしげて


「なんて言われたんだ?」


「【真甦に聞け】とな」


「それから、何日も己の真甦に尋ね続けた結果だ。」


黒き剣聖は、異性関係の話でも 恥じらうという事を全くしない。

常に冷静で冷徹にして高潔。


それが、アルセイス・アスティア・アグシスという男だ。


【真甦に聞け】と言った本人は、全く何も喋らない。

違う意味で、高潔で大人な態度だ。


しかし、告白された本人は見事な金髪の髪を揺らして


「こんな所でいきなり言うのではなくて、せめて事前に相談位しなさいよ。あなたは昔から言葉が足りなすぎるのよ」


帝国騎士最強誇る黒き騎士は一言。


「すまぬ」


「だ~から、それが足りないって言ってるんじゃない。」


近衛騎士団の美しき武神将は、溜息交じりに熱く言葉を吐きだす。


「おいおい、もう夫婦喧嘩か?」


俺は茶化したつもりは全く無いのだが、その言葉を叫んだ瞬間、鋭くとがった小刀が3本俺の顔めがけて、飛んできた!!


俺は、全く驚きもせずに左手の指と指の間で、3本の小刀をつかみ取る。


「まったく!!赤髪のサルには、デリカシーとか常識とか無いのかしらね!!」


小刀を間髪入れず、投げつけたレィリアが恥じらう心を隠すように怒りをぶつける。


「おいおい、こんな物騒なもん。そうほいほい投げられたら、普通なら死んじまうぞ。」


俺は相変わらず、ランガード節を吐く。


リューイが呆れて


(この人たちに、常識とか普通の生活なんて、無縁なんだろうな~)


っと、黄昏(たそがれ)ていると、リスティアード皇帝が話に加わる。


「でもね、レィリア。君とアルセイスは神の時代でも、恋人としていたんだよ。ねぇキルヘッシュ。」


キルヘッシュは、神の時代から今までずっと、生き続けている数少ない本物の神だ。


「そうであるな。まだ、小さく恋人というよりは、幼馴染(おさななじみ)という感じであったかな?」


今夜は、ずっと普通に喋っている妖精王は、この時間をとても楽しんでいる様子であった。

心から敬愛する主君、ランガードと盟友四海聖竜王、娘の恋人に、大炎元郷の仲間たちと共に過ごす このわずかな時間が、永遠に近く生きてきた、端正な神にとっても有意義で楽しかったのだろう。


「いいじゃねぇか!運命ってやつだな」


懲りずに俺は、全く本人は自覚が無いのだが、憎まれ口をたたく。


金麗の淑女は、当の本人を相手にするより有効的な手にでた。


「シュス、あなたの旦那をなんとか(しつけ)なさい。」


「レィリア様、誠に申し訳ございません。旦那様は言葉は悪く態度も傲慢(ごうまん)で、礼を失する事も多いですが、それが可愛らしいのです。どうか、ご容赦くださいませ」


銀麗の女王は、全く恥じる事をせずに、自分の決めた夫を褒めちぎる?


俺は思わず


「おいおい、それは褒めてるのか?」


「全く、シュスもよくこんな男を好きになったもんだわ、あなたならいくらでも、もっといい男はいたでしょうに」


レィリアは、憎まれ口を続ける。


しかし、氷結の女王の心はこんな言葉では、動かす事は出来ない。


「私には、旦那様以外には夫となる殿方は、おりませぬ。」


リューイは、思わず


(奥方様、素敵だなぁ~)


っと、我が族長の奥方様を心から尊敬するのだった。


ランガードと共に長く過ごしてきた、リューイにとってランガードの人となりは十分すぎるほど理解している。


その人柄は、決して万人受けするような性格ではない。

逆に超が付くほど、個性的な性格であるのは周知されるところであるが、、、


己を貫き通す強く熱く燃える魂が、あってこそこの大陸を平和へと導けたのだ。


レィリアだって、ランガードの良さは理解しているだろう、だが彼女の貴族として、生まれ育った環境と本人の性格が邪魔をするのだ。


まっ、簡単に言えば相性が悪いという事だろうか



そこで、リスティアードが立ち上がり、皆に驚きの言葉を投げかける。


「それじゃ、夜も明けたみたいだし、次はリューイ君のプロポーズを皆で一緒に行こうじゃないか」


『えっ!!』


リューイが、突然自分の話になって、驚く。


(また、無茶振りしますね、、、竜王一族の方々はこういう方が多いのですかね~)


「おお、そいつは是非とも行こうじゃねぇか!!」


リューイの親友を豪語する、己が族長もこう言う事は大好きだ。


リューイは、よくわかっているので、反対する無意味さを今、目の前で行われていた伯爵令嬢と侯爵嫡男との会話で、嫌というほど理解していたので、何も発言せず無言で肯定しかしなかった。


心の中では、リンとご両親はとてもびっくりするだろうなぁ~っと他人事の様に考えていた。



リンの両親が経営する、食堂は帝都アーセサスの下町にある。

黒曜天宮からだと、徒歩で1時間はかかる。


ランガードの能力を使えば一瞬で移動可能なのだが、あえて一行は、ゆっくりと早朝の空気がひんやりとした中をてれんこ てれんこと喋りながら歩いていた。


一晩中、酒を飲みちょっと火照った、身体をヒンヤリ覚ますには丁度良い。


帝都とは言え、皇帝が数人の供だけ連れて出歩くなど、有り得ないと言えばあり得ないのだが、この時間なら帝都臣民もまだ出歩いていないので、個々の能力を存分に出せるので、安全に関しては全くと言って問題なかった。


そもそもヴァルゴ古代興業国戦役において、ゼレイヤ黒魔術王国100万人を一瞬で、消し飛ばしたリスティアード・ローベルム・アルヴェス・アースウェイグ。


最強の天の真甦、所有者でもあるのだ。


「リンは、実家にいるのか?」


俺は横を歩く、親友に向かって聞いてみる。


神速の親友は、長身の俺を見上げる様に首をちょっと上向きに傾けて


「真魂交信で、伝えておいたので昨晩の酒宴の後、実家に帰ってるはずです。」


(多分今頃、大騒ぎになっているんだろうなぁ~)


帝都中心街を抜け、下町に入った頃。


突然、キルヘッシュ妖精王はしゃがみ込み、目を閉じる。

次の瞬間、沢山の色取り取りの花束を両手に抱えきれぬほど、持ってリューイに手渡す。


「手ぶらでは、何であるからな。」


妖精王の能力を使って、道路脇の土から綺麗な様々な花を一瞬で、咲かせて摘んできたのだ。


正に、妖精王でなければできない芸当だ。


リューイは驚き戸惑いながらも「ありがとうございます」と言って、顔が隠れれるほどの花束をしっかりもらい受ける。


黒鉄(くろがね)の騎士も「良ければ、これを羽織っていかれるがよい」と言い。


自分より小柄のリューイの体型に会うように、自分の青年時代に仕立てた、高級な漆黒の礼服の上着を取り出し、そっとリューイに着せてあげた。


「すいません。アルセイス様。」


リューイは、婚約者の家に近づくほどに自らが、飾り立てられていくことにドキドキしながら、歩く。


すると、今度は大炎元郷の王妃である。シュシィス・スセインが、小さな箱を取り出しリューイに手渡す。


「リューイ様、どうぞこれをお使いくださいませ」


赤い小箱をリューイがそっと開けると、中には深紅の輝く(つい)の赤く光り輝く指輪が収まっていた。


「奥方様、これは?」


シュスは、長いまつげを揺らして


「最高に純度が高い魔鉄で作った、指輪です。婚約指輪に使ってくださいませ」


「奥方様、皆様ありがとうございます」


リューイは、頭を下げる。


【火の民】実質の指導者も、このメンバーに囲まれるとただの少年の様に見える。


そこでレィリアも、密かに持ってきたシルクで出来たベールとティアラをリューイに見せて、これをリンさんに渡してください。


「本当に皆さんありがとうございます。」


リューイは密かに(これで、婚約できなかったら、滅茶苦茶恥ずかしいな~)などと思っていたが、リンの両親が経営する食堂の前に着くと予想外の出来事が起こっていた。


若い男たちが15人ばかり、たむろしていたのだ。


しかもその若者たちの、放つ気はどす黒いものだった。

年配の男性が、その半グレ少年グループに囲まれていた。


その横には、愛するリンが興奮しながら、何か大声で叫んでいる。


トラブル発生だ。しかも時は急を要す。


半グレ少年の数人が、ナイフを抜いたのだ。


リューイの判断は素早かった。


俺は、直ぐリューイに近づき、リューイが抱えきれないほどの品々をそっと、受け取り


「行け」


っと一言いうと、リューイは「はい」と一言返し、その場から消えた。焦げ臭い焼けた匂いだけ残して


長神速で、突然半グレグループの真っただ中に現れた。

リューイだ。


リンは直ぐに、リューイに気付き駆け寄る。


リューイは、堂々と言い放つ。


「何のトラブルですか?刃物を抜くとは、只異(ただこと)ならないですね」


不良少年グループのリーダーらしき、大柄でリューイの体積の2倍はありそうな男が、前かがみに脅す様にドスの利いた低い声で


「チビ、おめぇ何もんだ?いきなり出てきやがって、関係ねぇ奴は引っ込んでな!!」


こういう輩は、今まで散々見てきた。


リューイは小柄なうえに、童顔なのでよくこういった時は、その実力と反比例して、なめられた態度を取られる。


だが、歴戦の勇士で実力でも、【火の民】紅蓮の5柱でありその統率者でもある。

リューイにとっては、なんの脅しにもならなかった。


「僕はリューイ。リンの婚約者で、ランガードの正義を守る者。」


婚約者という、単語を始めて聞いたリンは、こんな状況の中でも頬を赤らめていた。


彼女が本気で、戦えばこんな不良グループなど一瞬で消し飛ばす事が出来るだろう、、、


しかし、彼女は【帝国騎士】しかも昨日、不死鳥気団准将に昇格したばかりだ、一般人を意味も無く傷付ける事は出来ない。

帝国騎士とは、弱きを助け強くを(くじ)く。

いわば、人の模範となるべきであって、無用の殺生(せっしょう)など出来るはずもない。


食堂の娘として、育ったリンだがここ数年の帝国騎士としての生活とランガード武神将とリューイ准将に率いられての戦闘の数々で、(おの)ずと身に着いた騎士としての誇り。


リューイは赤髪に赤目の【火の民】を表す、髪を逆立て鋭い目つきで、状況把握に努める


「一体これは、どういうことなのですか?」


愛するリンが答える。


「あっちの隅にいる黒髪の男の子が、私の幼馴染のギドって言うのだけど、ギドの両親が西方天使教団の教徒に殺されてから、この悪い奴らとつるむようになって、私が帝国騎士となったものだから、金品を私の両親から奪いに来たのよ」


不良少年グループの一番端っこに、身体の小さな黒髪を逆立て短髪にした、いかにも似合っていないが、悪ぶってる風を装っている、男が目を伏せ下を向いていた。


「もう一度言いますが、僕はリューイ。大体現状把握しました。あなた方は、こんな朝早くにこの食堂に集まり、金品を奪いに、これだけの人数と武器を持って押し掛けてきたのですね。」


「それが何だってんだ!!このチビ」


リーダー格らしき、大柄で獰猛そうな無精ひげを生やした男が、脅す様に叫ぶ。


リューイは、平然と


「それは強盗と言うんです。」


「そして、僕はランガードの正義を守る者として、阻止します。」


不良グループのリーダーと(おぼ)しき男は、大柄なナイフを引き抜き


「ごちゃごちゃ、うるせぇんだよ!」


っと、叫びながら汚いつばをまき散らして、リューイに襲い掛かってきた。


リューイは冷静に、能力は全く使わず、体術だけで対応する。


身体を左に捻り、態勢を相手のナイフの軌道上から逸らし、右手の手套(しゅとう)で相手のナイフを持つ右手を叩く。


同時に左足で、跳ね上がり右足で、相手の後頭部に強い蹴りをお見舞いする。


ホンの一瞬の出来事だったが、大柄なリーダーは地面を3回転して吹き飛び気を失う、大柄なナイフは悪党の手を離れ、壁に突き立つ。


音もなく、着地して髪を逆立て、双方の目を赤く燃やし、静かに宣言する。


「まだ、かかってきますか? 次は、命を奪います。」


「「「「う、うわぁああああー!!」」」」


脱兎(だっと)の如き、散り散りに逃げ出す、悪党もどきの不良グループ。

所詮、リーダーの腕力で集まった、有象無象の悪ガキどもだ。

真の戦士、それも百戦錬磨のリューイに(かな)うはずとてない。


しかしリューイは、逃げ散る不良少年の中から1人、ギドとリンが読んだ幼馴染を神速で捕縛し、リンの前に座らせる。


リューイは、初めから最後まで冷静にそして静かに


「さて、ギド君。釈明があるなら聞くよ。」


目の前に、座らされたギドと名乗る少年は、年の頃はまさにリンと同じ年位のリューイより少し、背が高いがリューイとは全く違った印象を受ける。


リューイが【陽】なら、このギド少年の印象は【陰】だ。


リンが、先に言葉で殴り掛かる


「ギド!!あなたのご両親が、不幸にあったのは悲しい事だけど、だからって私の家にこんなことして、もし私やリューイさんが居なかったら、どうなっていたかわかるの!!」


ギドは相変わらず、下を向き暗く(ふさ)ぎ、声を発しない。


「ギド、君には荒療治が必要だね」


リューイは、右手を真っ赤に燃やしてギドと名乗る少年の右頬をぶん殴った!!


「ぐわっ!!」


ギドは軽く5メートルは吹き飛び、もんどりうって地面に倒れ込む。


リューイは直ぐ様、神速でギドの元に駆け寄り、今度は燃える右足で、ギドの腹を蹴り上げる。


「ゴホッ!!」


今度は2メートルほど、上空に舞い上がり再び、地面に叩きつけられる。


リンは黙って、リューイのすることを見ているだけだった。


リューイは、息も絶え絶えで ゼェ~ゼェ~言ってるギドの髪を掴み、上を向かせる。


「何故こんなことをしたんだい?」


行った暴力行為とは全く裏腹に、優しく声をかける。


ギドは、双方の目から大粒の涙を流しながら


「と、父ちゃんもか、母ちゃんも俺の目の前で、斧で頭を叩き割られて死んだんだ。何も悪い事なんてしてやしないのに、、、、ただ無残に殺された。」


「お、俺はどうしたらいいかわからなくて、、、」


リューイは能力を全て体の中に、押し込めて両腕でギドの胸ぐらを掴み引き上げ、立たせる。


「立て!」


「君が辛い思いをしたのは分かる。だが、君がやろうとしていたことは、君と同じ辛い思いをリンにも味わせようとしていたことなんだよ。」


ギドと呼ばれた少年は、大粒の涙を流しながら、リューイの顔を見る事が出来ず、下を向く。


パン!!


リューイが、手の平でギドの頬を叩く。


「甘えるんじゃない!僕の顔を見ろ。」


ギドが、ハッとして上をゆっくり顔を上げ、涙と火傷と叩かれたぐちゃぐちゃの顔で、リューイを見る。


「いいかい。この大陸は【ランガードの正義と平和】で統一されたんだ。これ以上のいさかいは僕たちが許さない。」


「わかったかい?」


ギドは、ぼそりと


「え、英雄のランガード、、正義、、平和、、、」


リューイは優しくギドの胸ぐらを掴む手を放して


「そうです。もし、困ったことがあったり、どうしていいかわからない時は、大炎元郷に来てください。僕らは決して一人も見捨てたりしませんから」


ギドは小さな声で「す、すいません、、、」と呟いた。


そこに、俺が不良グループのリーダーを引きずって、連れて合流する。

俺の後ろには、早々たる面々が、、、


レィリア金獅子騎士団武神将が、高く綺麗だがよく響く声で


「当直の金獅子騎士団に真魂交信で連絡した。直ぐに現着するだろう、この男は罪を償わねばならない。」


リンが、すぐさま両足の踵を合わせて、右手を曲げて左胸にあてる。


カツン!!


武神将が3人(1人は昨日付で退職したとはいえ)、それに皇帝陛下がおられる事に驚いて、敬礼をする。


リスティアード皇帝がにこりと微笑み


「急ですまなかったね、リューイ君が大事な話をするというので、野次馬で来てしまったよ。」


華麗なる皇帝は、自分から言い出したことなのに、まるで無理に来てしまったように笑いながら話す。

リューイが言うように、竜王一族とは暴虐武人な側面があるのかもしれない。


能力とは別に、、、

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