表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
158/173

金寿の舞踊

紅蓮の覇王ランガード軍団は15万人の大所帯となり、モリビス大森林に約1か月、滞在していた。


負傷者の傷も回復し、エルフ一族も全員元気になり、金髪の毛と尖がった耳が特徴だが、それ以上に皆美男美女が多い。

背が高く、スラリとしていて気品さえ感じる。


当初、ランガードは大炎元郷にエルフ一族をグエンとフェリアと共に瞬間移動させる予定であったが、エルフ一族女王エーリア・ティンクル女王から申し出があった。


エルフ一族は徒歩で大炎元郷を目指し、女王と近習、護衛兵を連れてランガードと共にアースウェイグ帝国帝都アーセサスにある、黒曜天宮に出向き四海聖竜王にして、リスティアード皇帝陛下にお目通りしたいという希望をランガードは、聞き入れた。


特に急ぐ話でもないし、紅蓮の戦士にエルフ一族を護衛させれば、問題ないだろう、エルフ一族も美しく華麗な戦士たちである。

特に、エルフ一族は弓の名手として、名高いそうだ。


紅蓮の戦士とは雰囲気も能力も全く違うが、7万人のエルフ族と2万を超す紅蓮の戦士に、立ち向かえる人間など今この大陸には存在しない。



この一か月で一番驚いたことは、ランガードの王子のグエンと王女フェリアの成長である。


僅か一か月余りの間に、人間にして10歳ほどの子供に成長していた。


先日まで、ベッドに寝かされ喋ることもできなかった二人が、この戦いに参加して炎身体と氷像体という仮の姿を取り、自分たちを具現化していたものが、グエンは生意気盛りの子供に、フェリアは可憐な少女へと急激な成長を見せていた。


まっ、この二人に関しては、驚かされてばかりなので、ランガード軍団にとっては、(凄いですな)の一言で済んでしまう。


いつもの様に、昼食をランガードの幕僚達と妻シュシィス・スセイン氷結の女王とグエン、フェリアと家族ぐるみの食事をとりながら、今後の方針を話していた。


司会は、もちろんリューイ准将である。


「それでは、全軍の行動開始は明朝という事で、よろしいですか?」


そこにいる、幕僚達が全員頷く。


キルヘッシュ・アクティア妖精王始め、西海白竜王ベルフェム竜王、イグシア鷹王とギリガース軍団長、傷の癒えた【火の民】紅蓮の5柱岩・破砕(がん・くらっしゅ)、不死鳥騎士団の各千竜騎士長たち、後方部隊と治癒部隊を統括するメイラ部隊長等々、また、その他にも、各責任者の副官や他にも補給部隊や連絡部隊の責任者から、【火の民】の強者まで紅蓮戦士正義のランガード紅蓮王国を運営する主要人物が、大炎元郷残留組以外は、ほぼ全員集まっていた。


リューイは、100人を超すほどの強力にして、強者の戦士たちを前に一切怯むことなく、話を続ける。


「アーセサスへ向かうのは、ランガード族長とご家族の皆さま、キルヘッシュ総統とベルフェム竜王様、イグシア鷹王様を主とした、紅蓮王国の重要人物だけで、護衛は不死鳥騎士団が付きます。」


「また、エルフ族約10万人は【火の民】紅蓮の戦士が護衛をして大炎元郷を目指してください。」


15万人を超す、一か月以上に及ぶモリビス大森林滞在からの大移動がついに始まるのである。


リューイは、更にテキパキと指示を繰り出し各担当者に伝える。


「この大陸の脅威は、ほぼ去ったと考えてる者も多いと思いますが、護衛任務にあたる者たちは、周囲の警戒を怠ることなくくれぐれも用心して下さい。」


「「「「はっ!!」」」」


「「「「焼き払え!!」」」」


名実ともに、ランガード王国の司令塔としての、地位と立場をこれまでの実績とランガード国王の厚い信頼から、リューイは確立していた。


正義のランガード王国にとって、一番必要なのは指示、決定できる指導力だ。


何しろ国王は、考える事が大の苦手と来ている。


考える前に、その業火が全てを焼き尽くしてしまう。


そんな人柄である。


リューイの様な、真面目な指揮能力にたけた人物は、紅蓮王国にとっては大変貴重であるのだ。


彼は、若干26歳にしてその地位と信頼を全員から受けていた。


しかも、噂ではあるが、近々身を固めるらしいと、密やかに祝い事して軍団たちの間では噂が広がりつつあった。


お相手は、当然 3強鬼族豪 3席に座していたル・シュペインを激闘の末、討伐した。


不死鳥騎士団千竜騎士長 リンである。


【天の真甦】を持つ彼女は、能力、人柄、人間力共にリューイの相手に相応しいと皆は、思っている。


恐らく、一番驚くのはリンの両親であろう。

リンの両親はアースウェイグ帝国帝都アーセサスの下町に、食堂を構える、普通の1臣民なのである。


自分の娘が、これほどの大出世をするとは夢にも思っておらず、知らせを聞いた時の驚きは、想像できないこともない。


そして、国王であるランガードが突然、立ち上がりとんでもない事を言い出す。


「なぁ、グエン。俺と全力で勝負しねぇか?」


当然、周囲が驚愕という波に包まれる。


リューイが即座に


「やめて下さい!!」


「この大陸を滅ぼすつもりですか?」


白き竜王も立ち上がり、女性のような高い声で叫ぶ


「南海紅竜王よ、冗談も大概(たいがい)にした方がよいな」


キルヘッシュ・アクティアは、長く生きてきた余裕からか


「これほど、派手な親子喧嘩はかつてない事になるであろうな~」


グエンが、幼さの残る目をランガードに向けて


「意味を感じない。」


っと、一言バッサリ切り去る。


「そんな物騒な事、おっしゃらずに旦那様、明日はリスティアード皇帝陛下にお会いするのですよ。もし怪我でもしたら大変じゃありませんこと」


氷結の女王にして、銀麗の王妃シュシィス・スセインの一言で、事は収まる。


流石の傍若無人のランガードも、唯一妻には頭が上がらないのだ。


「ちぇ」


子供みたいに、すねるランガードであった。

何とも大人げない、国王でもあった。


「「「「わはははは~」」」」


一同が笑う。


ランガード紅蓮王国ならではの光景だ。


国王を笑い飛ばすなど、国家にとってあり得るはずがない。

国王とは、国の代表で威信を背負った人物。

軽んじる事など、許されるはずもなく、簡単に会話する事さえ許さぬ国家も幾つ数多(あまた)とある。


そもそも、正義のランガード紅蓮王国とは、通常の国土を持つ国家とは全く異なる意味合いで成り立っているせいもあるのかもしれない。


ランガードの正義で、大陸を統一して、平和で安心して暮らせる世界を作る。


威信や威厳、対面、誇り、礼節など、一切関係ないのだ。


唯一大切なのは、平和を乱すものは誰であろうと、国家であろうと個人であろうと許さず容赦しないという事だけである。


これが、正義のランガード紅蓮王国の唯一にして、絶対の(いしづえ)なのだ。



その夜は、酒杯が交わされ、モリビス大森林を後にする最後の宴となった。

皆、それぞれ好みの酒を飲み、談義しているとエルフ族女王エーリア・ティンクルが、見事な腰まで真っすぐ伸びる金髪を揺らしながら、優雅に共を20人ほど連れやってくる。


そして、俺の前で20人と共に膝をつき礼を取りながら


「ランガード国王に、申し上げる義がございます。」


(いちいち膝まづ来やがって、こいつも頑固もんだから、かわんねぇ~な~)


俺はもう無視して「なんだ?」とだけ言う。


金髪で、優雅なエーリア女王は、膝まづいたまま


「王に、エルフ族救出いただきました、ご恩をエルフ族を代表しまして、代々エルフ族に伝わる祝辞舞踊【金寿】を御披露しとうございます。」


旦那が、声をあげる


「おお~いいであ~るな~、吾輩も~久しぶりに拝見したいであ~るよ」


俺は隻眼の目をエルフの高潔な女王に向けて


「踊りは見てみたいもんだが、、、無駄だろうけど、一応言っとくな。」


「俺の前でいちいち膝まづくな!」


金鈴のエルフの女王はたった一言。


「無理でございます!」


っと返してくる。


(やっぱなぁ~、そう来ると思ったんだけどよ~)


エーリア・ティンクル率いる、エルフ族の女性20人による、祝辞の舞【金寿】が、厳かに横一列に並び始まる。

15人ほどが、一歩前に出て舞踊し残った、5人が自然界にある楽器を使い音を奏でる。


楽器と言っても、草笛であったり、枯れ枝を切り取った木の株を叩いたり、枝を加工して笛を作ったりした、自然界に生きるエルフ族らしい楽器だった。



前に出た、15人は細身の体型に、皆手足が長く、長く棚引く金髪が静かに揺れ動く。


服装も全員、金色の正装を纏い、腰帯に銀色の帯を巻く姿だけでも、品格に満ち神々の前で披露された、賢覧する姿は見事の一言であった。


後ろで奏でる、自然の楽器も上品で、ことさら派手さはないが、心に自然と染み込んでくる音色であった。


シュシィス・スセイン王妃も【舞】をこよなく愛し、華麗なる踊り手でもある。


そのシュスが見ても、素晴らしく豪華で人間が踊る【舞】とは違った、雰囲気を(かも)し出していた。


華麗なる荘厳さで、周囲が包まれる。


一糸乱れぬ、舞踊にこういった、文化や芸術にそれほど親しくない、ランガードはじめ武骨の紅蓮の戦士たちも、感動のあまり口を開けっぱなしだった。


金寿の舞踊は、心の満足と目の保養を十二分に満たして、静かに厳かに終了する。


最後に、エーリア・ティンクル女王が紅蓮の戦士皆に向け、右手を優雅に折り曲げ、自らの腹に当て 深々と華麗にお辞儀する。


「「「「わぁああああ~」」」」


絶賛の拍手と絶叫が、夜のモリビス大森林を揺るがす。


「すげぇ~な」


溜まらず俺も、讃嘆の声が漏れる。


その後の宴は、物凄く盛り上がり、モリビス大森林最後の夜は盛り上がりに盛り上がり深けていった。




そして、陽が昇り軍団は、早々に全軍動き出す。


15万人を超える、軍勢の動き出すさまは勇壮であり、大地が動き出すほどだ。


俺は、大炎元郷帰還組の責任者 岩・破砕(がん・くらっしゅ)の肩を叩きしばしの別れの挨拶を交わす。


「皆を頼むぞ。」


「族長お任せ下さい。」


ブ厚く、逞しい胸を叩き俺に返答する。

しかし、その鎧の下にはまだ、包帯が痛々しく沢山巻いてあった。


ついに紅蓮の軍団は、モリビス大森林を後にする事となった。


悪逆なる堕天使ルシフェル一党を討伐しての凱旋である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ