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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
156/173

黒曜天宮凱旋

ランガード軍団遠征組は、結局モリビス大森林西部付近に一月近く滞在することとなった。


主な原因は、堕天使ルシフェル一党残党狩りと、敵本拠地壊滅、負傷者およびエルフ一族の早急な、普通生活への復活の為であった。


当然、シュシィス・スセイン王妃と長男グエン王子と長女フェリア王女も戦地に留まっていた。


生活に欠かせない、住居は簡易的だがキルヘッシュ・アクティア妖精王とその一族によって、建造(・・)された。

とはいえ、約15万人分の住まいである。

規模も数も桁違いだ。


即席の町が一つ、モリビス大森林に突如として、現れたようなものだ。


ランガード個人的には、久しぶりの家族水入らずの幸福なひと時であり、子供と触れ合える大切な時間となった。


また、厄介ごとが増えて、自らの負傷の傷も癒えぬまま指示を出しテキパキと孤軍奮闘するのは、他でもない親友であり優秀な副官であるリューイ准将だ。


しかも、大炎元郷でエルフ族約15万人の生活を確保すると言う大約もある。


負傷などと言っていられぬのが実情だが、本音は、、、


(もうなんでもいいやぁ~)


的に、己が主君の悪い影響を多大に受けて、いい加減になりつつある、根は真面目な【火の民】紅蓮の5柱の若長である。


だが、生真面目な性格の彼は、大炎元郷を現在指揮する【火の民】紅蓮の5柱 門・夷塚(もん・いづか)に真魂交信で、族長の命令を事務的に伝達し、準備の手配を命じた。


自分ばかりが、いつも苦労をするのに慣れてきたと同じく、苦労を他人に振り分ける事にも練達してきた優秀なる友だ。


面食らったのは、門・夷塚(もん・いづか)である。

本来の重大任務である、シュシィス・スセイン王妃及びフェリア王女の守護だが、、、


たった一言残して、玉座より二人とも突然消えてしまったのであるのだから、、、


その上に、棒読みの問答無用な無茶振りな命令、、、


端正な顔を苦渋に(にじ)ませ、ストレスをためる恐妻家の美男子だった。


また多忙を極める、リューイとは別にランガード首脳陣はのんびりと戦後処理の報告を聞きながら、真昼間っから酒を飲んでいた。


上下白い正装とつば付きの帽子に、杖を突きながら戦場に全く似合わない紳士然とした、キルヘッシュ・アクティア妖精王にして、大炎元郷総統は赤葡萄酒を片手に持ちながら話し出す。


「王よ~それで、これからどうなさるおつもりであ~るか?」


こちらは、戦装束(いくさしょうぞく)が普段着となっている紅蓮の覇王ランガード・スセインが隻眼の目で、麦酒を一気に飲み干しながらその場にいる全員を見て言う。


「そうだな、準備が整ったら、まずエルフ一族と負傷者を俺とグエンとフェリスで、大炎元郷迄運ぶ。」


「そしたら、一度 アースウェイグ帝国 帝都アーセサスの黒曜天宮に向かう」


「凱旋であ~るな」


「いや、ちっと大将と話し合いたいことがあってな」


キルヘッシュ・アクティア妖精王はにこやかに微笑み


「理由は何であ~れ、ルシフェル一党を討伐し、【西方天使教団】の暴動を制圧した~、正義の王がアースウェイグ帝国帝都に赴けば~民衆は~大騒ぎであろうな~」


ランガードは、本気で嫌そうな顔をして、そういうのはマジで勘弁してほしいんだが的な顔をする。


東海白竜王ベルフェムがキルヘッシュと同じ赤葡萄酒を大きめのグラスを揺らしながら、高い声で話に加わる。


「南海紅竜王は、異界侵略戦役においても敵首魁を打ち取り、今回も大陸の平和を守られた。これは大偉業として語り継がれる出来事ではないのではないのかな?」


「それこそ臣民はじめ、貴族、官僚、武人 皆大歓迎であろうよ」


ランガードは、渋柿(しぶがき)でも食べたような嫌そうな顔をして、麦酒のおかわりをグイっと飲む。


神でも異界の王をも恐れぬ、強炎爆王たるこの男が唯一苦手とするのが、(おおやけ)の場に(かしこ)まって出る事なのだ。


意外と言えば意外だが、他人に特に大勢の人間に(うやま)われる事が大の苦手なのは、近習(きんじゅう)にいる者たちにとっては周知の事実なのだが、、、


高潔なる、妻のシュシィス・スセインが片手を口に当て優雅に喋る。


「旦那様、ご安心下さいまし。旦那様には私達がおります。」


「ご安心ください。」


高潔なる氷結の女王は、誇り高く心臓に毛が生えてるのではないかと言う程、図太く堂々として大豪傑の王妃として威厳と誇りに満ち溢れていた。


王本人とは、真逆に、、、


そこに、イグシア鷹王が杖を突きながら、胸部を包帯に包まれながらやってくる。

普段の彼とは、全く違い気配を消す事も音を立てることも忘れているように、、、


それはそうだ一月経ったと言っても、一度死にかけたのだ。


そう簡単には、元には戻るまい。


「イグシア、大丈夫か?まだ寝ていて構わねぇぞ」


ランガードが、いち早く気づき声をかけるが帰ってくる言葉はいつもの様に


「御意」


っと、一言のみだった。


(死にかけったって言うのにこいつも変わんねぇな~)


不死鳥騎士団千竜騎士長【天の真甦】所有者でリューイの婚約者のリンはまだ、肋骨(ろっこつ)の骨折が長引いており、起き上れる状態では無い。


【火の民】紅蓮の5柱岩・破砕(がん・くらっしゅ)も、同じく全身の殺傷痕治癒の為、病床より出ることはかなわなかった。


イグシアは、自ら治癒能力があり、普段から鍛えていた身体とグエンの暴力的な治癒効果が訊いたのかもしれない。


一番の重傷者が、いち早く動き回るようになっていた。


俺の横に座っている、キルヘッシュ・アクティア妖精王は、自然な立ち居振る舞いで円座に座っている、ランガードの隣の席を開けて座るように手を差し向ける。


これが、また、嫌みのかけらもなく、優雅なんだな。


病み上がりだってのに、こいつも胸部グルグル包帯巻きされているのに愛刀を手放さず沈黙を持って、俺の横に座る。


そこで俺の真正面に、座っているリューイが全員に話しかける。


「それで、具体的にいつ頃から動き始めますか?」


俺は軍団治癒部隊隊長のメイラに、隻眼の目を向ける。


メイラは直ぐに気付き、立ち上がり頬を紅潮させながら話し出す。

怪我人を治癒する時は、何物にも負けない強靭な態度と対応を辞さない彼女だが、こういう会議や普通の場での話し合いは、ランガード同様あまり得意とするところではない。

性格もあるのだろうが、引き込み事案な一面を感じる。


そんな彼女が、皆に注視されながら一生懸命話し出す。


「ふ、負傷者の方々はあと10日もあれば、移動可能となります。エルフ族の皆様の健康状態も問題ありません。」


「一番の重症者であったイグシア様も大丈夫のご様子ですので、、、」


治癒部隊隊長としても、イグシアの治癒能力の速さに驚いているようだ。


「そんじゃ、10日後に動き出すとするか!」


「それまで、ゆっくりとしようじゃねぇか」


王の決断である。


「「「「はっ!!」」」」


皆が声をそろえ、会議は終了となる。


俺は目を閉じ真魂交信で、大将に事の次第を報告した。


(ッというわけで、そっちに行くのは2週間くらいかかりそうだ)


(わかったよ、こっちは大丈夫だから)


(ランガードもゆっくり休んでからおいでよ)


(ああ、悪いがそうさせてもらう)


(それじゃ、2週間後に待ってるよ)


(ああ)


四海聖竜王にして、上司であるリスティアード皇帝陛下に対し、この様な言葉使いが出来る男は大陸広しと言えど、ランガード以外にはおるまい。

粗野で乱暴で礼儀知らずだが、心と体は灼熱の様に温かい爆轟の覇王ランガードならではある。


そんな彼に軍団皆従い、好意と敬意と尊敬の意を持つのであって、ランガード以外に彼の代わりは務まらないと言えるかもしれない。


そこで、突然ランガードがとんでもないことを口にする。


「旦那、剣だけで俺と真剣勝負してくんねぇか?」


「「「「!!」」」」


そこにいる全員が、驚愕する。


当のキルヘッシュ・アクティア妖精王だけは優雅に一呼吸おいて「よいであ~るが、王はどうして私との勝負を御所望であ~るかな?」


「いや、深い意味はねぇんだが、強い奴とは戦いたくなるのが俺の性格でな」


ランガードは幼少の時より、己の正義を貫くために力を欲し続け、現在大陸最強を誇る爆轟爆炎の覇王である。


しかし、これまでも幾度となく、能力に頼らず剣妓のみの勝負をしてきた。


最近では、アースウェイグ帝国軍【剣聖】にして帝国軍最高司令長官アルセイス・アスティア・アグシス卿との戦いが記憶に新しい。


尚、その戦いは結局殴り合いに発展して、審判役のリスティアード皇帝陛下によって、引き分けとなった。


また、【紅の傭兵】時代には、当時ヴォルグス砦城主で、元金獅子近衛騎士団准将まで務めた、ロリーデ・ガルクスとの一騎打ちでは派手に敗北したものだ。


しかし、今ではロリーデ・ガルクス卿はランガード軍団の一員で大炎元郷北方守備司令官となっている。


力で負けた相手をも魅了してしまうのが、ランガードと言う男の気性なのだ。


そして今、力を追い続ける、ランガードにとってキルヘッシュ・アクティア妖精王の存在は、ランガードの力を求める触覚に触れるものがあったのだ。


「よし、じゃやろうぜ」


俺は、魔鉄大剣と深紅の鎧の戦装束のまま、立ち上がる。


一気に盛り上がる。


ランガード軍団紅蓮の戦士たち


それはそうだ、主君で族長で団長で友であランガード王が、現存する最強神の妖精王と剣技で戦うと言うのだ、戦いを本文にしている者たちが盛り上がらない訳がない。


軍団中央に大きく広場が自然と出来上がり、ぞろぞろと皆が集まってくる。


エルフ族を率いるエーリア・ティンクル女王始め一族が、、、、


ランガードの家族である、王妃シュシィス・スセインと王子グエン、王女フェリアが最前列の一番良い場所に案内される。


その横には、イグシアが万一に備えて愛刀である曲刀を腰に下げ、傷も完治していないにも関わらず、ランガード一家を護衛する。


その横には、イグシアに命を助けられたリューイが黙って付き添っていた。


そして、急ごしらえの広場の中央には、いつもの戦装束に身を包んだランガード・スセイン王だが、外套は外して身軽になっていた。


対する相手は白い上下の正装で白い革靴を履いた、優雅で紳士の変わり者キルヘッシュ・アクティア妖精王である。


帽子と杖の変わりに、愛剣である細剣を左手に鞘ごと持っている。その佇まいが、決闘や戦場とはかけ離れており、血生臭さを全く感じさせなかった。


審判役として、東海白竜王ベルフェムが細身の体に白く透明な肌を晒した、白いヒラヒラ広がるシャツに細い黒のパンツといった、お洒落な格好で登場する。


ひょんな一言から始まった、ランガード軍団最強を決める戦いが始まろうとしていた。

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