妖精王の真骨頂
ルシフェル一党との決闘に苦戦しながらも2連勝した、ランガード軍団の士気は高く、勢いよく盛り上がっていた。
それはそうだろう、悪鬼血族 最強 3強鬼族豪の弐の席に座す、ダル・メッツを不死鳥騎士団リン千竜騎士長が、大逆転勝利撃破して、壱の席に座すガーベィ・ダグルスをも【火の民】紅蓮の5柱岩・破砕が我が身を犠牲にして勝利をつかみ取ったのだ。
本来の実力であれば、双方とも勝利することは難しかったかもしれない。
敵の油断があったのは事実であろう。
数千年間、最強戦士として生きてきた、邪悪なる吸血鬼族だ。
たかが、人間どもに負ける事など、想像もしていなかったであろう。
だが、ランガード軍団紅蓮の戦士の【覚悟】が敵を勝ったのも事実だ。
後方待機していた、武照・爆弾が、前線迄来て岩・破砕の戦いをじっと見つめ心の中で必死に応援していた。
傷ついていく、岩・破砕に心を苛まれ自らも傷つくような辛い思いをしながらも、目を逸らさず、最後までしっかりと目線を外さず、見つめていた。
しかし、思いとは反対に傷が増え、血だらけになっていく岩・破砕を見ているのはとても辛かったが、最後までその勝利を疑わずに祈りながら見つめていた。
そして、岩・破砕は最強の敵を撃破したのだ!!
勝利を勝ち取り横たわる、岩・破砕の手を握り、優しく声をかける。
「よくやりましたね、岩・破砕」
「あ、姉さん、、、界の兄貴のくれたこの小刀のおかげで勝てました、、、界の兄貴が応援してくれたみてぇっすよ」
「あの人も、あなたの事を今頃は、誇りに感じているでしょう」
思わず、岩・破砕の血だらけの顔から涙が止まらずに溢れ出す。
思わず、事情を知る【火の民】紅蓮の戦士の中には、同じく涙を流す者が、数多くいた。
それだけ今は亡き紅蓮の5柱界・爆弾の存在感は未だに【火の民】には、とてつもなく大きいものであったと言う証拠である。
リンと岩・破砕は、まだ意識の戻らない、東海白竜王ベルフェム、イグシア鷹王と共に後方治療所にて、並んで治癒を受けていた。
そして最前線には、既に3人だけしかいない。
敵の首魁堕天使ルシフェルと紅蓮ランガード正義王国国王と大炎元郷総統にして、キルヘッシュ・アクティア妖精王である。
グエンはじめ紅蓮の戦士は、全てをキルヘッシュ・アクティア妖精王に預けて、ただ見守ることしかできない。
紅蓮の覇王ランガードが、ルシフェルを見て
「もうおめぇ一人しかいねぇ、降伏するんなら受け入れてやんぞ」
「愚かでバカな、紅蓮の王だ。ここにきて我が降伏するとでも思うのか!!」
二人の会話を聞いて、キルヘッシュ・アクティア妖精王が我が主君に首を垂れながら会話に加わる。
「王よ、私へのお気遣いは無用です。この男を今では兄とは思っておりません。今の私にとって、一番大切なものはあなたです。ランガード王よ」
「はっはっはっ、かつて我の弟と呼ばれていた、キルヘッシュも惰弱者になり果てたものよの」
「己が主君を持つ幸福感を知らぬ、お主に同情はするが、ここでお主の謀略は終わるのだよ」
ランガードは二人の気持ちを確認して、キルヘッシュの肩をポンと叩き、何も言わずに深紅の外套を翻して、自軍に戻っていく。
ランガードが、戦闘区域から離れたのを確認するとルシフェルはスラリと、とてつもない邪悪なる剣を抜いた。
ランガードが、、、、
リューイが、、、
異界侵略戦役を前線で戦った、【火の民】紅蓮の戦士たちは驚愕の目で、ルシフェルが抜いた剣を見つめて恐怖した。
それは【歪な剣】異界の王が、使っていた生きた剣。
生命を持つように、蠢き、敵を貪る。
邪悪なる歪な剣。
何故、ルシフェルが所持している?
異界の王を討伐した時に、あの剣も一緒に滅んだのではなかったか!
ランガードもリューイも同じく考えた。
だがあの時、剣の事迄、確認できるような状況ではなかった。
ランガードは片目を失い、死に損なっていた。
リューイは、背中をあの歪な剣で切り裂かれ、今も背中には傷跡が歪に残っている。
どのようにかして、ルシフェルはあの【歪な剣】を手に入れたのだ。
その方法は、わからないが現実にルシフェルが今手にしている剣は、まごうことなきあの異界の王が持っていた歪な剣だ。
キルヘッシュ・アクティア妖精王は、異界侵略戦争の時は、悪魔族に落ちていて、その内容を知らぬ。
だが、この剣の異常さ、異質さを身体全てで、感じていた。
声に出しては、全く違う感想を述べる。
「お主には、似合いの剣であるな」
「ふん、お主をこの歪の剣で、血祭りにしランガードと家族諸共、地獄に送ってやるわ!!」
キルヘッシュ・アクティア妖精王が細剣を引き抜き、自分の顔の前で一直線に天に向け刃を掲げる。
シャン!!
「それだけは、我が命に代えても、許さぬよ!」
キルヘッシュ・アクティア妖精王の周囲から、風が吹き出し始めはそよ風のような風が次第に暴風となり、キルヘッシュを中心に竜巻を起こす。
「今更 名乗る必要はあるまいが、紅蓮のランガード正義王国総統キルヘッシュ・アクティア参るのである。」
暴風の音で、相手に聞こえたかは判らぬが、キルヘッシュの宣誓は、ランガードの心には響き渡った。
キルヘッシュ・アクティアとの付き合いは、リューイやシュス、リスティアード皇帝陛下などと比べると、まだまだ浅い時間しか共にいないが、ランガードの心の中では、絶対の信頼感と強さに関しては、自分と同等と評価している。
もし、キルヘッシュ・アクティアがこの戦いで万一にでも負けたのなら、自分でも勝てぬ相手としてルシフェルを認めるつもりだ。
所詮、それぞれの思いを貫くには、至って単純な自然の摂理である弱肉強食が各々の【正義】を決める。
だからこそ、負けてはいけないのだ!!
異世界侵略戦役の時も同じだ。
負ければ、蹂躙され征服される。
共存が不可能な相手には、大切なものを守るために、敵を滅ぼすしかないのである。
っで、無ければ己が滅ぶことになる。
それは、すなわち、己の正義を貫けぬことにつながる。
ランガードの存在意義は、初めから己の正義を通すために【力】を欲していた。
【力】を手に入れても尚、己の【正義】を変えぬ揺らぎない強き心が、これだけの人間に慕われ、王として族長として、夫として、親友として、皆 ランガードに着いてきてくれるのだ。
ルシフェルとキルヘッシュの兄弟対決は、既に始まっていた。
キルヘッシュは、風の妖精を使役し竜巻を起こして、風刃を無数にルシフェル目掛けて、放つ!!放つ!!放つ!!
ルシフェルは、全く同様せずに左手で歪の剣を持ち、右手を真横に振り、無数の風刃を悉く、打ち消す。
キルヘッシュは、間を置かずに次の攻撃を仕掛ける。
水刃が沸き上がり、雷鳴が轟き、地面より無数の石で出来た槍が襲い掛かる。
一瞬にして、複数の妖精を使役し、最大攻撃をかける。
妖精王と呼ばれる、所以である。
しかし、ルシフェルにはキルヘッシュの渾身の全ての攻撃が、一瞬で相殺される。
ルシフェルの能力とは、キルヘッシュと同じ自然界の力を自由に操ることが出来る事だ。
キルヘッシュとの違いは、キルヘッシュはそれぞれの妖精を呼び出し、使役するがルシフェルは、自然そのものを自由に扱える驚異的な能力なのだ。
天帝皇王様に反旗を翻すほどの、能力の持ち主。
それがルシフェルだ。
戦闘は次第に、激化を増していく。
キルヘッシュは、より強き妖精を次々と呼び出し使役する。
ルシフェルは笑いながら、その攻撃を自らの能力で、相殺しかわす。
余裕すら感じられる。
キルヘッシュ・アクティアの端正な頬に、汗が伝う。
この場が、モリビス大森林という大自然が近くにある為、キルヘッシュはルシフェルと互角に戦える。
自然が多くある所には、強き妖精が多くいる。
これが、都市部や人間が多く住まうところでは、それほど多くの妖精はいない。
大地が割れ、雷鳴が鳴り響き、水で出来た槍が無数に襲い掛かる。
端から見れば、天変地異の地獄絵図だ。
とても、人為的な戦いとは思えないほど、苛烈さを増していく。
だが、当事者であるキルヘッシュ・アクティアと堕天使ルシフェルに傷は一切つかない。
お互いの力が、均衡しているためだが、キルヘッシュ・アクティアには、焦りがあった。
能力が互角なら、ルシフェルにはあの【歪の剣】がある。
ランガードやリューイが、驚きの目で見つめていた、どんな力を発揮するかわからない武器を持つ。
激しい風と雷撃の超常現象の中、それは突然襲い掛かってきた!!
ビュン!!
荒れ狂う、空間の中を【歪の剣】が唸りをあげてキルヘッシュに襲い掛かる。
刹那、キルヘッシュの右足が切断され、大量の血を振りまき切断される。
「くっ!!」
キルヘッシュは、剣を地に突き立て左足片足で、何とか立っているが、【歪の剣】は更に無軌道に蠢き襲い掛かる。
次の瞬間、キルヘッシュの左腕が、鮮血と共に吹き飛ぶ。
キルヘッシュは、かろうじてまだその場に立っていた。
大量の血を流し、激痛に耐えながら普段の紳士然とした、様子はそこには一切なかった。
ザワザワザワ
【歪の剣】から生えた、歪の小剣が生物の様に蠢く。
ルシフェルが、残忍な笑みを浮かべ実の弟に最後の言葉をかける。
「無様よな、キルヘッシュよ。だが、安心するがよい、直ぐにランガード一家も同じように、細切れにして地獄に落としてやる」
「そうはいかぬよ、兄者よ」
キルヘッシュの最後の攻撃が、放たれようとしていた。