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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
151/173

リンの死闘

ランガード軍団にとってはとても、珍しい事が起こっていた。


常に沈着冷静、感情的にならない男が今は、感情をむき出しにして、主君であり親友であるランガードに噛みついていた。


リューイ准将である。


「なぜ、決闘にリンを出す許可をしたんですか!僕とイグシア様でも奴らの次席にやられたんですよ」


興奮収まらぬ、リューイだが始めて愛する異性を大切に思う感情を自分でまだ上手くコントロール出来ていないのだろう。

若気の至り、、、ではすまぬのが


ここ


戦場だ。


リューイは自分を制御しきれずに感情のまま噛みつく。


「まさか、リンがメルビル獸様に対して、暴言を吐いたことをまだ根に持っているんじゃないでしょうね!」


ランガードは、静かに、そしてゆっくりとリューイの方を向く。

年長者の余裕からか、親友を思いやる気持ちのせいか


ランガードは感情的にはならずに、隻眼の目をリューイに一瞥(いちべつ)して一言


「俺が、そんな男だと思うか?」


「くっ!」


そんなことは、とっくにわかっている。

ランガードを我が主君と決めた時から、この人に()いていくと決めた時から、自らの部族の(おさ)と決めた時から、、、


そんなことはとっくにわかっていた。


だが、今 大切な恋人を死地に追いやろうとするランガードに対して、感情をむき出しにしてしまった。


言ってはいけないことを今、自分は言ってしまった。

後悔と恋人を思う気持ちが、複雑に混ざり合い交差する。


すると、リューイの背中をそっと(さす)る、女性の手があった。

その女性は、優しく優しく自分の手をリューイの背中に乗せながら語る。


「リューイさん、信じましょう。王とリンさんを!」


「奥方様、、、、」


そう、リューイの背中に手を置いたのは、銀麗の誇り高きシュシィス・スセイン王妃だった。


「私の夫は、部下を見殺しにするような薄情な人ではありません。あなたが一番よくご存じのはずです。」


「あの人が、リンさんに任せたのなら大丈夫です。二人を信じましょう」


リューイは苦渋の表情をする。

理性ではわかっている。だが、感情が追い付かない。


自分はまだまだ未熟だ。


思わず、自分を責めてしまう若き紅蓮の戦士が長。


そんな、リューイの自責の念とは別に、ランガードはリンに話しかける。


「お前が、一人で皆より何倍も訓練をしてきたことを俺は知っている(・・・・・)。」


リンは驚いた。


リンは、3年前不死鳥騎士団に入隊直ぐに、当時 黒龍騎士団団長アルセイス・アスティア・アグシス武神将に訓練を付けてもらった時から、一日も欠かさずに【天の真甦】を磨き練り上げる自己鍛錬をずっと、仲間が就寝した後、一人で行ってきたのだ。


それを、ランガード団長は「知っている(・・・・・)」と言う。


リンが、メルビル獸に対して、誇りを失する失言をしたことを後悔しているのも事実なら、リンが3年間積み重ねてきた鍛錬(たんれん)も事実。


相手は現存する、悪しき神吸血鬼族、3強鬼族豪()の席に座すダル・メッツ。

強敵も強敵。


万全の体調のリューイでも、勝てるかわからぬほどの悪しき強邪神。


帝国騎士の誇りと強さの象徴である、【武神将】でも勝てるかわからない。


それほどの相手だ。


ランガードは、その敵と一騎打ちの決闘をリンに許可した。


今のリンの実力は、武神将以上であると、ランガードは知っている。


とはいえ、自分が出れば済む話なのだが、リンの【覚悟】を尊重した。

自らの命と責任において、、、


部下に戦って死ねと言う、上官は腐るほどいるが、その責任を真剣に取る指揮官がどれほどいるか?


勝てば、自らの軍功として誇り。


負ければ、兵士のせいにする。


そんな、指揮官は腐るほど見てきた。


紅蓮の覇王ランガードは、生まれた時から一貫して違う。


全てを自らに背負い込み、決して罪から逃げない。


そして、誇り高き氷結の女王シュシィス・スセイン王妃は、その事をよく理解している。

だからこそ、結婚し子を授かったのだが、プロポーズは未だされていない、、、



話は戻り、堕天使ルシフェルら3人が立つ、前には13万を超すランガード軍団。とはいえ10万はエルフ族で、全て戦士ではない。


漆黒の鎧を邪悪に着込み、悪逆の天使ルシフェルは、残忍そうに言う。


「ランガードとは、やはり愚か者よな。自分が出るならまだ勝ち目もあろうものを部下を出してくるとは、愚か者を通り越して卑怯者と呼ぶべきだな」


紅蓮の覇王ランガード王は、そんな簡単な愚劣な言葉に踊らされる事はなかった。


己が部下、仲間たちの実力を信じ、苛烈なる覚悟を炎と共に吐き出す。


「おめぇら、誰か一人でもうちの連中に勝ったら、俺の首をくれてやらぁ!!」


「「「「!!」」」」


決闘に選ばれた、3人とリューイが驚愕の目で自らの王を凝視する。


炎身体のグエンが叫ぶ!!


「それなら、僕とフェリアとオヤジでやればいいじゃないか。」


そっと、グエンの肩に触れるシュシィス・スセイン王妃。


「お父様の戦いをしっかり見ておきましょう、グエン。」


「お母様、でももし、、、」


シュシィス・スセインは軽く首を振り、グエンのそれ以上の言葉を許さなかった。



決闘に名乗り出はしたが、まさかこんな展開は全く想定しておらず、一番驚いているのは名乗り出た本人たちである。


それなら、自分で戦えばいいものを!

その方が、何万倍も勝てる確率は上がるというものだ。


何故、自分たちの我儘(わがまま)を通して、その責任を自分の命で補うとは、どんな愚か者でもしない行為である!


今更であるが、紅蓮の覇王ランガード・スセインという男の真骨頂を見た気がした。


「はっはっはっ~!これは、これは、愚かな事を言うものだな!!」


「部下に、自分の命を懸けるとは、、、やはり貴様はお人好しの愚者よな」


ランガードは、燃える隻眼でルシフェルを睨み。


「ほざけ!!おめぇみてぇえな何千年もかけて、こそこそ戦うせこい(・・・)野郎には、わからねぇだろうがな、俺の【正義】にはやる時はやる!!【俺の正義】を邪魔する奴ぁ全て焼き払うんだよ!!」


「それになぁ、はっきり言っとくが、うちの全員おめぇらより弱いなんざぁ、これっぽっちも思ったこともねぇからな!!」


キルヘッシュ・アクティア妖精王始め、リン、岩・破砕(がん・くらっしゅ)3人の心に強く響く言葉だった。

何がなんでも、我が主君の命を失わせるわけにはいかない。

たとえ刺し違えても、敵を倒す!!

強く心に刻まれた瞬間だった。


黒き鎧と心を纏った、堕天使ルシフェルは残忍な笑顔でこっちの思惑通りよとばかりに、残忍そうに笑う。


「はっはっはっ、よいよい。では始めるとしようぞ。」


「初戦は、こちらは3強鬼族豪()の席に座す。ダル・メッツそちらはその可愛いお嬢さんでいいのかな?」


リンは誇らしく、胸を張り、強敵相手に堂々と宣言する。


「アースウェイグ帝国軍所属 不死鳥騎士団、千竜騎士長リン参ります。」


ルシフェルの右横に立つ、ダル・メッツが一歩前に出る。

それだけで、邪悪な空気が舞、振り広がる感じを受ける。


「お嬢さんの血は美味しいですかな?」


「おっと、処女ではありませんか、残念です。」


リンは恥じることなく変わらずに堂々と


「あなたと会話する意味を感じません。!!いざ尋常に勝負しなさい。」


リンの双方の目が、黄金に輝く。

千竜騎士長を表す、腰まである外套が翻る。

リンの愛剣は、長さは丁度中くらい、両刃だが厚みの無い薄くやや細い剣だ。


妖精族が、愛剣として使う細剣レイピアほど、細くも長くもないが、彼女には帝国騎士になった時から毎日欠かさずに練習鍛錬を共に行ってきた、パートナーだ。


あの異世界戦役もこの剣で、戦い生き残り勝利したいわば自分の半身と言えるほど、使い慣れた剣であった。


リューイも他の紅蓮の戦士ももう、一言も口を利かなかった。

愛する我らが王が族長が主君が選んだ決断に、口をはさむ無礼は自分たちには出来ないとばかりに、周囲はしんと静まり返り、ただ決闘の第1戦を凝視するだけである。


心の中で、魂をかけて叫び、応援するしか彼らには出来ないのである。


ダル・メッツが残忍そうに笑い


「では、参るよ小娘。」


ダル・メッツは漆黒の長剣を鞘から抜き放つと同時に、背中より薄く黒き邪悪そうな羽根を広げた。


羽根?翼?


蝙蝠(こうもり)のような、薄く爪がある。翼の端から端まで約5メートルほどだろうか、ランガードの炎竜帝の炎翼とは比べるほども無く小さいが、すばしっこさにおいては群を抜いていた。


刹那!!


ダル・メッツは翼で宙を飛び、長剣を抜いたまま高速でリンに襲い掛かる。


早い!低い!


リンは相手に合わせて、すぐに上空に【天の真甦】を使って飛行し、上空からダル・メッツめがけて能力を解き放つ。


キン!!


黄金に一帯が染まる。


光が収束すると、ダル・メッツの右腕が消し飛んだ状態で横たわっていた。


起き上がり、邪悪な長い犬歯を残虐に口から出して


「【天の真甦】所有者ですか、珍しいですね。しかしあなたの力では、私の片腕を消滅させるのが、精一杯の様ですね」


と言ってるそばから、ダル・メッツの右腕が生えてくる。


【グニョリ】と消滅した部分から新しい右腕が生えてくる。


右腕が、来ていた服、鎧、全て元のままに再生した。


どんな仕掛けになっているのかわからないが、身体だけでなく、来ていた服装や鎧、剣迄も再生した。


しかし、リンは全く動じない。

想定内とばかりに、次の攻撃に移る。

有利な上空にいるうちに、殲滅(せんめつ)しようと


リンの双方の目が、黄金色に輝き。

先ほどと同じく、周囲を黄金色に染める。


また、同じようにダル・メッツの右腕が消滅する。


違うのは、ここからだ。


リンは続けざま、天の真甦の能力を開放する。

幾度となく、周囲は黄金色に光り輝く。


その神々しさとは正反対に、ダル・メッツの身体が消滅欠損していく、、、


再生が追い付かないほど、リンは天の真甦の能力を連発で解き放ち続けた。

一度に消せないのなら、再生する前に部分的に連続して全て、消してしまおうと。


ダル・メッツの右足が消滅し、左の翼が消し飛ぶ、、、、


どんどん、ヒトとしての形を失っていくダル・メッツであった。


「くっくっくっ、、、」


ボロボロになりながら、ダル・メッツは悪逆に笑う。


「やるねぇ、お嬢さん。でもいい気になるのはここまでだよ」


ダル・メッツの暗黒の吊り上がった、暗黒な双方の目が不気味に力を増す。


右手、右足、左翼が無い状態で、ダル・メッツは地上から消えた!!


次の瞬間


上空にいるリンの真上に現れる。


残った、左手で漆黒の長剣をリンに向かって振り下ろす。


咄嗟の行動であった。


リンは考えることなく、自分の頭の上に愛剣をかざし防御する。


ガツン!!


剣と剣がぶつかり合った次の瞬間、リンは地上に向かって(はじ)かれた様に吹き飛んだ。


ZUN!!


地上に背中を強打する。口から血が吹き飛ぶ。


「ぐはっ!!」


(あばらを何本か持っていかれたな、、、)


冷静に状態を確認する。リン自信まだ、負けるつもりなど微塵(みじん)もない。


立場が入れ替わり、上空に羽搏(はばた)くのは吸血鬼族

最強の邪悪なる戦士。


その姿は、リンに消滅させられた体をどんどん修復し、ほぼ元通りとなっていた。


「お嬢さん、君が並みの戦士でないのはよくわかったよ。」


「誇っていいよ、私に負けたことをね」


悪逆に口を歪めながら、上空から片膝をつきながらも立ち上がるリンめがけて、漆黒長剣を振りかぶる。


先ほどのダル・メッツの剣の威力からして、この一撃でリンの敗北が、、、命が終わると誰もが感じた。


リンは、片膝をついたまま、愛剣を真上に向けて、ダル・メッツの最強の威力を誇る、漆黒の剣をまともに受ける。


ガン!!


「ぐぅ」


リンの口端から血がしたたり落ちる。


しかし、ダル・メッツの渾身の一撃をリンは何とか防いだ。


愛剣に【天の真甦】を注ぎ込み、威力をある程度(・・・・)弱めていたのだ。


黄金に光り輝く、リンの愛剣。


「ほっほっほっ、この娘には驚かされてばかりですねぇ」


「では、その血をいただきましょうかね~」


ダル・メッツは剣を絡ませたまま、口を大きく開けリンの首筋めがけて牙を突き立てようとする。


「この距離を待っていたのよ!!」


リンは叫び、左手一本で剣を支え、右手で拳を作る。


その拳で、ダル・メッツの顔面を殴る!!


雷撃と共に!


バチバチバチ!!


「ぐわぁ!!」


吹き飛びのたうち回る、ダルメッツ。


なんとリンは、アルセイス・アスティア・アグシスから密かに享受(きょうじゅ)されていた【雷撃】を修復不可能と思われる顔面に拳と共に放ったのである。


リンは続けざま、立ち上がり愛剣に天の真甦と電撃両方を流し込み、ダル・メッツの首めがけて思いっきり振り切る。


バチバチ!!


シュン!!


ダル・メッツの首は胴体から離れ、瞬時にこの世界から消し飛んだ。


リンの大勝利である。


紅蓮ランガード正義王国の初戦は勝利で飾った!!


沸き立つ、ランガード軍団!!


『うぉおおおおー!!』


『リンの大勝利だ!!』


シュシィス・スセイン王妃は治癒部隊長メイラを見て


「メイラさんは疲れているでしょうから、誰かリンさんの治癒に行ってもらえますか?」


メイラはイグシア鷹王の横に座っていたが、スクッと立ち上がり


「大丈夫です。私が行きます。」


「すいませんが、よろしくお願い致します。」


シュスはメイラと共に、リンの所まで小走りして向かっていく。

なんといっても、リンも紅蓮の戦士とは言え、年頃の女性である。

男性に治療されるのは、流石に恥ずかしいだろうと言う、女性ならではの気遣いである。


一方堕天使ルシフェルは、悪逆な憤怒の表情で


「バカ目、小娘だからと油断しおって!!」


バキ!!


自らの持っていた杖を真っ二つに折り曲げてしまった。


そして、決闘第2戦


吸血鬼族 3強鬼族豪 最強(いち)の座に座す。

ガーベィ・ダグルスと【火の民】紅蓮の5柱、超高熱巨体の岩・破砕(がん・くらっしゅ)の対決が始まる。

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