軍議
大炎元郷 爆轟赤炎城 【紅蓮の間】
温泉で、ホカホカした体とは別に、心の中に緊張という闘志を燃やし、皆次から次へと集まってきた。
ランガード国王、キルヘッシュ・アクティア総統、東海白竜王ベルフェム、紅蓮の5柱長リューイ、近衛隊長イグシア、第1軍から4軍迄の軍団長とその幕僚、そこにはもちろんリン千竜騎士長始め、各千竜騎士長が集まっていた。
そして【火の民】火玄・暁始め、主だった顔ぶれ、ヴォルグス砦城主 北方面司令官ロリーデ・ガルクス閣下、先々代剣聖ビル・ヘイム卿が集まっていた。
そして、ランガード国王の横には王妃である、氷結の女王シュシィス・スセインが子供のグエンとフェリアを連れ集まっていた。
出入り口はじめ周囲は、【火の民】紅蓮の戦士が警備警戒に当たっていた。
そして、こういう時の司会進行に欠かせないのが、不死鳥騎士団副団首にして、紅蓮の5柱が長リューイ准将である。
「皆様、早朝からお集まりいただき、誠にありがとうございます。」
「既に、通達済みであると思いますが、イグシア様より進言されました、【悪しきエルフ族】討伐について軍議を開きたいと思います。」
紅蓮の5柱、初瀬・燕率いる、神速部隊は既に、大陸西方に調査に出発しており軍議には参加していない。
「未知の敵であると言う事もありますが、こちらには唯一敵軍を退けた経験をお持ちのイグシア鷹王様がおります。まずは、イグシア様に意見をお聞きしましょう」
イグシアが堂々と褐色の逞しい身体を音も無く【紅蓮の間】中央に歩み出る。
「奴らの厄介な点は二つ、一つは岩や土、草木、鉄などを自由に形を変え時には武器として、時には乗り物として自在にこなす特殊能力にある。」
「もう一つは、人間の血を吸って、仲間を増やすという点だ。」
ザワザワ
【紅蓮の間】に集う、皆が想像を超える未知の敵の能力にざわつく
「皆様お静かにお願いします。迅速に確実に動く必要性が生まれるかもしれません。慌てず、無駄に騒がず、方針を固めたいと思います。」
リューイは大声で、宣言し皆を黙らす。
「それでは、イグシア様具体的な対応策はどうしたらよいでしょうか?」
褐色肌の鷹王は、どんな時も変わらずに
「普通の人間では、絶対太刀打ちできない。逆に敵を増やす結果になる事が多い」
「強い真甦を持った、戦士とドラゴンでの攻撃が実用的と考える。特に【火の真甦】はとても有効だ。万一、奴らに手を噛まれたら、噛まれた手を切り落とし、首を噛まれたら自害する。」
「そう言う事が出来る、戦士達だけの一撃全滅戦を進言する。」
「そうすると~我らが妖精族は~全員参加した方が良いであ~るな」
「悪しきエルフとは~長年の宿敵でもあるのだ~ね」
紳士姿で正装した、妖精王は一番初めに決意表明し、参戦を宣言する。
第1軍団【火の民】紅蓮の5柱岩・破砕もその巨体を揺すぶって、大きく通る声で
「【火の民】も【火の真甦】は敵に有効との事であるので、参戦仕ります。」
「私達、不死鳥騎士団も強き真甦の所有者の帝国騎士でもあります。参戦をお認め頂きとうございます。」
リン千竜騎士長が、両眼を黄金に輝かせながら、立派に発言する。
先だっての、メルビル獸に対する、失言を挽回する機会とも捉えているのかもしれないが、【黄金の真甦】はどんな敵にも非常に有効であるのは事実である。
そして、不死鳥騎士団の戦闘経験は、非常に有益であろう。
不死鳥騎士団は【火の民】3千名を岩・破砕が率いていたが、現状では【火の民】3千名は現存するが、各千竜騎士長の配下に分散されていた。
新たに第1軍団を岩・破砕が軍団長となり、【火の民】紅蓮の戦士1万を選抜したのだ。
戦闘部族として、長年生活してきた【火の民】の層の厚さを実感する事実である。
亜人族の若き長も、立ち上がる。
俺は立ち上がった、メルビル獸を睨み
「今回は、おめぇ等の出番はねぇぞ。」
「ぐっ、な、何でだよ!」
リューイが口をはさむ。
「第3軍団長、国王には敬語を使って下さい。」
亜人族の若き長は、グッと拳を付きりながらも
「し、失礼しました。」
俺は「お前たちの得意とする、隠密、密偵は今回は必要ねぇかんな、一撃全滅掃討戦だ。悪いが、今回はここで俺の家族を守っていてくれ」
メルビル獸は渋々だが「わかったぜ、国王の家族は俺達がぜってぇ守って見せるぜ」拳を突き上げ、戦闘意欲と一緒に突き上げる。
俺が、机から立ち上がり、その場にいる全員を見回す。
「こりゃ、【平和】だ【正義】だ言ってられる、戦いじゃねぇ!」
「滅ぼさねば、こっちが滅ぶ、人類の存続をかけた戦いだ。」
「敵の兵力も所在もまだ、わからねぇが、こっちの兵力は、俺が総大将となり、幕僚にリューイ、ベルフェム、イグシア。本陣直衛に旦那の妖精一族、先陣には【砂漠の民】と【火の民】が当たり、第二陣として不死鳥騎士団が付く。ドラゴンたちは遊撃隊としていつでも参戦できるようにしとけ」
総勢約3万の兵力である。
大炎元郷となって、初めての闘いでこの兵力はとても大規模な物である。
それだけ、相手がヤバいとランガードは感じているのだろう。
俺は愛する妻に向かって尋ねる。
「フェリアは、未来の予想を見えているのか?」
高潔なる銀髪のシュシィス・スセイン王妃は、愛する娘を抱きながら
「フェリアにも、この未来は見えないようです。」
「ただ、西から大いなる闇がやってくると申しております。」
俺はシュスの言葉を聞き、予感が実感に変わり、実働準備を命じる。
留守役の責任者には、紅蓮の5柱門・夷塚を選任し、ロリーデのおっさんとビル卿には北方の警護を厳重に依頼し、シュスには国王代理として、大炎元郷を任せた。
門・夷塚の特殊能力【透過】は、大変有用だ。
が、未知の敵に効くかどうかも判明しない為と、絶対攻撃力量に劣る、門・夷塚には、留守役を命じた。
そこで、リューイが俺に問いかけてくる。
「リスティアード皇帝陛下並びに、ランガード王国の騎士に序列されてる、各国に対してはどのようにしますか?」
「大将には、俺から伝えておく。仲間の国には、大将から連絡してもらおう。」
「わかりました。」
直ぐに、ハキハキ返事し、次の行動思案に入る優秀なる親友だ。
「旦那様、お話ししたき事が」
妻の銀麗王妃が、困った顔で、俺を下目使いに見る。
高潔の女王にしては、とても珍しい出来事だ。
「どうした?」
「はい、その、、、グエンが申しております。」
「なんて?」
「俺を連れて行けと」
「はぁ~?何言ってんだよ、0歳で戦場に行こうってのか、馬鹿言ってんじゃねぇよ」
「グエンが申しております、、、」
「そ、その馬鹿野郎は、オヤジの方だと、、、」
(グエン、訳すのに困る様な事は言わないで下さいな)
(お母様は、単細胞オヤジが死んでも良いの?)
(!!)
(あなたが、ランガードを守って下さると、、、)
(任せてよ、僕はこう見えて、親孝行なんだ。)
(わかまりました。私の愛する夫を守って下さい。)
シュシィス・スセイン王妃は凛と胸を張り、良く響く声で高らかに声明と覚悟を発言する。
「無理も無謀なのも、承知で申し上げます。」
「旦那様、どうかグエンを同行させて下さいまし。」
「な、何だって!!戦場で、誰が一体ガキの面倒を見るんだよ」
「それは、私が承ります。」
亡き紅蓮の5柱界・爆弾の妻、武照・爆弾が、進み出る。
「私も、戦士の妻です。立派にお務めを果たしましょう。」
「おい、おい、無茶言うなよ。女子供を戦場に連れて行く訳にはいかねぇよ!」
正装した紳士、妖精王である、キルヘッシュ・アクティアが以外にも口をはさみ込む。
しかも、帽子を脱ぎ、杖を置き、右膝を床に付けて
「ランガード国王よ、王妃の言をお聞き入れください。」
(こいつ、普通に喋れんじゃねぇか、、、それだけ真剣なのか?)
リューイも言ってくる。
「王妃にキルヘッシュ様が、ここまで申すにはきっと、意味がおありと思われます。」
「今回は、お聞き入れてみてはどうでしょうか?」
「お前迄、そんなこと言うのかよ、、、」
「・・・・・・・・・」
「わかったよ、但し俺が危険と判断した時は、リューイおめぇが責任もって、2人を戦場から離脱させろよ」
「了解です。」
右手を左胸にあて、リューイは上官に対する、略式敬礼をする。
(全くとんでもない事になってきたもんだ、、、)
リューイは即座に、全員に指示を始める。
「それでは、各員速やかに行動に移って下さい!」
「糧食、医療品は、1ケ月分は用意して下さい。治癒部隊への同行を連絡通達して下さい」
「出撃予定時間は、明朝 陽が昇り次第出撃します。」
「族長、どうぞ」
リューイに促されて、俺は頭が混乱している中、皆にまたもやランガード節を披露してしまう。
「やばい敵に、どうなるかわからねぇ戦いだが、ぜってぇ負けんじゃねぇぞ!」
「もし負けたら、全員焼いてやるからな!」
「負けても、焼かれたのでは勝つしかないのであるな」
白き竜王は平然と突っ込みを入れる。
ランガードを崇拝する連中の中にいて、リューイとベルフェムだけが、ランガードに突っ込みを入れられる唯一の存在なのかもしれない。
しかし言葉や行動とは裏腹に、2人は心の中では、ランガードの事を一番に思っているのである。
【紅蓮の間】は、一斉に動き出し、そこにいる全員が一切無駄な言葉を吐かず、的確な行動をする。
鍛えられた、戦士のみの集団だからこそできる、大掛かりな戦準備である。
俺は、一人壁に背中をもたれかせて、両腕を組んで隻眼の目をつぶる。
(大将、朝からすまねぇが、今いいか?)
(おはよう、ランガード随分早いね)
(ああ、何かとんでもねぇ事が起こっているみてぇだ)
(どうしたの?)
(大陸、西方から【悪しきエルフ族】って奴等が、この大陸に侵攻を企んでる可能性があるそうだ。)
(【悪しきエルフ】、、、たしか、キルヘッシュの一族だった者が、統制しているんだよね、、、)
(キルヘッシュの旦那の仲間だった奴が、、、)
(うん、そう、、、たしか、、、名前は【堕天使ルシフェル】。キルヘッシュと仲たがいして、悪に堕ちてね、どうやったかわからないけど、仲間を増やしたんだね。)
(だから、旦那はグエンを連れて行けと真剣に言っていたのか、、、)
(えっ、グエンもこの戦いに参加するの?)
(そうなんだよ、シュスやキルヘッシュやリューイからも言われちまってよ~)
(・・・・・・・)
(わかった、こちらの方は全部、僕に任してくれていいよ。その代わり、状況を逐一報告してね)
(ああ、わかった。偵察隊は既に先発していて、俺達は明朝3万で出撃する。)
(了解、気をつけて)
(ああ)
隻眼の眼を開けた時には、ランガードの目は赤々と燃え滾っていた。
中央付近で、指示を飛ばし続ける、キルヘッシュ・アクティア妖精王に俺はゆっくりと歩いて近づいていく。
キルヘッシュは、俺が話しかける前にこちらを向き話してきた。
「ルシフェルは、私の兄なのだよ~、天帝皇王様に変わり天界を支配しようと目論見、私が打ち倒したのであ~るよ。」
「とどめをさせなかったのが、吾輩の甘さであ~るな。そのツケが、ランガード国王に回ってしまったのであ~るのはとても不本意であ~るよ」
「実の兄貴を早々簡単に、殺せるもんじゃねぇだろ、俺には兄弟がいないんで、わからんが、、、、家族がもし、悪に手を染めたとしても簡単には焼けねぇよ。」
「気にする事じゃねぇよ、ただし今回は断ち切ってもらうぜ」
「御意であ~る」
「ふっ」っと、思わず笑みがこぼれてしまう、業火と正義を纏うランガード・スセイン国王にして、武神将、伯爵である。