爆轟赤炎城【正義の間】
10万人を超える人数が、全て落ち着くまでは数時間を要すだろう。
そこで、一足早く主要な立場の者は、ランガード王国居城であり、絶対に燃え尽きない炎の城【爆轟赤炎城】の中にある【正義の間】に集合した。
メンバーは、ランガード、妻のシュス、リューイ、キルヘッシュの旦那、ベルフェム、イグシア鷹王、メルビル獸、紅蓮の5柱の3人と紅蓮の戦士数人(火玄・暁含む)、リンを含めた不死鳥騎士団千竜騎士長たち(フーカ・セロ千竜騎士長はアーセサスにいる為欠席)、ロリーデのおっさんとビル卿、アースウェイグ帝国軍警護団大隊長と副官が、円座に座っていた。
周囲は【火の民】紅蓮の戦士が、警戒警護に当たっていた。
まぁ、このメンツをどうにかできる人間など、この大陸にはいないだろう。
アースウェイグ帝国皇帝リスティアードでも、勝ち目は無いと言わざるを得ない非常に個性的で強力な大戦力である。
床にはふかふかの絨毯が敷かれ、俺達はその上に胡坐を組んで座っていた。
キルヘッシュの旦那は、杖を横に置き帽子を取り紳士然として正座し、ベルフェムは女性の様に横座りしていた。
もちろん妻のシュスも、両足を並べて横に出して、銀色真っすぐ伸びた髪を床に着け座る姿は、やはり【美しい】。
それぞれ座り方に個性が溢れていて、メルビル獸など膝を立てて長い爪をかじりながら、座っていた。
イグシアも胡坐をかいているが、愛剣である曲刀を膝の上に乗せいつでも主君である、ランガードと家族の守る決意を無言で表している。
こう言う場面ではいつもの様に、リューイが取り仕切って司会をし、話を切り出す。
「僕は、不死鳥騎士団副団長をしてますリューイと言います。」
「初対面の方々も多くいると思いますが、今日はこれからのランガード王国の方針と組織図を作り上げたいと思います。」
「個々の人間関係は、今後同じ大炎元郷に住まう者同士、築いて行って下さい。」
「ここまでよろしいですか?」
リューイが俺の方を見て、確認を取る。
実に優秀な副官だ。
俺は「ああ」と答え、話を進めさせる。
「それでは、僕が勝手に考えた方針と組織図の原案をお話しするので、ご意見がある方はその都度、手を挙げて発言して下さい。」
「まず、ランガード王国の存在意義ですが、この大陸全てに【正義と平和】を築く為の国であり、国境のない、他国への干渉も【正義と平和】の為ならば、手段は一切選ばないという事。」
「国土は大炎元郷のみの国として成り立ち、国土を広げる事は一切しないと言う事。」
「そして、一番大事な事ですが、【正義と平和】を決める定義は最終的には、ランガード国王が全ての決定権を持つと言う事でよろしいでしょうか?」
「良いのではないかな」東海白竜王ベルフェムが賛同を口に表す。
「そうであ~るな、問題ないであ~るな」
キルヘッシュの旦那も、賛同する。
2人の同意を得て、リューイは話し続ける。
「それでは、大炎元郷の組織図ですが、最高責任者の国王はランガード族長です。そして、ランガード王不在の場合、責任者はシュシィス・スセイン王妃が代理として立ちます。」
「大炎元郷、それぞれの運営、行政、軍の最高責任者として、キルヘッシュ・アクティア様に【総統】として総統府を開設していただき要職についていただこうと思います。」
紳士らしくキルヘッシュの旦那が肘を降り、白い手袋をはめたまま手を挙げる。
「キルヘッシュ様、どうぞ」
「吾輩は~外様の者であ~る、そういった要職は、リューイ殿の方が適任ではないのであ~るのではないかな?」
リューイはしっかりはっきりと、物を申す。
「現存される、正真正銘神々の妖精王たる、キルヘッシュ様には、相応しい役職であると考えます。」
「それに僕には、国王の子守という要職が、あるので無理なんです。」
わっはははははあは~
一同が、大声で笑いだす。
一名だけ、隻眼の目で不機嫌さを表している、轟炎の覇王ランガードだけが納得いかない様である。
「族長、いいですよね」
リューイが、拗ねてる無敵の炎王に向かって、またハキハキとものを申す。
「いいんじゃね、、、」
拗ねながらも、返事はする。長身赤毛の覇王である。
リューイは仔細にかまわず、限られた時間で有効に物事を進めていく。
「総督府には、妖精一族の皆様と、それぞれ適任者を選抜して任官させます。」
「そして、総督府の下に、大炎元郷を管理運営する部門と、【正義と平和】を確立した他国を含む行政を司る部門と敵から守る為と【正義と平和】を全大陸に統一させるための軍隊を創設します。」
「まず、大炎元郷を管理運営する責任者として、【火の民】紅蓮の5柱初瀬・燕。そして副官に同じく【火の民】紅蓮の5柱門・夷塚を推薦します。」
「如何ですか?」
ランガードは「いいんじゃね」とまた、適当に答える。
リューイの判断に絶対の信頼を得ているからこそなのだが、
リューイと言う人間を知っている者ならば、彼の安定感、安心感、有能な処理能力、適切な判断力、リーダーとしての資質を全て持ち合わせているからこそ、ランガードいちの親友にして、最高の幕僚副官なのだ。
彼は、ランガードを自ら主君と決めた時より、ランガードの為に自分の人生を捧げる事を決めている。
言葉には決して口にしないが、、、
それが、リューイと言う男なのだ。
「それでは、皆さんも気になっていると思いますが、軍の組み分けを発表します。」
「ランガード軍団最高司令官はキルヘッシュ様ですが、その配下に第1軍団として、【火の民】紅蓮の戦士が入ります。軍団長は5柱岩・破砕が務めます。」
「第2軍団として、砂漠の戦士にお願いします。軍団長はイグシア鷹王様が良いと思うのですが、、、」
スッ
音も、気配も無く手が上がる
イグシア鷹王だ。
「どうぞ」
「第2軍団として、我ら砂漠の戦士が入るのは、問題ないが指揮官には私が砂漠の戦士の中より選任したいが、如何なものだろうか?」
リューイは変わらずハキハキと問いかける
「その理由をお聞きしてよろしいですか?」
イグシア鷹王は一言
「我は、主君の側に常にいる」
ランガードが隻眼の目をイグシアに向けて思う
(こいつも頑固で変わりもんなのは、わかっているつもりでいたが、てめぇの軍を率いるより俺の側にいると言うとはなぁ、、、)
リューイは即断即決する。
「それでは、イグシア様にはランガード王の近衛隊長として付いて頂き、第2軍の指揮官はイグシア様に選任をお任せします。」
「すまぬ」
(一応、悪いとは思ってんのね、、、)
「それでは、続いて第3軍団ですが、亜人族の皆様にお願いして良いですか?」
メルビル獸が、眼を輝かして立ち上がる。
「おう、任せてくれ!!」
(こいつもなんか、はじけてんな、、、)
「指揮官は、、、」
俺が、リューイに向かって口添えする。
「亜人族の若長、メルビル獸だ」
リューイと亜人族とは初対面の為、名を知らなかったのだ。
「それでは、第3軍団の軍団長はメルビル獸様にお願い致します。」
半獣亜人族の若長メルビル獸は、恍惚な顔になり呟く。
「軍団長、、、かっけぇな!」
「え~、それでは続きまして、第4軍団はアースウェイグ帝国軍所属の不死鳥騎士団に兼務してもらおうと思いますが、族長よろしいですか?」
「俺はかまわねぇが、大将がなんていうかな?」
「リスティアード皇帝陛下には、既に承認いただいております。問題なしとの事です。」
「あっそ、じゃ、いいんじゃねぇ」
ここに居る一同が、思う事だが、やはりリューイと言う人間の優秀さを改めて、感じずにはいられなかった。
多種多民族の混成部族にして、ランガード王国において、リューイと言う人物の重要な存在感をこの話し合いだけで、全員の心に埋め込まれたのだった。
リューイは更に続けて、話していく。
その姿を見て、リンは改めて恋心に火が熱く灯るのを感じた。
アースウェイグ帝国の下町の定食屋の娘に生まれた、リンにとっては、これだけの人物の前で、平然と堂々と全てを取り仕切る姿は、自分には過ぎた人物なのではないかと不安にさえ感じさせるほどであった。
「主力になる、兵力は以上の4軍団で構成されます。それとは別に北方面軍司令官として、ヴォルグス砦城主のロリーデ・ガルクス閣下に城兵1万5千に加え5千を足し、国境方面の警備をお願いします。」
「老骨ながら、重責果たして見せましょうぞ」
帝国貴族出身の元金獅子近衛騎士団副団長は、右膝を地面に付き、右手で拳を作り左胸に強く当てる。
アースウェイグ帝国流の騎士の礼だ。
「そして、遊軍としてランガード国王直属の部隊を2万ほど作りたいと思います。この人選については一般庶民より公募し、選びたいと考えます。」
「その、新兵に当たる2万の剣の指南役として、ビル・ヘイム卿にお願いできますか?」
「かしこまりました。」
低く、年齢の割にはとても腹に響く声で答える。
(相変わらず、迫力あんな、俺の剣の師匠はよぅ~)
「大炎元郷の警備、警察的役割に裁判官を【火の民】火玄・暁に1万名の【火の民】氏族の猛者を付け責任者としたいと思います。」
「ここまでで、何か質問、意見はありませんか?」
皆が、頷くだけで何も言わない。
俺が「いいみてぇだから、進めろよ」とリューイに向かって顎をクイッとひねり合図する。
「行政指導官として、アースウェイグ帝国より、本人の希望もあっての事ですが、ツバァイス・カーゼナル卿が就任したいとの事です。」
俺はツバァイス・カーゼナル卿のことはもちろん良く知っていたが「行政指導官?なんだそりゃ」
「まぁ、当面は初瀬や門の手伝いとなりますが、ゆくゆくは【正義と平和】の為に他国に干渉した際、必要に応じて、その国の行政を担当し、まっとうな国にしていくと言う事です。」
「アースウェイグ帝国は、それで大丈夫なのか?」
「その件も、リスティアード皇帝陛下に確認しておりまして、アグシス国務長官が当面、現役でいるから大丈夫との事です。」
「あっそ、、、」
(なんでも、手回しが良いのね、リューイちゃん)
「ベルフェム様には、今後もランガード王の客将として、その場状況に応じて、協力をお願い致します。」
「心得た。」
白き水龍使いは、納得の様子で悠然とした仕草で、リューイの要望に応える。
元来、生真面目に精進するタイプではなく、最小限の労力で最大限の効果を求めるベルフェムに、役職を与え、兵を指揮させるより、自由にさせていた方が、いざという時、頼りになると判断したのだ。
「グエン様とフェリア様の将来の、お役目について、話し合っていた方が良いと思うのですが、どうですか?」
「その件は、私どもにお任せください。」
氷結にして銀麗のランガードの王妃は立ち上がり、顎を凛と張り、宣言する。
「【火の民】武照・爆弾さん始め、我が子たちの育成は我ら女方にお任せください。殿方は【義】を尽くすため、【誇り】を持ってお励み下さい。」
高潔なる女王の宣言である。
「見事であ~るな」
「やはり、ランガード殿にはもったいないのだな」
白き竜王と妖精王は、お互いを見つめあい頷きあうのであった。
リューイは珍しくちょっと困った顔をして
「最後にその、、、」
珍しく歯切れが悪い。
「ドラゴンの件ですが、どのようにすればよろしいのでしょう?」
確かに、20匹のドラゴンをペットにするわけにもいかない。
どう扱うか、苦慮する事も良く分かるものである。
ランガードの中の【炎竜帝】がその場にいる全員の頭の中に響くように話しかける。
『我らが一族は、ここに集う同氏と同じ扱いで構わぬ。【義】を尽くすため、敵を焼き払い。万一炎元郷を襲撃する者がいたとしたら、全て大地の塵としてくれようぞ』
【炎竜帝】の一声で、とりあえず決める事は全て、決定した。
最後にリューイが
「それでは、皆様この後は祝宴をご用意しております。どうぞ、親交をお深め下さい。」
「「「「おおうっ!!」」」」
勇者は豪傑にして、酒豪であるのは昔から変わらぬ仕来りの様である。