炎元郷への大移動
俺は、黒曜天宮にいるアルセイス・アスティア・アグシス帝国軍総司令長官に真魂交信で連絡する。
(パヴロ聖王国辺境元領主軍がルビリア聖女王陛下に【詫び】に行く。寛大な処置を頼む)
(ボムルレント伯爵領には新しく、【町】を作った。そこで、パブロ聖王国の辺境中心都市として元ボムルレント伯爵領軍の兵士や家族を暮らさせてやって欲しい)
返信は何時もの様に
(わかった)
の一言。
これで、ボムルレントの件は俺の手から離れた。
後は、ルビリア女王陛下や黒龍騎士団の面々が面倒見るだろう、、、
次に俺は、砂漠の民を連れ炎元郷に向かうイグシアに真魂交信した。
(イグシア、今どのあたりにいる?)
返答は直ぐに帰ってきた。
(亜人族の収容に、少し手間取りましたが、現在パブロ聖王国南部、ナムス村という村を過ぎ、炎元郷まで3日程の距離おります。)
(わかった、俺達もそっちに合流する)
(御意)
俺は共に横にいる、キルヘッシュの旦那に向かって声を掛ける
「旦那の一族も、炎元郷で暮らすんだろ、砂漠の民と合流したらどうだ?」
「いいであ~るな~」
キルヘッシュ・アクティアは目をつぶり、自分の妖精一族に内容を真魂交信で伝える。
広大に広がる緑の町。
パヴロ聖王国は、典雅、文化の国と言われるだけあって、緑地が非常に多い。大陸のほぼ中央に位置する事もあるのだろうが、国全体的に緑地や丘陵地が多くある。
アースウェイグ帝国では、国土が広いせいかここまで行き届かない。
国民性もあって、見た目より誇りや威厳、尚武を大事にするお国柄。
見た目や、着飾る事より、機能性や実用性重視なのだ。
だから、街道は広く整備されているが、その脇に咲く花々に迄は気が回らない、というか気にならない。
いうのが本音だろう。
黒曜天宮が、いい例である。
【質実剛健】この言葉を形にしたのが、黒曜天宮である。
漆黒の大理石を履んだんに使ってはいるが、皇宮として豪華さより要塞としての要素が多い。
山々に囲まれ、辿り着くには山々の崖にある道を通らねば、行けず。
大軍が行軍するには非常に難しい。守りに易く、攻めるに難き。
そして黒曜天宮の下には、帝都アーセサス城下町があるが、その上は13騎士団の城が立ち並び、その上に黒曜天宮は存在する。
そして、各兵士団に警備隊合わせて15万の兵士がアーセサスには常駐する。
黒曜天宮を落とすには、15万の兵士に13帝国騎士団城を始めに落とさねばならない。
それは、現実不可能だ。
よって難攻不落を長く保ち続ける。強さと威厳を持って、、、
黒曜天宮内の帝国軍司令長官執務室に座るアルセイスは真魂交信で黒龍騎士団団長、ガウス・ヴォーフェミア武神将、かつての部下に連絡した。
(ボムルレント伯爵領地はランガードらによって、平定された。武装解除した、元領主軍がそちらに向かっているから、上手くやれ)
(はっ)
直ぐに返信があり、謹聴した面持ちが伝わってくるが、いつものように無視して
(元ボムルレント伯爵領には、新しい町を作ったそうだ、元領主軍の兵士及び家族はその町に住まわせ、行政担当官、警備軍を派遣し、平和な町作りをしろ)
(はっ)
長年、上官と副官としてやってきた、ガウス武神将はアルセイスに対してはいつも肯定の言葉以外は使わない。
しかもできるだけ短く、、、それが長年アルセイスの副官として勤めあげる事の出来るルールだと身を持って知っているが故である。
他国の辺境での反乱なのに、アースウェイグ帝国は自国の様に干渉する。
パヴロ聖王国とは、元々一つの国であった、という歴史と友邦国であると同時に、帝国貴族のリュギィ・コネル准将との婚約、それに何といっても【正義のランガード紅蓮王国】の騎士に序列していると言う事が、一番の大きな意味かもしれない。
悪い意味での、侵略干渉ではなく。
良い意味での、平和維持のための干渉である。
実際、今のパヴロ聖王国に自立する力はまだない。
アースウェイグ帝国軍が、後ろにいるからこそ他国も攻めてきたり悪いちょっかいをしない。
が、大陸統一はまだまだ長い道のりになるだろう、、、
大陸だけで36個の国があり、それぞれの文化、事情、施政者の性格、国の構成方法など様々に違うのだから、それを統一しようと言うのであれば、強烈なリーダーか巨大な敵が必要だろう、、、
ー場所は変わりパヴロ聖王国南部ー
「ゲァアアオオオオー!!」
空を自由に舞う、ドラゴンの群れ。
その下を砂漠の民と2万人と亜人族5千人をイグシア鷹王が先頭に立ち、大移動中である。
亜人族は、戦士は約2千名だが、その家族、老人たちを含むと5千人ほどになっていた。
イグシアが収容に時間がかかったと言うのは、この女性や子供、老人たちを収容するのに時間がかかったのだ。
しかし、その異様な行軍は、街道を通る旅人たちを驚かせ、通り過ぎる、町々で驚嘆と、恐怖の眼で見られたが、イグシアは街道の左端を必ず開けさせ、通行の邪魔はせずに行きすぎる人々に声を掛けた。
この行軍は【紅蓮の覇王ランガードの軍】であること。
立ち寄る、村々では村長に丁寧に挨拶し、女子供老人を宿に住まわせてもらうのに、必要な金は通常より多く払い。
村々で何か困ったことは、無いか聞いて回った。
ある村では、山賊の襲撃に悩まされてると聞き、砂漠の戦士を連れ、討伐に行ったり。
小さな貿易の荷馬車には、同行を許可し、護衛を兼ねて食料品、医療品など分け与えた。
まぁ、上空を舞うドラゴンが、そんなイグシアの心遣いを一瞬で恐怖に変えてしまうのだが、それは仕方がない。
これだけの人数の行軍となれば速度は落ち、普段より確実に時間がかかるのは仕方ない事だ。
女性や子供、老人たちは、馬車に乗せ馬にひかせているが、帝国騎士が乗る竜騎馬とは比較にならないほど遅いのは歪めない。
そんな所に、爆炎と共にランガードとベルフェム、キルヘッシュの旦那が、先頭を行くイグシア鷹王の目の前で人型となり突如出現する。
直ちにイグシアは膝を付き、主君に対し首を垂れる。
何時もの様にランガード節が炸裂する。
「イグシア、何度言ったらわかるんだ?」
「いちいち、俺に膝まづくんじゃねぇよ」
そして、イグシアもまたいつもの様に
「御意」
と一言述べるだけである。
ベルフェムが、また余計な事を言う。
「イグシア殿は、忠臣の鏡であるが、主君を間違えたのではないかな?」
「今ならまだ、間に合うでござるよ」
イグシア鷹王は東海白竜王ベルフェムに対しても、主君と同様に対する態度を同じくする。
「お心遣い感謝いたします」
っと、述べるだけのイグシア鷹王である。
「はぁ~、ランガード殿はよき部下をお持ちであるな」
ランガードはシレッと
「イグシアは部下じゃねぇよ、ダチだ。」
「奴が勝手に、仰々しくするから注意しているだけだ」
キルヘッシュの旦那が、帽子を被り杖を突きながら
「ランガード殿は~王として~は珍種というか~稀種であ~るな」
「ヒトを動物扱いするのやめてくれよ」
ランガードが可愛らしく口をとんがらして文句を言う。
「これはすまぬのであ~るな、極めて珍しい猛獣と言えばよかったであ~るな」
(駄目だこりゃ、旦那も結構そっち系なのな、、、)
バサバサバサ!!
ズゥズズズン!!
大地に降り立つ、20匹のドラゴン。
俺の中の炎竜帝が、心の中で話しかけてくる。
(我一族を紹介いたそう、赤く一番大きなドラゴンが我が息子、炎竜帝の名を継ぐ者じゃ)
(ランガード様、父上共々よろしくお願いいたす。)
心の中に直接響き渡る、ドラゴンの声。
その後、19匹のドラゴンの名前と特性を教えてもらったが、一度に憶えるのは無理と思った俺は途中から聞いていなかった、、、、
最後に(皆、よろしく頼む!)とだけ念じた。
途端に、咆哮を上げるドラゴンたち、、、
驚く、同行する旅人たち、、、
そりゃそうだ、本物のドラゴンなんて存在自体知らない者がほとんどなのに、20匹もの本物ドラゴンが集結し、咆哮する様を恐怖無くして、見ていられる人間などいないだろう。
俺は次に砂漠の民2万人の前に行き、声を張り上げる。
「俺がランガードだ。俺の正義のために皆の力を借りたい。よろしく頼む。」
ザッ!!
イグシア鷹王と全く同じ反応をする、2万人の砂漠の民たち、、、
一斉に跪き、首を垂れる。
俺はイグシアの方を向き「これ、何とかならねぇ?」
イグシアはまたしても一言
「御意」
ランガードは「・・・・・」
(こいつも、違う意味で言っても駄目な奴だ、、、俺の回り変な奴しかいなくねぇ、、、)
(俺だけだよな~まともなのは、、、)
自覚のない男は、自分の事をきちんと理解せずに宣う。
続いて、亜人種族の長老の所に行き
「メルビル獸は、ルビリアせ女王陛下に【詫び】を聞き入れてもらえたらしいぞ、もうすぐ、ここに合流するだろう」
長老は曲がった腰で、モリビス大森林の木で作った杖を持ちながら
「何から何まで、すまなんだ。ランガード様」
「ああ、気にすんなこれからは同じ所で暮らす家族だ。」
ランガードは隻眼の眼を長老に向け、身長差1メートル近くある老人を見下げて言う。
長老は、逆に天でも見上げるようにして
「ランガード様の正義のために、亜人一族も協力させていただきますじゃ」
「おお、よろしくな」
身長195センチの長身赤髪隻眼のランガードを先頭に右隣に東海白竜王ベルフェム、左側には妖精王キルヘッシュ・アクティアの旦那、後ろに影の様に付き従う砂漠の民王イグシア鷹王。
その4人の後方には2万5千人の異種異様な一団。
極めつけは、その上空を滑空する、ドラゴン20匹。
堂々たる行進に違いはないが、、、
この軍団だけで、大陸統一も可能ではないのかと思えるほどの戦力の割には、異色すぎる行進だ。
大陸街道を炎元郷まで、3日かけての大移動である。
ランガードにとっても、実に久しぶりにゆっくり旅する事を楽しんでもいた。
イグシアは、主君の警備警護と共に、この大移動を責任持って指揮していた。
周囲の行きかう、一般の行商、旅人には道を譲り、困ってる事が無いか尋ね、食料品や衣料品、薬を分けたり時には、怪我人の治癒までしていた。
俺は、黙ってイグシアのそういった行動を見て改めてイグシアの評価を高くする。
【火の真甦】を持ち、治癒能力迄ある。
この大群の統率力、糧食、医療品、その他必要物資の準備の良さ、女性や子供、老人など弱者への配慮、行軍中の周囲への気配り、どれをとっても満点以上の評価だ。
そこへ、偵察に先行していたイグシアの部下が、報告してくる。
【火の真甦】を持つだけあって、【火の民】の様に空を飛んで来た。
「申し上げます。この先2キロほどの所で、行商の隊列を賊が襲撃してます。」
「なんと運の無い。とんだ賊もいた者だ」
白き竜王は高く響く声で、歌でも歌うように辛辣な言葉を吐く。
(炎竜帝の息子、俺達を乗せて現場まで飛べ)
(ランガード様、かしこまりました。)
急降下して、目の前に着陸するデカいドラゴン。
ドデカイ足で、地面をこすり土ぼこりを巻き上げる。
俺達は炎竜帝の息子が、停止する前に飛び乗り、すぐさま、俺とベルフェム、旦那とイグシアを背中に乗せ、そのまま飛び立つ。
大きな翼を、勢い良く羽ばたき4人の体重などものともせずに大空へ舞い上がり、襲撃場所までヒトっ飛びする。
時間にして、1分足らずで現着する。
驚いたのは、当然だが行商人の馬車を襲撃していた賊、50人位か。
高さ10メートルを超え、羽を広げた両翼は15メートルは有り、口からは炎がチロチロ漏れている、ドラゴンが目の前に突然現れ、そのドラゴンから4人の男が飛び降りて来たのだ。
イグシアは直ぐに行動に移り、賊と隊商の間に割って入り、燃え上がる曲刀を抜き放つ。
俺を先頭に、ベルフェムと旦那が続く。
賊は余りの現実離れした恐ろしさに竦み上がり、言葉さえ出ないようだ。
俺は身体がでかく、態度もデカい、賊の頭領らしき、人物に歩み寄り
「何故、悪さをする?」
長身の隻眼に武装した鎧と大剣に怖気づき、賊の頭領はしどろもどろに答える。
「く、喰ってく為に決まってるだろ!」
ランガードは変わらず
「それがお前の正義か?」
「正義?馬鹿じゃねぇのか、正義なんぞ地の果てに捨てて来たぜ」
やけっぱちになって、返答する。頭の悪い奴が、良くする行動だ。
だが、その付けは高く支払う事になる。
「そうか、では俺の正義の名のもとにお前たちを処分する。」
隻眼の眼が一瞬だけ、白く輝くような炎に変わる。
っと、そこにいた賊、50人ばかりは全て、一瞬で存在を失う。
ランガードは剣も抜かず、動きもしなかった。
ただ、身勝手な言い分に怒りがこみあげていた。
ベルフェムは後ろで
(この男と戦う事はしないようにしよう、、、)
妖精王は、ただ優雅に佇み一人言を呟く。
「神の時より、今のこの男は強いのではないか、、、」