詫び
俺達は、モリビス大森林よりすぐさま、パブロ聖王国辺境にあるボムルレント伯爵が治めていた、辺境領にやってきた。
メンツは、紅蓮の覇王ランガードと東海白竜王ベルフェム、リスティアード四海聖竜王と天界の双璧をなす妖精王キルヘッシュ・アクティアの旦那だ。
その気になれば、辺境領地丸ごとこの地上から無くすことも可能な戦力だ。
ボムルレント伯爵が死んだことはまだ、辺境領主軍は知らない。
緑の多く、緑地帯に辺境伯の居城はあった。
地平線まで続く、緑地の中に石造りの立派な居城である。
広さ大きさでは、パヴロ聖王宮と見劣りしない程、でかかった。
辺境王と自ら名乗る豪族だけの事はあると言うわけだ。
城壁上部見張り台に立つ、警備兵が俺達3人に気付き、城壁の下にいる兵士に向かって、大声で知らせる。
城の城門は鉄で出来ており、実に立派で頑丈そうだった。
その城門は閉じられ、城門の上部からは弓兵が、2百人以上矢を弓につがえ、弦を引き絞りいつでも矢を放たれるよう準備している。
俺達が、何者で敵であるかどうかもわからないのに、この警戒の仕様は、謀反の証拠に他ならない。
俺達は当然だが全く、無視して自然に堂々と歩いていく。
城門上部で攻撃の指揮を取る隊長らしい人物が大声で、怒鳴る。
「この城に近づく者は誰であろうと、射殺する。直ちに引き返せ」
俺達は無視して、何も言わずに城門迄近づき、俺が城門に手を振れる同時に、頑丈で鉄で出来た城門は吹き飛んだ。
ドォオオーン!
隊長らしき人物が、声をからして叫ぶ
「敵襲!!攻撃開始!」
この隊長は、無能ではないらしい、、、
普通、ランガードの現実を、全く無視した爆風攻撃を間近に見れば、反撃の命令など出せる者は少ない。
場内には、更に弓兵が2千人は矢をつがえ、俺達に照準を合わせていた。
隊長の命令と同時に、前と上部から何千もの矢が一斉に死という言葉をのせて飛翔してくる。
ベルフェムは全くやる気を見せず、優雅に遠くを眺めている。キルヘッシュ・アクティアはキザったらしく、帽子を被り、杖を付き、体重を杖にかけ斜めに佇む。
どうせ、俺がやるんだろ的に、、、
まぁ、その通りなのだが、実際俺は機嫌が悪い。
今この時期に、平和ではなく戦乱を起こす人間を許しはしない。
己の欲にかられ、他者を殺す人間を許しはしない。
無垢な亜人族をだまし、利用する奴等を許しはしない。
ボムルレント伯爵領主が主犯格だとしても、その間違った命令に従う者を許しはしない。
部下だろうと、上官が間違った判断をすれば、正すこそが良き部下である。
間違った命令に従う、間違った兵士には何の遠慮もしない。
それが、ランガードの正義である。
無数に飛び掛かってくる矢を無視して、ランガードは右足を上げ、地面に叩きつける。
城の地面が、大きく凹む。
そして、無数の地割れがランガードを中心に円を描くようにひび割れが続く。
ランガードの体からはドーム状に、透明爆炎風が、無数の矢を焼き払い吹き飛ばす。
矢を放った兵士も堪らず吹き飛ぶ。
兵士を焼き払いはしなかった。
紅蓮の覇王は、隻眼の眼でいつもと変わらぬ様に話し出す。
「ボムルレント伯爵は死んだ。貴様らの反乱は失敗に終わった。」
「まだ、抵抗するなら容赦しない【ランガード】の名のもとに全て焼きう!!」
ザワザワ
騒ぎ出す、辺境領主軍兵士たち、、、
「伯爵様が、死んだ、、、」
「反乱が失敗、、、」
「英雄ランガード王がここに居る、、、」
隊長は、騒ぎ出す兵士を叱咤する。
「何をしてる、そんな嘘っぱちに騙されるな!!攻撃を続行せよ!!」
兵士達は、騒めき逡巡し命令を実行しようとしない、、、
「攻撃だ!奴らを殺せ!!」
隊長が、喉をからし咳き込みながらも、命令を発する。
ボウッ!!
隊長の目前で、炎が噴き出し直ぐに人の姿となり
ランガードが現われる。
「俺の名を聞いても、まだあきらめねぇのか、お前は」
隊長は顔から汗を大量に噴出しながらもなんとか声を吐き出し、剣を抜く。
「俺はボムルレント伯爵様に大恩がある。たとえ貴様がランガード本人であろうと、伯爵様の命令は絶対だ!」
「わかった」
冷たく一言、言うと
(こういう芯が通った奴は、嫌いじゃねぇが、決して意趣返ししない。)
隊長の胸に向けて右手の人差し指を突き付ける。
刹那、隊長は灰となり、この世界から存在を消失した。
「まだ、俺に逆らう奴はいるか?」
城兵は全員、剣や弓を捨て、降伏した。
兵士は当然ながら、城にいる全ての人間を城から外に出るよう命令した。
優雅に佇む、妖精王に向かって
「キルヘッシュの旦那、この城を緑の町に変えてくんねぇか?」
「よいであ~るよ」
キルヘッシュは、一歩前に進み出て持っていた杖を地面に突き刺し、両目を閉じる。
ズズズズズズズ
地鳴りが響き、地面が揺れる。
緑地の大地がうねり出す。
まともに立っていられない程、大地は奥底から揺れ鼓動する。
城が変形していく。
そもそも、城とは建造物ではあるが、所詮石と鉄で出来た人工物だ。
妖精王は、植物や土の精霊、この大地に住まう上級妖精たちを呼び出し、己が力として使役する。
城の外壁から内部の石で出来た部分は、全て形を変え、低く広く変化していく。
道が出来、家が建ち、草木が躍る、緑豊かな一つの町を作り上げてしまう妖精王キルヘッシュ・アクティアの力である。
今は土の真甦保有者と同じ力を使役しているが、これを火の真甦保有者と同じ力を使役したら、ランガードとどちらが強いか、、、
真甦持ち何千人分の力を一人で持つ妖精王である。
流石、天界で四海聖竜王と双璧とまで言われた、力の持ち主である。
ランガードが【大将】とは別に【旦那】と呼ぶ唯一の男だ。
それだけキルヘッシュ・アクティアの力と人柄を認めていると言う事なのだろう。
30分もせずに、ボムルレント伯爵の城は緑豊かな街並みに変わっていた。
これをリューイ准将が見ていたら、炎元郷にも是非来てほしいと妖精王に懇願した事だろう、、、
俺は、ボムルレント伯爵領主軍、残党全員に向かって、大声で叫ぶ。
「おめぇら、反乱軍は全員パヴロ聖王国聖王都に行き、ルビリア聖女王陛下に詫びを入れろ。」
「女王陛下が許してくれたら、この町に家族と住めばいいだろう。」
俺は手前にいる、体のデカい兵士に向かって
「お前は名前は?」
指名された男は、体がでかい割には小心者らしくオドオドと話す。
「マルグシュ・ビッシュと言います。」
「マルグシュ、お前が全て責任もって、全員を聖王宮まで連れて行け、一人でも脱落したり逃げたらお前を焼くぞ」
「か、かしこまりました。」
マルグシュ・ビッシュは、緊張の面持ちで、パヴロ聖王国軍の敬礼をする。
右手を真っすぐ伸ばし、背筋も伸ばし、左手を左太ももにピッタリと付ける。
「お前ひとりじゃ、大変だろうから10人指名しろ。そいつらもお前と同じ責任者だ。」
「ふざけた真似したら、マジで全員焼くからな」
「は、はい。かしこまりました。」
顔中汗を噴き出し、緊張し、ランガードの指示に従う、根は従順な良い奴なんだろうが、仕えるべき主人を間違うと、愚行より酷い。
散々俺は、蛮行を重ねる軍人たちを見てきた。
一人一人は、悪い人間では無いのかもしれない、、、
家族もいるだろう、、、愛する妻や子供もいるだろうが、、、
主人の命令を間違って聞いてしまうのも、ヒトならば仕方ないのかもしれない。
皆がランガードの様な、強靭な魂と能力を持ってるわけでは無いのだ。
しかし、それでもランガードの正義は揺らがない。
どんなヒトでも、主人を選ぶのは自分だ。
命令に従うのも、自分の意志だ。
先程の隊長の様に、己の信念に従い、滅ぶならば本望であるのかもしれない、、、
だが、悪さをする奴の大半は、《みんながやるから》などと腐ったセリフを吐く。
それは、俺の存在がこの世界から無くならない限り、絶対に許さない。
俺は以前までは、俺の回りの人間だけ助けられれば良いと思っていた。
今では、俺の正義に歯向かう全てを焼き尽くす。
大将の言った、大陸を平和で統一すると言う、大言壮語を今は真剣に実現しようと、炎元郷の様な幸福な場所に変えようと自分の全部を掛けて誓っていた。
当然、始めからそういう気持ちでいたわけではない。
仲間が、、、
頼もしい仲間が、自分を押し上げる。
愛する子供達が俺を押し上げる。
高潔なる妻が俺を押し上げる。
それなら、俺がやってやる。
この世界を平和で、統一してやる。
歯向かう奴は焼いてやる。
もしかしたら、これは将来的には暴君を作り出す間違ったやり方かもしれない。
しかし、ランガードには今この決意が、魂を熱く焦がす。
振り返れば、頼もしい仲間がいる。
俺はもう一人じゃない。
ランガードの決意はここボムルレント伯爵領にて、かたく固まった。
ーパヴロ聖王宮 玉座ー
中央には、ルリビア・セーニャシ・パヴロ時聖女王陛下が玉座に座す。
両脇には、アースウェイグ帝国軍 黒龍騎士団団長ガウス・ヴォーフェミア武武神将とリュギィ・コネル准将が、直立して立っていた。
周囲は、黒龍騎士団の騎士が、100人ほどで厳重に警備し玉座を取り巻いていた。
漆黒の黒騎士が、典雅なパヴロ聖王宮を埋め尽くす姿は、一種異様と見れたかもしれない、、、
しかし、もっと異様なのは玉座の間中央に膝まづく少年である。
先だって、ルリビア女王暗殺に失敗した、若き亜人。
メルビル獸だ。
上半身は裸で、両腕は黒く長く強靭な鱗がびっしりと生え、指は爬虫類の様に異常に長く、爪は鋭く長い。
ヒトと獣の【まじり】である、亜人族の若き長である。
ルリビアの婚約者である、リュギィ・コネル准将が冷たい目で、亜人を見る。
「貴様何をしに舞い戻った、また王女暗殺を企てるか!!」
大きく恫喝する。
リュギィは成り行きとは言え、パヴロ聖王国の聖女王と婚約する事になり、始めは浮かれもしたが、、、
今では真剣にルビリアの事を愛しており、この亜人に対して純粋な悪意敵意を抱いていた。
若き亜人は、地面に膝を付き頭を下げ、両腕を後ろにして話し始める。
「俺が、間違っていた。申し訳ない!!」
大声で、黒龍騎士団に囲まれ威圧されながらも、メルビル獸は己の間違いをきちんと言葉にして吐き出した。
「許してもらおうなんて思っていない。煮るなり焼くなり好きにしてくれ!」
「ただし、他の亜人族だけは許してもらいたい。」
シャン!!
リュギィ・コネル准将が片刃黒剣を抜き放つ。
「そんな、戯言で許されると思ってんのか!」
ガウス武神将が、リュギィの剣を掴む右腕を抑える。
「気持ちはわかるが、冷静になれ。聖女王陛下の判断をお聞きしてからだ。」
「くっ!」准将が悔し紛れに怒気を吐く。
「如何ですかな?ルリビア聖女王陛下、この若者の陛下暗殺未遂の件はいかがいたしますか?」
優しく優しくガウスは、ルリビアを見ながら話す。
ルリビアは、始め自分に話が降られて、少し驚いた感じだった。
「私は、施政者としてまだまだ未熟です。学ばねばならぬことが沢山あります。」
「しかし、そこの若き者は一族を統率する【覚悟】をお持ちです。」
「私はその覚悟を見習いたいと思います。」
「っと、申しますと?」ガウス武神将が、結論を聞き出す。
ルリビアは胸を張って宣言する。
「我、パヴロ聖王国は【正義のランガード紅蓮王国】の騎士に序列しております。」
「平和の為、謝罪する者の言葉を受け入れましょう。」
ザクッ!
メルビル獸が、膝まづく目の前にリュギィ・コネル准将は黒剣を突き刺し
「次は絶対無いからな!よく覚えておけ。」
メルビル獸は、頭を下げたまま
「心から感謝する。」
怒気と覇気を纏う、帝国騎士最強准将の恫喝を正面より受け止め、頭を垂れ謝罪する、若き亜人の長。
一族をまとめるだけあって、度胸の良さは肝っ玉の太さに比例する。
メルビル獸は、ここで【死】をも、覚悟していたのだ。
ランガードと約束した、【詫び】を入れるにあたり己が命を懸けていたのだ。
自分の過ちの為に、一族を危険な目に遭わせてしまった、後悔。
それを償う為の覚悟を、彼は若輩ながらも備え持っている。
リュギィ・コネルが、黒剣を床から引き抜き、メルビル獸に背中を向けながら
「ランガード閣下に感謝する事だ。」
ガウス武神将は一人
(よかったよぅ~アルセイス長官から殺してはならんと言われていたからな~中間管理職は辛いよ、全く、、、)