神々の出撃
日にちは、一日ほど前に戻る。
アースウェイグ帝国 帝都アーセサス 黒曜天宮
不死鳥騎士団執務室。
不死鳥騎士団騎士は、ほぼ全員が炎元郷大改造計画に駆り出され、留守にしていいた。
執務室には、俺とベルフェム、イグシアに何故かキルヘッシュまで揃い、お茶をすすりながら世間話をしていた。
「妖精と精霊って何が違うんだ?」
俺が妖精王キルヘッシュ・アクティアに尋ねる。
キルヘッシュは、いつものようにお洒落な深緑の上下の正装に少し暗い赤いスカーフを首に巻いて、杖を突き帽子を椅子に掛けて優雅に優美に腰かけていた。
それだけで、絵になる紳士然とした立派な姿である。
「精霊とは~自然界、草や木、大地に宿る万物の根源だ~ね」
「妖精とは~場所によって意味合いは随分違うんだがね~魑魅魍魎や鬼と~とらえている場所もあれば~天使や神の使いと信じている場所もあるだ~ね」
「簡単に言えば~精霊は自然界に宿る真甦だ~ね、妖精は複数の真甦が、固まって形を成した生物だ~ね」
「ランガード殿のその深紅の鎧や魔鉄の剣は~精霊の力を借りてるだ~ね」
「私の一族や、娘のレィリアは妖精族の力を体内で、使役する事が出来るだ~ね、勿論精霊の力も使えるが~ね」
説明しながら、優雅にすするお茶を飲む姿が実に自然な優しい威厳を感じる。
「ふ~ん、つぇってのはわかったが、なんか難しいな」
ランガードは、深く物事を考えず直感で動く野生派だ。
まして、小難しい事は理解しようともしない、、、
それで、今までやって来た。
ただ一つ。
己の大切な者を守る正義を貫く力を求めて、、、
難しい事はわからなくていい、そう言うのは副官であり親友のリューイに丸投げだ。
俺は【正義】を貫くために戦う。
それでいいと思う。
ベルフェムが高く響く声で話に加わる
「魔法や魔術もやはり、真甦を使ったものなのであるのかな?キルヘッシュ殿」
「そうであ~るな~、普通の人間が~我らのような力を~使えるように自ら鍛錬や修行をして得る物が~魔法や魔術と言った超常現象であ~るな」
「我ら~の力にはま~たく及ばないがね~」
いきなり、執務室の扉が開かれる。
バタン!
そこにはアルセイス・アスティア・アグシスアースウェイグ帝国軍総司令長官が、黒衣の正装で立っていた。
「どうしたよ、血相変えて」
ランガードが隻眼の目を向けて、アルセイスに話しかける。
アルセイスは、ズカズカと執務室の中に入ってきて誰の許可も取らずに椅子に腰かける。
ここに居るメンバーには、一切気を使う事も無いと言う表れか、いつもの威厳に満ちた態度とは全く違った友人達に会いに来たように自然に腰かける。
「パヴロ聖王国で、反乱がおきた。亜人も手を貸しているらしい」
「救援調査に行ってくれ」
用件だけを簡潔に低い声で、述べる。
「パヴロ聖王国って、おめぇの黒龍騎士団が駐留してんだろ」
ランガードが面倒くさそうに、黒衣の剣聖を見て言う。
アルセイスは、一言
「ルビリア聖女王陛下が暗殺されかけた」
ランガードは、ヴァルゴ国戦役でルビリア女王を見知っていた。
可憐な、美しく天真爛漫な線の細い女性だ。
そして、ヴァルゴ国ウルグス国王に虜囚の身となり、散々酷い目に遭わされてきたことを知っている。
女子供、年寄り、弱い者が辛い目に遭う事をこの男は決して許さない。
「わかったぜ、直ぐに行ってくらぁ」
ランガードが決断すると同時に、ベルフェム、イグシア、そしてキルヘッシュが自然と立ち上がり、同行する事を態度で表す。
イグシア鷹王が発言を求める。
「よろしいですか?」
ランガードは、面倒くさい様に
「いちいち喋るのに許可なんか取る必要はない、喋れ。」
「御意」
「亜人が住む、モリビス大森林近くに、我らが砂漠の民たちが、炎元郷に向けて現在移動しております。」
「合流させては如何ですか?皆にとってもランガード様のお人柄と力を知る良い機会かと存じます。」
「それに、我らの力も見て頂けると存じます。」
「いいだろう」
ランガードは王者の決断を下す。
イグシアは心の中で、直ちに真魂交信にて、配下の指揮官に事情を伝え命令を下す。
そして、一同はモリビス大森林へと一瞬で移動して、現在となる。
ランガードは、メルビル獸の尻尾の反撃にあい、吹っ飛び、メルビル獸が使っていた、大地に深く刺さっていた、三又の槍の持ち手の部分に後頭部を強打して、意識を失う、、、
ベルフェムが高らかに響く声で、水龍の頭に乗りながら宣言する。
「この勝負は、メルビル獸の勝利であるな!!」
2千人を超す、滝つぼに集まる亜人たちが、一斉に歓声をあげる。
「「「「うぉおおおおー!!」」」」
モリビス大森林が震える。森林が揺れる。
狂喜乱舞する亜人の一族。
「メルビル獸若長万歳!!」
「我らに、安住の地を!!」
大騒ぎする、亜人たちを他所に、東海白竜王ベルフェムは水龍を消し、意識を失っているランガードの横に立つ。
「芝居はその辺で良いのではないかな?」
ランガードは大地に大の字に倒れながら、隻眼の眼を開け、ベルフェムを見る。
「ばれてたか」
「あたりまえであ~る、天地がひっくり返ろ~と、ランガード殿があの者に負けるはず無いであ~る」
キルヘッシュ・アクティアが、新緑の地面より湧き出て浮いて出現する。
流石は妖精王。大地と同化し、その地に住む精霊と妖精の力を自分の力として使役できる能力は、この様な大自然の中においては、ランガードと同様程度の無敵さを誇る。
「よいせっと」
大地から立ち上がる、紅蓮の覇王ランガード・スセイン。
(メイラ、治療の必要な奴がいる。来れるか?)
(はい、直ぐ行けます。召喚して下さい。)
俺は、隻眼の眼を一瞬、赤く燃やす。
っと、同時にランガードの前に現れる不死鳥騎士団治癒部隊隊長メラの村出身のメイラ。
治癒の女神アスラス神の生まれ変わり。
「怪我をされてるのは、どなたですか?」
メイラは、現われると同時に行動に移る。
俺は歩きながら亜人の少年、メルビル獸を指さす。
直ぐに走って、亜人に近づき治癒を開始するメイラ。
メルビル獸は、思っていたより重症であった。
本気ではないとはいえ、ランガードと戦ったのである。
命があるだけましと言うものだ。
また、ランガードもこう言う場面では決して容赦しない。
相手の本気を試すためだが、自分の力の方が圧倒的に強く、相手を打ちのめす事に、辛い自責の念が無い筈が無いのだが、ここで手を抜いてしまえば、当人の為にならないばかりか、率いる一族の為にもならない。
あえて心を鬼にして、戦うのだ。
辛くない訳無いのであるのだが、、、
しかし、それだけの覚悟を持たねば一族を率いるには適格者であるとは言えない。
敢えての厳しさであるが、楽しい事など一片もありはしない。ただ、相手の覚悟を持たすために!
かつて、ツバァイス・カーゼナル卿を叩き直した時の様に、死と隣り合わせの愛のムチである。
亜人の少年は、弱々しく、メイラの治癒を拒む。
「大丈夫だ、余計な事するな」
「駄目です。怪我人はおとなしくしていなさい!」
こういう時のメイラは、見た目とは全く違い、堂々と反論する事を許さずに治癒に入る。
両手を大蜥蜴から、半獣の少年の姿に戻ったメルビル獸のランガードによって傷つけられた、右半身中心に温かい光を発しながら、治癒する。
治癒を受けている亜人の若長に向かってランガードは話し始める。
「約束通り、おめぇ等の面倒は俺が炎元郷で見てやる。一族全員移住準備するように、治療が終わったら伝えろ」
メルビル獸はボロボロになりながらも、一言だけランガードに声を掛けてくる。
「あ、ありがとう」
俺は「ああ」とだけ答えて、リューイに真魂交信する。
(亜人族2千くらいかな?炎元郷で面倒見る事になった)
(追加よろしく)
(また何かの嫌がらせですか?)
(いや、マジ)
(・・・もう、何でもいいですよ、なんならアースウェイグ帝国臣民全て引き受けましょうか?)
(またまた~いくら何でもそれはねぇだろ)
(族長のやる事に常識という言葉が当てはまらない事を僕は良く知ってますからね)
(お前も最近言うようになったねぇ~)
(傍若無人な上官を持つと、気苦労するのは優秀な副官ですからね、もう慣れましたけど、、、)
(そこは何も言えねぇけどな~)
(安心しました。一応、自覚はあるんですね)
(アーセサスで良い店見つけたんだよ、今度おごるからよ~よろしく頼むよ)
(約束ですよ)
(ああ)
リューイとの真魂交信を切り、メルビル獸に向かって
「おめぇ、以外とボロボロだな」
「誰がやったんですか!!こんなになるまで、やり過ぎです。」
メイラが俺を睨みつけ、プンプン怒りながら治癒している。
(こういう時のメイラには頭が上がらねぇんだよな、、、)
俺は身体の向きを変えて
「イグシア、後を頼んで良いか?」
「御意」
「ベルフェム、キルヘッシュの旦那は、俺と一緒にボムルレント伯爵領主軍の様子を探り必要なら、全て焼き払う。」
「よかろう」
「いいであ~るよ」
「イグシアは砂漠の民と亜人族を連れて炎元郷を目指せ」
最後に治癒中のメルビル獸をみて
「おめぇは傷が治ったら、パヴロ聖王国に行け、ルビリア聖女王と婚約者のリュギィ・コネル准将に詫びを入れ、許しが出たら炎元郷に来い。」
横たわり傷を治療中の亜人の若長は素直に答える。
「わかった」
俺は事の次第をアルセイスに真魂交信で伝えて、リュギィ・コネルには寛大な処遇を頼むと伝えた。
相変わらずアルセイスは一言
(わかった)
とだけ返信があった。