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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
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パヴロ聖王国聖女王の恋慕

所は変わり、アースウェイグ帝国より西北に位置するパヴロ聖王国は、魔の真甦ウルグスによる、破壊された傷跡の修復も順調に進みほぼ元通りの姿を取り戻しつつあった。


アースウェイグ帝国軍 黒龍騎士団5千名は警護と秩序治安維持の為に、聖王都に全軍駐留していた。


そして、パヴロ聖王国ルビリア・セーニャシ・パヴロ聖女王陛下は、黒龍騎士団副団長リュギィ・コネル准将との婚約を正式に発表した。


現在、パヴロ聖王国王族はルビリア女王陛下、只一人しか残されていなかった。

他の王族、公爵家や侯爵家など王族と縁のあった高級貴族達は、全て異界の王に植え込まれた魔の真甦に翻弄(ほんろう)されたウルグスによって、殺害されてしまっていた。


そこで、ルビリアが始めに考えたのが、王族の血筋を絶やさぬ事であった。


ヴァルゴ太古兵器興業国侵略戦役の際、見事な活躍をし、ルリビアを救出した、アースウェイグ帝国軍黒龍騎士団リュギィ・コネルに恋心を抱き、此度の婚約へとトントン拍子に話が進んだのである。


ただ一人、いつまでも不満を持つ幼馴染の同僚である、黒龍騎士団千竜騎士長ブリッシュ・アンツだけは不平を募らせていたが、、、



パヴロ聖王国聖王宮 聖女王陛下の私室 お昼時


ルビリア女王は甘い果実酒を少し、飲んでいるせいか頬を赤らめながら甘い言葉を果実酒のほのかな香りと共に口に出す。


「リュギィ様、パヴロ聖王国の料理はお口に会いますか?」


「とても、美味ですね。ルビリア王女陛下」


リュギィ・コネル准将は、トロンとした目元に鼻の下を伸ばした、口でばかばかしい程に恋に溺れていた。


ルビリア女王と昼食をガウス・ヴォーフェミア武神将とブリッシュ・アンツ千竜騎士長の4人で、聖王宮女王陛下の私室で、食していた。


私室と言っても、100人は入れそうな広さで、食事の給仕に10人以上のメイド姿の女性と黒色正装の男性がそれぞれ食事を運び、飲み物を注いでくれている。


黒龍騎士団の面々は、いづれも貴族出身なので、給仕される事に慣れてはいたが、女王陛下の一途な恋恋慕には少々辟易(へきえき)していた。


ルビリア女王陛下は、王家一人娘として、奔放(ほんぽう)に愛情たっぷりに育てられたせいか、天真爛漫(てんしんらんまん)な性格で、思いついた事を口と仕草で表現する。


良く言えば、女性として明るく可愛らしい。


だが、


悪く言えば、統治者としての適性には欠ける物があるように見受けられた。


尚武の国、アースウェイグ帝国の貴族ともなれば、チャラチャラした言動などせぬし、威厳を尊び、尊厳を大切にする。


一部の例外を除いて、、、


しかし、リュギィ・コネル准将はだらしなく鼻の下を伸ばしまくっていた。


ルビリアは統治者としては置いておき、女性としてはとても美しく、可愛らしかった。

しかも、パヴロ聖王国の聖女王陛下である。


逆玉の輿(ぎゃくたまのこし)なのである。


約一名のやっかみを無視すれば、良縁と思われた。


ブリッシュ・アンツ千竜騎士長とリュギィ・コネル准将は、同じ帝国貴族に生まれ、年齢も同じ。

少し前までは、階級も同じで【真甦】も鋼鉄の真甦を持ち共にライバルとして、剣技を競い合い、切磋琢磨してきた幼馴染である。


ルビリア聖女王陛下を、ヴァルゴ戦役において救出した時も同じ場所にいて、同じく命を懸け戦ったのに、リュギィが選ばれ自分が選ばれなかったことに不満を噴出させていた。


そして、今ルビリア陛下とリュギィのいちゃついてる様を見ていると、余計に腹立たしくなる。



そんな折、急報が空気を一瞬で変える。


バン!


聖女王陛下の私室の扉がいきなり開けられ、使者が膝を付き告げる。


「陛下、火急の件にて失礼(つかまつります)ります。」


いきなりの急報にルビリアは驚いたように目を大きく開けていた。

言葉が出ないようだ。


ガウス・ヴォーフェミア武神将が変わって、使者と応対する。


「報告して下さい。」


「はっ、ボムルレント辺境領主軍が反乱を起こしました。」


ガウスは冷静に使者に尋ねる。


「反乱軍の兵力と現在位置は?」


「はっ、兵数およそ1万5千。聖王都より南に2日の距離です。」


ルビリアは、動揺し目が泳ぐ

「ど、どうしましょう、、、」


ガウスは優しくルビリア陛下に尋ねる。


「ボムルレントとはいかなる人物ですかな?」


ルビリアは少し考えて

「ボムルレント伯爵は、辺境領主の(かなめ)と申しますか、辺境では大変力のある豪族です。」


ガウス武神将は逡巡せずに命令をくだす。

アルセイス帝国軍最高司令長官の下で、副官として長く務めた経験と実績が自信となり、ルビリアに変わり決断する。


「ブリッシュ・アンツ千竜騎士長、黒龍騎士団全軍を率いて、討伐に当たれ」


立ち上がり、右手を左胸にあて敬礼する。

ブリッシュ・アンツ千竜騎士長である。


「はっ、直ちに迎撃に向かいます。」


リュギィ・コネル准将がここで余計な一言を言う。


「しっかり、働いて来いよ。死んだら笑ってやるぞ」


ブリッシュ・アンツ千竜騎士長は一言だけ、リュギィにだけ聞こえる様に


「ほざけ」


ガウス・ヴォーフェミア武神将は咳払いしながら

「俺と准将は、ルビリア様の護衛に当たる、何かあったら真魂更新で連絡せよ」


「了解しました」


直ぐに、ナプキンで口を拭い(ぬぐい)部屋を駆け出していく。


帝国騎士団最強と言われる、黒龍騎士団の千竜騎士長である。無能とは全くの無縁なのは当然で必然だ。

ブリッシュ・アンツ千竜騎士長は、当直の騎士を呼び、直ちに全軍を聖王宮正門前に完全武装で集合させるよう命令を発する。


自らも、黒龍騎士団の漆黒の鎧を身に纏う為、私室に向かう。


ボムルレント辺境伯は野心家で、パヴロ聖王国王族の弱体化に乗じて、自ら王になる為、兵を立ち上げ反旗を翻したのだ。


黒龍騎士団5千に対し、ボムルレント辺境領主軍1万5千。


未だ、パヴロ聖王国にまとまった軍隊は存在していない。

聖王宮と聖王都を警備する。

兵士約1万ほどしか存在しない。


しかも、かき集めの警備兵士で実戦にはまだまだ通用せぬ。


数では、圧倒的不利だが、ガウスはじめ、黒龍騎士団全騎士に負ける気など一切なかった。

アースウェイグ帝国軍最強騎士団の【黒騎士】の名は伊達ではない。


30分もすると、聖王宮正門前に竜騎馬の(くつわ)を並べて、黒龍騎士団の団旗を翻し整列する。

先頭には、ブリッシュ・アンツ千竜騎士長が総大将として軍を指揮する。


ブリッシュ・アンツ千竜騎士長が号令を発する。


「全軍進軍開始!!」


ザッザツザツ


黒鎧に黒剣、竜騎馬にも黒衣の衣を着せ、漆黒の最強の騎士団は、堂々と進軍を開始する。

自国の為にではなく、パヴロ聖王国の為に、、、


リュギィ・コネル准将が上官を見て


「本国に、救援要請は必要ありませんか?」


ガウス武神将は少し考えて


「アルセイス長官に、報告だけしておこう。」


真魂更新を使って、アースウェイグ帝国軍最高司令長官に詳細を報告する。


『わかった』とだけ、返答がある。


ガウス武神将は、リュギィ・コネル准将とルビリア女王陛下を伴い、臨時に作戦指揮所兼ルビリア陛下警護場所として、完成しかけの【玉座の間】に陣頭指揮所を作り、現存する警備兵で使えそうな者達を警護にあてる。


聖王宮は、緊急警備態勢に入り、一切の入城を遮断し5メートルはある正門は閉じられ、(かんぬき)が降ろされる。


ブリッシュ・アンツ千竜騎士長率いる黒龍騎士団は竜騎馬を飛ばし、反乱軍と約半日の距離まで迫っていた。


ブリッシュ千竜騎士長は、進軍を停止させ、広がる緑の大地丘陵部の丘上部に自軍を展開させ、陣を張る。


上方から、有利に戦いを進める為だ。

鏃型(やじりがた)に陣形を組み、いつでも戦闘に入れる準備をする。


守備より攻撃こそ、帝国騎士団最大の武器であり、必勝の作戦である。

理由として、騎士一人一人の戦闘能力が高いと言う事は当然だが、竜騎馬と真甦持ちの影響は他を圧倒する。


先だってのヴァルゴ太古兵器興業国戦役でも、それは実証済みである。

リスティアード皇帝陛下率いる精鋭1万3千名で、最終的に援軍があったとはいえ、ヴァルゴ国軍の大軍20万との戦いに勝利した事は記憶に新しい。


そして、各国には改めてアースウェイグ帝国軍最強伝説を常識として心に刷り込む事となった。


ボムルレント辺境領主軍が、パヴロ聖王家一族に反旗を翻したことも、王族がルビリア聖女王陛下只一人しかいないと言う隙に、乗じての暴挙であると想像は出来るが、ルビリアにはアースウェイグ帝国軍最強黒龍騎士団が付いているのである。


いくら、己の欲にかられ判断を間違えたとしても、帝国騎士軍を正面から、敵に回す愚策(ぐさく)を起こすのは、どうも腑に落ちないブリッシュ・アンツ千竜騎士長であった。


万一、ここでボムルレント辺境領主軍が、勝利を収めたとしてもその後はどうする?

アースウェイグ帝国軍が大軍を率いて、討伐(とうばつ)にやってくるのはわかり切っているではないか。


何故その愚を犯す?


ボムルレント辺境領主軍に、何かアースウェイグ帝国軍にも勝る見方がいると言うのか、、、、


ブリッシュ・アンツ千竜騎士長は、思考に沈む。



その頃、パヴロ聖王宮【玉座の間】では、ブリッシュ・アンツと同じ事をガウス・ヴォーフェミア武神将とリュギィ・コネル准将が話し合っていた。


「どう考えても、この反乱はおかしいですよ」


リュギィ・コネル准将が、叫ぶ。

ルビリア聖王女には、【玉座の間】の隣に急遽(きゅうきょ)、女王陛下の寝室を作り、そちらで休んでもらっていた。


「そうだな、欲に目が眩んだ(くらんだ)としても、己の命は大事だろうからな」


「どう考えても、今のアースウェイグ帝国軍を敵に回すのは命取りだ」


「それとも、アースウェイグ帝国と同等かそれ以上の見方が裏にいるか?」


リュギィ・コネル准将は立ち上がり


「どちらにしてもこちらのアキレス腱は、ルビリア聖女王陛下お一人ですから、ちょっと様子を見てきます。」


「俺も、行こう」


ガウス武神将も立派な揃えた、口ひげを僅かに動かしながらともに立ち上がる。


「「!!」」


敵だ!真甦が訴える。


己の帝国騎士としての戦士のカンが強烈に訴えてくる。


二人は同時に、ルビリア聖女王の寝室に駆けだした。


バン!


寝室の扉を蹴り破る。


そこには、意外な人物が眠るルビリアの隣に立っていた。


年の頃は15歳くらいの少年で、上半身が裸で、胸に✖印の大きな傷跡が印象的だった。


2人は迷わず、素早く無駄のない動きで剣を抜き放ち。


少年目掛けて、斬撃を浴びせる。


真甦が敵と認識した以上、少年だろうと少女だろうと、切らねば死ぬのは自分だ。

今までの戦場での戦いで嫌というほど、経験してきた。


ガキィン!!


ガウス武神将の剣とリュギィ准将の剣は、ベッド横に立つ少年の両腕によって、受け止められる。


上半身裸の少年の手は、黒く異様さを濃く表していた。

ヒトの手では無い。


帝国騎士の斬撃を素手で、受け止められる人間など存在しない。(例外を除いて、、、)


少年の手はよく見ると、鱗の様な物がびっしりと黒光りし生えており、指は爬虫類の様に長く爪は尖っていた。


ガウス武神将が吠える。


「貴様、亜人か!」


亜人とは、古来より大陸の西、イグシア鷹王が統治する、砂漠王国とパヴロ聖王国の間に深く大きく続くモリビス大森林地帯に潜んで暮らす。

人間と獣の混血種だ。


力や動きの早さは人間より勝る者もいるが、滅多に人間界には現れず、お互い無言の契約で長い間、相互不可侵を守って来た。


その亜人の少年が、今ここに居る。


ルビリア聖女王陛下の暗殺に!

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