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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
127/173

剣聖との決闘

黒曜天宮、中央大広場には何十万という観衆が、集い興奮を隠せずにザワザワと空気を振動させていた。


理由は


剣聖にして、アースウェイグ帝国軍総司令長官アルセイス・アスティア・アグシス閣下と紅蓮の覇王にして不死鳥騎士団団長ランガード・スセイン武神将との真甦(まそ)や特殊能力を使わない剣技での決闘を見るためだ。


帝国騎士は当直任務の無い者は全て集まっており、武神将も全員集っていた。


一番最前列の特等席には、前アースウェイグ帝国皇帝第87代ルグナス・ハルスト・アルヴェス・アースウェイグ最高顧問相談役が座す。


隣には国務長官でアルセイス帝国軍最高司令長官の父親であるアルフィス・アソルト・アグシス侯爵が、並ぶ。





日にちは二日ほど前に戻る。


上級悪魔族始祖キルヘッシュ・フォン・DETH・アクティアとその一族をランガードが【透明な魔を滅する炎】で【悪魔因子】を焼き払い、妖精王キルヘッシュ・アクティアに戻した後に起こった。


ランガードの妻、氷結の女王シュシィス・スセインは女性にしてはとても背が高く、スラリとした体形の割には、豊かな胸と細い腰、長い足に見事な銀髪を真っすぐに腰まで伸ばし、黒曜天宮の中でも注目の美麗淑女であった。


シュスは、【謁見の間】で悪魔因子を焼き払った、俺の元へ駆け寄り、目を輝かし興奮していた。


「お見事です。旦那様。私は惚れ直しました。」



その時は、周囲の眼もあったので素っ気無く礼だけ言って別れたのだが、珍しく言葉少なに俺を褒める北海黒龍王アルセイス卿が、一通り片が付くと俺に話しかけてきた。


俺はシュスと子供達、リスティアード皇帝陛下、ベルフェム、イグシアと共にいた。


黒衣の剣聖は、静かに低い声で俺に話しかけてきた。


「頼みがある」


俺は聞き間違えたかと思える、言葉に驚きアルセイスを見つめる。


「どうしたよ」


元黒龍騎士団団長は、珍しく歯切れが悪い。


「・・言いにくいのだが、お主の妻殿を一日お借りしたい」


「へ?」


思わず変な声をあげてしまう、ランガードだがアルセイスは至って真剣に話を続ける。


「俺は、言ったように生まれてからずっと【リスティアード皇帝陛下の一振りの剣】として生きてきた。」


「だが、お主たちの姿を見ていて、それ以外の楽しみもあっても良いのかと思ってだな、、、正直、これ迄幾度となく女性から好意を寄せられたことはあるのだが、、、その気には全くならなかったもので断り続けて来たのだ、、、、すまんがシュス殿に一日、女性との付き合い方を教わりたい。」


アルセイスにしては、珍しく長く話す。

本人にとっては、必死なんだろう、、、


とは、思うが


俺は思わず目が笑ってしまう。


「マジか?」


「失礼ですよ、旦那様。アルセイス様は真剣にお話ししていらっしゃいます。」


妻のシュスが、横やりを入れてくる。


「私などで良ければ、いつでもお相手させていただきます。」


「すまぬ」


アルセイスの心の中は、分からないが、表面上はいつもと変わらない冷徹で、威厳のある剣聖だった。


「おいおい、ちょっと待てよ。」


「女なら、レィリアで良いんじゃねぇか?」


「レィリアとは、生まれた時より剣と真甦を競い高めあった仲だ、異性というより同志と言った感じなのだ」



俺は少し考え、決断を下す。


「他人の嫁を借りようってんだ、それなりのもんを掛けてもらわなくちゃ、ウンとは言えねぇだろ」


俺は、隻眼の眼を睨みつけアースウェイグ帝国軍最強戦士を睨む。


「どうしたらよい?」


「俺と真剣勝負しろ。真甦能力(まそのうりょく)一切なしで、剣技だけの真剣勝負だ。」


「勝負に勝ったら、シュスを貸してやる」


「俺が勝ったら【剣聖】の称号を貰う」


「どうだ、のるか?」


アルセイスは堂々と一言「よかろう」とだけ答える。


周囲で、歓声が上がる。


当然だ。


アースウェイグ帝国軍最強黒騎士と紅蓮の覇王ランガードの決闘だ。


しかも、真甦能力を使わない身体能力と剣技の真剣勝負とあっては、盛り上がらない訳がない。


リスティアード皇帝陛下が、2メートルの身長で見下ろしながら、「それじゃ、僕が審判をするよ。真甦を使ったかどうかすぐわかるからね」と言ってにこやかに微笑む。


この噂は、圧倒的に物凄い速度でアーセサス中を駆け廻った。



ーそして決闘当日ー


最前列に座す。ルグナス前皇帝は隣にいるアグシス国務長官に向かって、笑いながら声を掛ける。

以前の皇帝陛下時代とは、打って変わった、温和な表情に好々爺(こうこうや)の様子を垣間(かいま)見せていた。


「アグシス卿、どちらが勝つのであろうな」


アグシスは息子と同じく、低く響き渡る声で静かに話す。


「剣技の勝負となれば、さすがのランガード殿も厳しいのではありますまいか」


「ほっほっほっ、それではお主の息子とランガード殿のどちらが勝つか賭けるとしようかの?」


「よろしゅうございます。アルセイスに金貨10枚」


「ほっほっ、それではわしはランガード殿に同じく金貨10枚じゃ」


全く、不謹慎な父親と元皇帝である。


しかし、不謹慎なのは武神将も同じであった。


元来、尚武のお国柄。

剣技研鑽(けんぎけんさん)、尚武については強く民族意識は高い。


異界化物侵略戦争を生き残った、銀鷲騎士団団長にして、アースウェイグ帝国軍副司令長官であるオーガス・ビスマルク武神将は周囲にいる武神将に声を掛ける。


「俺はランガード殿に金貨2枚賭けるぞ」


武神将最高齢の虎翼騎士団団長、ナリナック・スパッツ武神将が受ける。


「受けよう、儂はアルセイス閣下に金貨2枚。」


巨体で、3人分の席を埋める鬼鎧騎士団武神将ガブス・ガエリオ団長が低く迫力のある声で


「儂はランガード殿に金貨2枚。」


顔に大きな傷跡が残る迫力のある、牙狼騎士団タカツ・ブルワルク武神将も話に乗っかる


「では、我はアルセイス閣下に金貨2枚と行こう」


観覧席でも、異常な盛り上がりを見せる決闘は、アルセイスの女性との付き合い方を学びたい。

と言う事から始まって、こう言っては何だが、ここまで盛り上がる事になるとは、本人も心外に思っているだろう。


さすがにこれほどの盛り上がりとなると、国催イベントの様であった。


黒曜天宮中央大広場、普段は騎士の訓練練兵や出兵の際の集合場所である。


それだけ、広大で地面は土で出来ており砂塵が少し舞っていた。


中央にアースウェイグ帝国皇帝である、リスティアードが白いブラウスに赤色の腕章をはめて、黒のズボン姿で審判役として中央に現れた。


「これより、アルセイス・アスティア・アグシス卿とランガード・スセイン伯爵との剣技による真剣勝負を執り行うものとする」


「両者、中央へ」


黒曜天宮中に響き渡る声で、リスティアードが叫ぶ。


右側から、黒衣黒刀のアルセイス・アスティア・アグシスが黒瞳の切れ長の目を更に、黒髪を風に靡かせ(なびかせ)颯爽(さっそう)と現われる。

黒刀は腰には刺さずに、左手で鞘ごと持っている。


同じくして、左側からは深紅の上下に、赤髪を短く刈り込んだ、195センチの長身のランガードの剣は傭兵時代から使っている大剣を腰に帯びる。


どちらも、鎧は一切付けておらず、武器は愛剣ただ一つであった。


リスティアードが確認するように、両者に語り掛ける。


「真剣勝負と言っても、命のやり取りは無し。もし、真甦を使ったら、その場で失格。勝敗は僕が決める。万一の時は僕が剣を消すからね」


「いいぜ」


「御意」


二人それぞれの眼を睨みながら、それぞれの答え方で返答する。


お互いに、間違いなく【最強の相手】と認識しているこそ、気合も充分。


リスティアードが二歩後ろに下がり


「では、始め!!」


開始の合図と同時に、黒き剣聖は大地を蹴り飛ばし、あっという間にランガードとの距離を詰める。


対応に遅れたランガード。


アルセイスは、距離を詰めながら抜剣(ばっけん)していた。


早い!!


剣戟が、ランガードの頭上から猛撃で振り降ろされる。


ランガードは剣を抜かず、体勢を崩しながらも、自らの剣を鞘ごと腰から引き抜き、(さや)ごと大剣を思いっきり頭上から迫る黒剣に向けて蹴っ飛ばした。


ガン!!


アルセイスは蹴り飛ばされてきた、ランガードの鞘を黒剣で受ける。


瞬間、アルセイスの動きが鈍る。


その隙を付き、ランガードは大剣を引き抜き、大きく振り被りアルセイス目掛けて力任せに叩きつける。


ガン!!


「くっ!」

アルセイスが力負けして、吹っ飛ぶ。


すかさずランガードが追撃に、飛ぶ。

抜き身の大剣を横に構えて。


アルセイスは、吹き飛びながらも態勢は崩していない。

最高のバランス感覚と見事な体幹(たいかん)のなせる技である。


ランガードが、力を込めて大剣を横に大きく薙ぎる(なぎる)


アルセイスは、敢えて(あえて)剣を交えず、態勢を低くして凄まじい剣風を避け、再び大地を蹴り一気にランガードとの距離を縮める。


俊風と共に黒刀が、ランガードの懐深く、下から真上に振り上げられる。


ランガードは、咄嗟にバク転して、剣風を避けるが、アルセイスの連続攻撃は、とても素早く、激しかった。


ランガードは、横に上に、時には地面に這い蹲って(はいつくばって)アルセイスの剣を避ける。


とても、騎士の動きとは思えない。


野生のカン、動物のような動きであった。


アルセイスの連続瞬殺剣戟れんぞくしゅんさつけんげきを全て、かわし切り、再び、2人は距離を置いて睨み合う。


ランガードが迸る(ほとばしる)汗を腕で拭きながら


「さすがつぇえな」


アルセイスは、無言。


「すぅ~」っと、息を勢いよく吸い込み


片刃直刀の黒剣を鞘に戻し、腰を低く両足を広げ構える。

静かに両目を閉じる。


ランガードは、次の一撃がアルセイスの必殺必勝の技であると直感する。


大剣を握り直し


「おめぇの全力見してみろ!!」


隻眼の眼を大きく開き、低く構える黒衣の最強戦士を見つめる。


ジリジリ


無言の緊張した、空気が緊迫した場内を震わす。

観客の誰一人として、声を出す者も息をする事も忘れている様に二人を見つめている。


剣技に優れている者ほど、この戦いが尋常ならざるレベルの戦いであると理解していた。


一陣の風が、二人の間を砂塵が舞う。


刹那!!


アルセイスは、大地を蹴り居合(いあい)と共に黒剣を抜き、俺の左側(・・)から地を這うように風と砂塵を黒剣で切り裂きながら目では負えない速度で切りかかってきた。


真甦を使っていない、今、俺の左目は全く見えていない。

死角を突かれた。


しかも渾身の一撃で!


その場にいる、誰もが俺の負けを確信した。


グォオオオオー!!


迫る黒き疾風黒刃。


俺は何も考えずに、いつものように体が勝手に動く。


持っていた大剣を思いっきり、黒き疾風となって襲いかかるアルセイスに向けて、


投げつける!!


「!!」


思わぬ反撃に、一瞬アルセイスが、怯む。

投げつけられた、大剣を黒剣で薙ぎ払う。


次の瞬間


ランガードの体全部を使った豪快な蹴りが、アルセイスのこめかみを唸り(うなり)を上げて襲う。


アルセイスはギリギリで黒剣を持つ、右手で自分の頭をガードしてランガードの蹴りを受ける。


ランガードの蹴りは、とても強烈で重かった。


アルセイスは自ら握る黒剣を吹き飛ばされた。


ガシャン


次の瞬間、ランガードの重い右拳が、アルセイスの腹にめり込む。


アルセイスの体が、宙に浮く。


「ぐっ」


黒騎士は、苦痛に悶えながらも空中で反転し、右足の(かかと)をランガードの赤髪が燃えたつ、頭上目掛けて蹴り落とす。


ギリギリの所で、後方に飛び退りかろうじて避けるが、大きく体勢を崩した。


長身のランガードの方が、重心がアルセイスより高いせいだろう、バランスを崩したランガード目掛けアルセイスははずされた右足を軸に華麗に瞬足で、左回し蹴りは綺麗な弧を描き、ランガードの右肩に直撃する。


流石のランガードも、この蹴りには耐えられずに吹き飛ぶ。


しかし、体が宙に舞いながらも、左手拳で地面を殴りつけ、無理やり跳ね上がる。


2人とも武器を失って、距離を置いて睨み合う。


アルセイスが思わず一言


「型破りにも程度と言うものがあるだろう」


ランガードは隻眼の眼を細めにやりと笑う。


「人間相手なら、おめぇが今までで最強だぜ」


2人の視線が獰猛に絡み合う。


「次で決着だ!!」


ランガードが叫び、走り出す。


アルセイスも口を引き結び、地を蹴る。


2人とも、右拳を振り上げ闘争本能全開で、回避などお互い考えなくぶつかり合う。


唸りを上げて、重く激しい右ストレートがランガードが放つ。


アルセイスは、体を沈み込めやや下方からアッパー気味に右拳を全力瞬息で、振り上げる。


二つの(こぶし)が、轟風を切り裂き相手の顔面目掛けて殴りかかる。


至って原始的で、騎士の戦いとは程遠い形で。


2人とも避ける気など全くなく、全力で攻撃を拳に乗せる。


ガシン!!



2人の拳は、


審判役のリスティアードが、両手の平で、それぞれの拳を受け止める。


「それまでだよ。」


「勝負は引き分けだね」


飛んでもない、帝国騎士最強の二人の渾身の拳を微笑みながら、受け止める。

アースウェイグ帝国皇帝陛下である。


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