炎元郷大改革
結局、済し崩しに、物事は決まっていき。
それを現場で処理するのは、リューイ准将だが、、、
既に処理能力を超えており、リン千竜騎士長始め、不死鳥騎士団幹部たち【火の民】紅蓮の主だった戦士達が手伝い、物事を決められて行った。
黒曜天宮にある不死鳥騎士団城には、フーカ・セロ千竜騎士長を責任者として残し、ほとんどの騎士団員を連れ、炎元郷大改革に取り組んでいる、リューイ准将である。
主役の当人である。紅蓮の覇王はこういった事には我、関せずと言った感じで、ベルフェムとイグシア鷹王と会話していた。
始めにベルフェムが高く響く声で、話し始める。
「我らが、王の四海聖竜王様が、南海紅竜王、そなたを祀り上げたのだ。」
「竜王が一人、我も四海聖竜王様にならい、南海紅竜王そなたに忠誠を尽くそう」
俺はぶっきらぼうに答える。
「忠誠とか、忠義とかそんなんいいからよ、今まで通り【ダチ】でいいだろ」
「そなたは誠に【ぶれぬ男】よな」
高らかに宣言する。東海白竜王であった。
イグシアは黙ったまま、後方で気配を消して控えていた。
イグシアの使命と気持ちは既に伝えてある。
今更、述べる事など何も無いとばかりに、忠臣はただ、主君と仰ぐ、ランガードの身の回りの警護に集中している。
とんでもない、リスティアード皇帝陛下の戴冠式はなんだかんだあったが、終了し国賓もほぼ帰路についていた。
祭りの後の、虚しさの様にアースウェイグ帝国帝都アーセサスも、戴冠式の装飾物の撤去作業に追われ、臣民は通常の生活に戻って行き、お祭り騒ぎは終了した。
リューイ准将は、ここからが多忙を極める。
不死鳥騎士団幹部と【火の民】紅蓮の戦士を私物化して、手足の様に使いまくっていた。
始めは、罪悪感もあったが、慣れてしまうと人間とは怖いもので、リューイ程の人格者でも命令する事に慣れ、不死鳥騎士団員全員を私兵可していた。
実際、そうしないとどうにもならない事案が多く有り過ぎたと言うのが、本音の部分であろう。
【正義のランガード紅蓮王国】王都は、当然ではあるが炎元郷に決まった。
リューイは、不死鳥騎士団のそれぞれの真甦を持った団員を適材適所に使って、炎元郷大改革に乗り出していた。
炎元郷はそもそも連なる火山の中で、一番大きな山の火口をくり抜いて作られている。
2万人の砂漠の民とドラゴン20匹を飼う為に、炎元郷の両隣の山を二つ切り崩し、ひとつを砂漠の民用住居とし、逆側の山をこちらも切り崩し、ドラゴンの住処を作り、ドラゴンの餌様に、豚や牛の放牧場を作った。
【火の民】氏族の者達にも、協力を仰ぎ、突貫工事で炎元郷大改革は進んでいた。
もちろん、一番役に立ったのは【土の真甦】所有者たちだ。
山を切り崩すのは【風の真甦】【水の真甦】所有者が風刃、水刃で切り裂き、【火の民】が熔岩をせき止め、【土の真甦】騎士が、町作りに欠かせない道路や壁を作り上げ、町作りの基礎を作る。
後は、地道に人海戦術で、家を一軒一軒建造して、上下水道を整備して、生活できるようにする。
リューイと不死鳥騎士団、【火の民】が炎元郷大改革に奔走している頃、当のランガードは黒曜天宮で、今後の方針と行動指針を作ると言う大義名分を持って、麗しき銀麗の妻、シュシィス・スセインとのんびりと、休息を楽しんでいた。
丁度、お昼時だ。
アーセサス中央大通りを長身の赤髪ランガードと、女性にしては背が高く、ほっそりとした体形に素晴らしく真っすぐ伸びた銀髪は腰まで美しく伸び、歩く度に右に左に華麗に揺れる。
ベルフェムが横に並び、後ろで気配を消して着いてくるイグシア鷹王である。
この4人が、護衛もつけず、歩いているだけで、人だかりが出来てしまうほどの人気と目立つ姿であった。
敵意ある人間が、近づいてくれば、護衛のイグシアは勿論の事、ランガードやベルフェムが気付かぬわけがない。
まして、ランガードの能力は炎竜帝の御霊を受け入れた効果がどれほどの事か全く未知数であった。
本人も、気にならない様であった。
ベルフェムが始めに口を開く
「奥方殿は、何を召し上がりたいのですかな?」
シュスは細ぐ尖った顎に可愛らしく、右手の人差し指を当てて「そうですね、魚が食べたいです。」と小さな口ではっきりと食べたいものを言う。
俺が、愛する妻の為にたまたまと取り掛かった、商人風の男に声を掛けた。
「すまねぇが、この辺で魚がうまい店を知らねぇか?」
商人の男は、頭上から声がかかり、驚き見上げると赤髪隻眼のランガード武神将がい・た。
「あ、あんたぁ、ランガード様じゃねぇか!」
「そうだが、魚の上手い店を探してる。知っていたら教えてくんねぇかな?」俺は腰を折り、顔を近づけて商人風の男に声を掛ける。
商人風の男は、超有名人にあった時の庶民そのままの驚きを隠しきれず、大慌てでいた。
俺は、落ち着くまで待っていると、その商人風の男の連れらしい若い女性が、「お魚が美味しいお店なら【魚籃亭】が美味しいですよ。近くなのでご案内します。」
「すまねぇな」
と、言い若い女性が先頭に立ち、俺はその隣を歩く。
若い女性は、俺に沢山話しかけてきた。
可愛らしい、清潔感のある若い女性だ。案内しながら何かと俺の体に触れてくる、、、
「すっご~い。逞しい、腕ですね」
「腹筋、かった~いじゃないですか。」
「すっごく、強そうですね~」
敵意は全く感じていなかったので、俺は好きにさせていた、、、
そして、5分も歩くと【魚籃亭】の前まで来た。
案内してくれた女性は、俺に握手を求めてきた。
俺は普通に右手を差し出し、握手する。
すると女性は、俺の手を自分の両手で抱きしめ、自分の胸に押しいだく。
「一生の宝物です。」
と頬を赤らめて、潤んだ瞳で俺を見る、、、
俺の右手は、女性の豊かな胸に埋まり、柔らかい感触で包まれる。
俺は、礼を言って、女性と商人風の男と別れた。
殺気!!
思わず、飛び退るランガード。
地面から無数の槍が突き出ていた。
その、槍は全て氷で出来ていた、、、
殺気は氷結の女王の物だ。
「デレデレとみっともありませんわランガード!」
いつもは旦那様と言っている、銀麗の女王は【嫉妬】という怒りに翻弄されていた。
素早く華麗に身体を回転させて、槍の次は氷の矢を放ってくる。
「ま、待てシュス。ご、誤解だぞ!」
「だまらっしゃい、見苦しいですわ」
ベルフェムとイグシアは「・・・・・・」
夫婦喧嘩は犬も食わない、、、
紅蓮の覇王も、恐妻家であり愛妻家である嫁の【嫉妬の怒り】には、何も太刀打ちできずに逃げ回っているだけだった。
もちろん、ランガードが本気を出せば、この帝都アーセサス全てを灰塵にする事など容易い事だろうが、今は愛する妻とのじゃれ合いを楽しんでいた。
「覚悟なさいませ!!」
氷結の矢が雨の様に、降ってくる。
ランガードは振ってくる無数の氷矢に向けて,右手を翳す。
右手の手の平から、轟炎が吐き出され空から降ってくる無数の氷結矢を一瞬で蒸発させる。
次の瞬間には地面を這うように、氷結の槍が巨大な塊となり襲いかかってくる。
「シュ、シュス落ち着け、お前の勘違いだ!」
ランガードは叫びながら、左足を軸に右足に業火を纏い長い燃える足で、氷結槍の塊を一撃で蹴り焼きつくす。
帝都アーセサス中央通りで、お昼時である。
一般臣民も大勢、繰り出している。
この夫婦喧嘩を放置しておくことは、危険極まりない。
そこに大声で俺の前に立ちはだかる小さな影。
「ラン!!何をしているの!」
俺は思わず、戦う事を忘れる。
「ミハム!!」
次の瞬間、拳大の氷塊が、俺のこめかみをクリーンヒットする。
珍しい光景が、起こった。
轟炎の覇者にして【火の民】族長、無敵で英雄のランガードが一発KOを食らって、2回転して、吹っ飛び大通りに長身の巨体を横倒しにする。
シュシィス・スセイン氷結の女王は「ふん」と一言叫び、ミハム・アストネージュの元まで優雅に歩いてくる。
そして、ミハムの前でしゃがみ込み話し始める
「初めまして、天帝皇王ミハム・アストネージュ様。私はランガードの妻のシュシィス・スセインと言います。」
ミハムは驚きを隠さず大きな目を見開いて
「ランにお嫁さんが出来たの?」
「お嫁さんが、ランを倒したの?強いんだね~」
キラキラ光る目で、はっきりとものを言う。
俺は、頭を左右に振りながら立ち上がる。
「なんてぇことしやがる、まったく加減ってもんを知らねぇのか?」
「俺じゃなきゃ死んでるぞ」
シュスは全く聞く耳を持ち合わせないように俺の言葉を無視して
「天帝皇王様、お昼をご一緒にいかがですか?」
と、声を掛けるが、当のミハムは
「【てんていこうおう】って、誰の事なの?」
俺とシュスとベルフェムが驚きの目で、ミハムを見る。
(記憶が、、、な・い)
俺が自分の頭を摩りながら
「いつ起きたんだ?ミハム」
「今朝だよ、起きたらお腹が物凄く減っていて、だから食事に来たところだよ」
ミハムは明るく、共の護衛を指さす。
護衛の騎士達は、余りに壮絶な夫婦喧嘩に臆して、柱の陰に隠れていたのである。
まぁ、普通の人間であれば自分の命の方が大切である。
ミハムは、異界魔物大戦の記憶を、、、神々の記憶をすべて失っていた。
俺は、それもミハムにとっては良い事なんではないかと思う。
あの異世界の化け物共との、壮絶な戦いの記憶など無ければその方が良い。
帝国騎士が大勢犠牲になり、俺や大将迄、半分死にかけ傷つき、魔物の聞きたくもない咆哮を聞き、生臭い臭いをかぎ、死の恐怖を感じ、全身浴びるほどのどす黒い血を浴びた記憶など今の平和なこの世界にはいらない。
その方が良い。
俺は長身の威丈夫な体躯を折り曲げて、目線を合わす。
「ミハム、驚くなよ。」
「俺に子供が二人もできたんだ」
「え~!!」
大きく開いた口に両手を当てて、驚きを素直に表現する伯爵子息である。
「銀色の綺麗なお嫁さんとの子供だよね」
「ああ、そうだ」俺は屈んだまま話す。
そこに銀麗の妻も話に加わる。
「シュスと呼んで下さい、ミハム様」
ミハムはシュスを見て、余りの美しさに驚きを素直に表し
「ありがとうシュス。僕の事もミハムと呼んで」
「わかりました、ミハム。これからもよろしくお願いします」
「シュスは、銀色で美しい女の人だね、とても優しそうだ。僕の姉様もシュスと同じくらい綺麗で強いんだよ」
シュスは微笑み
「良く存じてますよ」
「シュスと姉様は知り合いなの?」
「ええ、とても仲良しです。」シュスは優しく微笑みながら
先程迄の凄まじい殺気は、いつの間にか消えて無くなっていた。
思わずホッとする
東海白竜王ベルフェムとイグシア鷹王であった。
「「「!!!」」」
っと、そこでいきなり緊張感が走る。
始めにイグシアが気付いた。
即行動に移る。
アーセサス臣民に紛れて、刺客が30人ほど人ごみの中から、俺を目掛けて襲いかかってきた。
ランガードが叫ぶ。
「イグシアここではまずい!逃げるぞ、時間を稼げ」
イグシアは地を這うように、高速で走り抜けながら曲刀を抜き放つ。
「御意」
鷹王は抜き放った曲刀を地面に突き刺した。
地面よりいきなり炎が幅5メートル以上、舞い上がり視界を奪う。
俺はシュスとミハムの手を握り、炎と共に掻き消える。
ベルフェムとイグシアは、ほっといて全く問題ない。
あの二人を殺すには、10万や20万の大軍は必要だろう。
それに、刺客の狙いは間違いなく俺だった。
拉致ではなく、間違いなく殺しに来ていた。
それも、普通の刺客ではなく、【真甦持ち】だ。
俺に大陸統一されて困る奴がいるって事だ。
俺達は不死鳥騎士団城に居た。
シュスが、「ヒトとは懲りない者ですね、あれだけの大きな戦いがあって沢山の死者が出たというのに平和より、自己の利益や利権を守る為にまたヒトを殺そうとする、、、」溜息交じりに、呟く。
「そういう奴等は、焼きはりゃあいいんだ!」
「俺はもう迷わねぇ、平和のために邪魔する奴がいるなら片っ端から焼き尽くしてやる」
「てめぇの保身の為に、民に害を成す奴、俺の【正義】を邪魔する奴はぜってぇ許さねぇよ」
紅蓮の覇王ランガードの隻眼の瞳が、深紅に燃え上がっていた。