炎竜帝は相棒
ランガードに片足で、動きを封じられた。
砂漠のイグシア鷹王は、憤怒の表情で、ランガードを睨みつけるが、、、、
全く、動けなかった、、、
この右足を退けた途端に、自分がこの世界から消滅する事を確実にその褐色の肌で、感じ取っていたからだ。
イグシア鷹王の砂漠王国はアースウェイグ帝国の西方、パヴロ聖王国より遥かに遠く大陸最西、砂漠地帯の中にある岩山が連なる麓の広大なオアシスにある。
砂漠の中の、岩山を背景にした大きなオアシスは、歴史がとても古いが他国との流通貿易もほとんど行われておらず、鎖国状態のオアシス国家であった。
謎も多い、お国柄だが、ここ最近、イグシア鷹王は他国との関係を改善するつもりなのか、こういった他国の行事に率先して現われるようになっていた。
その効果か?リスティアード皇帝陛下はイグシア鷹王の顔を覚えていたのである。
紅蓮の覇王ランガードは、右足を上げたままの状態で、宣う
「女、子供の前で、剣を抜くんじゃねぇよ」
またもやリューイ准将が一人思う
(いや、そこも違うでしょ、御前だからとか、皇宮内だからとか、言うんじゃないの?)
何もできず、動く事が出来なかった、剣聖がここで割って入る。
「両名、本日はめでたき日なり、気を静められよ」
低く渋い声で、ランガードの右足を掴み
軽く電撃を流す。
バチン!
「いてぇ!なにしやが、、、」
思わず、右足を引き込めるランガードであった。
ランガードにだけ聞こえるようにアルセイスは低く話しかける。
「これ以上は、止めろ。」
「俺が売った喧嘩じゃねぇだろうがよ~」
アルセイスの軽い電撃をくらった、右足の脛をさすりながら、子どもの言い訳の様に口をとんがらして叫ぶ無敵の炎王だ。
イグシア鷹王も、既に気勢は失っており、再度剣を抜こうとはしなかった。
リスティアード皇帝陛下が、いつもと変わらぬ様に優しく話しかける。
「ランガードも、イグシア殿の話だけでも聞いてあげなよ」
「ちっ、大将の命令じゃしょうがねぇな」
ランガードは、長身で赤髪を立てている髪型のせいか、厳ついイメージの強面な雰囲気を普段は纏っているが、こういう困った時の顔は、そのギャップもあり、本人が思う以上に可愛らしく見える。
妻のシュスは、思わず一人微笑む。
そして、この後の出来事について、我が子フェリアからの心の声を聞き取っていたのである。
しかし、氷結の女王は何も言葉を発する事は無かった。
四海聖竜王様、西海白竜王様、北海黒龍王様、リューイ様の前で出しゃばらないのが、高潔なる炎王が妻、シュシィス・スセインのとても素晴らしい良き長所だ。
「聞いてやる。喋れ」
ランガードが、仕方なさそうにイグシア鷹王に話しかける。
イグシア鷹王は意外にも、態度を改めて右膝を付き、右手を左胸にあて、アースウェイグ帝国流の騎士の礼を取り頭を下げ話し始める。
「アースウェイグ帝国リスティアード皇帝陛下には、大変なご無礼を失礼いたしました。」
「どうか、お許しいただきたい。」
リスティアード皇帝は2メートルの長身から、自分より背の低く膝まづく砂漠王に優しく話す。
「私は大丈夫です。何か、ご事情がおありではないのですか?」
騎士の礼を取りながら、太陽の国から来た砂漠王国の鷹王は話し始める。
「ドラゴンを皆様は御存じであろうか?」
「ドラゴンとは、本物の竜の事ですか?」リスティアード皇帝陛下が、変わらず優しく話しかける。
「いかにも、左様です。」
「そのドラゴンの王、【炎竜帝】が我が国土を襲っております。」
「【炎竜帝】を倒せるのは、業火の覇者ランガード殿しかできませぬ。」
(また、めんどくせぇ話持ってきやがったな、、、)
等と、不遜な考えを抱くランガードであった。
リスティアード皇帝陛下は【炎竜帝】と言う言葉に何か思いを寄せてるようで、深く考えこんでいる。
しばし、沈黙が黒曜天宮【宝玉の間】を包み込む。
そして、この場の主人である、リスティアード皇帝陛下が宣誓するように、命令を発する。
「ランガード、イグシア鷹王の願いを聞いてあげて」
「はい、はい。わかりましたよ。公僕はこき使われるんだよなぁ~」
ランガードは嫌そうな顔をしながら、命令を受理する。
イグシア鷹王が膝まづいたまま、頭をさらに下げ
「リスティアード皇帝陛下の御心の広さに、感謝申し上げる」
ランガードは仕方ないとばかりに、イグシア鷹王に歩み寄り声を掛ける。
「おめぇの国を強くイメージしろ!」
イグシア鷹王は、ほんの寸時だけ躊躇ったが直ぐに言われた通り自国の砂漠国を頭の中に強く浮かべる。
リューイはここで、自分の族長が何をしようとしているか察したので、いち早くランガードの右手を握る。
ランガードはチラッと、リューイの方を見たがニヤッと笑いながら、イグシア鷹王の頭に右手を置く。
寸時、変な空気が【宝玉の間】を流れる。
身長195センチの赤髪隻眼の俺が、偉そうに他国の王の頭に不遜にも手を当てているのである。
ランガードが何をしているのか、リューイとシュスと子供たち以外は誰も理解できなかったのだ。
刹那!!
ボゥ!!
っと、轟炎が【宝玉の間】で沸き立ち
ランガードとリューイ、そしてイグシア鷹王、諸共消失し存在をその場より喪失する。
「「「・・・・」」」
リスティアード皇帝陛下が、変わらず優しくシュスに向き直り「まさか、今行ったの?」
シュスは微笑みながら一言
「はい」
と答えた。
アルセイスは無言、、、
ベルフェムは「気の早い方だ」とだけ告げる。
その頃、3人は大陸最西端、砂漠王国の岩山にある岩石地帯にいた。
「あっちぃ~な」
俺は思わず、呟く。
リューイが呆れて声を掛ける。
「族長の能力進化の速度が速すぎて、もう溜息しか出ませんよ」
っと、言ってる二人を他所に自国の地に一瞬で、飛んで来た事に、さすがのイグシア鷹王も言葉が出ない程、動揺していた。
そうだ、ランガードがイグシア鷹王の頭の中のイメージを感じ取り、3人共に瞬間移動してきたのである。
先だっての大戦では、ゼレイヤ黒魔術王国の暗殺剣士たちが空間を瞬間移動」して、影や黒いトンネルから出現するという黒魔術を使っていたが、今ランガードが使った能力は、黒魔術とは比べようも無い程の【力】であった。
距離、制限、移動物質量、速度どれをとってみても、ゼレイヤ黒魔術とは比べようも無い程の【力】の差であった。
何よりも驚きなのは、他人の頭の中でイメージした場所を自ら読み取り、瞬間的に移動できると言う事だろう。
ショックから立ち直り、イグシア鷹王は態度を豹変させていた。
アースウェイグ帝国流の騎士の礼とは少し違った、両膝を地に付け、両手を交差させて頭を下げる。
「我らが主、南海紅竜王ランガード様先ほどのご無礼をお許しいただきたく存じます。」
ランガードは片目でチラッと見て
「どうした?さっき迄とは真甦の色が違うぞ」
イグシア鷹王は両膝を付けたまま話し続ける。
「ランガード様のお力を試すような真似をした事と、嘘をついたことをお詫び申し上げます。」
「嘘?」
リューイが声を発する。
イグシア鷹王はそのまま、とんでもない内容の話を続ける。
「我、砂漠王国は数千年の間、我らが主【南海紅竜王ランガード様の相棒炎竜帝様】を代々イグシア王家がお守りして参りました。」
「先だっての大戦にて、ランガード様の存在を知り【炎竜帝】様より、是非この地にお連れするようにと言われ、無礼を承知で、この様な行動を取らせていただきました。」
ヒュゥ~
熱い砂漠特有の風が流れていく、、、、
リューイが、話に入って来る。
「相棒とは、前の時と言う意味ですよね」
イグシア鷹王は膝まづいたまま
「いかにも、神々の時代であった時の事である。」
俺は(その記憶がないんだからさぁ~、そんなこと言われたってわかんねぇよ~)と一人思う。
っと、その時である。
青く熱く広がる空が、大きな大きな影に包まれる。
バサン!バサン!バサン!
デカい鳥かと始め思ったが、それは違った。
赤いドラゴンだ、、、
デカい!
両翼の端から端まで、優に50メートル以上はあると思われる。
突如として、竜が3人の前に降り立つ。
ズズズゥン。
着地しただけで、地響きとして体が揺り動かさられる。
俺は思わず、見上げてみた。
逆光で、顔は良く分からなかったが、確かにでかい【赤い竜】だ。
しかし、恐怖や敵対心は全く感じられなかった。
その逆である。
懐かしさ、さえ感じるほどだ。
赤くデカい竜は、俺達の心に直接、話しかけてきた。
『数千年の時を超え、南海紅竜王 我相棒に会えて心より嬉しい』
俺は天を見上げるように言葉を発する
「お前が、【炎竜帝】か?」
赤く大きな竜は『いかにも』と心に直接話しかけてくる。
始めて会う気は俺にもなかった。
懐かしさ、嬉しさ、古き友に再開した気分であった、、、
しかし、よく見ると【炎竜帝】はかなりの年齢を感じた。
鱗は、所々白色化して、剥がれ落ちていた、、、
優に両翼合わせて、50メートルはある翼は穴が開き、ボロ布の様に引き裂かれている部分もあった。よくこれでこの体積を空に運べるものだと感心するほどだ。
イグシア鷹王は俺と【炎竜帝】との会話には一切入ってこなかった。
『まずは、先の異界よりの侵略戦に、我が参戦できなかったことを謝罪する』
『我の相棒が命を懸けた、大戦に行けぬとは一生の恥成り』
俺は声に出して「あん時は、おめぇの存在なんて知らなかったし、しょうがないんじゃねぇか」と気軽に竜と会話を成立させる。
「おめぇの記憶は俺にはないが、何故か懐かしさを強く感じるぜ」
『それは、嬉しい限りじゃ』
直接、俺やリューイの頭の中に響く声、、、似た感じが、、、
(阿修羅丸だ!竜騎馬との関係に近い)
『いかにも、竜騎馬は我が竜族を子孫とした別の進化の形である』
「そうなのか、それじゃ俺が神だった時の愛騎がおめぇだったてことか」
『いかにも、、、我は南海紅竜王の相棒として、大地から天空、様々な場所、空間で戦ったものじゃ、、、』
突然、炎竜帝はその身体が横に傾く。
ズズズゥ~ン
地響きが起こる。
炎竜帝は、話の途中で大地に倒れ込む。
俺は「どうした?どこか悪いのか?」叫ぶ。
【炎竜帝】は先ほどより、元気なく
『我の寿命が、尽きようとしている、、、間に合ってよかった、、、』
『ランガードよ、我の体はここまでじゃ』
『だが、魂は死なぬ。お主の中で生きていく』
俺は横たわる【炎竜帝】の顔に歩み近づき、そっと死にゆく青色吐息の竜の頭をなでてやる。
「俺に何かできる事があるか?」
『我、魂を受け入れて欲しい、、、』
「いいぜ」
『感謝する』
刹那、赤く巨大なドラゴンは塵となって屑れ落ちる。
その中で、竜の左胸から眩いばかりの燃える光が、ランガード目指して、とても早い速度で放たれる。
ランガードの胸を貫くかと思われたが、光の筋はランガードの胸に吸い込まれ、一瞬ランガードの体が光り輝くが、直ぐに光は収束され辺りは、元通りの平穏な砂漠岩石地帯に戻る。
そして、一人。
ランガードは【炎竜帝】の魂を自らの中に収め立つ。
振り返ると、砂漠王国イグシア鷹王始め、数千人の砂漠王国の主だった者達が膝を付き整列していた。
しかし、俺が驚いたのは、その人の後ろに20匹ほどの竜たちが、同じく並び俺の方を見ていた。
心の中より声がする
『ランガードよ、我一族と砂漠の民だ。』
『これからは、皆お主と共に歩むぞ』
イグシア鷹王が、膝を付き頭を下げ宣言する。
「我、砂漠の民はランガード様に絶対の忠誠をお誓い申す。」
っと、同時に砂漠の民の後ろに並ぶ20匹のデカい竜達が咆哮する。
ギャオー!!ガォオー!!グウォオー!!
中には、火を噴く竜迄いた。