戴冠式
炎元郷では、盛大な誕生祭が執り行われていた。
しかも、男の子と女の子の双子である。
氏族も併せて、炎元郷周辺はまさに文字通り真っ赤に燃え上がっていた!
炎元郷の要になる人物は皆、炎元郷の中央広場に集まり族長家族を取り囲んで、大騒ぎして喜んでいた。
氏族の者達の中にも【猛者】と呼ばれる、紅蓮の戦士は数多くいて、そう言った者達は炎元郷の中で共に族長のお子の誕生祭を祝っていた。
シュスがフェリアを抱き、俺の隣に立つ。
俺はグレンを慣れない手つきでそっと、首まで手をまわして抱き、皆の前に立つ。
俺達の後ろに、リューイとリンとベルフェムが立つ姿は【火の民】にとっては紅蓮の誇りのような姿であった。
ベルフェムもリンも【火の民】ではないが、そんな事を気にしないのが、【火の民】の良き資質である。
以前、皇太子時代リスティアードも1ヶ月、炎元郷に滞在した経緯もある。
それも、【火の民】の民族意識というか、雰囲気がそれほど礼儀を重んじなく、誇りや生き様を大切に生きる為、仰々しくなく、リスティアードにとっても居心地が良かったからでもある。
盛り上がってる中、警備についていた。
初瀬・燕が、突如現れ、来客を告げた。
リューイが初瀬・燕に向かって尋ねる。
「どなた様ですか?」
初瀬・燕は片膝を付き
「ヴォルグス砦城主、ロリーデ・ガルクス様とビル・ヘイム卿であられます。」
「お通ししなさい」
リューイがハキハキと命ずる。
年齢はリューイの方が、初瀬・燕より下だが、紅蓮の5柱の長たる役目を持つリューイは、炎元郷において族長家族以外では、一番の権力者であり、責任者でもある。
数間をおき、ロリーデ・ガルクス城主(とは言え、今ではランガードの領主城塞守備責任者である)とビル・ヘイム卿が竜騎馬に跨り、炎元郷中央広場に入って来る。
二人は年齢を感じさせぬ、軽やかさで愛馬の竜騎馬より降りたち、ランガード領主の前で膝を付き誕生祝を述べる。
「領主殿、此度はご子息及びご息女のお誕生誠におめでとうございまする。」
ロリーデ・ガルクスが口上を述べ、後ろで密かに控える、ビル・ヘイム卿である。
俺は「堅苦しいのは良いから、立ってこの子らを見てやってくれよ」と気楽に話しかける。
二人は、ランガードのこういった事にも慣れたもので、スッと立ち上がり、近くによりグレンとフェリアを見つめる。
二人共、自分の孫が誕生した様に好々爺の顔を綻ばせ喜んでいた。
(ロリーデのおっさんはまだしも、ビルさんもそんな顔する事があるんだなと、、、)密かに思う。
俺は二人に話しかける
「子供を祝いにだけ来たわけじゃないだろ、何かあったのか?」
二人の様子がいつもと違う事を感じ取っていた。
上官で責任者でもあるロリーデ・ガルクス城主が話し始める。
「間も無くこちらにも、使者が来られると思いますが、リスティアード皇帝陛下の伸び伸びになっておりました戴冠式を執り行うそうであります。」
「それで?」俺は感情を込めずに言う。
「リスティアード皇帝陛下より、ランガード・スセイン伯爵閣下にはご家族で、参加頂くようにとの事であります。」
この様な、大切な要件は真魂交神を使わずに、使者を立て口上を述べるのが、帝国では礼儀作法とされていた。
俺は少し考え「めんどくせぇからパスだ。」と不調法に言い切る。
ロリーデは、緊張しながら
「皇帝陛下は、ランガード殿が恐らくそう言うと思われて、私共に必ずランガード殿ご家族全員お連れするようにと厳に申し付けられておりまする。」
すかさずにビル・ヘイム卿が低い声で口をはさみ込む
「ランガード殿は、今や帝国の重鎮中の重鎮。皇帝陛下の戴冠式に欠席する事など、あり得る筈が無いでしょう」
気迫のこもる、声で告げる。
反対意見など受け入れない。という態度と言葉で。
(相変わらず、迫力ありすぎっだつうぅの~)
愛する妻シュシィス・スセインが小さく可愛い口を開く
「旦那様、私も久しぶりに黒曜天宮に行ってみとうございます。不死鳥騎士団の皆様にもお会いしとうございますし」
(絶対、めんどくせぇ事になるの分かってて行くのかよぅ~)
最後にこの男が、言葉を高く響く声で話す。
「南海紅竜王たる者、四海聖竜王様のご命令に背くことは許されまい。」
ベルフェムだ。
(ってことはお前もくんのかよ、、、)
リューイが「仕方ありませんね、これもお仕事ですよ」
(諭す様に話しているが、こいつは絶対俺への嫌がらせを企んでやがる、、、)
根負けした、俺が
「行きゃぁ、いいんだろ!但しマジで行くだけだからな!」
言い切るが、自信は全くなかった。
異世界の王を倒し、この世界の救世主であり、轟炎の覇王は情けない事に、礼儀、礼節や堅苦しい席が一番の苦手なのだ。
美辞麗句の中にいると痒くなるという特異体質の持ち主でもあった。
俺がすげぇ~嫌そうな顔をしていると、周りにいる者達が思わず、噴き出してしまうほど、俺の顔はおかしかったようだ、、、
ー約一ケ月後ー
帝都アーセサスは、お祭り騒ぎに包まれていた。
リスティアード皇帝陛下の戴冠式が威厳と威容を誇る、黒曜天宮で執り行われるからである。
大陸最強にして最大のアースウェイグ帝国の皇帝陛下の戴冠式である。
これほどかと言うほど、町々から黒曜天宮内部まで贅を尽くし、飾り立てられていた。
帝都アーセサスの中央大通りは、帝国旗が何百と飾り立てられ、中には皇族を表す紫の皇旗や、各帝国騎士団の旗も街並みに飾られていた。
黒曜天宮には、続々と各国の国王や代表が訪れ大賑わいであった。
しかし、一番大変な思いをしていたのは何を隠そう金獅子近衛騎士団 団長のレィリア・アストネージュ武神将であった。
各国代表者の警護から黒曜天宮の警備の総責任者である。
テキパキと指示を出し、各所に近衛騎士を配置する。
っと、そこにアーセサスの臣民が大喝采で、賑わう。
何事かと思うほど、皆が振り返る。
【火の民】を表す、深紅の大旗を掲げとてつもない大きな竜騎馬に跨り、威容を誇り現代の勇者にして英雄のランガード・スセイン伯爵が、ベルフェムと【火の民】を従え入城してきたのだ。
シュスや子供たちは、竜騎馬が引く馬車に乗り紅蓮の戦士に囲まれ入城した。
臣民は割れんばかりの声を張り上げ、俺達を迎えてくれる。
実際、身長195センチの偉丈夫の俺が、武神将の正装を纏い、深紅の外套を翻し、ひと際目立つ阿修羅丸に騎乗している姿は、神秘的で尊く勇ましい雄姿であった。
俺を一目見ようと、人々はヒトを掻き分け、前に出ようとする。
必死に、押し戻す警備兵たち、、、
(すげぇなぁ~こりゃぁ先が思いやられるぜぇ~)
っと、見た目とは正反対な事を考える不届きな、伯爵閣下であった。
竜騎馬の馬車の中にいる、俺の家族の世話は界・爆弾の妻と数人の女性戦士に警備を兼ねて付けていた。
シュスが窓越に外を見て、余りの臣民の興奮状態と夫ランガードの人気に驚き思わず
「凄いですね、町が揺れているようですね」
界・爆弾の妻は微笑みながら
「族長の為された、功績はこんなものではありませんよ。」
シュスは思わず、小さな口に両手を当て驚きを隠せずにいた。
一行は、帝都臣民の熱烈な歓迎を受けながら、黒曜天宮正門入口までやってきた。
正門の扉は、大きく開け放たれ金獅子近衛騎士団騎士を始め、大勢の警備兵が配置されていた。
先頭を行く俺が正門前に着くと、大声で振れ係が叫ぶ
「ランガード・スセイン武神将閣下、ご入場~!!」
黒曜天宮の中も、また物凄い効果が生まれた。
各国の代表含め、関係者が全員俺達に近寄ってくる。
近衛騎士が丁重に、丁寧に整理してくれる。
もう、この時点で俺はお腹一杯で辛かった、、、
リューイが後ろからそっと声を掛ける
「堂々としているだけで、大丈夫ですよ」
「声を掛けられても、堂々としていてください。僕達で処理しますから」
俺は軽く頷く。
こういう時は、頼りになる相棒だ。
俺の性格を正確に見抜いていてくれてる。
普段は言葉遊びの様に、喧嘩っぽい事も言うが、本当に嫌な事は絶対言わないし、こういう困ってる時は守ってくれる。
実に優秀で頼りになる副官であり親友だ。
そこに、金麗の美女騎士が白い外套を翻し、颯爽と真っすぐ伸びた見事な金髪を揺らしながら歩み寄る。
「裏口より、とっととお入りください。ランガード・スセイン婿養子殿。」
俺が反論する暇を与えず、レィリア・アストネージュ武神将は続けざまに言いつのる。
「只でさえ、忙しいのに、あなたが来たらもっと大変になりました。早く移動して下さい。」
「わかったよ」俺は来たくて来たわけじゃないが、この女騎士には何故か逆らえない、、、
シュスの馬車が、レィリア・アストネージュ武神将の前を通過する時、レィリアは優しく微笑み
「ようこそ、おいで下さいました。シュシィス・スセイン氷結の女王様」
っと、言い優雅に腰を折り挨拶を交わす。
俺は後ろを振り返り、自分との対応の差に地団駄踏む思いで
(その違いは、何だよ~)
っと、思うが、愛する妻シュスも誇らしく
「警備ご苦労様です。レィリア・アストネージュ武神将様」
窓越しに声を掛け合う。
お互い微笑み合い、金と銀の麗しき女性たちは間違いなく友情を深めていた。
黒曜天宮裏口に俺達は回ると、意外な人間が待っていた。
剣聖にして、帝国軍総司令長官である。
アルセイス・アスティア・アグシス閣下である。
「共の者達は、不死鳥騎士団城へランガードとご家族は皇帝陛下がお会いするそうだ」
クイッと、自分に着いて来いと振り返り歩き出す。
俺は阿修羅丸から降り、グエンを抱きシュスがフェリアを抱く。
そして、呼ばれていないのにリューイ准将とベルフェムが続く。
リューイは後ろを振り返り「初瀬・燕後をお願いします。」
初瀬・燕は短く
「はっ!」
っと答えてくる。
俺は何かいやぁ~な予感しかしねぇんだが、と思いながらアルセイスに付いて行く。