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BU・SI・N・SYO  作者: イ-401号
112/173

誕生

俺は、ツバィス・カーゼナルがこれほど優秀で立派になってたとは全く知らず。


嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。


実際、ツバィス・カーゼナルの仕事ぶりは素早く的確で、俺の知らない行政の事や会計、税、国民名簿の製作、各部署の設置、責任者の選任まで、こいつの頭の中はどうなっているんだと思うくらいの量の仕事をいっぺんに処理して、的確な指示を出し続けていた。


一週間もすると、ランガード公国は国として仮の姿を固めつつあった。


リスティアード皇帝陛下により、諸外国にはイベリア海賊王国はランガード公国となった旨、アースウェイグ帝国と同盟を結んだこと(リスティアードが勝手に結んだんだが、、)公国代表としてキッシュ・ベグが代表となり、公主として立った事を公表した。


生まれたばかりの国に悪さをする国を防ぐ意味で、リスティアード皇帝陛下はアースウェイグ帝国と同盟を結んだことを公表したのだが、今の【紅蓮の覇者ランガード】の名前を知らぬ者はこの世界にはいないくらいのこの世界を救った有名な英雄で勇者だ。


その名が付いた国にちょっかいを出すほど、愚かな国はいないであろう。


リューイが、思わずつぶやく。


「いやぁ、ヒトって変われば変われる者なんですね。」


「あの、男爵がここまで変わるなんて僕には想像できませんよ。」


俺が誇らしげに「師匠が良かったからじゃねぇか?」と自慢気に言うと


「師匠の様になってはいけないと反面教師だったのかもしれませんね」っと、リューイは返してくる。


東海白竜王は微笑みながら、俺達の(たわむ)れた会話を楽しそうに聞いていた。


その時だった!!


それは、あまりに唐突で、俺の頭の中に、強烈に響くものが突然起こった。


「!!!」


「シュス!」


強く、愛する妻の名を呼び、魂が燃え盛る。


俺の隻眼の片方の目は、赤々と輝き体全身が青白い炎と化す。


ベルフェムとリューイが驚いて、俺を見つめていたが、俺は構っていられる余裕が無かった!


「俺の子供が生まれる!!」


叫ぶと同時に、ランガードの体は炎の(かたまり)となり、一瞬で消え去る。


後には焦げ臭い匂いだけを残して、自らの名のついた国のその場から突然、掻き消えた。


ベルフェムが、リューイに向かって

「どうやら、ランガード殿のお子が誕生するらしいようだ」


リューイが驚いているのは、子どもが誕生する事も勿論当然であるが、それよりも自らの主君であり族長が、超神速を誇る自分よりはるかに速い速度で、消えた事に驚きを隠せずにいた。


「族長の能力は、一体どこまで上がっていくんだろう、、、、」


その頃、ランガードは、、、、


炎元郷にいた!


愛する妻が産気(さんけ)付く事を感じた、ランガードは一瞬で瞬間移動してきたのだ。


「シュス!!」


大声で叫んで、族長の家に入ろうとする。


そこを、界・爆弾(かい・ぼん)の妻たちに前を塞がれる。

「族長、今はこの家は男子禁制です。」


「お気持ちはわかりますが、我慢下さい。」


俺はおろおろしながら「そんなこと言ってもよ~、シュスが苦しんでる事を感じたんだよぅ~」かき分けるように中に入ろうとするランガードに対し界・爆弾(かい・ぼん)の妻は(りん)と声を張り


「これから、ヒトの親になろうと言う方がおたおたするんじゃありません!!」


一括され、自分を取り戻す情けない族長である。

片目が、思わず瞬きを繰り返す。


「す、すまん、、、つい取り乱しちまった、、、」


界・爆弾(かい・ぼん)の妻は優しく語り掛けてくる。


「お気持ちは、良く分かります。」


「女性はこういう時は強い者ですよ」


「殿方が、戦場で命を懸ける事と同じように、女は愛する夫の子孫(しそん)を残す事に命をかけます」


「我慢下さい、族長」


俺はオロオロ歩き回りながら「わかった。ここで待つ。」


ずっと、グルグルと同じ場所を歩き回って、落ち着いてなどいられない。

どうしようもないこの気持ちには、轟炎の覇者ランガードも形無しであった。


(しばら)くすると、リューイとベルフェムが帰還してきた。

ランガードはリューイ達が戻ってきたことは、感じているはずなのに今はそれどころではなかった。


相変わらず、同じ場所をグルグルと歩き回る。


この世界を救った轟炎の勇者も今は只の普通な夫であった。


族長の家から突如として、甲高い2種類の泣き声が、沸き上がる。


『おぎゃー おぎゃー おぎゃー おぎゃー』


界・爆弾(かい・ぼん)の妻が、屋敷から出てきて


「立派な男の子と女の子の双子ですよ。」


「奥方様も問題ありません。どうぞ中へお入りください。」


俺はオロオロしながら、中に入っていくと、、、


俺と同じ立派な赤髪の男の子と、銀髪の女の子がシュスの横に寝かされていた。


シュスは疲れ切った顔をしていたが、俺を見て微笑み

「お子を見てあげて下さい。旦那様、、、」


振れれば壊してしまうような、小さくか弱い生き物のようで、俺は怖くて中々触る事も出来ずにいたが、、、


赤髪の男の子が、クシャミをするとクシャミと同時に一塊の炎がランガードの顔にもろに業火となって飛んでくる。


もちろん、紅蓮の覇者ランガードに炎は全く害にならない。

空気のようなものだ。


しかし、思わず周りにいた女衆が笑う。


「族長に似て、熱い炎をお持ちの様ですね」


俺は、子どもの小さな手を握りシュスに向かって


「よく頑張ったな。なんでも好きな物を言ってくれ地の果ての宝石でも取ってきてやるぞ」


シュスは微笑み、少しか細い声で


「あなたが私の側にいて下されば、私は何も要りませぬ。」


俺は思わず、優しく優しく愛する誇り高い妻を両腕でそっと抱く。


界・爆弾(かい・ぼん)の妻が、後ろから声を掛ける。


「族長、奥方様は大変お疲れです。」


(しばら)く安静にして差し上げて下さい。」


「私達が、見守っておりますのでご安心ください。」


俺は後ろを振り返り


「わかった、よろしく頼む。」


ッと言い、そっと立ち上がる長身のランガードだがこの時ばかりは誇りや威容などとは程遠く、腰を曲げ静かに屋敷を出る。


屋敷を出て、太陽を浴びると思わずガッツポーズを取る轟炎の覇王であった。


余程嬉しいのだろう、幼い時から一人で育ち戦い、殺し、殺されかけてを繰り返して大人になり、初めての【家族】が出来たのだ。

喜びを体中で表現する、紅蓮の戦士【火の民】族長である。


不死鳥騎士団のリン千竜騎士長が、思わず駆け寄ってくる


「おめでとうございます。団長!」


俺は隻眼の目で、リンを見てにやりと笑い


「ありがとうよ、次はお前達だな!」


ポッと顔を真っ赤にする、強烈なる【天の真甦】保持者のうら若き女性騎士は(うつむ)き、両手の指を絡ませて、ゴニョゴニョ言いながら、恥じらい下を向いてしまう。


ベルフェムが、颯爽(さっそう)と白く長い髪を(なび)かせ、歩んでくる。


「お子の名は、決められたのかな?ランガード殿」


俺は白き竜王をはっきりと見つめて宣言するように叫ぶ


「男の子の名は【グレン】。女の子の名は【フェリア】だ。」


ベルフェムは顔を(ほころ)ばせて


「良き名であるな」


「グレン・スセイン様とフェリア・スセイン様に永遠のご加護を」


東海白竜王は膝を付き、両手を胸で汲み太陽に向かって祈る。


俺は信心深い方では、決してない。

だから、祈る事より自らの力で何とかしてしまう方だ。


しかし、白き透明なこの男が祈る姿は、神々しく、雑には扱えぬ神聖な空気が漂う雰囲気が周囲に広がっていく。


思わず、横にいたリューイとリンも自然と膝を付き太陽に向かってベルフェムと共に同じく祈る。


俺は太陽を立ったまま、睨みつける。


世界を救った、英雄の子孫が誕生した未来にとってとても大事な一瞬であった。


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