死闘
岩・破砕が後ろを振り向いた時は、馬鹿でかい魔族の怪物は大口を開けて、目の前にいた。
岩・破砕は一瞬で判断し、この化け物と一緒に爆死する覚悟を決めた。
汚い牙をむき出して、襲いかかる粘々した紫色のカバの様なクジラ、口から滴り落ちる、涎、涎、涎。
岩・破砕が真っ赤に燃え上がる。
っと、岩・破砕が弾き飛ばされる。
ドン!!
吹っ飛ぶ、岩・破砕と
デカブツの化け物に喰いつかれたのは
界・爆弾だった。
界・爆弾は年下の岩・破砕を思い切り突き飛ばし自らを犠牲にしたのだ。
右肩を大きく齧り付かれ、苦悶の表情をする界・爆弾が口からしたたり落ちる自らの血を自分の下でなめとり
「このデカブツが!!」
吠える界・爆弾
「界さん!!」突き飛ばされた岩・破砕が叫ぶ。
界・爆弾の体が真っ赤に染まり、気色悪いデカブツクジラをマグマの火球で焼き吹き飛ばす。
デカい魔族は瞬間、真っ赤に膨れ上がり燃えカスすら残さず灰となる。
界・爆弾は岩・破砕を見てニヤリと笑い
「後は、託すぞ。必ず勝てよ!」
と言う界・爆弾の右肩から先は無くなっていた。
界・爆弾は自らの真甦を暴走させるまで一気に高めて、敵軍正面 一番魔物が集結している場所めがけて最後の力を振り絞り自ら飛び込む。
数間をおき、異界の大群の中で、目を覆うような光と共に大規模爆発が起こり、魔物の群れ共々爆散する。
【火の民】紅蓮の5柱、界・爆弾の最後であった。
岩・破砕が血の涙を流しながら叫ぶ。
「絶対、許さんぞこのクソどもがぁ!」
リューイが界・爆弾の真魂が消失した事を感じ、「くっ!」と歯を食いしばる。
最前線で燃やし戦い続ける己が主君ランガードに向かって
「界・爆弾がやれました。」
と伝える。
紅蓮の王は片っ端から魔物を焼き払い続けながらも「くそっ!!」と叫び、魔鉄大剣を大きく振り被り轟炎を剣に纏わせ、思いっきり振り切る。
ごぉおおおおおおおおー
っと、暗黒の魔界めいたこの地に一筋の炎槍を穿つ
その頃、地上では異界魔族との激しい戦闘が行われていた。
空から襲いかかる魔族に対して地上で戦う【土の真甦】を持つ、帝国騎士は不利であった。
唯一有利な点があるとすれば、防御に徹する事が出来るという点だけだ。
暗黒の世界になっても、足は大地を踏み、地上をしっかり感じる。
地面さえあれば、土の真甦の防御を破るのは異界異属の魔物でも不可能だが、相手を滅ぼす事も出来ない。
その中で黒龍騎士団の黒騎士達だけは違っていた。
自らの黒剣に真甦を練り込み、空にいる魔物を大きく地を蹴り、飛び、剣技でまっぷたつに両断する。
黒剣で切断できない物は無いとばかりに、地上から空に向けて有効な攻撃を仕掛ける。
帝国騎士は良く善戦していると言えただろう。
かなりの被害が出ているが、まだ、陣形を保ち戦い続けている。
そして、その中で一番敵を圧倒している男がこの男だ。
紅蓮の王にして、轟炎の覇者
南海紅竜王にして【火の民】族長、不死鳥気団団長ランガード武神将である。
自らが穿った、炎道を業火とリューイと共に異界の王の前まで一気に飛び込む。
周囲は怪物だらけだ。
異界の王が二人を見て、言葉を発す。
「やはり、貴様が来たかランガード、目障りよのぅ、よのぅ、よのぅ~」
業火を身に纏い、紅蓮の王ランガードは何も言葉を発さずにただ、有効で強力な攻撃を仕掛ける。
魔鉄大剣、、、
妻のシュシィス・スセインが夫の自分の為に作らせたという特別な剣。
その深紅で燃えるような剣が、今までにないくらい大きく熱く燃え上がる。
異界の王目掛けて、一気に剣を振り降ろそうとした時、、、
異界の王に宿る無数の大蛇が、ランガードに向かって襲いかかる。
構わず、魔鉄大剣を振り切り轟炎を大蛇諸共焼き尽くす。
しかし大蛇の数が多すぎる。
大蛇は一本にまとまり大きな大きな縄の様に何千匹もの大蛇がひとつの塊となって襲いかかる。
外側の大蛇は当然、焼き払われるが、数がランガードの業火ですらも焼き尽くせない程、まとまり襲ってくる。
焼き残った、大蛇がランガードに襲いかかる。
咄嗟にリューイがランガードを掴み、神速でその場より消える。
異界の王の上空に再び、姿を現す。リューイとランガード。
「族長、あの異界の王と蛇には炎が利きにくいみたいですね。」
「くそっ、リューイ俺をあのくそったれの前まで運べ、焼けなきゃぶった切ってやる!」
「わかりました、いきます。」
無理かもしれないと分かっていても、今はやるしかない!!
リューイが今、この世界にとってどれだけ重大な局面なのかよくわかている。
この化け物共が、大陸中に散らばったらこの世界は終わりだ。
こいつらをやっつけられるのは自分達しかいない。
自分達を犠牲にしてでも、戦わなければならない時がある。
まさに今がそうだ。
今、逡巡しているこの間にも、仲間の帝国騎士はどんどん数を減らしている。
躊躇できない。
忽然と異界の王の前に現れる、ランガードとリューイ。
異界の王は全く動じることなく。
「無駄よぅ、よぅ、よぅ~」
っと、陰々と響く声で喋るが、ランガードは一切無視して魔鉄大剣を振り降ろす。
ガキン!!
魔鉄大剣を異界の王の体から生えている大蛇が口で受け止める。
「なにぃ!!」
紅蓮の王が始めて声を発する。
続けざま、他の大蛇がランガードに襲いかかる。
刹那リューイがランガードを連れ飛ぶ。
しかし、予想だにしなかった異界の王が、、、
2人が飛んだ先に、先回りしていたのである。
異界の王が歪な剣を持ち切り掛かってきた。
歪、、、
剣と言えるのか、鋸のような歯に、剣の途中から小さな剣が無数に生えて蠢いているのである。
生きた歪な剣。
それが、異界の王の愛刀であった。
リューイはランガード庇って、避けたつもりだったが、リューイの背中から鮮血が飛ぶ。
「リューイ!!」
ランガードが吠える。
異界の王の歪な剣は音もなく、ランガードに向かって突き出される。
ランガードは体中から轟炎を吐き出し、異界の王を歪の剣ごと焼き尽くそうとした。
異界の王は怯んだ。
紅蓮の炎は、近距離ならば異界の王にも有効な攻撃手段になるようだ。
っが、歪の剣は歪な軌道を描き、ランガードの左目を串刺しにする。
ランガードの顔面から血が迸る。
「くっ!!」
咄嗟に、傷ついたリューイがランガードと共に神速で消える。
距離を取ったつもりでいた。
しかし、またしても目の前に異界の王が歪な剣を構え待ち構えていた。
右目しかないランガードが短く
「くそっ」
叫ぶ、振り降ろされる異界の生きた剣。
ランガードもリューイも覚悟を決めた時だった。
暗黒の暗闇に眩いばかりに光り輝く、ヒトの形をした者が異界の王とランガードの間に突如現れる。
誰も何が起こったか理解する前に、輝くヒトは
「リューイさんは私が守る!!」と叫び
眩いばかりに輝く光を異界の王目掛けて放った。
キンキンキン!!
【天の真甦】の輝きだ。
そう、この窮地に現れたのは不死鳥騎士団唯一の【天の真甦】保持者。
リンだった。
リンは連続で天の真甦の力を使うと、異界の王は明らかにダメージを受けていた。
「グォオオウ、ウ、ウ~」
悲鳴までも陰々と響く。
リューイが間隙を付き「一時撤退します。リン捕まって」
っと、ランガードの肩に触れ、リンに手を伸ばす。
刹那、掻き消える3人。
不死鳥騎士団特に【火の民】がいる場所まで、撤退する。
リューイは背中から血を流しながら
「岩・破砕状況は?」
「族長!!」
顔から大量の血を流す、ランガードを見て岩・破砕吠える。
ランガードは「大丈夫だ、報告しろ」
体中切り傷や、焼けただれた後を残し偉丈夫な岩・破砕が口を引き結び報告する
「厳しいです。帝国騎士団は半数はやられました。不死鳥騎士団は俺達がいるので、それほどでもありませんが、全体的にはかなり厳しいのが現状です。」
あえて、感情を込めずに報告する。
自分を助けるために死んだ、界・爆弾の事もある。
今は戦闘に集中する為、感情を押し殺して悲愁は胸の奥底に眠らせている。
起こすのは、この戦いに勝ってからでいい。
勝てたら、、、
界・爆弾の最後の言葉を守れないのは悔しい!
それ以前にこの世界を取られる事は自分達の家族、友人全ての破滅を意味する。
そんな事は絶対許容できない!!
それが、皆の総意である。
しかし、敵は未だ100万を超える大軍で押し寄せてくる。
ヒトの未来は、ここで終わってしまうのか!
「最後だヒトよ全て滅ぶ良い、良い、良い~」
異界の王の最終宣告である。
ヒトに抗う術はもうない。