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第九話 そもそも聖女とは?

 

 ザァッ! と周囲の人混みが左右に割れる。出現した彼女へと恭しく頭を下げる者もいれば、頭下げすぎて寝転がっている者、腰を抜かして号泣している者や立ったまま失禁して失神している少女まで出てくるほどだった。


 それほどまでに彼女──真っ白バニーガールの存在は大きいということだ。


 鮮やかな金髪ツインテールに碧眼、リアラーナと同じくらいの身長であるというのにボリューム満点な胸部で真っ白なバニー風の装いをぐいいっと押し上げるバニーガールであった。


 まさしく瞬間移動としか言いようのない現象と共に現れたロスヴァイセは指に引っ掛けた真っ赤な襟付き蝶ネクタイをくるくると回しながら、


「ぴょん。相変わらず大げさな反応ぴょん。まーあー? 聖女たるロスヴァイセちゃんがやってきたんだから当然の反応かもぴょんけどねっ」


「あ、あの……」


「なにぴょん? ああサイン、それとも握手? 祈りは勘弁ぴょんね、めんどうだし。デキル聖女なロスヴァイセちゃんは仔馬どもへのファンサービスくらいは付き合ってあげるぴょんっ」


「貴女、誰なの……???」



 瞬間、空気が凍りついた。



 頭を下げすぎて寝転がってしまっている奴が跳ね起きて、腰を抜かして号泣している奴が涙を引っ込めるほどだった。ついでに失禁している少女は別の少女にお持ち帰りされていた。


 ぱちくりと。

 真っ白バニーガールが目を瞬く。


「ロスヴァイセちゃんは聖女ぴょん。第九位相聖女・ロスヴァイセだぴょんっ!」


「そもそも聖女ってなに?」


 …………。

 …………。

 …………。


「うわーマジぴょん? これ恥ずかしいヤツぴょんっ。そうよねみんながみんな知っているわけじゃないぴょんよねっ。ああ恥ずかしいぴょん、かんっぜんに間抜けなヤツぴょんっ」


「ええと……」


「あ、あははっ、悪かったぴょんっ。それじゃまずは聖女ってヤツから説明するぴょん。じゃないと話進まないぴょんしね」



 ーーー☆ーーー



「そこの女っ、止まれ!!」


 スイートヒュドラの串焼きは甘い肉汁を引き立たせるピリ辛ソースが口の中で混ざり合い、甘美な幸せを味わうことができる。


「おい止まれって、そこの赤髪のお前だっ!!」


 バーストグリーンの百年漬けはただでさえ口の中が弾け飛んだと錯覚するほどに辛いバーストグリーンを各種香辛料で作られたタレで浸し、百年もの間熟成させただけあって猛烈な刺激を味わうことができる。


「だから、くそっ。赤髪に漆黒のマント、同じく漆黒の剣を腰に差したお前だごらぁ!!」


 シフォンメープルドラゴンの体液やシルバースターの果汁など十種類以上の甘味を混ぜ合わせたミックスジュースに口をつけようとした時だった。


 ぐいっ! と。

 肩を掴まれ、強引に振り向かせられたせいでその手に持っていたカップからミックスジュースが溢れ落ちた。


 ばしゃっと甘い匂いを漂わせる食後の楽しみが地面に飛び散ったことなど一切気にせず、先程から騒いでいた男が言う。


 肩を掴んだ赤髪の女──アリアを睨みつけて。


「聖騎士たる俺様を無視するとはいい度胸だな、女っ。我らが偉大なる第九位相聖女・ロスヴァイセ様が貴様をご所望だっ。おとなしくついてくることだなっ」


 聖騎士などと名乗る中年の男は他にも複数の男を引き連れていた。その全員が純白に輝く美しい鎧を身につけており、腰にはこれまた立派な剣を差していた。


 彼らこそ聖騎士、教会が保有する私的戦力であった。


 神聖なりし聖女を筆頭に教会にとって、いいや大陸に住む全人類にとって価値ある宗教的財産を守護する目的で国に保有を認められた『第二の軍勢』と呼ばれているほどに強大な戦力である。


 その数も個人の実力も軍隊に匹敵、あるいは凌駕しているほどであり、また彼らには限定されているとはいえ自発的な戦闘行為が法的に容認されている。


 ……多少法より逸脱した戦闘行為さえももみ消すことができるだけの地位を確立している、なんて噂があるほどであった。


 そう、聖騎士は実力は元より、公平なはずの法に守られた状況さえも捻じ曲げかねない脅威であった。


 そんな相手に目をつけられたならば、波風立てないよう従順に接するのが──



 ゴッバァンッッッ!!!! と。

 アリアの拳が肩を掴む聖騎士の腹部に突き刺さった。



 鎧も込みでそれなりの重量があるだろう聖騎士が呆気なく吹き飛ぶ。地面に、転がる。


 しばし周囲の聖騎士たちは何が起きたのか理解できなかった。その間にも女の声が響く。


「この私からジュースを奪うだなんてやるじゃないですか。くす、くすくす☆……もちろん奪われる覚悟があってのことですよね?」


「か、は……っ!? な、にを、してんだ、クソがァ!! お、俺様は聖騎士だぞ信仰を守護する剣だぞそれを貴様手を出すだなんて──」


「はいはいです。偉いのは貴方じゃなくて教会ですよ、ド三下」


 瞬間、であった。

 ドバァン!! とアリアのジュースを地面にこぼした聖騎士の脳天へと鞘に納まったままの漆黒の剣が振り下ろされた。


 ぐるん、と聖騎士の両目が回り、白目をむく。あろうことか泡まで吹いてぶっ倒れる始末であった。


「立派な鎧ですね。売り払う、にしても聖騎士専用だろうし足がつくですね。適当に溶かしてから売るですか。ジュース代くらいは十分に稼げるですし」


 軽かった。あまりにも軽かった。

 聖騎士、大陸中に広まる教会の守護者、下手をすればそこらの下級貴族よりもよっぽど価値あるものとされている神聖な武力を蹴散らした後にしては本当に軽い口調であった。


「自分が何をしたか、本当にわかってるのか? そこの馬鹿の態度は横柄だったかもしれないが、こんなことをされては無罪放免で済ませてやることはできないぞ」


 周囲の聖騎士の中でも比較的落ち着いた、優男風の男がそんなことを言っていた。対してアリアは鼻で笑い、


「だったらかかってくるですよ。貴方たちのほうが強ければ、自然と聖騎士に楯突いた女は天罰を受けることとなるですよ」


「……、覚悟してはいるんだな。していて、それでも押し通すだけの信念がある、と。ならば仕方ない。せめてその心意気に応えるとしよう」


 ズシャッ! と剣を抜き、突きつけ、そして優男風の聖騎士は叫ぶ。


「女よ、 私は貴女に決闘を申し込──ッ!!」


「何様ですか、ド三下」


 ゴッバァン!! と決闘だなんだ堅苦しいことを言っていた優男の顔面を鞘に入ったままの剣で叩き潰し、ノックアウトしてからアリアはくすくすと透き通るような笑い声をあげる。


 笑って、言い放つ。


「面倒です。まとめてかかってくるですよ」


 その言葉が引き金となった。

 直後に複数の聖騎士がアリアへと襲いかかった。

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