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第八話 デキル聖女登場!

 

「リアラーナーこれくっつけてですー」


「ひあああ!? 左腕、わわっ、ノリが軽いっ」


 そこらに落ちていた己の左腕を持ってのアリアの言葉であった。ちょっとそこの箸を取って、くらいのノリで頼んでくるものだから、声音と実情とのギャップが激しすぎる。


「いいから早く、です」


 言って、ぐいっと己の左腕をリアラーナの顔に押しつけるアリア。血なまぐさい臭いがダイレクトに鼻先へと襲いかかってくる。


「わかっ、わかったら左腕押しつけなっ、やめてよお!!」


「ほらほら、舐めろですよ」


「腕切り落とされたのに余裕過ぎない!?」


 もお! と叫びながらも左腕を受け取り、焼き潰された肩口に押しつけるリアラーナ。そのまま顔を近づけて、むき出しの白い左肩に舌を這わせていく。


「んっ……ぁふっ」


 ぶるり、とアリアが身体を震わせ、甘く吹き抜けるような声を出す。その声を聞くだけでなんだか変な感覚を覚えるリアラーナは、まるでそれを振り払うように舌を這わせることに集中する。


 ぐるりと左肩を舌で一周する頃には傷跡一つ残らず消失していた。


 ……魔王も使っていた再生能力と同等かそれ以上の治癒能力であった。魔人の中でも頂点に君臨する最強が持つ能力に匹敵する超常を人の身で扱う、なんてことは珍しいなんてレベルではない。


「くす、くすくす☆ 助かったですよ」


「う、うん……」


「ん、んーっ! 調子は抜群ですね」


 ごりこりと右手を左肩に添えて、左腕を回すアリア。くっついたとはいえ、腕を切断された後とは思えないほどあっけらかんとした様子であった。


「しかし、あれですね。ちょっくら暴れたからか、お腹すい──」


「ねえアリアさん」


「ん? なんですか???」


 白く綺麗な肩に頬を寄せて、リアラーナは言う。


「どうして、ここまでしてくれるの? あたしとアリアさん、出会ったばっかじゃん。さっきだって死んじゃうかもしれなかったのに、どうして……」


「そんなの私がそうしたかったからですよ。それ以上もそれ以下もないです。くすくす☆ 私、自分の欲望に忠実ですから、誰がなんと言おうがやりたいことをやるですよ。ですから、リアラーナが気にすることないですよ」


「……、変な人」


「ですかね」


 言って、そのままくっついた手を使ってリアラーナを抱き寄せるアリア。そう、何も身につけていない状態で抱き寄せるものだから、体温がダイレクトで伝わるばかりか豊満な柔らかが当たって──


「ひあっ、あああっ!? あっありっアリアさんっ、そうだよそんな場合じゃなかったからすっかり忘れてたよ服着てよおっ!!」


「くすくす☆ ちっこいこと気にするものじゃないですよ。全体的にちっこいんですから、せめて中身くらいはおっきくおおらかじゃないとですって」


「もお! そういうとこ、本当、もお!!」


 ……リアラーナは自分の頬が赤いことに気づいていたが、それはちっこい扱いされて怒っているからだ。そうに決まっている。



 ーーー☆ーーー



「やばいまずいどうしよ大変ぴょおーんっ!!」


 天上示す純白のステンドグラスが壁や天井を覆う、荘厳なりしはずの祈りの場へとぴょこぴょん跳ねながら飛び込んでくるバニーガール風の少女が一人。


 網タイツ装備の真っ白バニーガールは真っ赤な襟付き蝶ネクタイを片手でブンブン振り回しながら、()()()()()()純白の光が差し込む祈りの場の中央で跪き両手を組んでいる女へと駆け寄っていく。


 薄い純白の布を雑に巻きつけただけというのもそうだが、美しい女の顔の形をした仮面をかぶっている、というヘンテコな格好の女へと。


「グリムゲルデ姉様ーっ! 大変大変チョー大変ぴょーんっ!!」


「…………、」


 無言であった。

 無言のまま跪き祈りを捧げていた女性の脚線美が舞う。ズドッバァ!! と華麗な回し蹴りがバニーガール少女を薙ぎ払ったのだ。


「ぶべっ、ばぶべぶっ!? 姉様何するぴょんっ!?」


「神聖なりし聖堂を走り回るだけでも目に余るというのに、加えて大声をあげて祈りの場の静寂を乱すなど以ての外でしょう。ぶち殺されてえのか、あァ?」


「ひっひどいぴょんっ! こんなに大変な情報感知したのにっ!! 姉様これ絶対まずいぴょんっ」


「ほう? 祈りを妨げるだけの理由があるということでしょうか。つまんねえ理由だったら本当にぶち殺してやるから」


「ぴょんっ!? これマジなヤツぴょんっ! でもでも、これ聞いたら絶対驚くぴょんっ」


 ビクビクと身をすくめながらドヤ顔する、というわけのわからない状態となっているバニーガールはこう続けた。


「魔王の気配を感知したぴょんっ。人類一掃の呪い、ラグナロク・オメガが予定より早く始まろうとしているってことぴょーんっ!!」


「それを早く言うでしょうよ、このクソウサギが!!」


 ひっひどいぴょんっ!? と涙目なバニーガールを放って、仮面の女が動く。あくまで走るのではなく歩いて外へ通じる扉へと向かっていく。


 一刻も早く他の『聖女』を集めるために。


「ぴょん……。魔王の気配、すぐ近くで感知されたから、急いだほうがいいぴょん」


 ボソリと。

 涙目バニーガールがとんでもないことを付け足してくれた。


「だーかーらー! それを早く言うでしょーよおーっ!!」


 ついには我慢できず走り出した仮面の女を見て、バニーガールは小さくガッツポーズを決めていたのだが、そのことに仮面の女が気づくことはなかった。



 ーーー☆ーーー



 ミスラヘルト。

 二人の聖女を内包する二つの聖堂があるだけあって規模の大きな街であった。


 街の中央に位置する二つの巨大な建築物、光であれば夕日のオレンジさえ問答無用で純白に変える『天白』という合成ガラスで八割以上を構築しているその二つの聖堂は街のシンボルとなっているほどであった。


 そう、惑星唯一の陸地・アルカディアにおいて聖堂は街のシンボルとなるほどに価値あるものであった。それだけ教会の立場が強固なものである証明でもある。


 それこそ教会の存在は国家中枢にまで影響を及ぼしており、トップたる教皇は実質的に国王と対等なほどに、である。


 ゆえにこそ、教皇に次ぐ地位に位置する聖女を二人も有するこの街には多くの人が集まり、活気に満ち溢れていた。


「くすくす☆ この街、随分と潤っているみたいですね。ここまで溢れているなら、奪うものには困らないですね」


 街を十字に走る夕日に照らされし大通りの北部、主に屋台や食堂が立ち並ぶ食の区画にて人混みに流されながら物騒なことを呟く赤髪の女が一人。


 アリア。

 腕は治ったし、血を洗ったマントは乾いたということで森を発ち、近くの街まで辿り着いた(ビキニアーマーという名の実用性皆無な変態装備をマントで隠した)彼女はというと、活気に満ちた人混みの中をゆらゆら流されながら、


「さて」


 それはもう美しくも鋭き表情で、そうそれこそ世界を滅ぼす悪の親玉を敵に回して真っ向から立ち向かおうとしている場面で出すような最高に格好いいキメ顔でこう言った。


「ちっこいのがはぐれたですよ」


 両手いっぱいに屋台で買っただろう肉やらパンやら果物やらを抱えて、もぐもぐ頬張りながら。



 ーーー☆ーーー



「アリアさーんっ! もおあの人どこいったのよお!!」


 十字に走る大通りの南部、アリアたちが街に入った入り口の近くの主に宿が立ち並ぶ区画でのことだ。そこでは人混みから離れるように通りの脇に避けているリアラーナが頭を抱えていた。


 夕日が沈む前に街にたどり着くことができた。そこからすぐだ、気がつけばアリアの姿が消えていたのだ。


 思えばお腹すいたとかなんとか言いかけていた気もするが、もしや……?


「ってか、あれじゃん、別にアリアさんと一緒にいなきゃいけない理由なんてないし? そりゃ不安かどうかって言えば、まあ、あれだけど……いやいや、大丈夫っ。ちっこいちっこい言ってくる失礼な人がいなくたって大丈夫だもん!! よ、よおし、とりあえずお『仕事』しなきゃだねっ。早く治してあげないとっ」


 と。

 その時だった。



「ぴょんぴょんっ。デキル聖女なロスヴァイセちゃん登場だぴょんっ」



 リアラーナと同年代らしき、十代前半のバニーガールが真正面に()()した。

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