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第六話 来訪者、あるいは破滅の根源

 

 パチパチと燃える焚き火があった。

 アリアが落ち葉や枯れ木を使い、(すっぽんぽんで)火をつけたのだ。


 焚き火のお陰ですっかり乾いた純白のドレスを着てから、リアラーナは大きなため息を吐く。


「だ、誰も来なくてよかったぁー! 本当危ないったらないんだからっ」


「気にしすぎですよ、ちっこいの」


「そっちが気にしなさすぎなんだよーっ! っつーか早く服着てっ。せめてマントで隠してよねーっ!!」


「……、面倒ですね」


「面倒!? なんかとんでもないこと言い出したんだけど!?」


「とはいえ、街に行くなら最低限の装いが必要ですよね。はぁ、人間ってどうして自ら不自由な装いをしたがるんですかね」


 と。

 その時だった。



 ズザンッッッ!!!! と。

 アリアの左腕が、落ちた。



 ぼとりと左腕が地面に落ちたのを追いかけるように肩口から真っ赤な液体が噴き出す。その時にはアリアの右腕が焚き火へと突っ込まれており、引き抜いた未だ燃える木を肩口に押しつけていた。


 じゅう、と肩から綺麗に切断された切り口を焼き潰し、止血を終わらせた、次の瞬間、


 ズザンッッッ!!!! と再度の切断。

 今度はアリアがリアラーナを押し倒した瞬間に炸裂した何かが先ほどまで彼女たちの頭があった場所を通り抜け──そのまま並ぶ木々を纏めて切り捨てていったのだ。


 十や二十じゃ足りない。

 まさしく雑草を刈り取るような気軽さでそれなりに太く強度もある木々を切り裂いたのだ。


 ズズン……ッ! と切断された木々が倒れる音がそこかしこから響く。そんなもの気にしている余裕はなかった。


「ふぅむ、精度が全然だなァ。やっぱ普段使わねえの使ったってこんなものかねえ」


 ざり、ざく、と。

 のんびりと歩を進め、真正面より近づいてくる男が一人。


 深き紫のマントを羽織った黒髪黒目、褐色の偉丈夫であった。見た目は三十代前半の男に見えるが、ただ一点、側頭部から天に伸びるねじくれた二本のツノがその正体を如実に示していた。


「魔人、ですか」


「いいや、ちっと違うなァ。我は魔王、魔人どもを支配する王の中の王ってわけよ、ハッハァ!!」


 言下に偉丈夫が右腕を下から上に振り上げる。瞬間、空気が引き裂かれる音と共に何かが突き抜ける。


 地面に倒れたまま、アリアはリアラーナを抱えた状態で横に転がり──ズザンッッッ!!!! と先ほどまで彼女たちがいた場所へと衝撃と轟音と土煙が炸裂した。


「ひあ、なにっ、今腕とれっ、とれてっ!」


 土煙で正確なところまでは見えなかったが、先の一撃で地面が割れていた。リアラーナ程度ならダース単位で納まるほどに深く、である。


 そのことに気づいた瞬間、リアラーナの背筋に恐怖という名の悪寒が走る。


「ちっこいの、ここでじっとしているですよ」


 その声がリアラーナの鼓膜を振動させた時には状況は瞬く間に動いていた。


 アリアが地面に置いてあった漆黒の剣を掴んだかと思えば、一息にて魔王を自称する偉丈夫の懐へと飛び込んでいたのだ。


「シッ──」


 地面に飛び込むように、上半身を極端に低くした状態からアリアの身体が跳ね上がる。鞘ごと振り上げた漆黒の剣が魔王の顎を捉えて、



「ハッ」



 ブォン! と偉丈夫を引き裂いた……はずだったのに、漆黒の剣が捉えた偉丈夫の輪郭が溶けるように消える。


 いいや、正確には残像を引き裂くに終わったのだ。


 そして、


「遅せえなァ!!」


 ドンッ!! と離れた位置に転がっているリアラーナの肺腑を抉るような轟音が炸裂した。その音と共にアリアが吹き飛び、近くの無事だった木に叩きつけられる。


 バキバキバキッ!! とアリアが叩きつけられた木に亀裂が走る。ごぶっ、と赤く蠱惑的なアリアの口から鮮やかな血の塊が吐き出される。


「がぶ、べぶばぶっ!! ……ふ、ふふっ。聖女の奇跡にも似た超常現象を振るい、類稀なる身体能力を持つ、ですか。魔王を自称するだけは、あるですね」


「そりゃなァ、テメェの目の前にいるのは魔王なんだよっ。わかるかァ? 矮小で短命なカスどもが敵う相手じゃねえってわけだァ、ハッハァ!」


「……なるほど、です」


 ゆらり、と左腕を肩から切断され、斬撃を避けられたばかりかお返しとばかりに吹き飛ばされたというのに、アリアはゆっくりと立ち上がる。


 ぶわ、と。

 燃えるように赤い長髪を風になびかせて、白く輝く肢体を己が吐き出した血で汚しながら。


「で、貴方の狙いはなんですか? まあ、どうせそこのちっこいのなんでしょうがね。というか、さっきの男どもを差し向けたのも、最後の一人をぶち殺したのも貴方ですよね?」


「全部わかってんじゃねえかァ。わざわざ聞くなんて無駄なこって」


「……一つ分からないことがあるですよ。どうして出てきたです? 出てくるつもりがないからこそ男どもを使ったはずですよ」


「なァに、大した理由はねえよ。痕跡を残したら聖女どもが出てくるだろうと思ったからカスども使ってみたが、これがもう本当予想以上に使えなくてなァ。面倒だから我がやることにしたってだけよ」


「そうですか」


 呟き、そしてカチンと軽い音が響く。

 アリアが漆黒の剣の鞘に噛みついた音である。


 そう、失われた左手の代わりに鞘を固定して、右手で刃を抜こうとしているのだ。


「一応言っておく。我の目的はそこのチビだけだァ。わかるかァ? 大人しくしてればテメェは見逃すってわけよ」


「…………、」


「アリアさんっ、だめだよっ!」


 直接的に殺意を浴びているアリアではなく、それを見ていたリアラーナのほうが悲痛な声を上げていた。


 じっとしていろと言われたから、というより、足がすくんで動けなくなっている有様ではあったが、それでも──


「くすくす☆ さっきと同じですよ。()()()()()戦うんです」


 そう言ったアリアは躊躇なくズシャッ!! と漆黒の剣を抜き放つ。これが答えだと告げるようにその切っ先を魔王へと突きつける。


「ちっこいのが欲しいなら力づくでくるですよ。貴方が私よりも強ければ、自然とちっこいのは貴方の所有物となっているですよ」


「ハッ! そうかよ。我の力はまだまだ有り余っているが、それでも答えは変わらねえかァ?」


「くどいです。ここからは腕っぷしで語れですよ」


「違いねえ。じゃあ、あれだ、死んどけカスがァ!!」


 直後。

 アリアと魔王が真っ向から激突した。

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