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第四話 よろしくです

 

「変わり者ですね、わざわざ自分たちを襲った連中まで埋葬してやるだなんて」


「まあ確かにそうなのかもしれないけど、放っておくのはなんかヤだし」


「まあ死者をどう扱うかなんて結局は自己満足だし、好きにすればいいですよ」


「……教会の人に怒られそう」


「くすくす☆ 教会の人以外にも怒られてばっかだから別にいいですよ」


「それ、絶対良くないと思う」


 そんなことを話しながら純白ドレス姿の少女と赤髪の女はそこらに落ちている剣を使って地面を掘って、死した者たちを一人残らず埋めていく。


 少女だけでは時間がかかっただろうが、赤髪の女が手伝ったからか、すぐに終わった。


 そして、だ。


「ラピソニア=オメガ=ゼリゾリア神、すなわち死と別れを司りし我らが天上よ、ここに魂の安らぎの道を示したまえ」


「…………、」


『慣れ』が見えた。

 少女の祈りを見た赤髪の女はそう感じた。


 正直に言って『そんなもの』に何の価値も見出していない赤髪の女は祈りを捧げるために集中している間に少女を観察する。


 純白のドレス姿の(平均より絶対にちんちくりんな)少女。肩まで伸びた銀髪に鮮やかな碧眼、ついでに残念な胸部の彼女の舌には特異な力が宿っている。


 その証拠に赤髪の女の怪我はその全てが消え去った。少女の舌で舐められただけでだ。


 ──十人ほど人を斬り殺しても切れ味が落ちていないことからもわかる通り、赤髪の女が持つ剣も普通ではない。古の遺跡より発掘された魔剣である。


 切れ味が落ちない性質、すなわち耐久力がカンストした剣ではあるが、それだけだ。中々に価値ある剣ではあるが、純白ドレス少女の力を見た後だと霞む。いかにこの世界には『普通ではない』力が存在するとはいえ、彼女の舌は特別だ。


 そう、それこそ聖女と呼ばれる者たちが振るう『奇跡』のように。


(くすくす☆ 本当、本当に掘り出し物です。怪我を治す力だなんて最高です。くす、くすくすくす☆ これだから略奪はやめられないんですよねえ)


 笑みが、浮かぶ。

 欲望に満ちた、ドロドロとした笑みが。



 ーーー☆ーーー



「祈りは終わったです?」


「あ、うん」


「そうですか。では行くですよ」


「え?」


「くすくす☆ こんな場所に女の子一人放置するだなんて心配ですもの。近くの街までついていくですよ」


「ええと……ありがと」


「いえいえ、です」


 ()()()()()()ことにリアラーナが気づくことはなかった。


 リアラーナのことを『仕事』のための道具としか見ておらず、言葉を交わすことも珍しかった御者や護衛の者たちとはいえ、いなくなってしまったことで不安になったからか。


 そう、広い世界に一人置いていかれてもどうしていいかわからないのだ。


 ゆえに赤髪の女の言葉を深く考えることなく受け入れたのだろう。


「これ馬車みたいですし、馬が残っていれば楽だったんですがね」


「お馬さんたち、どっか行っちゃったみたい」


「まあ歩きでも日が沈むまでには街につけるですよ。というわけで」


 先ほどまでリアラーナが乗っていた馬車に繋がれていた馬はいなくなっていた。男たちが襲ってきた時のどさくさで逃げたのだろう。


 と。

 馬車を見つめていたかと思うと、赤髪の女の手が伸びる。そのままリアラーナの手を掴む。


「早く行くですよ」


「ひあっ、なっなんで手を繋いでっ」


「そりゃもちろん迷子にならないように、です」


「子供扱い!?」


「ちっこいんですから子供ですよ」


「むうっ、誰がちっこいよっ」


「もちろんお嬢さんが、ですよ。くすくす☆」


「むうううーっ!!」


 指が絡まる。

 簡単には離れないように。


「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はアリア。ちっこいのは?」


「この流れで自己紹介っ!? リアラーナよ、どうぞよろしくっ!!」


「よろしくです、ちっこいの」


「自己紹介の意味はーっ!?」



 ーーー☆ーーー



 絶対に、絶対に絶対に絶対に言わないが。

 失礼極まりないその態度で気が紛れたし、気兼ねなく声をかけてもらえることは嬉しかったし、助けてもらったことは一生忘れないぐらい感謝しているし──その手の温もりはこれまで感じたことのない心地良さに満ちていたが、絶対に言ってやったりはしない。


 ……そんなこと口にできる雰囲気じゃなくなったから。



 ーーー☆ーーー



「ひっ、はっ、くそっ! あんな化け物が出てくるだなんて聞いてねえぞっ! ガキ一人拉致るだけの簡単な小金稼ぎじゃなかったのかよお!!」


 森の中をアフロ男が喚きながら走っていた。とにかく今は生き残ることを優先する。そう、あの女が追撃を仕掛けてくるような奴ではないというのならば、これ以上関わらなければどうとでもなる。


 彼ら──アフロが所属していた盗賊団の構成員はアフロを残してあの女に殺された。つまり盗賊団がこれまで略奪してきた金銀財宝を好きにできるということだ。


 ──それこそがアリアの狙いだった。彼女は特定の波長に反応する小さな物質をアフロの背中に貼りつけていた。銀髪の少女を無理矢理誘拐しようとしていた連中なら同じような手法でため込んだだろう金銀財宝の隠し場所を特定、略奪するために。


 だから。

 しかし。



「チッ、使えねえなァ。死ぬ気で頑張れっつーの」



 ゴグシャアッ!!!! と。

 その言葉と共にアフロ男の命は粉砕された。



 ーーー☆ーーー



「くすくす☆ 考えることはみんな一緒ということですかね?」


「ねえ聞いてる!? あたしの名前はリアラーナっ、ちっこいのじゃないからねっ」


「ん? ああ……どこからどう見てもちっこいですって。名前を呼んでほしいならせめてそのぺったんこを揉みしだき甲斐のあるぼいんにしてからにしろって話ですよ」


「むう! あたし、成長するもん!! そのうちお胸も身長もすんごーくおっきくなるんだからねっ」


「……、くすくす☆ 最後に笑うのは私ですから」


「最後? 今も思いっきり笑ってるくせに何言ってるの!? っていうか、あれ? あたしの話聞いてる??? さっきからどこ見てるんだよ、もお!!」

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